
普段のメンテナンスや乗り方によっても左右されますが、ドライブチェーンのたわみは走行距離が増えるにつれて大きくなります。たわみ量の調整を行う際に意外にデリケートなのがチェーンアジャスター部のガタの処理ですが、チェーンとスプロケットの間に詰め物をしてテンションを掛けることで、アクスルナット締め付け後の遊びを排除できます。
アクスルナットを締めるとアジャスターが僅かにずれる!?
ドライブチェーンのたわみ調整は、多くのバイクが前後スプロケットの中央部で行う。チェーンに触れる場合は必ずエンジンを止めた状態で作業すること。上下にチェーンを揺すって、たわみ量が基準値を上回っていたら調整を行う。その際の基準値は機種ごとに異なるので、取扱説明書や車体に貼ってあるラベルで確認する。
前後のスプロケットとスイングアームピボットの位置関係によって、ドライブチェーン(以下チェーン)には適度なたわみが必要です。具体的にはスイングアーム下部で前後スプロケットの中間部分で上下に動かした時の移動量が、規定量の範囲にあることを確認します。
このたわみ量は機種によって異なり、一般的にはリアタイヤのトラベル量が多いトレールモデルはたわみ量が多く、トラベル量が少ないオンロードモデルは少なめに設定されています。
チェーンやスプロケットの摩耗は走行距離に伴い増加して、それに合わせてたわみ量も大きくなるため定期的なチェックと調整が必要で、規定量よりたわみが大きくなったら調整しなくてはなりません。
調整手順としては、アクスルナットを緩めてからアジャスターでアクスルシャフトを後方にずらすだけと比較的簡単ですが、たわみ量の決め方とアジャスターの固定が作業のポイントとなります。
たわみ量の決め方については、センタースタンド付きのバイクが多かった時代はセンタースタンドで立ててニュートラル、というのがお約束でした。ところが現在では大半のスポーツモデルにセンタースタンドが付かないため、サイドスタンドで確認するバイクが多くなっています。
センタースタンドやメンテスタンドを使っても、サイドスタンドで調整しても同様ですが、スイングアーム左右のチェーンアジャスターの目盛りとスイングアームの基準線を合わせても、アクスルナットを締め付けるとアジャスターがわずかにずれる場合があります。
スイングアームの後端をアジャストボルトで押しながら位置を決めるタイプのアジャスターの場合、調整時はボルトがスイングアームをしっかり押しているのに、アクスルナットを締め付けるとボルトとスイングアームの間に僅かなガタができることがあります。
中空タイプのスイングアームの内側にアジャスターがあり、スイングアーム後部にプレートをセットしてナットを締め付けるタイプでも、アクスルナットを締め付けた後でプレートがカタカタと遊んでしまう場合があります。
これらの現象はいずれも、アクスルナットを締める際にアジャスター表面をこじることが原因となっています。アクスルナットがスイングアームの左右どちらに付くかは機種によって異なりますが、例えば右側だった場合、時計回りにナットを締めるとアジャスターにも時計回りの力が加わります。
このわずかな動きによってアジャスターが後退してしまうと、規定トルクでナットを締める付けた後でアジャストナットがもう一締めできる状態になってしまうのです。
- ポイント1・ドライブチェーンのたわみ量確認と調整は定期的に行う
- ポイント2・アクスルナットとアジャスターのフリクションが余計な遊びの発生源となる場合がある
機種によって異なるチェーンアジャスターの構造
スズキGSX-S1000のチェーンアジャスターは「押し」タイプで、スイングアームにねじ込まれたアジャスターボルトによってアクスルシャフトホルダーを兼ねたアジャスターの位置を決める。チェーンのたわみ量を調整する際はボルトやアジャスターの汚れを落として、ロックナットが固着している場合は潤滑剤をスプレーしてから緩める。
チェーンアジャスターの構造や特長はスイングアームの形状によって異なります。旧車や絶版車では一般的で、現在も小排気量車で採用されているのが、スイングアームの後部をアジャストボルトで押すタイプのアジャスターです。
ホンダスーパーカブや50cc時代のモンキーは、自転車と同じようにアジャスター自体に雄ネジが切ってあり、スイングーアーム後部のアジャストナットで調整します。
アルミ製の中空スイングアームが増えた1980年代になると、スイングアーム内部にアジャスターを収めて、アジャストボルトをナットで調整するタイプが一般的になりました。
ここまではアクスルシャフトをスイングアーム後部から「引く」形式のアジャスターでしたが、その後ヤマハFZR750R、通称OW01タイプとして人気になったのが調整部分をアクスルシャフトより前側に置いた「押す」形式も登場します。またOW01タイプはアジャスター自体がアクスルシャフトホルダーになっているため、たわみ量の調整時にガタが発生しづらくアクスルシャフトを締め付けた際の締結剛性が高いというメリットもあるようです。
またこれらとは別に、GPZ750/900Rニンジャやゼファーシリーズなどカワサキ車が採用したエキセントリックアジャスター、トレール車に見られるスネイルカム式もあります。
アジャスターの形式がどんなタイプであっても、アクスルナットを本締めする際にアジャスターの位置がずれないことが重要です。左右のスイングアームを交互に見比べて、刻み線の位置を慎重に合わせてたわみ量を決めても、アクスルナットを締めた後にアジャストボルトやナットが遊んでいては気分がすっきりしないものです。
- ポイント1・愛車のチェーンアジャスターの構造の知ろう
- ポイント2・アクスルナットを本締めする際にアジャスターがずれない工夫が必要
詰め物はウエスやドライバーなどなんでもOK
ここではT型レンチのハンドルをチェーンとスプロケットの間に挟んでバイクを自体を僅かに後退させて食い込ませた。テンションをかけ過ぎるとチェーンやドライブシャフトにダメージを与えるので、力任せにタイヤを回してはいけない。サイドスタンドしかないスポーツモデルの場合、挟み物でテンションを加えるのは有効だ。
チェーンアジャスターの遊びをできるだけ排除したい。そんな時に行いたいのがチェーンとリアスプロケットの間に詰め物を挟んだ状態でタイヤを回す作業です。アジャスターで調整した後に、ウエスでもハンマーの柄でもドライバーでも(チェーンやスプロケットを傷つける物は避けましょう)構わないので、チェーンとスプロケットの間に挟むことチェーンが突っ張ってアクスルシャフトが車体前方に移動して、この状態でアクスルナットを締め付ければアジャスター部分にガタが出ることはまずありません。
詰め物調整で具合が良いのは、サイドスタンドでたわみ調整を行う場合です。リアタイヤが接地したままアジャスターを調整すると、タイヤと地面の間に発生するフリクションによってアジャスターの落ち着きが悪く、無駄な遊びが生じる場合があります。そこでアクスルシャフトにテンションを加えた状態を維持しておけば、たわみ量を決めてアクスルナットを締め付けた後でアジャストボルトやアジャストナットが遊ぶようなことはありません。
またアクスルナットを本締めする時だけでなく、チェーンアジャスターでたわみ量を調整する段階からアクスルシャフトにテンションを加えておくのも有効です。アジャスターがガチャガチャに遊ぶと誤差が大きくなるため、たわみ調整時にはアクスルナットの緩め量は最小限にとどめるのが良いのですが、さらにその上チェーンが突っ張ってアクスルシャフトとアジャスターのガタが排除できれば、左右の位置合わせが理想的な状態でできるわけです。
チェーンのたわみ量調整というとチェーン自体のたわみに注目しがちですが、車体の中心線とアクスルシャフトが直交していることもとても重要です。左右のチェーンアジャスターが不揃いでタイヤやチェーンが真っ直ぐ前を向いていなければ操縦安定性に影響を与えることもありますし、スプロケットとチェーンが片当たりして偏摩耗を起こす原因にもなります。
さらに厳密なことを言えば、左右のチェーンアジャスターとスイングアームの刻み線の精度がどれほどなのかという問題もあり、スイングアームピボットからアクスルシャフトまでの距離によって調整する方法もあります。
それはさておき、アジャスターを信用してたわみ調整を行う際には調整中、調整後のいずれかでチェーンにテンションを掛けることで作業効率と精度の向上が期待できます。
左右のチェーンアジャスターが不揃いだと、スプロケットとドライブチェーンが斜めに接触するため偏摩耗の原因となる。スプロケットの表裏どちらか一方だけが摩耗している場合はアジャスターの調整がうまくできていない可能性がある。カスタマイズでスイングアームやホイールを交換した際に正しくチェーンラインが出ていないためスプロケットやチェーンが偏摩耗することもある。
- ポイント1・ドライブチェーンとスプロケット間の詰め物でチェーンアジャスターのガタを排除
- ポイント2・左右のアジャスターがチェーンとスプロケットの寿命や操縦安定性に影響を及ぼす
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