
ホイールベアリングはタイヤがスムーズに回転するために重要な部品です。タイヤに限らずエンジン内部のクランクシャフトやミッションシャフトなど、バイクの各部に使われているベアリングは潤滑不足や水分や異物の混入によってダメージを負うことがあります。そうなるとベアリング交換が必要で、そんな時に頼りになるのがベアリングプーラーです。
存在は知っているけど使い方はよく分からない……、そんな方に失敗しないベアリングプーラーの使い方を説明します。
ベアリングの内輪を回して“ゴロゴロ感”が伝わったら交換のサイン
それぞれに溝が刻まれた内輪と外輪の間に鋼球が並び、スムーズな回転運動を実現するのがボールベアリングです。ホイールに組み込まれたボールベアリングは、アクスルシャフトと直角に位置するタイヤから伝わるラジアル荷重を支えながら回転しています。
ベアリングはタイヤだけでなくエンジン内部にも組み込まれており、さらにバイクや自動車だけでなくさまざまな家電品など私たちの身の回りに存在するあらゆる機械類で使われています。
重量物を移動する際に抵抗を少なくするためにコロを利用するという原理は、すでに紀元前のメソポタミアで実用化されていたらしく、ベアリングの発達は産業革命によってもたらされたといわれています。
それだけ長い歴史がありながら、21世紀になってもなおベアリングに不可欠なのが適切な潤滑です。素材や加工精度がどれだけ進化しても、物理的に接触する部分にはオイルやグリスによる潤滑が必要です。
エンジン内部のベアリングのようにオイルによる潤滑ができないホイールベアリングの場合、内輪と外輪の間に封入されたグリスが生命線となります。ベアリングには内部からのグリス漏出や外部からの異物侵入を防止するため、ゴムシールまたは金属シールドが付いた製品があります。
またゴムシールには摩擦抵抗が少なく高速回転に適した非接触シールタイプと、防じん性と防水性に優れた接触シールタイプがあります。
バイクのホイールの場合、多くは水やホコリの侵入を防ぐためベアリングの外側にダストシールが付くため、1970年代の旧車や絶版車ではシールが付かないオープンタイプのベアリングを装備するバイクもありました。それ以降の年代でも、ハブの外面にはシールがあり裏側はオープンという片面シールタイプがあります。
ダストシールがあるからベアリングは汚れないという前提はあるものの、実際のところはシールの経年変化は使用環境の悪さからベアリングが潤滑不良になることはあります。水分や砂利を浴びることが多いオフロードモデルでは、封入されたグリスに汚れが混入して内輪や外輪を傷つける場合もあります。
一度傷つけば後は悪くなる一方で、潤滑不良が進行すれば焼き付いて内輪と外輪が固着する場合もあり、また鋼球の位置を決める保持器(リテーナー)が破損して回転軸が完全にずっこけてしまうこともあります。
そうした末期的症状に至る前にベアリングのコンディションを知るには、タイヤを浮かせて空転させた時の回転具合をチェックします。普通に押し歩きするよりもタイヤに加わる荷重が少なくなるので、ベアリングの状態が分かりやすくなります。
タイヤを外してホイールベアリングの内輪を指で回せば、慣性重量がなくなるためベアリングの状態がより分かりやすくなります。ステアリングステムベアリングを確認する際、タイヤやフロントフォークを外した方が状態が分かりやすくなるのと同じです。
指で内輪を回した時に滑らかさがなく、ゴロゴロと段付きを感じた時にはベアリング不良の可能性が高く、この先さらに状態が悪化することが想像できるので、新品に交換した方が無難です。
- ポイント1・回転部分に組み込まれるベアリングにはシール付き、シール無しのオープンタイプがある
- ポイント2・ホイールベアリングのコンディションはタイヤを外して確認すると分かりやすい
ベアリングの規格は内輪、外輪、厚さで決まっている
ホイールベアリングはハブに圧入されているので簡単に外れません。簡単に抜けるようでは外輪がハブの内側で回ってしまって大変なことになります。
そこで圧入されたベアリングを取り外すには、ベアリングプーラーと呼ばれる専用工具を使います。ベアリングプーラーを大別すると押し抜きタイプと引き抜きタイプがあります。
押し抜きタイプはベアリングの内輪にスリットが刻まれたチャックを挿入して、チャックの反対側からクサビを差し込んでチャックを押し広げて内輪に密着させつつ、クサビを叩いて抜きます。ホイールベアリングのように軸が貫通する部分で使えます。
一方の引き抜きタイプは、チャックを挿入した側にベアリングを引っ張って抜くもので、止まり穴にセットされたベアリングを取り外す際に活躍します。
25年ほど前、ベアリングプーラーはとても高価な専用工具でしたが、現在では当時に比べれば価格もずっとお手頃になり、多くのサンデーメカニックにとって手の届きやすい工具となっています。
汎用性の高い専用工具の代表格のようなベアリングプーラーですが、セットに含まれるチャックは工具メーカーを問わず8、10、12、15、17、20、22、25、30、32、35mmあたりのサイズをフォローしていることが多いです。
スパナやソケットであれば1mm刻みですが、ベアリングプーラーのチャックのサイズが飛び飛びになっているのは何故か? というと、ベアリングの内径寸法が世界的にこのような設定になっているからです。
主としてホイールに使われるボールベアリングは単列深溝玉軸受と呼ばれ、外径と内径、厚さによって4桁の数字でサイズを表記しています。例えばカワサキZ1/Z2のフロントホイールには6203という呼び番号のベアリングが使われており、この4桁の下2桁が内径を示し、03は内径17mmとなります。
同様に00は内径10mm、01は12mm、02は15mm、04は20mmと決まっています。世界中のベアリングがこの寸法系列に従っているので、ベアリングプーラーのチャックサイズも上記の刻みで用意されているのです。
余談ですが、ホイールベアリングに限らずバイクの各部に使用されているボールベアリングに4桁の数字が打刻してあれば、その機種の純正部品として購入する以外にも、汎用の機械部品として入手することができます。
先のカワサキZ1/Z2の例でいえば、フロントホイールベアリングの純正部品番号(601B6203)を知っていればこの番号で注文できますが、ベアリングの外輪に刻印されている6203の4桁から機械工具商やインターネットで注文することも可能です。ただしこのベアリングの場合、純正部品では内部の隙間が標準より1ランク広いC3を使用しており、4桁の呼び番号だけで判断できない場合もあるので注意が必要です。
- ポイント1・ボールベアリングのサイズは4桁の呼び番号で表示される
- ポイント2・汎用のベアリングプーラーはさまざまなサイズのボールベアリングに対応できる
チャックのツメが内輪から外れないようにプッシュボルトを締め付ける
話がいくらか横道にそれましたが、年式やメーカーを問わずISO規格に準拠したボールベアリングであれば、ベアリングプーラーを使って引き抜くことができます。
ベアリングプーラーは製造メーカーによって部品の名称は異なるものの、幅が調整できる門型の本体とベアリングに挿入されるチャック、先端がテーパー状に尖ったプッシュボルトとベアリングを引き上げるセンターボルトで構成されています。
十字の溝が刻まれたチャックの先端部分は若干広がっており、ベアリングの内輪に貫通させたらプッシュボルトを締め付けます。ホイールベアリングの内輪の内側はディスタンスカラーに密着しています。しかし内輪の内径は若干のテーパー処理が施してあるので、チャックのツバが入り込むことができます。
チャックを内輪に押し込んだ時にパチッという手応えがあれば、縮んだツバがテーパー部分で広がった合図です。チャック先端のツバが内輪に引っかからないと、センターボルトで引き上げる際に内輪から外れてしまうので、プッシュボルトはしっかり締めることが重要です。ツバの部分が内輪を貫通していない状態でプッシュボルトを締めても、チャックが滑ってしまうので注意しましょう。プッシュボルトを締めるとチャックが広がり内輪に押しつけられます。
プッシュボルトが締まったら、ここで初めて門型の本体をベアリング外輪の外側に立てて、センターボルトをプッシュボルトにねじ込みます。センターボルトにはナットとカラーを本体の桁(けた)部分に密着させたら、チャックに回り止めのスパナを掛けつつセンターボルトのナットを締め込んでいくと、ボルトジャッキの原理でチャックが引き上げられるのでベアリングが抜けてくるわけです。
ベアリングを垂直に引き上げることでベアリングホルダー(ここではホイールハブ)に対してダメージを与えず、ベアリング交換作業をスマートに進められるのがベアリングプーラーの最大の利点です。古いバイクの足周りをメンテナンスする際には、是非とも用意しておきたい専用工具のひとつです。
- ポイント1・ベアリングプーラーはホイールベアリング交換時の必須工具
- ポイント2・ベアリングの内輪にチャック先端のツバを引っ掛けるのがポイント
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