スーパーカブの右側エンジンカバー=クラッチカバーを取り外したい際には、レッグシールドを取り外し、マフラーを取り外し、エンジン下のステップ棒を取り外してからハンドルを右へ切り、車体を左に大きく傾け、何らかの台(例えば脚立の脚掛け部分)にハンドルグリップを引っ掛け、バイクを大きく傾けてみるのが良い。こうすればエンジンオイルを抜くことなく、クラッチカバーを取り外すことができる。

どんなメンテナンスにも「コツ」というものがある。すべては経験により得られるものだが、スーパーカブのメンテナンスに限って言えば、キーポイントになるのが「車体の寝かせ」かも知れない!?
最新モデルはメンテフリーに近い快適バイクだと思うが、走行距離が増え、メンテナンスが必要不可欠になる個体の場合は、この「寝かせワザ!?」が、功を奏することが多い。ここでは「自動遠心クラッチの滑りが気になり始めた……」を想定した、メンテナンスの実践を「寝かせワザ」で解決してみよう。

車体が起きていると組み立てにくい遠心クラッチ。
意外と知られていない「スーパーカブあるある」


直立した車体のままでエンジン右サイドのクラッチカバーを取り外すような場合は、マフラーやステップなどの周辺部品の取り外しはもちろん、エンジンオイルも抜き取らなくてはいけない。しかも、いざ右側カバーを取り外したら、中から部品がポロポロと落下……。そんな経験をしたことがあるサンデーメカニックは数多いはずだ。車体を左側へ傾けてから右カバーを取り外せば、遠心クラッチのボールプッシャーなど、部品を落下させてしまうこともない。


この部品が自動遠心クラッチのプッシャーボールと受け部品。さらに中央にはクランクシャフトへエンジンオイルを供給するプランジャ&スプリングが組み込まれる。落下すると入り組み状態やバネの組み立て方がわからなくなってしまうもの……。
今から40年前、そんな入り組み状態がわからず=組み立てられず、サービスマニュアルを購入したのがワタクシでもあります。

部品の中央に「遠心オイルフィルター室」がある


ホンダ横型OHCエンジンシリーズの自動遠心クラッチモデル。例えば、スーパーカブやダックス、モンキー、シャリーなどなどの場合は、3本の皿ビスでカバーが取り付けられている。
マニュアルクラッチモデルのダックスやゴリラの場合は、カバーのボルトは4本。このカバーを取り外すと、その中の部屋が「遠心式オイルフィルター」となっている。


新車当時から所有し続け、クラッチが滑り始めたから「ディスクを交換しよう」と分解したようなバイクの場合は、この遠心式オイルフィルター室内が、真っ黒な汚れとスラッジにまみれている様子に驚くはずだ。この遠心フィルター機能が如何に重要か!!そんな汚れを目の当たりにすれば誰もが驚くはずだ。今回は、エンジンチューニング直後の点検だったので、フィルター内部は汚れてなかった。

クランクシャフトの穴にはゴム栓。そして洗浄


オイルフィルター室が汚れているときには必ず洗浄しよう。ここでは、遠心クラッチメンテのついでにフィルター室を洗浄しているが、クラッチの滑りに関係なくエンジンをいたわるのなら、2年に1度は分解洗浄することをお勧めしたい。例えば、クラッチが滑ってフリクションディスクの摩耗が始まると、それと同時にフィルター内部のスラッジ堆積も多くなるのだ。洗浄時には、クランクシャフトエンドのオイル孔にスラッジが入らないようにゴム栓を差し込み、洗浄時に汚れが流れ出ないようにウエスで押えながら作業進行するのが良い。

POINT

  • ポイント1:バイクを寝かすことで作業性は圧倒的に良くなる。スーパーカブに限ったことではないので知っていると良い。
  • ポイント2:自動遠心クラッチのカバー内側は遠心式オイルフィルターとなっている。分解時には内部を必ず洗浄しよう。
  • ポイント3:カバー締め付け皿ビスの十字溝はナメやすいので、ドライバーは必ず合致したサイズを利用する。
  • ポイント4:プラス溝をナメそうな時には、インパクトドライバーを利用する。ボルトの頭やドライバービットはしっかり脱脂しよう。ナメてからでは遅い!!

カバー復元時には手でチェンジ操作を再現!?


右側カバーの復元時には、遠心クラッチリフター関連の部品の組み立て順序を間違えず、ボールプッシャーを落とさないように注意しよう。車体を傾けて作業しない限り、組み立て復元には苦労するはず。カバーを閉じたらチェンジペダルをゆっくり作動させ、チェンジスピンドルに同期してクラッチがリフトするか(この際には右エンジンカバーが持ち上がる)、確認してからカバーボルトを締め付けよう。

ホンダ横型エンジンシリーズは、クランクシャフト側=一次側に「自動遠心クラッチ機構」を有している。時折、ノークラッチ? と表現されることがあるが、これは間違い。正確には「自動遠心クラッチ」仕様である。
仮に、マニュアルクラッチ車で、クラッチレバーを握らずギヤシフトすると、その衝撃がダイレクトに伝わってくる。メカニズムに対して優しくないことは想像に難しくない。駆動力が掛かっているのに、ギヤを無理矢理引き抜き、さらに次のギヤへ無理矢理ブチ込むのだから、ギヤシフト系がダメージを受けても当然である。
一方、自動遠心クラッチは理に叶っている。走行中にギヤチェンジする際、チェンジスピンドルの反対側に付く部品がクラッチを切り=駆動力が瞬間的に切れるため、ギヤシフトがスムーズに行われるのだ。この自動遠心クラッチは、カバー外側のクランク中央付近に調整機構があるが、この調整を間違えると常にクラッチ滑りのままだったり、クラッチが切れずにシフト操作されるため「ガツッ!!」と衝撃を受けることになる。そんな経験、ありませんか? この自動遠心クラッチは、素晴らしい機能である。

ホンダ横型エンジンは、この自動遠心クラッチ機構や、マニュアルクラッチモデルでもクランクシャフトにクラッチユニットを持つモデルに「遠心オイルフィルター」を装備している。オイルポンプから吐出されたエンジンオイルは、右側エンジンカバーを経由して遠心クラッチ内部へ入る。この際、オイル通路はダイレクトにクランクシャフトへつながっておらず、オイルフィルター室となるチャンバー部屋を介して行われる。
つまり、フィルター室へ流れ込んだエンジンオイルは、クランクシャフトの回転力によって外側へ飛び散る。その際に比重が思いスラッジやゴミがフィルター室の外壁に堆積し、濾過されたエンジンオイルのみが中央のクランクシャフト孔へ流れ込む合理的な仕組みを採用している。これが「遠心式オイルフィルター」の仕組みである。

以上のような構造やメカニズムを知れば、いかにオイルフィルターの存在が重要か? 理解できるはずだ。実際、フィルター内部の汚れを目の当たりにすれば尚更だろう。アフターマーケットのレーシングクラッチなどでは、ミッション側に湿式多板クラッチを装備した二次クラッチ仕様が多く、それにともない大型濾紙式オイルフィルターをクラッチカバーと一体装備する例が多い。4ストロークエンジンにとって、エンジン内部の潤滑は極めて重要だが、それと同時にオイルフィルターの存在も重要なのである。


1971年型スーパーカブC70デラックス。型式はC70K1。71年型C50/C70のデラックスは、通称「カモメ」と呼ばれたハンドル形状が特徴のシリーズで、このK1には「行灯」ランプも標準装備している。また、この71年型デラックスには、C50K1-2/C70K1-2と呼ばれる「タイプ2」があり、50にはセミロングシートとツーリングキャリヤとグラブバー、70にはダブルシートとツーリングキャリヤとグラブバーを標準装備していた。このC70K1には、C50K1-2用の一人乗りセミロングシートとツーリングキャリヤとグラブバーを装備している。
写真車両の「ジャマイカブラウンメタリック」は、C70K1だけの専用色だった。


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