ケーブルの潤滑状態スロットルやクラッチのフィーリングを左右するため、常にスムーズに操作できるようケーブル内部の油分を切らさないことが大切です。パーツクリーナーなどでアウターケーブル内部を洗浄した後に粘度の高いケーブルグリスを注入する際、しっかり行き渡っているか心配になることはありませんか? そんな時には出口側からシリンジで吸い出すことで確実なグリスアップが可能です。

操作性の良し悪しはもちろんケーブルの寿命も左右するグリスアップ

スロットルケーブルもクラッチケーブルも、ハンドルからスロットルドラムやクラッチレリーズまでの通し方ひとつで操作性やフリクションが増減することもある。ケーブル自体のメンテナンスも大事だが、余計な抵抗が増えないようにレイアウトすることも重要。ケーブルを着脱する際は、事前にスマホで撮影しておくぐらいの慎重さも欲しい。

スロットルやクラッチ、ドラムブレーキ車ならブレーキにも使われているコントロールケーブル(ワイヤー)は、ライダーの操作力をバイクに伝える最もベーシックなパーツです。インナーケーブルは何本もの細い芯線をより合わせたステンレス素材を使用し、アウターケーブル内部にはテフロンやポリプロピレンなどの樹脂製チューブを使用することで、曲がった状態でもフリクションロスなく力を伝達できるのが特徴です。
素材の進化によりインナーとアウターの滑りが良くなっているとはいえ、長期間に渡ってこすれ合うワイヤーにはメンテナンス、定期的な洗浄とグリスアップが必要です。手入れをしなくてもケーブルは作動しますが、潤滑不良でフリクションロスが大きくなることでスロットルやクラッチ操作が重くなることがあります。

フリクションロスはある日突然大きくなるわけではなく徐々に進行するため気づきづらいものの、アイドリングからスロットルを僅かに開けたり、ローギア半クラッチの微妙な速度調整など、デリケートな操作時の扱いづらさにつながることがあります。

また屈曲部でインナーとアウターケーブルが強く擦れることで、両者が摩耗して切断の原因となることもあります。
つまりエンジンオイルやチェーンオイルと同様に、コントロールケーブルにもメンテナンスが不可欠なのです。

グリス注入前の洗浄が重要

絶版車用ケーブルの中には純正部品が販売終了となっているものもある。人気車種であればアフターマーケットで互換パーツが入手できる場合もあるが、そうでなければ純正部品をできるだけ長く使えるよう心がけよう。そのためにもメンテナンスが不可欠だ。

ケーブルのコンディションを良好に保つには、アウターケーブルとインナーケーブルの隙間にケーブルグリスなどの潤滑油を与えることが有効です。その際に重要なのは注油の前の洗浄です。
ケーブルの作動面はドライブチェーンのように外部に露出していないものの、こすれ合う部分では汚れが生じており、その上から油分を注入しても充分な潤滑効果は得られません。パーツクリーナーとケーブルグリスの粘度を比べれば、当然クリーナーの方が低粘度で浸透性も高く、ケーブル内の汚れを洗い流すことができます。

その上でフレッシュなグリスや油分を注入することで、インナーケーブルとアウターケーブル内面の接触部分に潤滑被膜が形成されてフリクションロス低下と摩耗低減効果を発揮します。
ケーブル内面の汚れは目視で確認することはできませんが、メンテナンスの際はグリスアップの前にまず洗浄を行いましょう。

スプレーケミカルの強制注入か重力落下でじっくり注入か

ケーブルインジェクターが取り付けできれば、洗浄も潤滑もスプレータイプのケミカルを利用できる。インジェクターのクランプ部分がケーブル端部の金具形状にフィットしないと、どれだけスプレーしてもケーブル内部に浸透していかないこともあるので要注意。

ケーブルインジェクターがうまく付かない場合、ビニール袋を使った重力注入方式が有効。

パーツクリーナーなどで洗浄した後、グリスや潤滑油をケーブル内に注入するには「ケーブルインジェクター」と「重力落下」の二種類があります。スプレータイプのケーブルグリスを使用する場合、ケーブルインジェクターを取り付けることでスプレーのガス圧を利用して強制的にグリスを注入できます。

ケーブル端部の金具とインジェクターのアダプター形状によってはスプレーしたグリスがワイヤー内部にうまく通らず、インジェクター部分で吹き返してしまうこともあるので、取り付け位置の調整が必要な場合もあります。
その場合でも、スプレーしたグリスがケーブルの反対側から噴出すれば内部に行き渡ったと判断できます。

一方の重力落下式は、テープなどでケーブル端部に巻き付けたビニール袋にグリスや潤滑油を溜めて、重力を利用して注入します。この方法では入り口と出口に高低差をつけるため車体からケーブルを取り外して行うのが一般的で、スプレーに比べて時間も掛かりますが、ケーブル金具の形状によってインジェクターがフィットしない場合には有効です。

出口側から吸い出せばケーブル内部に確実に行き渡る

重力による落下を待つのがもどかしいなら、出口側から吸い出すのがおすすめ。シリンジやバキュームテスターをつなぐためのチューブを用意しよう。

ケーブル途中に金具やアジャスターがあると、そこから空気を吸って潤滑油が流れ込まないので、あらかじめラップやビニールテープで隙間を塞いでおく。重力落下だけなら注入口と出口に高低差が必要だが、吸い出し式ならこのような位置関係でも潤滑油が行き渡る。

重力頼みの注入方法で、作業効率アップに効果的なのが「シリンジによる吸い出し」です。
注入側の金具を潤滑油で満たして出口側を負圧にすれば、潤滑油は否応なくケーブル内に吸い込まれて隅々に行き渡ります。

ここではシリンジを使用しましたが、ブレーキのエアー抜きなどで重宝するバキュームテスター(ハンドポンプ)で負圧を発生させても同様の効果が得られます。
この方法ではケーブルの中間にアジャスターがある場合、そこから二次空気を入って潤滑油が吸えないことがあるため、ビニールテープやラップなどでアジャスター部分をシールしてから作業します。
ちなみにアジャスター部分をシールすることで、インジェクターを使った注入作業でも途中部分からの噴出を防止できるため有効です。

車体から取り外して垂直に吊るしたケーブルの端から潤滑油がしたたり落ちるのをじっくり待つのも良いですが、負圧を併用することで作業時間が短縮できることを知っておくともっと良いかもしれません。

シリンジのピストンを引くとビニール袋の潤滑油が吸い込まれてあっという間に出てくる。ケーブルインジェクターだと入り口部分でケーブルグリスが溢れることもあるが、そうした無駄がないのも吸い出し式の特長だ。

ブレーキメンテナンスのエアー抜きで役立つバキュームテスターも重宝する。ハンドポンプはケーブル端部のチューブに直結せず、途中にフルードタンクを介することで潤滑油がポンプに吸い込まれずタンクで回収できる。

ケーブル内部の余分な油分はエアーブローで吹き飛ばす

入口側のビニール袋を外してウエスで金具を包み、吸い出し側のチューブから軽くエアーブローすれば、ケーブル内部の余分な潤滑油を排出できる。

ケーブル内に注入したグリスや潤滑油はフリクションロス低減に役立ちますが、余分な油分が徐々に流れ出してキャブレターやエンジン、ブレーキ周りに付着すると汚れやトラブルの原因にもなりかねません。
そこで注油後はケーブル内部を軽くエアーブローしておくことをお勧めします。長時間しつこく吹き続けるとせっかく塗布した油分まで落ちてしまうため逆効果ですが、端部から流れ出る油分は潤滑の役には立っていないので、吹き飛ばしてもかまいません。

洗浄と潤滑を行ったケーブルを車体に取り付ける際は、ケーブルのレイアウトにも注意を払うことが重要です。スロットルケーブルもクラッチケーブルも、ハンドルを左右に切ることで曲がり具合が変化し、フロントフォークやガソリンタンクとの干渉によって操作性に影響することがあります。

車体から取り外して潤滑油を注入して復元したら以前より重くなってしまった……という時は、ガソリンタンクとフレームの間に挟み込まれていないか、ハーネスと干渉して自由度が損なわれていないかなどを再確認してみましょう。
「たかがケーブル」と軽視せず、丁寧な作業を心がけることで快適でスムーズな操作性が持続することを頭に入れておきましょう。

POINT

  • ポイント1・スロットルやクラッチのケーブルにもメンテナンスが必要
  • ポイント2・ケーブルグリスや潤滑油を塗布する前に洗浄を行う
  • ポイント3・シリンジやバキュームテスターで潤滑油を吸引することでケーブル内部にまんべんなく潤滑油を行き渡らせることができる
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