交換用の新品補修部品があれば良いが、そうは簡単に事が運ばないのが旧車キャブレターのメンテナンスだろう。取り付けフランジの歪みで二次空気を吸い込み、キャブが不調になっているトラブルは意外と多い。大切なのは、何故、不調なのか? その原因究明である。まずはトラブル原因のシューティングから、始めてみよう。
旧車のエンジンコンディションに大きな影響を与えるのがキャブレターである。キャブコンディションと電気トラブルを克服することが、旧車を維持するうえで極めて重要なのは、今も昔も同じである。これらのパーツは、走り込むにつれ経年劣化するのが当たり前。キャブレターに関しては、インナーパーツを交換したところで、肝心のボディに問題があっては好調さをキープすることなどできない。ここでは、ボディに問題があるキャブコンディションの回復にチャレンジしてみた。
歪んだフランジは摺り合わせで面出し
フランジ固定式キャブレターは、フランジの歪みが原因で二次空気を吸い込んでしまうケースが多い。このキャブレターは1969年モデルのカワサキW1S用。シリンダーヘッド側マニホールドからの度重なる脱着で、フランジが湾曲に歪んでしまっていた。締め付けトルクが強す過ぎることも、このような変形の原因になる。キャブボディを単品にしてから大型万力にクランプして(クランプ時にボディへダメージを与えないことも重要)、取り付けフランジが平滑になるように大型平やすりで切削加工補修に入る。
平ヤスリを使った仕上げ加工にも職人ワザが求められる。平滑かつ削りすぎないようにフランジを面出ししたら、平面基準となるブロックへフランジを押し付け、平滑に仕上がったか確認。最終仕上げは1500~2000番のサンドペーパーを定盤や平滑ブロックに敷き、フランジ面を擦って美しく仕上げよう。
部品修理には様々な方法や手順があるが、ここでは歪んだフランジを削ることで平面にするプロショップのワザをご覧頂いた。また異なる方法として、平面が出ている鉄板(定盤代わりになる仕上がり面板)にネジ穴加工を行い(フランジの締め付けピッチに合せて)、そこにキャブボディを締め付け、歪みを補正(曲げ戻す)する方法もある。
さらに仕上げでサンドペーパー研磨を行う。バキューム負圧は、アイドリング時ほど強く、二次空気を吸い込みやすいことで知られている。エアースクリューを調整しても「アイドリング回転や一発一発の爆発力に変化が無いときには、エアースクリュー以外の箇所から二次空気を吸っている可能性が大」。特に、旧車2ストエンジンの場合は、2次空気の吸い込みが大きなトラブル原因になるので、エアースクリュー調整時に変化が無かったら要注意と考えよう。
狭小フランジはキャブ製造上のニガシだった
これは1950年代に設計されたキャブボディのフランジ締め付け部分の形状。エンジンメンテナンス後、何度も何度もダキツキ症状(焼き付きトラブルの一歩手前)が出て、その原因が不明だった。そんなとき、締め付け固定後のキャプフランジの合わせ目に、外側から耐ガソリン性液体ガスケットを盛りつけてみた。すると、トラブル症状は無くなりエンジンは絶好調に……。つまりキャブフランジから二次空気が混入したことで、ダキツキトラブルを繰り返していた。この変形フランジ部が二次空気を吸い込んでいたのだ。
工業用の金属充填剤「コンクエスト110」を利用し、フランジ狭小部分に肉盛りした。金属充填剤は、主剤10対硬化剤1の割合で練り込む商品が多い。練り込み直後から硬化反応することはないので、ゆっくり慎重に作業を進めていこう。
フランジ面積の不足は金属充填剤で拡大可能
何故、1箇所だけフランジ面積が極端に狭かったのか? これはスロー系通路の加工や加工後の穴封じで、キャブボディの製造時に、このニガシ形状が必要だったようだ。つまり、キャブ機能として完成した今となっては、フランジのニガシは不要だとも考えられる。そんな判断によって、コンクエスト110金属充填剤でフランジ面積を拡大した。
金属充填剤が完全硬化するまでには24時間以上が必要だ。今回は、安全な硬化待ちを考え48時間待った。切削仕上げ作業は、定盤の上にサンドペーパーを敷き、600→800→1200→1500番の順で削り進めた。一気に荒削りすることなく、慌てず慎重に作業することも重要だ。
- ポイント1・金属充填剤は「アルミ部品耐熱用」を必ず利用しよう。
- ポイント2・金属充填剤は主剤と硬化剤の割合を間違えないこと。慎重な作業時には精密秤を必ず利用しよう。
- ポイント3・平ヤスリを使った切削は「荒削りのみ」と考えよう。
- ポイント4・面出し工程時は、定盤やそれに準じた平滑面にサンドペーパーを敷き、番手を徐々に高めながら仕上げていこう。
旧車とは言え、旧車の世界における高年式モデルであれば、ここでリポートするような修理は、まず実践することなど無いだろう。しかし、1960年代前半以前のモデルともなると、スペア部品や補修部品がほぼ皆無。現物修理で何とかしなくてはいけない!! と言ったケースも多々ある。ここでは、フランジタイプのキャブボディの歪みを修整&修理する手順をリポートしていこう。
スロットルバルブの作動が渋い際には、渋く当たっている部分をいきなり研磨するのではなく、まずはボディ本体に「歪みが発生していないか?」確認することをお勧めしたい。キャブボディを取り外す際に、インシュレーターラバーの劣化や硬化でキャブが抜け無いことが多い。そんなときには無理矢理、チカラづくで抜き取ろう!! などと考えず、工業用ヒーター(ヘアードライヤーのような形状)でインシュレーターを温めたり、状況によっては「やかんで沸かしたお湯」をインシュレーターラバーにゆっくり流して温め、キャブボディがスムーズに外れるような段取りを取ることが大切である。
スロットル開閉が重かったり、スムーズに作動しないときには、様々な理由や原因が間違いなくあるので、まずは原因の特定から始め、最善策でスムーズな作動性を求めなくてはいけない。そんな作業過程に様々なことに気がつき、サンデーメカニックとしてのスキルアップにつながっていくのだ。
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