マスターシリンダーと言えば、前後ディスクブレーキをコントロールする部品を思い浮かべるが、モデルによっては油圧操作式のクラッチユニットもある。バイクを走らせるうえで、実は、ブレーキ操作以上に操作時間が長いのがクラッチであり、その分、汚れやすい部品とも考えられる。ここでは、リザーブタンクの覗き窓から汚れの進度を理解できた、クラッチマスターシリンダーの分解とフルード入れ換えを実践しよう。
目次
無理して組み立てると怖い目に合うマスターシリンダー

メンテナンスしたモデルはヤマハV-MAX。この部品はクラッチマスターシリンダーの純正インナーキットである。メーカーによってはサブアッシー済で販売されている例もあるが、この部品は全パーツがセパレートで納品された。
高性能ケミカルを使って滑らせると、スーッと挿入できる
リザーバータンク側の部品コンディションにも要注意
エアー抜きポートの詰まりがレバータッチの悪さを生んでしまう

空のリザーブタンク側からタンクの底を覗き込むと、大きな孔と極小さな穴が並んで見える。特に、この小さな穴が詰まったり汚れが引っ掛かることで、スムーズなエアー抜きができなくなってしまう。エアーガンでダイレクトに吹き、通気を必ず確認しよう。
新品インナーキットは分解時と逆の手順で慎重に組み込もう

レバー側のピボット穴部分にもグリスを適量塗布してマスターシリンダー本体にレバーを組み込む。潤滑不良のまま使い続けてきた部品は、レバーピボットが楕円に減っていることもある。そうなると操作性不良の原因になる。
「逆送式フルード充填」は効果的な作業方法だ

ブレーキでもクラッチでも、ホース内にフルードが入っていない時には、下から上へ向けて=ブリーターからリザーバータンクへ向けてフルードを逆送注入するのが良い。この方法で作業すると、無駄なくフルードを送り込むことができる。やや大き目のシリンジがあると作業性は良好だ。

一般的なハンドツールばかりではなく、持っていると便利かつ、持っていなければ作業進行できない工具も数多くある。手元に工具が無いときには、アイデアで自作できるものもある。メンテナンスは、場数をこなした経験次第で、スピード感に違いが出る。
- ポイント1・リザーブタンクにあるフルードレベル覗き窓を見ることで内部コンディションを想像できる
- ポイント2・本来透明のブレーキフルードが褐色に変化し始めたら、新しいブレーキフルードと入れ換えよう
- ポイント3・最終的なエアー抜き作業では、手こずるケースが多いので、様々なテクニックやノウハウを知っておくと良い
油圧式ディスクブレーキのマスターシリンダーオーバーホールと、ほぼ同様の手順で作業進行できるのが、油圧式クラッチマスターシリンダーのオーバーホールである。クラッチレバーの操作は、ブレーキと違って握り量をコントロールすることなく、目一杯握ってから解放するというように、フルストロークで可動させるケースが圧倒的に多い。また、通常走行中なら、ブレーキレバーを握る回数よりも多くクラッチレバーを握るので、実は、油圧回路内が汚れやすい傾向でもある。自身でメンテナンスして、継続的にユーザー車検をパスさせてきたヤマハV-MAのようだが、気が付けば何年もブレーキフルードやクラッチフルードを交換していなかったそうだ。
そんな車両維持環境によって、今回のような部品汚れに至ってしまったが、それでも大きな出費に至るダメージが無くて良かったと思う。一般的にブレーキフルードは1年に1回は交換したいもので、最低でも2年に一度の継続車検時にはフルードの入れ替えと、ブレーキキャリパーピストンの揉みだしクリーニングを行いたいものだ。ブレーキキャリパーピストンを露出させてクリーニングし、その後にメタルラバーのような高性能ケミカルを塗布することで、ブレーキレバーの操作感やレバータッチは、激変するケースが多い。クラッチに関しても、フルードの入れ換えと同時に、レリーズシリンダーを取り外し、外的にクリーニングしてから高性能ケミカルを塗布することで、作動性の向上とピストンシールやダストシールなどの寿命アップにもなることを忘れずに覚えておきたい。
エアー抜き作業が滞った時には、ブレーキ(クラッチ)レバーを握り込んで結束バンドで縛り、その状況を維持する。そして、しばらく放置することで、通路内に溜まったエアーがマスター側へ上がってくる。ブレーキキャリパーの場合は、ボトムケースからキャリパーを取り外し、ブレーキローターの代わりになる板などをパッド部に挟んでから握り込み、結束バンドでレバーを固定する。さらに、フリーになったキャリパーを動かしながら、プラハンなどでコツコツ叩くことで、通路に引っ掛かったエアーがマスター側へ上がっていく。このようなエアー抜きノウハウがあることも、覚えておくと良いだろう。
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