転倒などで割れてしまったFRPパーツは、接続補修が可能だが、ここではその一部始終を写真解説でリポートしよう。ポリ樹脂と硬化剤を混ぜてペタペタやれば、くっついてしまうのがFRPである。しかし、そんな作業でも基本に忠実に作業を進めなくては、本来の強度や頑丈さを得られず、高品位な仕上がりにならないことも覚えておかなくてはいけない。実際にやってみるといろいろ理解できるのが、FRP工作なのだ。


 仕上げを想定した修復手順で取り組もう  

転倒によって割れてしまったサイドカウルの補修を行おう。FRPはザクザクに割れてしまうと突合せ部分の復元が難しいが、今回は、ベルトサンダーでザクザク部分をあらかじめ削り落としている。


ザクザク部分を削り落とした際には、削った分の隙間を確保しないとボルトやファスナーの取り付けピッチが狂ってしまい、後々穴修正しなくてはいけなくなるので注意が必要だ。


利用したベルトサンダーはエアー式。ロールテープのサンドペーパーも併用したが、こちらは一般的なサンドペーパーでも代用可能。FRP工作時にはベルトサンダーがあると大変便利だ。


ポリエステル樹脂は作業当日の温度や湿度、硬化剤の含有量によっても硬化時間が変わる。そのため状況確認しながら作業を進めよう。硬化が始まると常温だった樹脂が発熱して温かくなり色も変化する。


補修箇所のみならず周辺のバリ取りやザクザク割れもサンドペーパーでしっかり整える。不要な出っ張り部分が接着の妨げになるからだ。出っ張り部分にエアーが溜まりやすいそうだ。


ザクザク割れが著しい場合は、ベルトサンダーを利用して患部をなだらかに成形することで作業性が良くなる。周辺の張り込み部分もベルトサンダーで削って足付けを行なった。


 突き合わせ補修部分にエアー噛みすると強度が落ちる

パーツクリーナーや脱脂洗浄力が強いアセトンを用意し、ウエスに染み込ませて接着補修患部とその周辺をしっかり脱脂洗浄しよう。パーツクリーナーを直接吹き付けると無駄が多いそうだ。

ウエスにパーツクリーナーを染み込ませたら補修接着患部周辺をしっかり拭き取り脱脂しよう。この作業をやるかやらないかで、接着強度は驚くほど変わるそうだ。手抜きしないで進行しよう。


  補修形状を想定して締め付け穴ピッチを再現する 

補修段取りで突合せ部分を削ったため、削った分を考えてパーツをプリセットする。この際は、布ガムテープよりも粘着力が低く樹脂が染み込まないクリアPPテープが良好だそう。

補修段取りで突合せ部分を削ったため、削った分を考えてパーツをプリセットする。この際は、布ガムテープよりも粘着力が低く樹脂が染み込まないクリアPPテープが良好だそう。


張り込みながらガラス繊維を都度ハサミで切り出すのではなく、張り込むガラス繊維をすべて用意してからポリ樹脂と硬化剤を混ぜるような作業段取りにするのが効率の良い進め方だ。

今回はマット繊維を2枚張り込み、仕上げにクロス繊維を1枚張り込む「3プライ修正」とした。部品の幅よりも僅かに広い程度の大きさで、材料をあらかじめカットしておいた。


仕上げに張り込むクロス繊維は、縦横に規則正しく織られている。マット繊維を隠せるように、若干大きめにカットするのが良いだろう。ここまでの材料は作業事前に切り出しておいた。

ポリエステル樹脂100に対して硬化剤1の割合で混合したら、ハケでしっかりかき混ぜる。張り込み患部にかき混ぜた樹脂をひと塗りし、1枚目に貼るマット繊維が滑らないようにした。


できる限り少ない樹脂でマット繊維を張り込んでいく。最初にひと塗りした樹脂が染み込むように刷毛でマットを押し付け、染み込みが少ないときに樹脂を追塗りして染み込ませる。

クロス繊維の張り込みまではスムーズかつ間髪入れずに作業を進めた。マット繊維に染み込んだポリ樹脂のみでもクロス繊維を張り込むことができた。樹脂が多過ぎると部品が重く硬化不良の原因になる。


張り込み後の表面に樹脂が溜まり輝いているような際には、ハケでしごいて不要な樹脂を取り除こう。乾燥したウエスを載せて、余った樹脂を吸い込ませても良いようだ。


 作業進行しながら、先を見据えた刷毛の洗浄 

硬化開始以前なら、余分に塗ってしまった樹脂をウエスで吸い取り除去することができる。張り込み後、約20~30分でパーツが自立する程度まで硬化が進んだ。

作業完了後は紙コップにアセトンを少量注ぎ、ハケをしっかり洗浄しよう。硬化後のポリエステル樹脂はアセトンでは洗浄できない。作業は迅速かつ素早く行なうのが鉄則だ。


完全硬化する前に仮止めしていたクリアPPテープを剥がした。粘着力の強いテープだとポリ樹脂がテープに染み込みドロドロになってしまうことがあるが、このテープなら安心らしい。

完全硬化後の製品だと、ハサミの刃がまったく立たなくなってしまう。硬化途中ならスルメイカをハサミで切るような感覚で余分なところをカットできる。切り口も鋭くキレイに切れた。


余分なところをカットしたら24時間放置して完全硬化させる。完全硬化したらハサミでカットした部分に出たバリをサンドペーパーで削って面取りする。ゲル面はアセトンで脱脂しよう。

滑石(かっせき)と呼ばれるマグネシウムのケイ酸微粉末であるタルクを用意し、紙コップに適量移す。このタルクとポリエステル樹脂を混ぜることで粘度の高い充填樹脂を作れる。


硬化剤を混ぜたポリ樹脂とタルクの重さを秤で測定して同量にし、1対1の比率で混ぜ合わせつつ攪拌する。盛り樹脂は一気に流し込むのではなく、徐々に混ぜてムラが無いようにしよう。

割り箸を使ってタルク入り樹脂をしっかり混ぜ(練り)合わせる。ムラ無く混ざると滑らかになる。このタルク樹脂を充填剤として利用し、突合せ溝部分をパテ埋めにて形状再生する。


完全に混ざるとペースト状になる。あくまで充填剤として利用することはできるが、強度的には決して強くなく、サクサク削ることができるので成形性が良いそうだ。


 タルク樹脂で凹部分をパテ埋めしよう 

プラスチックヘラを使って突合せ部分の溝にタルク樹脂を充填する。この作業前には、ゲルコート表面の脱脂洗浄を必ず行なおう。ゲル表面へのエアー噛みは、このタルク樹脂で補修できる。

必要にして十分な量のタルク樹脂を突合せ溝にしごくように押し込む。多く盛り過ぎると削り調整が面倒になり、少な過ぎると再度タルク樹脂を盛り直さなくては形状再現できない。


硬化開始から1時間程度で次の作業工程へ進むことができる。平滑な当て板に240番前後のサンドペーパーをセットして、タルク樹脂で盛った部分を削り込む。サクサク削れていく。

ある程度削り進めたら、深く削り過ぎないように注意しつつ400前後のサンドペーパーで仕上げる。ペイント直前の仕上げ段階で、さらに細かなペーパーで耐水研磨仕上げする。


処理部分を斜め上からスカすように見れば突合せ溝にタルク樹脂が詰まった様子を伺える。最終仕上げに至る前で面出しを終えたため、タルク樹脂が極僅かに残っている。ペイント前に仕上げよう。


FRP補修するほどではなく、エッジが削れてしまったような時にはタルク樹脂で欠落や削れ部分を補修して形状再生すると良い。FRP樹脂とほぼ同素材のため、施工後は一体感のある仕上がりになり、盛り付け後の切削作業も容易に行うことができる。


      取材協力/モデルクリエイトマキシ  


POINT
  • ポイント1・実体験することで作業のコツを覚えることができるのがFRP作業 
  • ポイント2・作業手順や段取りは、作業前に情報収集しておこう 
  • ポイント3・FRPパーツの凸凹修正は、ポリパテ盛り以前にタルク樹脂で修正するのが良い 

FRP工作を行う際には、作業を始める以前に基本的な「予備知識」を勉強しておくと良い。樹脂と硬化剤を混ぜてペタペタやることで、どうにかなってしまうのがFRP工作だが、ここに予備知識(あくまで基本的な知識)が加われば、さらに精度の高いもの作りを楽しめるようになる。ここでは、割れてしまったFRP部品の接続補修を実践しよう。FRP入門者にとっては、最適な作業だろう。

「決まり事」や「予備知識」と言っても、決して難しいものではない。テキストによる勉強が有効なのは確かだが、実際に体験し「FRP工作がどんなものなのか?身をもって覚えることが何よりも重要です」とは、作業を担当して下さったモデルクリエイトマキシ主宰の板橋さんである。

割れた部品を突合わせて補修する際は、突合せ部分のザクザクやバリを取り除き、平面化しておくことが重要らしい。繊維が毛羽立った状況だと、どうしてもエア噛みが発生しやすく、接着強度が低下してしまう可能性があるそうだ。また、突合せ部分を成形した際には、削った寸法を考慮しつつ補修復元しなくてはいけない。例えば、粘着テープによる仮接合の段階で、締め付け穴の寸法や位置関係を確認しておくのが良いだろう。補修完了後に、締め付け穴を長穴加工するのは見た目が美しくない。

気温や湿度、作業スピードによって硬化速度が変化するのがポリエステル樹脂である。複数箇所を補修する際には、一気に作業を進めず、まずは1箇所先行で行い、ポリ樹脂の硬化スピードを確認してみるのが良いだろう。そんな確認こそが、後々の作業をスムーズに行なうための段取りになるからだ。



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