
高速で回転するホイールを支えつつ、バイクとライダーの重量と路面からの衝撃を受け止めるホイールベアリングは常に過酷な状況にさらされています。ホイールベアリングのコンディションを維持するには定期的なチェックが欠かせませんが、ここでは1990年代のハーレーダビッドソンを例にテーパーローラーベアリングを採用した機種のメンテナンス方法を紹介します。
年代によって異なるハーレーのホイールベアリング
スポークホイール車はディスクローターと反対側にシムとスペーサーワッシャーが組み込まれている。インナーレースの下でグリスが付着した円盤がスペーサーワッシャーで、これは遊び調整用のシムとは別に必ず使用する。
1950年代に誕生したショベルヘッドから中古車市場でも台数の多いエボリューションなど、年式やモデルを問わず多くのユーザーから愛されているハーレーダビッドソン。その足元を支えるホイールベアリングにおいて、2000年より前に製造されたモデルではテーパーローラーベアリングを採用しているのが特徴となっています。
日本製バイクのホイールベアリングは大多数が深溝玉軸受、つまりボールベアリングを採用しているので、日本製バイクだけをいじってきたユーザーがハーレーのホイールを外してテーパーローラーベアリングが出てきたら驚くかもしれません。しかしハーレーだけでなくBMWでもテーパーローラーベアリングを装備したモデルがありました。
ボールベアリングとテーパーローラーベアリングを比べると、テーパーローラーには軸と直角のラジアル荷重と、軸と同じ方向のアキシアル荷重を同時に支えられる特長があります。軸と同じ方向に力が加わった状態で回転を支えられることで、ベアリング部分の剛性を高めることができるのです。自動車のフロントハブベアリングでもかつてはテーパーローラーベアリングが主流でした(現在はFF車が多いので複列タイプのボールベアリングが多くなっています)。
これに対してボールベアリングは主としてラジアル荷重を支えながら、軸に対して両方向のアキシアル荷重をある程度支えることができるとされています。基本的にはインナーレースとアウターレースの溝が直線上にある中で、アクスルシャフトに直角に加わるラジアル荷重を支えているわけです。
ハーレーでは1999年以前はテーパーローラーベアリングでしたが、2000年以降は日本製バイクと同じくボールベアリングを採用するようになったようです。ボールベアリングにはベアリング自体に防塵、防水に役立つシールが装着できるので、ベアリングの長寿命化にとっては有利という特長があります。
- ポイント1・ホイールベアリングにはボールベアリングとテーパーローラーベアリングがある
- ポイント2・ハーレーダビッドソンは年式によってテーパーローラーベアリングを採用している
テーパーローラーには適正な与圧が必要
この車両の場合、3枚のシムが組み込まれていた。ベアリングを交換すれば、圧入されるアウターレースとインナーレースの位置が微妙に変わるのは致し方ないので、再度のエンドプレイ調整が必要になる。ちなみに、フロントホイールベアリングスペーサーと呼ばれる交換用純正シムの厚さは5段階あり、最も薄いものは0.038~0.064mmという極薄サイズ。
テーパーローラーがアキシアル荷重を受けるには、軸方向に対して適切な圧力=与圧を加える必要があります。ホイールベアリングの場合、ベアリングのアウターレースはホイールに圧入され、インナーレースはハブの内部に組み込まれているディスタンスカラーによって位置決めされています。
ホイールのアクスルシャフトを締め付けた際、インナーレースは互いに内側(ホイールの中心側)に押しつけられ、ディスタンスカラーによってそれ以上内側に移動できなくなります。この時にディスタンスカラーが長ければインナーレースとアウターレース間の圧力は弱くなり、ベアリングにガタが出る状態になります。
逆にカラーが短ければ、インナーとアウターが強く押しつけられた状態になり、フリクションロスが増加します。
そこでハーレーダビッドソンのホイールは、インナーレースとアウターレースが適正な位置関係になるよう、ディスタンスカラーの長さを調整できるようになっています。年代によってはディスタンスカラー自体に長さ違いが用意されていることもありますが、ここで紹介する1997年モデルの場合はカラーとインナーレースの間に金属製の薄いシムを挟むことで与圧を調整できるようになっています。
適正なシムが組み込まれている場合、ベアリングのグリスアップのためにホイールを外した際にあらためて与圧を調整する必要はほとんどありません。一方でジャッキなどでタイヤを浮かせてタイヤを揺すった際に、アクスルシャフトとホイールの間にガタが感じられる場合は再調整が必要かもしれません。ただし、遊びがゼロだとフリクションロスが大きく、場合によってはベアリングが焼き付く可能性もあるので、ホイールがスムーズに回転するためには一定のクリアランスも必要です。
サービスマニュアルによれば、ベアリングの遊び=エンドプレイはダイヤルゲージで測定した時に0.05~0.15mmという微少な数値が指定されています。
- ポイント1・テーパーローラーベアリングには与圧が必要
- ポイント2・ディスタンスカラーとシムで与圧を調整している
劣化したグリスはきれいに洗浄して規定トルクで組み立てる
ベアリング自体に問題がなければ脱脂洗浄後に新しいグリスを塗布する。手のひらにグリスを盛って、インナーレースのリテーナー(ローラーの保持器)で掘るようにすると表面だけでなく内部にも充填できる。ホイールハブのアウターレースにも塗布しておく。
アクスルナットを締めてホイールを前後と横方向に動かすと遊びが多めに感じられたので、シムを1枚抜いて再度組み立てて確認する。一番左のスペーサーワッシャーは内径部分が段付きで、この段差にインナーレースが接している。
1997年式ハーレーダビッドソンスポーツスターのフロントタイヤのオイルシールを取り外すと、それだけでテーパーローラーベアリングのインナーレースを取り外すことができます。これはボールベアリングタイプのホイールベアリングしか経験したことのない日本製バイクのユーザーにとっては驚きかもしれません。
ディスタンスカラーとインナーレースの与圧を調整するシムは、車体左のディスクローター側に組み込まれています。この機種の取扱説明書を見ると、ホイールベアリングのメンテナンスに関して「年1回、あるいは1万6000km走行毎に、あるいは長期保管前にグリスを交換してください」との記載があるので、それに従えば定期メンテ項目になります。
インナーレースを取り外したら、ホイールハブ側に残るアウターレース表面の状態を確認します。与圧が適正でグリスによる潤滑が足りていれば大きなダメージはないはずですが、雨天走行が多いわりにメンテナンスの間隔が長すぎたり、与圧が適正でない場合にはサビや打痕が生じているかもしれません。
ホイールベアリングのダメージはタイヤが接地していると意外と分かりづらいこともあるので、タイヤを浮かせた状態で空転させて確認しましょう。ボールベアリング仕様の機種では、ホイールを外してインナーレースに指を突っ込んで回したときのゴロゴロ感で確認できることもありますが、ハーレーダビッドソンのテーパーローラーベアリングはアクスルシャフトを抜くとインナーレースが外れてしまうのでこの方法は使えません。
アウターレースにダメージがなければ、グリスを塗布してホイールを復元しますが、ここで重要なのはアクスルナットの締め付けトルクです。テーパーローラーベアリングにとって重要な与圧を決めるのがアクスルナットの締め付けトルクで、弱ければガタの原因になり強ければ抵抗になります。
サービスマニュアルには68~75Nmのトルクで締め付けるよう指定されているので、この数値は必ず守ることが必要です。そして締め付け後にはタイヤを浮かせたまま抱えて、適正な遊びがあるか確認します。ダイヤルゲージのマグネットベースをブレーキローターに取り付け、ダイヤルゲージの先端をアクスルシャフトの先端に当てて、ホイールの前後と横方向の移動量が規定値の0.05~0.15mmの範囲にあれば正常です。
先に述べたように、適正な与圧が掛かった状態のベアリングであれば、ホイールを外してグリスアップを行っても遊びが変わることは少ないですが、アウターレースにダメージがあってベアリングを交換した場合には、ホイールをセットした後に入念にチェックする必要があります。
ハブにオイルシールをセットしてホイールを復元したら、指定トルクの68~75Nmでアクスルナットを締め付ける。ホイール系は緩みを恐れて強く締めがちだが、締めれば締めるほどインナーレースやシムに加わる圧力が高まるので、適正トルクで締めることが重要。
タイヤを浮かせた状態で抱きかかえるようにして、ホイールを前後と横方向に動かして遊びを確認する。0.05~0.15mmのエンドプレイ測定は、ダイヤルゲージを使ったとしてもなかなか容易ではない。一般的にはタイヤの回転がスムーズで、ガタが少ない状態になっているかどうかで判断しているようだ。
- ポイント1・適正な与圧を加えるにはアクスルナットの締め付けトルクが重要
- ポイント2・ベアリングを交換した場合はシム調整が必須
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