井上ボーリングが展開しているICBM®は、古いバイクを蘇らせ近代化もできるとして人気を集めています。これまでも様々なメディアで紹介されてきましたが、ここでは筆者の愛車、RZV500RをモデルにICBM®化のメリットとその工程を徹底紹介していきます。ICBM®化を考えているのなら必読です。
目次
ICBM®ってなに?
そもそもICBM®とは何なのでしょうか?ICBM®は[I]NOUE BORING [C]YLINDER [B]ORE FINISHING [M]ETHODの略で、アルミシリンダーにメッキしたアルミスリーブを組み込み、新品、もしくはそれ以上のシリンダーにするものです。
ちなみにICBM®のスタートはアルミシリンダーに鋳鉄スリーブを採用するヤマハSRだったとのこと。SRのシリンダー構造は旧車では一般的なもので、シリンダー本体は放熱性に優れたアルミで作り、ピストンと接する部分には鋳鉄製のスリーブを用いることで耐久性を確保しています。鋳鉄はアルミより丈夫なのでこうした構造が採用されているのですが、それでも使うほどに摩耗しピストンクリアランスが拡大してしまうのでオーバーホールが必要になります。
一方近年のスポーツ車両では、メッキしたアルミスリーブを用いたり、スリーブを省略しシリンダーに直接メッキしたシリンダーが一般的になっています。これはアルミより冷却性に劣る鋳鉄スリーブを廃することで冷却性が向上し、硬いメッキを使うことで高い耐久性が得られるためです。またピストンとシリンダー両方が熱膨張率が同じアルミになるので、温度によるピストンとシリンダーのクリアランス変化が少なく、より性能も安定します。その結果として、軽量化、高強度、良好な冷却性、優れたオイル消費特性などの利点が得られます。
ICBM®は旧車にアルミメッキスリーブを組み合わせることで、こういった現代車の性能へとアップデートし耐久性を大幅に向上できます。なぜ耐久性が上がるかといえば、このアルミスリーブに施されるメッキがとにかく硬いため。硬さを示す指標であるビッカース硬度は、鋳鉄が40~150程度なのに対しメッキの素地の部分は450程度、メッキ内に分布しているシリコン粒子は2000と段違い。普通に乗っていただけではシリンダーの慣らしができないというほど丈夫で、ほとんど減らないシリンダーにすることができるのです。このICBM®はアルミシリンダー&鋳鉄スリーブの車両だけでなく、アルミシリンダー&メッキ仕上げの車両、例えばNSR250Rなどでも施工可能です。
愛車を末永く、ボーリングといった大掛かりなオーバーホールをせずに乗るうえでおすすめなICBM®ですが、費用面ではなかなかに「いいお値段」がします。ただ上記のメリットと共に作業工程を見れば納得できるはず。これからはその作業工程を説明していきます。
モデル紹介
今回作業していただくのは冒頭で紹介した通り、筆者のRZV500Rです。メーター上の走行距離は6万kmを超えており、一度ピストンとピストンリングを交換していましたが始動性は大幅悪化。エンジンを分解してみるとピストンの吹き抜けも発生していて、ボーリングしてオーバーサイズピストンの組み込みが必須という状況でした。
そこで今回思い切ってICBM®化をすることにしました。内径はオーダーができますが、せっかくボーリングとは違いノーマルサイズが選択できるICBM®化をするのだからと、ピストンはノーマルサイズにすることにしました。しかし純正ピストンは絶版。オーバーホール用ピストン等で知られるTKRJで設定がありますが、RZV用は限定販売品でノーマルサイズは完売です。最後の望みと海外を探すとMITAKAブランドのピストンがあったのでそちらを使うことにしました。
ICBM®に限らずシリンダーをボーリングするとなれば、仕上がり寸法を決定する上で組み合わせるピストンの寸法が重要になるため、作業依頼時は加工用シリンダーともども送るようにしましょう。
蛇足ですが、通常のボーリング加工をお願いしたいけれど、どのサイズのオーバーサイズピストンが必要か分からない場合、井上ボーリングではシリンダーの状態を見て適正サイズを選定してくれます。
工程1 スリーブの削り取り
まず鋳鉄スリーブを削り取ります。カワサキのZ1などではアルミのシリンダーと鋳鉄スリーブを別に作り、熱して膨張させたシリンダーにスリーブを差し込む焼きばめで両者を組み合わせています。これは熱膨張率の違いや油圧プレスを利用し比較的簡単にスリーブを取外せます。一方、RZVやRZ250などはまず鋳鉄スリーブを作り、そのスリーブごとシリンダーを鋳造する鋳込みで作られていて両者はガッチリ一体化しています。このタイプはプレス機などを使っての分離は不可能なので、スリーブは削り取るしかありません。
スリーブを抜き取れる焼きばめのシリンダーであってもそのままICBM®化するわけではありません。シリンダーのスリーブ穴が変形し真円ではなくなっていることが多いので、ボーリングで真円になるように加工します。
今回はデータがあるためスリーブの削り取りから作業はスタートしましたが、初めてICBM®化する車種や2サイクルでポート加工されたものなどは、まずスリーブの形状を精密に計測、データ化することから始めます。2サイクルはスリーブに開けられたポートの位置や形状が性能や特性を左右するので、それを忠実に再現してアルミスリーブを製作するためです。4サイクルでもスリーブが単純な円筒形ではないこともあるので、形状確認は欠かせません。
鋳鉄スリーブを削り取ったら、アルミスリーブ最上部にあるツバを収める部分を切削加工をします。
工程2 ダミースリーブで確認
ICBM®化をするときは必ずダミースリーブを作ります。これは計測したデータを基に作った形状確認用のスリーブで、シリンダーにセットして確認できる(取り外せる)よう、外径は本番用よりわずかに細く作られています。
2サイクルエンジンのポート位置はスリーブ内側とシリンダー内側とで同じ位置にあるとは限りません。RZVもそうですが、両者にずれがあった場合それを吸収するためスリーブのポートを斜めに開けて対処します。こうしたポート形状の情報は公開されていないので、スリーブを削り取ったあとで初めて確認できるシリンダーのポートの位置や形状を計測し、それに合わせてスリーブのポート形状を設計してダミースリーブを製作します。そうして製作したダミースリーブをICBM®化するシリンダーにセットし、設計データと現物に違いがないかをチェックします。ダミースリーブは同車種、同仕様なら別の車両に施工する場合にも共用しますが、鋳造で作られたシリンダーはばらつきがあるので、現物確認は全シリンダーで行います。
工程3 スリーブの作成
スリーブは熱処理され強度の高いA6061-T6材からCNC旋盤で削り出します。2サイクル用スリーブでは横型マシニングセンターでポート孔を空けた後にメッキ加工します。
ICBM®に使われるメッキはニッケルベースにシリコン粒子を加えた特殊メッキで、6万キロ走行後の内径を計測した結果、摩耗は直径5ミクロン以下と圧倒的な耐摩耗性を誇っています。
工程4 ケガキ
できあがったスリーブは焼きばめでシリンダーに取り付けますが、その前にダミースリーブを使ってお互いの正しい位置を示す線をけがきます。適正位置でない状態で焼きばめしてしまうと性能が出ない、排気バルブ(RZVならYPVSバルブ)がスリーブと干渉し正常動作しなくなると大きな問題が出る一方で、後述するようにスリーブ取付時に詳細な位置調整をする時間が限られるため、この位置出し作業は重要です。
ポートが無い4サイクルは関係ない作業と思うかもしれませんが、気筒間が狭い車両ではスリーブのツバが干渉するため、その一部をカットしたD形状とし、そのカットした直線部同士を合わせることで干渉を回避していたり(GPZ900Rなど)、スリーブ下端がクランクシャフトとの干渉を避ける加工がされていることがあります。そうなると同じように位置決めをきちんとする必要があります。
工程5 焼きばめ
アルミスリーブをシリンダーに取り付けます。シリンダー内径とスリーブの外径を絶妙に設定したうえで熱膨張させたシリンダーにスリーブを入れると、スリーブががっちりシリンダーに固定されます。アルミは熱伝導率が高いため、常温のスリーブも短時間で熱くなり膨張して動かせなくなるので、限られた時間で正しい位置にスリーブを入れなければならず、やり直しもできない(失敗したら削り取るしかない)ので、見た目以上に高い技術が必要な作業です。
工程6 ホーニング
スリーブの取り付けが完了したのでホーニングをします。ホーニングとはスリーブ内径の最終調整をし、内壁にオイル保持用の溝を付ける作業です。
通常のホーニングでは、内径の基準面に対して溝(谷)だけでなく飛び出した山もできてしまいます。シリンダーの慣らしとはピストン(ピストンリング)でこの山を削り取る作業とも言えますが、非常に丈夫なICBM®のスリーブでは削ることができず通常の方法で慣らしができません。そこで井上ボーリングでは、その山が非常に低く滑らかな肌を持ち、慣らしが必要ないプラトーホーニングを必ず用いています。ICBM®のスリーブは硬いので、それを削れるよう硬いダイヤモンド砥石を使いホーニングしています。
工程7 ポート面取り
ホーニング後は、スリーブのポートの縁がわずかとはいえ角が立った状態になっているので、1つ1つ手作業で面取りをします。
メッキをしたスリーブ内面の切削加工は、下手に作業するとメッキ剥がれの原因となるためプロの職人に任せたい作業。井上ボーリングでは純正形状ではない拡大したポートを用いたICBM®化もオーダー可能ですが、これもメッキ加工後に拡大加工をするのではなくダミースリーブ作成時点に形状を決定し、メッキ後のスリーブを大きく削ることはしません。
工程8 排気バルブの動作確認
RZV500Rでは中低速での性能を確保するための排気バルブ、YPVSを採用しています。これは排気ポートの高さを変える機構でシリンダーに取り付けられています。スリーブを入れ替えるとYPVSと干渉し動かなくなる可能性があるので、シリンダーにバルブを取り付け確認をします。一度寸法を確認し作ったスリーブなら問題ないと思いがちですが、シリンダーの個体差があるので必ず確認し、必要があれば追加工します。
オプション工程 柱関係の加工
2サイクルエンジンのポートは開口部が大きいとそれにピストンリングが飛び込み、異音がしたり耐久性が下がってしまいます。ホンダNSR250Rや同市販レーサーのRS250では性能を高めるため大きな排気ポートになっていますが、前記の問題を解決するため、排気ポート中央に柱が設けられています。RS250のシリンダー製造にも携わった井上ボーリングではその経験も踏まえ、柱を追加してのICBM®化も行っていて好評を得ています。ただ柱があることで上記した問題は解決しますが、単純に柱を付けただけではポート開口面積減少による性能の低下、冷却が厳しい柱の熱膨張によってピストンクリアランスが減少し焼付きが発生するという別の問題が起きてしまいます。
そこで柱を付ける場合、開口面積とエンジン特性が純正同等となるようCAD上で計算したうえで横方向へポート拡大しつつ(上下方向ではエンジン特性が変わるため)、熱膨張時でも適正クリアランスを保てるよう柱に逃がし加工をしています。この逃がし加工はシリンダー内径寸法が確定したホーニング後に行います。このように柱追加時に必要な加工は井上ボーリングにお任せでOK。ユーザーは柱追加を気軽にオーダーすることができます。
工程9 シリンダー上面研磨
最後にシリンダー上面を研磨し、スリーブとシリンダーをツライチに仕上げます。
こういった研磨作業は回転する刃を使うフライスカッターでされることが多いのですが、井上ボーリングではより繊細に研磨できる平面研磨機を使います。加工による寸法変化が少ないだけでなく美観に優れた仕上がりにできるので、他の作業で傷が付くことがないよう研磨作業は最後に行っています。
完成!
こうして生まれ変わったRZVのシリンダーがこちら。摩耗したスリーブが美しく高耐久なアルミメッキスリーブに生まれ変わりました。
2サイクル車はシリンダー、クランクとも4サイクル車に比べ頻繁なメンテナンスが必要ですが、その1つの耐久性が大きく改善されより気軽にバイクに乗れるようになるのはオーナーとしてはとてもありがたいものです。バイクはやはり乗ってなんぼ。そう考える旧車オーナーはICBM®化を検討してみては?
取材協力:iB井上ボーリング Phone 049-261-5833 https://www.ibg.co.jp
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