
フロントフォークにブレーキキャリパーを取り付けた時、純正のブレーキシステムならローターとキャリパーセンターが合っているでしょうが、ブレーキやホイールを交換してキャリパーブラケットをワンオフした時など、計算違いなどで中心から僅かにずれることもあります。そんな時、厚さが管理されたシムリングを使うとキャリパー位置を微調整することができます。
自動的にセンターに移動するピンスライドキャリパー
キャリパー本体がスライドするため、ピンスライドタイプは必ずキャリパーサポートを使用する。グリスを塗布しているのがスライドピンで、キャリパー側にはゴムブーツが見える。ピンの潤滑が不足するとキャリパーの動きが悪くなりパッドの引きずりの原因になることもある。
ブレーキパッドがディスクローターを左右から挟んで制動するのがディスクブレーキの作動原理であることはご存じでしょう。そしてブレーキをしっかり効かせるためには、左右のパッドがローターに均等に当たることが重要です。
原付から大型車まで一般的に使われているピンスライドタイプのブレーキは、キャリパーボルトのスラスト方向(軸方向)にキャリパー自体が移動することで、制動時に左右両面のパッドから同じ圧力を加えることができます。
自動的にセンターが出るため、カスタムや補修などで他機種用のキャリパーを流用する場合でも比較的容易に装着できます。ただし、キャリパーピンのスライド範囲内で取り付ける必要があります。
キャリパー本体に挿入されているスライドピンにはグリスが塗布してあり、ピンとキャリパーの隙間は伸縮できるジャバラ状のゴムブーツが装着されています。
キャリパーがスムーズに動くためにはこのピンとグリスがとても重要ですが、ブーツの経年劣化やメンテ不足でピンが錆びたりグリス切れで固着すると、パッドがローターに当たりっぱなしになって引きずったり、ブレーキレバーのストロークが深くなることがあります。
そうしたトラブルを避けるため、キャリパーの洗浄やピストンの揉み出しを行う際は、キャリパー自体がスライドピンに従ってスムーズに動くことを確認しておきましょう。
- ポイント1・ピンスライドタイプはキャリパー自体が適正位置に移動する
- ポイント2・好調さを維持するにはスライドピンのメンテナンスが必要
キャリパー位置が固定される対向キャリパー
一品もののサポートを介して取り付けたキャリパーは、よく観察するとローターがキャリパーのセンターより若干外側にある。フラットなキャリパーサポートでポン付けできたのでラッキーと思ったが、まだ調整の余地があった。
ピンスライドタイプのキャリパーに対して、より高性能なブレーキとして知られているのがブレーキローター左右のパッドをそれぞれ専用のピストンで押しつける対向ピストンキャリパーです。キャリパー自体の剛性が高くピストンの数も多いことで制動力がアップするため、スーパースポーツモデルの多くがこのキャリパーを装着しています。
キャリパーピストンはブレーキフルードの圧力で押し出されており、キャリパー内部でピストンに加わる圧力はピストンの面積が等しければ同一になります。
また、ブレーキレバーを握った際に押し出されたピストンは、レバーを離すとキャリパーピストンシールの弾性変形によって元の位置に戻り(これをロールバックということもあります)、ブレーキパッドもローターから離れます。
ピンスライドタイプのようにキャリパー自体が移動してセンターを出す必要がない対向キャリパーは、キャリパーサポートを介する場合もありますが、フロントフォークに対してリジッド状態で固定されています。したがってスライドピンのグリスアップといったメンテナンスも不要で、キャリパーピストンに付着したブレーキダストを除去してピストンを潤滑すれば、常に最高の性能を発揮できます。
- ポイント1・ブレーキローターの左右両側にピストンがある対向キャリパー
- ポイント2・対向キャリパーはスラスト方向に動かない
ブレーキローターがキャリパーのセンターにあるか確認しよう
ローターでパッドを開かないように注意しながらキャリパーを外して、ピストンのせり出し量を確認すると、上側のフランジ側ピストンの方が出ている量が僅かに少ない。ローター位置はフロントタイヤのアクスルシャフトをフォーク下からクランプする機種や、ホイールベアリング交換時の圧入量の違いによって若干ズレることがあるので、普段はど真ん中なのにホイールを外したらせり出し量が変わったような時は、ホイールの組み立て状態を再確認してみよう。
ただし、対向ピストンキャリパーでも確認しておきたい内容があります。それは「ブレーキローターがキャリパーのセンターにあるか否か」という点です。
ローターの左右からパッドを押しつける対向ピストンキャリパーなら、キャリパーの固定位置にかかわらず同じ制動力を得られると思うことでしょう。キャリパーがどちらかにオフセットして一方のピストンのせり出しが少なく、対向側のピストンのせり出しが多くても、パッドでローターを挟む時の圧力は同じなので、センターになくても制動力に差は出ないはずです。
しかしピストンのせり出し量が不均等だと、ピストンの戻りに差違が発生する可能性があります。握っていたブレーキレバーを離すと、キャリパーシールのロールバックによってブレーキパッドが離れるのは先に説明した通りです。
ここでキャリパー左右のピストンのせり出し量が異なると、せり出し量が少ないピストンの方がシールの変形量が少なく、戻る力が弱くなる可能性があります。ブレーキレバーを離してマスターシリンダーのピストンが戻る際には、ブレーキキャリパー内のフルードもマスターシリンダーに向かって流れようとするので、シールの変形量が大きい側のピストンの方が元に戻ろうとする力が大きく働くことも考えられます。
その結果、経験則も含まれますがピストンのせり出しが少ない側のパッドが引きずりがちになることが多いようです。
この時、キャリパーの取り付けフランジ部分をキャリパーサポートから遠ざける方向に移動することでセンターが出る=ピストンのせり出し量が均等になるのであれば、フランジとサポートの間に寸法調整用のシムを挟むことで調整が可能です。
シムと平ワッシャーは似たような部品ですが、シムの中には厚みが厳密に管理されたシムリング、精密シムと呼ばれるものがあります。これは0.01mm単位で製品化されているので、例えば1.2mmオフセットさせたいといった時に使えます。
ブレーキカスタムでキャリパーサポートをワンオフしたところ、センターが若干ズレていたというような時に重宝します。
ただし、キャリパーをもっとホイールセンターに寄せたい時はシムでの調整はできません。もしキャリパーサポートを介してキャリパーを取り付けているのなら、フロントフォークとキャリパーサポートの間にシムを挟むことで、キャリパーをホイールセンター側に寄せることは可能です。
対向キャリパーでブレーキの引きずりが気になる時は、ブレーキローターがキャリパーのセンターにあるか否かを確認して、可能であればシムリングを使って位置調整を行うことで不快なブレーキ鳴きが解消するかもしれません。
精密シム、シムリングと呼ばれる部品は機械工具のネット通販で購入できる。内径、外径、厚さで選べるので、キャリパーボルト径やフランジ部分の外径に応じて選択する。バイク用部品としては、デイトナからシムセットの名称で販売されている。厚さは0.5mmのみ。
スラスト方向に5mmも10mmもずらすことはないので、キャリパーボルトを長い物に交換する必要はない。何枚もシムを重ねるより、最初の確認段階で必要なオフセット量を測定しておき、なるべく少ない枚数で必要な移動量を確保する。
シムリングでキャリパーをずらしたことでローターがセンターに収まった。左右ピストンのせり出し量が揃ったおかげか、時々発生していたブレーキ鳴きも治まった。キャリパーサポートをワンオフする際は、キャリパーを固定するフランジ面とローターが平行であることが大前提となる。
- ポイント1・キャリパーとローターのセンターがズレているとブレーキ鳴きの原因になることがある
- ポイント2・キャリパー位置の調整にシムリングが使えることがある
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