スターターボタンを押せばセルモーターが回ってエンジンが始動する。「そんなの当たり前」と思うことが覆された時ほど焦ることはありません。バッテリーが上がったわけでなく、ヒューズが飛んだわけでもない。さらにはエンジンが掛かるときもある。そんな気まぐれなトラブルの原因探求で見落としがちなのが、スターターボタンの接点です。ここでは、まさかの接点焼けでエンジンが掛からないときの症状と対策を説明します。

旧車で最初に疑うのはスターターリレー

黄色クロメートメッキの部品がスターターリレー。本体左側の赤色がバッテリーとリレー間の配線で、黒色がリレーとセルモーターの配線。画像では見えづらいが、電磁石の接点を作動させるための配線もつながっている。

現行モデル用のスターターリレーの一例。バッテリーとセルモーターの配線をつなぐ黄銅色のオネジと、リレーを作動させるためのスイッチ用平端子の差異が明らかなのがよく分かる。

イグニッションキーONでメーター照明やインジケーターが点灯し、ニュートラルを確認してスターターボタンを押すとセルモーターが回る。そんな当たり前の始動手順でセルモーターがウンともスンとも言わない……。それこそ茫然自失になる瞬間です。

バッテリーが寿命でセルモーターの回転が弱々しいといった予兆があればまだしも、他の電装パーツは元気そのものなのにセルだけが回らない場合、いくつかの原因が考えられます。
まず第一に、クラッチレバーやサイドスタンドに組み込まれているスイッチ類のトラブル。それらは始動回路に直列で組み込まれているので、サイドスタンドを払い上げてもクラッチレバーを握っても接点が閉じなければ回路が成立せず、スターターリレーに電気が流れません。

次に怪しいのはスターターリレー(マグネットスイッチ)でしょう。クラッチやサイドスタンドに安全スイッチが組み込まれる以前の旧車や絶版車では、スターターボタンを押せばスターターリレーに通電するため、スターターボタンを押してもセルモーターが反応しなければ「リレーが怪しい?」となるわけです。

もちろん、セルモーター自体が不動の原因となることもありますが、ここではモーター以外の要素に不具合がある前提で話を進めます。
セルモーターが仕事をするのは始動時のほんの一瞬ですが、バッテリーからセルモーターにつながる極太の配線を見れば分かるように、クランクシャフトを無理矢理回転させるため大電流を流します。

その大電流を安全に扱うために装備されているのがスターターリレーです。スターターリレーは他のリレー、例えばヘッドライトリレーなどと同様に、小さな電流で開閉する電磁石を利用して、大電流が流れる接点を開閉します。そして電磁石と大電流接点は回路が別なので、電磁石側のスイッチに大きな電流を流す必要がなく、回路全体の負荷を軽くできるのがメリットとなります。

その分、大電流が流れる接点は電流を断続する際に大きな負荷が掛かるため、摩耗や焼損が発生する可能性があります。
そのため、バッテリー容量は十分なのにセルモーターが回らない場合。スターターリレーを疑うのはトラブルシューティングの定石となっています。

スターターボタンの接点焼損による導通不良とは?

普段はスターターボタンを押せばエンジンが掛かるのは当たり前だと思うだろうが、経年劣化や想定外のトラブルで導通不良となることもある。

①スイッチボックス内のスターターボタンの配線や構造は機種によって異なる。カワサキバリオスの例では単純にスターターリレー回路を断続するだけだが、キーオンでヘッドライトが点灯して、スターターボタンを押すときに消灯する機種の中には、スターターボタンにヘッドライト回路の配線が同居している機種もある。

②ボタンを取り外すと接点が明らかに焦げている。接点断続の際に小さなスパークが生じて、それが20年以上繰り返されたことで酸化皮膜ができて導通不良を引き起こしていたのだろう。これでもスイッチボタンをずらしながら押すと始動することもあったため、根本的なメンテナンスを先送りにし続けてしまったようだ。

③焼損部分の中心はクレーターのように凹んでいる。ハンドルスイッチはアッセンブリー部品なので接点だけを入手することはできない。

④対症療法としては、スイッチノブから外した接点をサンドペーパーで平らに均す程度しかない。それでも凹んでいる中心部分は、裏側から平ポンチで押し出した。

⑤リベットの丸頭のようなもう一方の接点は凹んでいないので、酸化皮膜をサンドペーパーで削り落とす。スイッチボックス内部が小さなネジやスプリングがあって分解組み立てが面倒だが、こうして焼損部分をメンテナンスすることでスイッチの機能が回復するのだから、不調に悩むオーナーは実践してみると良いだろう。

スターターリレーは非分解パーツですが、端子間の導通を確認することで不具合の有無を確認できます。

ではリレーが問題ないのにセルモーターが作動しない時、次にどこを確認すれば良いのでしょうか。ヒューズはもちろんですが、見逃しがちで意外なトラブル発生ポイントとして挙げられるのがハンドル右スイッチボックスのスターターボタン、その内部にある小さな接点です。

その理由を理解するには、始動系統の大まかな把握が必要です。先に説明したスターターリレーは、バッテリーのプラス端子に接続されるもっとも太い配線が直接つながり、同じ太さの配線がセルモーターにつながっています。
これとは別に、イグニッションスイッチから取り出された電源がスターターボタンにつながり、ボタンを押して接点が閉じるとスターターリレーの電磁石に通電します。

この二系統はいずれもスターターリレーにつながっていますが、先に説明した通り電磁石に流れる電流は小さく、セルモーターの配線には結線されていないため大電流は流れません。
しかしながら、小さな電流であっても接点の開閉によって断続する際には接点にスパーク(火花)が発生します。接点が触れる際は表面の細かい凸凹が僅かな時間差で接触し、接点が離れる際は接点間にアークが飛んで表面を溶かしたり酸化させる原因となります。

ここで紹介するスイッチ接点に焦げ(焼損)が発生して導通不良を起こし、それが原因で始動不良となった事例では、まさに焼け焦げたという表現がふさわしい状態になっています。

スパークによる焼損以外に、物理的な絶縁によって導通不良が発生する場合もあります。屋外保管のバイクのスイッチボックスを分解すると、内部に小さな虫やクモが住み着いていることがあります。

何かのきっかけにそれらが接点に挟まってしまうと導通不良となり、セルモーター不動の原因となることも意外にありがちです。

どちらの場合も、スターターリレーの破損やヒューズ切れとは異なり、スターターボタンをグリグリと動かしながら押すことで接点が閉じると電気が流れてセルモーターが回る、一貫性のない不動状態に陥ることが多いのが特徴です。

スターターボタンを一回押してもダメで、二度三度と繰り返し押すと突然始動したり、セルモーターが回るときは元気よく回るのに、突然ウンともスンとも言わなくなるときがある場合には、その原因はスターターボタンの接点にあるかもしれません。

旧車や絶版車はハンドルスイッチ内部の接点コンディションに注意しよう

エンジンストップスイッチも機種によってまちまちだが、バリオスはシンプルな構造だ。ただ、経年劣化によって接点と端子表面が酸化皮膜でくすんでいることが分かる。

サンドペーパーで表面を磨いて、接点グリスを塗布して復元する。スイッチボックスの分解組み立てが面倒だったり自身がないといった理由で、隙間からパーツクリーナーや接点復活剤をスプレーしてお茶を濁す例もあるが、汚れが流れてかえって導通不良を引き起こすこともあるので注意が必要だ。

旧車や絶版車の場合、スイッチ接点の経年劣化はスターターボタンだけの問題ではありません。ディスクブレーキ車のマスターシリンダーから漏れたブレーキフルードが右側スイッチボックス内に染み込み、エンジンストップスイッチ(キルスイッチ)端子を絶縁したり、ウインカースイッチ接点のグリスが粘土のように硬化して導通不良の原因となるなど、想像以上のトラブルが発生することもあります。

また経年劣化によって可動部に塗布されたグリスの粘度が上がって、スイッチノブの動きが重く粘りがちになることもあります。先の通りこれ自体が導通不良を引き起こすこともありますが、スイッチの支点や摺動部に無理な力を加えることで破損のリスクも高まるので、ノブやボタンがスムーズに動かない場合は、電装パーツの作動不良とは別にスイッチボックスを分解して古いグリスや汚れを取り除き、新たにシリコングリスを薄く塗布しておくと良いでしょう。

POINT

  • ポイント1・スターターボタンを押してもエンジンが掛からないことがある場合、スターターリレーやセルモーター本体とともに、スターターボタンの接触不良の疑いもある
  • ポイント2・スターターボタンの接点が断続する際に発生するスパークによって摩耗したり焦げが導通不良を引き起こす
  • ポイント3・スイッチボックスを分解して接点を取り出し、サンドペーパーなどで焦げや摩耗を削り落とすことで導通が回復する
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