走行中の異変に気がつき、比較的軽傷で済んだ2ストロークエンジンなら、シリンダーヘッド、シリンダーの順でスムーズにエンジン分解でき、ピストンやピストンリングとシリンダー内壁のコンディションを確認点検することができる。高速走行中に潤滑不良を起こし後輪をロックさせたエンジンは、かんたんに分解できないのが現実だ。
旧車が注目される現在。「個性的かつ爽快な走り!!」で特に多くのファンに再注目されているのが2ストロークエンジンモデル。70年代以前は、バイクメーカーでも2サイクルエンジンモデルと呼んでいたが、現代の4ストロークエンジンとはまったく異なった構造や走りの特性を持っている。今、再び注目されている2ストロークモデルの「焼き付き」や「ダキツキ」トラブルとは、いったいどんなものなのか?
焼き付きやダキツキには必ず原因がある
ダキツキで済んだエンジンは、エンジンが冷えることでキックを踏み込めるようになる。クランクが回ればピストンの焼き付き固着状況ではないと考えられるので、シリンダーを抜き取り、ピストンを取り外すこともできる。ピストンリングの脱着は慎重に行い、必要以上に広げて「折らない」ように要注意。折れたら二度と使えない!!
今回のダキツキ症状は、2気筒エンジンの左側シリンダーの排気側ピストンスカートで発生していた。こんな状況ならまだまだ軽症。ダキツキでピストン脱着できても、現実的には使えないし、本来の走りを期待できないケースのダメージも多い
600番の耐水ペーパーでクロスハッチ研磨
ピストンやシリンダーのキズを「ガリガリ削って平滑にする」ことで、見た目はキレイになり安心することができる。しかし、実は削り過ぎによるピストンクリアランスの拡大で、再始動後にメカノイズが大きかったりパワー感が無いなど、そんな走りになってしまうケースが多い。ペーパー研磨の際には、600番の耐水ペーパーと防錆スプレーを使い、キズ部分のみ(狭い範囲)を、一方通行でクロス状に擦るのがクロスハッチ研磨だ。決して深く強く擦らない!!
シリンダー内壁のキズも研磨しよう。アルミ製ピストンに対して鉄シリンダーなら、キズの深さはピストンほどではないことが多いはず。シリンダーのキズも600番の耐水ペーパーに防錆スプレーを吹き付け、キズの範囲だけやさしくクロスハッチで擦る。
ピストンリングの合口寸法で圧縮状況を判断
シリンダーのキズ部分を擦ったら(ペーパーでキズを消してしまおうなんて決して思わない)、シリンダー内に取り外したピストンリングを縮めて挿入し、水平を保った状態でシックネスゲージを差し込みデータ測定してみよう。モデルやボアサイズによって合口寸法は異なるが、標準合口よりも大きかったらピストンリングの摩耗を考えよう。
組み込み前にはエンジンオイルをしっかり塗布
ピストンリングを洗浄後のピストンへ組み込んだら、リング溝へエンジンオイルをしっかり塗布。また、ピストンピンをピストンへスムーズに抜き差しできることを確認しよう。ピストンピン挿入がかたく感じたら、ピストンピン穴のエッジを面取りすると良い。
シリンダーを復元するときにはスタッドボルトの締め付けに要注意。一度の締め付けでトルク管理するのではなく、例えば7~8Nmで仮締めし、その状態でキックを何度も踏み込むかクランクシャフトを何度も回転させ、ピストンとシリンダーのセンターリングを行う。その後、トルクレンチを使って対角順に規定のトルクで締め付ける。
- ポイント1・走行中に異変を感じたら、そのまま走り続けず路肩で小休止。
- ポイント2・後輪がロック→エンジン停止しても、エンジン冷却後は再始動できる可能性がある。それがダキツキ症状の典型的な例。
- ポイント3・サンドペーパーでキズ部分を擦って摺り合わせする際には、エンジンオイルや水(水道水や飲料水で大丈夫)を併用する。
- ポイント4・キズを消すような強い研磨はやり過ぎ。キズ部分の表面を擦る程度に摺り合わせる。
空冷2ストモデルこそ「暖機運転」が重要である。決して長時間アイドリングさせる必要はないが、エンジン始動直後に走行開始し、そのまま全開で走ってしまう、といったライダーを見掛けることもあるが、それは大間違いだ。爆発燃焼によってピストンはすぐに暖機するが、シリンダーは必ずしもそうではない。暖機が完全ではないシリンダーは、当然ながら冷えている。そんなシリンダーと熱く膨張したピストン間のクリアランスは、規定値よりも小さくなっているため、ダキツキを発生しやすいのだ。
特に、冬場の寒い時期は空気密度が濃く、エンジンフィーリングは好調だ。そんなタイミングで冷間エンジンをブン回してしまい、ピストンやピストンリングに「ダメージを与えてしまって……」といったトラブルは数多くある。
暖機運転を怠ったことで、起こしてしまいがちな「ダキツキ=軽度の焼き付き」だが、分離給油のエンジンオイルを補充し忘れたことにより、走行中にエンジンオイルが無くなり、やらかしてしまうのが「焼き付き」の典型的な原因である。オイルを補充していても、オイルポンプの作動不良で起こる焼き付きもある。また、オイルラインへのエアー噛みで焼き付きを起こす例もある。また、走行中にキャブやシリンダー周辺のトラブルで二次空気を吸い込み、それが原因で(ガスが薄くなり)ピストントップを溶かし、そのアルミ粉を噛み込み焼き付くことも珍しくない。
2ストエンジンの焼き付きやダキツキと聞くと、エンジンオイルやオイルの供給系トラブルを思い浮かべがちだが、実は、暖機運転不足も原因のひとつであり、近年特に多いのが、吸入系の「2次空気」問題なのだ。
歴代旧車が現役当時は、純正補修部品の供給が安定していて、良いコンディションでバイクを走らせることができたが、21世紀の今、絶滅危惧種とも呼ばれている2ストロークモデルを常にコンディション良く走らせるのは至難の業でもある。だからこそ、走行中に異変を感じた時には「まぁいいや……」ではなく、その異変の原因を注意深く見つけ出すことで、絶滅危惧種の2ストロークモデルを末永く楽しむことができるようになるのだ。
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