「押しながら回す」のがドライバーの使い方の基本です。きつく締まったビスにはむしろ、押す力の方が多めにしないと頭の十字溝をなめてしまいます。それでもガッチリ締まって回りそうにないビスに有効なのが、ハンマーによる打撃で先端が回転するショックドライバーです。古めのバイクや怪しそうなビスには、最初からこのドライバーを使えばトラブルを回避できます。

十字溝をなめる「カムアウト」はプラスビスの宿命

ボルトナットと併用して使われているプラスビスは、パーツ同士をつなぎ合わせるもっとも基本的な材料のひとつです。その昔、ビスはマイナス溝から始まりましたが、やがてネジ回しの効率化に伴って十字溝のプラスビスが登場したそうです。

マイナスビスは溝とドライバーが180°ごとにしか接触できませんが、プラスビスはドライバーを90°回転させれば溝にはまります。さらに十字形状は先端に向かって先細りになっているので、ドライバーの先端はおのずと十字溝に収まりやすいため締め付け作業のスピードがアップするわけです。

しかしこの先細りの十字溝が、プラスビスのなめやすさの原因にもなっています。十字溝に沿ってドライバーがせり上がろうとする現象はカムアウトと呼ばれ、その弱点を補うためにドライバーを押しながら回すという動作が定番となりました。

固着したビスを回す時ほど押しつける力が重要で、ちょっと気を抜いたりドライバーが斜めの状態で回そうとすれば、十字溝が広がってドライバーの先端が掛かりづらくなる、いわゆる「なめた」状態になってしまいます。

そんな根源的な弱点があるためか、最近のバイクはエンジンのクランクケースカバーはフランジ付き六角ボルトとなり、車体のボルトも六角穴付きキャップボルトやトルクスボルトが多くなり、プラスビスを用いる場所が減少しているようです。

とはいえいまだに多くのプラスビスが現存しており、それらをなめずに緩めるには集中と緊張が必要です。

 

POINT

  • ポイント1・量産性には優れているがなめやすいプラスビス
  • ポイント2・カムアウトを防ぐには押しつけ力が不可欠

押しつける力を最大限に引き出すショックドライバー

ショックドライバーの中では本体が細身のタイプ。このドライバーは工具ショップのストレート製。ハンマーを振りかざして叩きつけるのではなく、ハンマー自体の重さを利用してショックを与えるような使い方が適している。

ガッチリ締まったプラスビスを緩める際に頼りになるのがショックドライバーです。インパクトドライバーと呼ばれることもありますが、どちらの場合もグリップ後部をハンマーで打撃することで、グリップ内部の機構によって軸の先端を強制的に回転させるのが特長です。

代表的な回転機構はカム式とくさび式の二種類で、カム式の場合は斜めに重なり合った一対のカムの一方が軸部に、もう一方がグリップエンドにつながっています。一般的な貫通ドライバーは先端から後端まで軸部は一体ですが、ショックドライバーはグリップ内部で二つの部品に分割しています。

回転方向の切り替えが可能なドライバーの場合、カムの重なり合いを切り替えることで緩め方向だけでなく締め方向にも強い力を加えることができます。固着したビスを緩める場合は、事前にグリップを握ってドライバー本体を地面などに押しつけて、先端ビットの回転方向を確かめておきます。

その上でガッチリ締まったビスに押し当て、鉄のハンマーでグリップ後部を叩きます。この時ドライバー本体を緩め方向に捻りつつ叩くと効果的です。押す力をハンマーの打撃力に借りるわけですが、基本的にドライバー自体をビスに押しつけながら作業します。

最初からハンマーを力任せに叩きつけると相手のパーツにダメージを与える危険性があり、カムがスムーズに動かない可能性もあるので、様子を見ながら打撃することが重要です。

 

POINT

  • ポイント1・ハンマーの打撃で機械的に回転するショックドライバー
  • ポイント2・回転力が強いので力任せに叩かない

ショックドライバーなのに普段使いできるタイプもある

ベッセルのメガドラインパクタに先端サイズが2番と3番があり、2番には軸長の異なる2種類がある。グリップデザインは通常の貫通タイプのメガドラと同様なので、外観だけではこれがショックドライバーとは思えない。

工具メーカーを問わず、ショックドライバーは打撃に耐えられるようグリップ部分がむき出しの金属製で、多くがずんぐりむっくりとした形状と交換式の先端部を持っているのが特徴です。

そんな中で、普段の作業でも使えていざという時にはショックドライバーとしても使えるというコンセプトで登場して好評なのが、ドライバーをはじめとしたハンドツールや産業用工具の製造販売を行うベッセルのメガドラインパクタです。

このドライバーは一見すると樹脂製グリップと長い軸を組み合わせた普通の貫通ドライバーですが、グリップ内部のカム機構によってハンマーで叩くと先端が約12°だけ左回転します。

たった12°と思うかもしれませんが、固着したビスを緩めるには最初のきっかけが重要で、固着さえ解れればあとは通常のドライバーで緩むことが大半です。逆に、緩め作業中にずっと抵抗感がなくならない場合、雌ネジが傷んでいてビスを外した後の補修が必要になることが多いです。

ハンマーの打撃によって固着が解消したら、そのまま通常のドライバーとして使えるのもメガドラインパクタならではの特長です。先述のとおり多くのショックドライバーはいかにもショックドライバー然とした形状とスペックで、必ずしも通常のドライバーとしての使い勝手は考慮されていません。

しかしこのドライバーは通常のビスには普通のドライバーとして使えて、いざ固着したビスがあったらハンマーで叩けばショックドライバーとなるので、作業が滞ることがありません。

回転方向が左回りだけなのが一般的なショックドライバーとの相違点ですが、増し締め作業より固着したビスの緩め作業の方が圧倒的に多いので、不満を感じることはほぼないでしょう。もちろん、通常のドライバーと同様に手回しによる本締めは可能です。

絶版車のクランクーケースカバーのように、3番のプラスビスがカバー外周を囲む場面なら、固着の有無にかかわらずあらかじめすべてのビスを一撃しておけば、その後の緩め作業がスムーズにできるはずです。

貫通ドライバーもショックドライバーもすでに所有していても、もう一本追加で欲しくなる魅力的なドライバーです。

ブレーキマスターシリンダーキャップのプラスビスは皿小ネジで、ドライバーを十字溝にぴったり合わせないと容易になめてしまうので、ショックドライバーできっかけを作ってやるとトラブルを防げる。

十字溝が3番のM6ビスはエンジンカバーの固定用に使われることが多く、絶版車や旧車では固着しているものが多い。横から押しつけながら回す動作では力が逃げやすくなめやすいので、ハンマーの力を活用するショックドライバーが有効だ。

POINT

  • ポイント1・普段使いとショックドライバーの二刀流
  • ポイント2・使い分ける必要がないので作業がスムーズ

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