バイクのメンテナンスの第一歩は車体各部の洗浄です。裏を返せば汚れたバイクはどこに不具合があっても不思議ではなく、不調の芽も見つけづらい状態と言えます。旧車のキャブレターの中には、ガソリンやオイルの汚れがこびりついて見るに忍びないものがありますが、そんな時はスプレータイプではなく漬け込みタイプのクリーナーが有効です。

ピストンバルブの張り付きには加熱が有効

ピストンバルブタイプのキャブは、スロットルケーブルによってダイレクトにスロットルバルブを開閉できる。だが変質したガソリンが硬化してキャブとピストンの隙間に張りつくと、完全に動かなくなる場合もある。そんな時はヒートガンで温めると剥がれる場合がある。スロットルケーブルが付いた状態で洗浄液につけ込んでも良い。

絶版車や旧車における傷や色あせは、積み重ねてきた歴史の勲章というとらえ方もできます。再塗装や再めっきでピカピカに仕上げられたレストア車には醸し出せない、当時物という風格は一朝一夕には出せないからです。

しかしそれも程度問題であり、単に汚れが積み重なれば汚いだけ。エンジンまわりでいえば、ガソリンやオイルのにじみは最初はウェット状態ですが、時間の経過と共にペースト状になり、さらに粘度が増して固着していきます。

ヤマハが1960年代後半に発売したHS1は、排気量90ccの2ストローク2気筒エンジンを搭載した原付2種のスポーツバイクです。90ccのくせに2気筒なので一丁前にツインキャブを装備して、往時はリトルツインとして人気がありましたが、30年近く不動状態となっていた車両です。

幸いキックペダルはスムーズに踏み降ろすことができ、プラグを外して点火火花を確認すると2気筒ともパチパチと火花が出たので、汚れがこびりついたキャブを清掃して混合気を流し込み始動するか否かを確認します。

ピストンバルブタイプのキャブは、上部のトップキャップを外せばスロットルバルブが引き抜けるはずですが、キャップは外れるもののピストンが固着して抜けません。これはキャブ内部に残ったガソリンが樹脂化して接着剤のようになって起こる症状です。

スロットルを無理に回そうとしたり、ベンチュリー内にドライバーを突っ込んでスロットルバルブをこじると、スロットルケーブルが切断したりスロットルバルブに傷が付くことがあるので、こうしたときはドライヤーやヒートガンでスロットルボディに熱を加えるのが効果的です。加熱することで樹脂化したガソリンが軟化して、スロットルバルブが抜ける場合が多いです。

この方法は負圧キャブレターのピストン張りつきにも有効ですが、バキュームピストンにはゴム製のダイヤフラムが組み込まれているので、加熱しすぎないよう注意が必要です。特に熱量の強いヒートガンを使う場合は、遠くからまんべんなく加熱しながらピストンを押し上げて、ダイヤフラムにダメージを与えないよう作業します。

熱を加えることで汚れが軟化して、ヌルッという手応えともに引き抜くことができた。抜けたピストンの側面にはネットリとした汚れが残っており、これが冷えた状態で接着剤のように作用していたようだ。冷えた状態でドライバーなどをベンチュリーに突っ込んでスロットルバルブを押し上げると、バルブ下部のカッタウェイ部分に傷が付くことがあるので厳禁。

 

POINT

  • ポイント1・長期保管や放置したキャブレターには汚れが堆積する
  • ポイント2・固着した部品を外すには熱を利用すると良い

キャブクリーナーにはスプレータイプと浸漬タイプがある

分解したキャブレターを洗浄するクリーナーには、スプレータイプと浸漬タイプがあります。スプレータイプはさらに液状と泡状に分類され、手軽な順に並べれば液状スプレー、泡状スプレー、浸漬タイプとなります。

頑固な汚れには泡状のスプレータイプか液体に漬け込む浸漬タイプが適しており、特にひどい汚れには浸漬タイプが最適です。スプレータイプでもキャブを分解してバットに並べて、沈むほど吹き付ければ汚れ落とし効果はありますが、洗浄液の中に沈める浸漬タイプの方が洗浄効果はより一層高いです。

浸漬タイプのキャブレタークリーナーとしては、ワイズギアから発売されているヤマルーブスーパーキャブレタークリーナーが好評のようです。ガソリンで希釈する原液タイプで、4リットル入りの原液はそれなりに高価ですが、容器に入れて保管すれば再使用も可能なのでコストパフォーマンスは悪くありません(繰り返し使うことで洗浄力は低下しますが)。

 

POINT

  • ポイント1・外側から洗浄するならスプレータイプが使いやすい
  • ポイント2・キャブ内部まで洗浄するなら液体クリーナーが有利

完全に分解して漬け込むと効果的

浸漬タイプのキャブレタークリーナーとして評判が高い、ヤマルーブのスーパーキャブレタークリーナー(画像の商品は旧タイプ)。ガソリン7:原液3の割合で混合してキャブパーツを漬け込む。負圧キャブのダイヤフラムや、先端がゴム製のフロートバルブなど、ゴム素材に使用できないので注意しよう。

1時間ほど漬け込むことで、アルミ合金のボディやフロートチャンバーも真鍮系のジェットやニードルも驚くほどきれいになるのがスーパーキャブレタークリーナーの威力。右側のフロートチャンバーの底は腐食によってクレーターのように表面が荒れているが、細かな凸凹の中の汚れまですっかり除去されている。

スーパーキャブレタークリーナーの最大の強みは、洗浄成分が液体で浸透力が高く、ワニスや2ストオイルがらみの汚れを溶解する能力が高いことです。

スプレーのクリーナーでも強い洗浄力を持つ製品はありますが、ボディ内部の細かいエアやガソリン通路の隅々まで行き渡る能力ならば、この漬け置きタイプがもっとも効果的です。粘着系の汚れで塞がったジェットの穴も、極細のジェットクリーニングツールで軽くつついてきっかけを作ってやれば、そこから汚れに浸透して溶かしていくので、ジェット径に影響を与えることもありません。

また、アルミはアルミらしい白色に、真鍮系のジェット類は黄銅色の輝きに仕上がるなど、洗浄後にキャブレター各部の素材の質感を大きく損なわないのも特長です。長く漬け込みすぎると焼けたように変色することもあるようですが、浸漬が1~2時間であれば大きな影響はありません。

各部の部品を傷めないように外したら洗浄液につけ込むだけという簡単な作業ながら、固着していたキャブが再び使えるようになるのはとても気分が良いものです。30年間不動だったこのHS1も、洗浄したキャブを復元して混合ガソリンを入れたら(オイルポンプが正常に機能するか確認できるまでの始動確認は、混合ガソリンで行うのが無難)、無事にエンジンが始動しました。

本当にかかるかどうか分からないエンジンなら、いきなり分解するより始動確認だけでも行っておいた方がその後の覚悟を決めやすいものです。キックペダルが降りて、プラグ穴を指で塞いで一応の圧縮が確認でき、プラグから火花が飛んでいるなら、キャブを洗浄してフレッシュなガソリンを送ればエンジンが掛かるかどうかだけは確認できます。

4ストロークエンジンだとエンジンオイルを交換しておきたいですが、2ストならその必要もありません。

それだけに、キャブを効率的に洗浄することが重要であり、高性能なキャブレタークリーナーを選択することが近道になるのです。

汚れが付きまくったクランクケースやシリンダーと真っ白に輝くキャブレターとのコントラストが鮮やかすぎる。作業前とは比べものにならないほどの美しさで、内部も完全に洗浄済みなのでエンジン始動の確認には最高のコンディションとなっている。エンジンがかかればピストンリングやクランクベアリングの状態も分かるので、エンジン本体をどこまで分解すれば良いのか修理の予測が可能になる。

 

POINT

  • ポイント1・漬け込みタイプのクリーナーは狭い隙間にも浸透する
  • ポイント2・始動確認を行う上でもキャブレターの徹底洗浄は重要

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