ボルトの「カジリ防止」と同様に重要なのが、ボルトの「緩み防止」である。振動が少ない現代のバイクは、ボルト緩みによるトラブルは少ない。しかし、70年代以前のバイクは、国内外を問わず、数多くのモデルでボルトの緩みトラブルがあった。ネジの緩み防止ケミカルには種類があり、固定強度的には、低強度、中強度、高強度の3タイプがある。液状の緩み防止ケミカルはよく知られているが、リップスティックのような半練りタイプもある。状況によって使い分けるのが良いだろう。

メンテナンスの実践で避けて通ることができないのが「ボルトの脱着」だ。大切なことは、ボルトを締め付ける前にネジ山をしっかりクリーニングすること。また、緩めるときに「違和感がある時」には、防錆浸透スプレーでカジリを防ぐことである。ここでは、重要保安部品や特定ボルトの締め付け時に必ず利用したい「ネジロック剤」に注目しよう。

緩み止め「強度」の違いに注目し、使い分けよう

低強度、中強度、高強度と種類があるが、ここで利用したのは「高強度」仕様。液体粘度は中粘度の商品だ。リップクリームのような半練りタイプもあるので、利用箇所や使い勝手に応じて、使い分けるのが良い。数種類、購入しておけば確実だろう。

ベアリングの圧入が甘いときには「スリーブリテーナー」

ホイールハブのベアリングやエンジンの各種ベアリング、具体的には、クランクベアリングやミッションベアリングのハメ合い公差が甘くなり、圧入固定できず「ベアリング外周が回ってしまいそう!?」な場合は、耐熱スリーブリテーナーを薄く塗布してから圧入するのがよい。嫌気状態になることで、ベアリングと部品の隙間は空気から遮断され、ベアリングアウターを接着することで供回りを防ぐことができる。

今回利用した嫌気性接着固定剤は、パーマテックスブランドから発売されている高耐熱スリーブリテーナー。分解組み立てを繰り返された部品の場合は、本来なら低圧入指定のはずが、スポッとベアリングがハマってしまうことがある。そんな箇所でもベアリングアウターを固定できるのがスリーブリテーナーだ。

圧入部品や固着気味のボルトを緩めるのに効果的!!

部品を急冷し、浸透潤滑剤をネジ山へ染み込ませるアイデア商品がこれ。現在は様々なメーカーから類似商品が発売されている。米ロックタイト社製の「フリーズ&リリース」という商品は、カジリ気味のボルトを急冷してギュッと縮ませ、その瞬間にネジ山の隙間へ浸透潤滑剤を染み込ませる。

この手の商品を使う時には「温度差」を利用することで、その効果を最大限に引き出すことができる。工業用ヒーターでマフラー接続バンドのボルトナットを温め、ボルトとナットの隙間を目がけてスプレーをブシューッと吹き付ける。急冷+防錆油の浸透によって、ロックナットが緩みやすくなるのだ。サビたボルトの緩めには、特に効果的だ。

ベアリングの抜き取りにも使える急冷&浸透潤滑スプレー

ホイールハブのベアリングや足周りパーツのベアリングを抜き取る際に、ベアリング周辺全体を温めてからベアリング外周に向けてブシューッとスプレーすることで、急冷効果でベアリングがギュッと締まって抜けやすくなる。火傷しないように作業手袋を着用し、手際良く作業を進めよう。

POINT

  • ポイント1・ボルト関連ケミカルは種類が豊富なので用途を間違うことなく使い分けよう。
  • ポイント2・ケミカルを使い分けることで、確実に高い効果を得られる。
  • ポイント3・温度差を利用して膨張収縮させることで、ハメ合い部品は抜き取りやすくなる。

締め付けたボルトの緩み防止には様々な方法があるが、ひとたび締め付けたら、そうは簡単に緩めないような箇所に利用するのが「ネジロック剤」と呼ばれるボルトの緩み止めケミカルだ。一般的に「ネジロック剤」と呼ばれている。
ドレンボルトのように、ボルトを緩めてエンジンオイルやギヤオイルを定期的に抜き取る機会があるボルトの場合は、ボルトの頭に穴加工を行い「ワイヤーロック」する方法が用いられる。ワイヤーロックしてあれば、一目でボルトの締め付け状況を確認できる「視覚確認」が可能になる。

ネジロック剤で使う機会が多いのは、高強度や中強度だろう。メーカーを問わず「赤色」の液体や半練スティックは高強度。「青色」は中強度が多いが、使う前には商品記載を必ず確認し、塗りすぎず少なすぎず、程良い量を塗布しよう。締め付けた際にネジの隙間から溢れるような場合は、明らかに塗り過ぎだと考えよう。
逆に、ネジロック剤を使ったボルトガッチリ固定されて緩みにくい場合は、工業用ヒーターでボルトを温めることで固着したネジロック剤が緩んで溶け出すので、そんな特性も知っておくと良いだろう。

ケミカル塗布した周辺の空気が無くなり「嫌気」状態になると、接着剤化するのがスリーブリテーナーの特徴だ。ベアリング外周が回ってしまいそうな、ユルい圧入公差に気がついた際は、このケミカルを使うことでベアリングの固定をできることもある。
過去に焼き付いた経験があるホイールハブなどは、ベアリングのロックによって本来なら圧入されているベアリングアウターが、ハブに対して回ってしまうことがある。そんな履歴があるホイールハブに新品ベアリングを組み込む際は、スリーブリテーナーを外輪外側に適量塗布してから圧入。さらにアウターの抜け防止を目的に、アウターの外側部数カ所にポンチングカシメ(センターポンチ利用)を行うのが良いだろう。

メンテナンスに「時短」や「作業性の向上」を求めた場合、間違い無く高い効果を得られるのが各種高性能ケミカルの利用である。取り外したい部品と周辺部品の間に「温度差」をもうけることで、想像以上にスムーズな部品の取り外しができるケースもある。ここでは足周り部品やベアリングの抜き取りに「フリーズ&リリース」(ロックタイト社製)を利用したが、その使い勝手の素晴らしさを知ると、様々な部分でアイデアを駆使したくなるものだ。是非、チャレンジしてほしい。

ここで紹介した「メーカー&商品」と同様の働きをする高性能ケミカルは、複数ある。お気に入りの商品を見つけ出すのも、サンデーメカニックにとっては楽しい時間でもあるはずだ。

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