タッチアップペイントから全塗装まで、缶スプレーを使った塗装は手軽にできるのが魅力です。塗装の仕上がりにこだわるなら、下地作りから仕上げまでどの工程も焦らず慌てず取り組むことが重要ですが、それでもミスやトラブルがつきものなのが自家塗装。DIYペイントでもっとも冒しやすい失敗のひとつである「ユズ肌」はどうして起こるのか、またザラザラ・デコボコの塗装面を少しでも改善するリペア方法を解説します。

いくつかの条件が絡み合って生じるユズ肌とは?

上塗りのクリア塗装がなくグリーンのカラースプレーがユズ肌なのか、あるいはグリーンの上から塗装したクリアがユズ肌になったのか、いずれにしても典型的なユズ肌になってしまったサイドカバー。一度平滑になった塗装面が乾燥過程でユズ肌になることはまずないので、ペイントしている途中でこのできあがりは分かるはずだ。

ソリッドやメタリックやクリア塗装など、塗装に必要な缶スプレーのカラーバリエーションや塗装自体の高性能化によって、DIYペイント=自家塗装の仕上がりも著しくアップしています。
塗装で失敗するのはパテやサフェーサーなどの下地作りが悪かったり、一度に分厚く塗り重ねることによるタレなど、材料よりは作業者のミスや失敗が原因というのが大半で、そんな塗装トラブルの代表的なもののひとつが「ユズ肌(柚子肌)」です。
これは文字通り、乾燥後の塗装表面が柚子の皮のようにデコボコになった状態を指し、ワックスやコーティングを行っても光沢は出ません。
上塗りとなるカラーペイントや仕上げのクリア塗装(トップコート)などのスプレー塗料は、池に石を投げ入れると、一時的に水面が波立ってもやがて落ち着きを取り戻すのと同様に塗装面に吹き付けた後に溶剤によって表面が滑らかになります。
ユズ肌は塗装面に着いた塗料が滑らかになる前に乾燥してしまった状態です。缶スプレー内部の塗料の濃度や噴射圧力はおよそ一定に保たれていますが、仕上がりがユズ肌になることがあるのは何故か? そこにはいくつかの原因があります。
■缶スプレーでユズ肌が発生する原因
1.缶と塗装物の距離が遠い
2.塗装環境の温度が高い

どちらもスプレーガンを使った塗装にも当てはまりますが、スプレーガンは塗料とシンナーの割合を任意に調整できるため、経験を積むことで失敗を回避できるようになります。一方、缶スプレーは塗料の粘度や希釈度合いはあらかじめ決まっているため、外的要因の影響を受けやすい面があります。
1.については、スプレーノズルから噴射された塗料が塗装物に届く前にシンナーの揮発が始まり、塗着してからの伸びの悪さによりデコボコの原因になります。
2.も1.と関連しますが、温度が高いことで塗料が平滑に伸びる前にシンナーが揮発することでユズ肌の原因となります。
塗装を行う際は一度に分厚く塗るとタレの原因になるため、「薄く重ね塗りを行う」のがセオリーです。
しかし塗膜の形成過程に注目すると、色の元となる顔料と塗膜を形成する樹脂を溶かすシンナー成分は重ね塗りを行う間は塗料の中に残っていることが必要です。しかし上記のような原因で塗装中にシンナーが揮発してしまうと、塗装面が平滑になる前に樹脂が固まり始めてユズ肌となってしまいます。
ペイントを垂らしたくないのはもちろんですが、タレを怖がるばかりに距離を取り過ぎるとユズ肌の原因になるので注意が必要です。

クリア後のユズ肌ならペーパー研磨で回復の可能性あり

ユズ肌を研削する際、平面であれば必ずサンディングブロックを使用すべき。サンディングブロックはウレタンやゴム製のブロックで、固さと柔軟性がほどよくバランスしている。またサンドペーパーは目が粗いと傷が塗装面に深い傷を付けてしまうので、第一段階で#800~#1000程度の番手を使用する。

板金塗装用のサンディングブロックの中には、サンドペーパーを保持できるよう切り込みが入っているものもある。ブロックの角部で擦ると強い力が加わってしまうので、平面で削るようにする。

塗装面がデコボコになったユズ肌は、失敗の原因を明らかにしてやり直す=再塗装するのがベストですが、それ以外の対処方法もあります。
デコボコの凸部分を削って平らにするのです。ただしこの方法が通用するのはソリッドカラーかクリア塗装を行っていることが前提となります。メタリック塗装の場合はキラキラの元となるフレークが削れる可能性があり、キャンディ塗装の場合はカラークリアの塗膜の厚みが不均一になることでムラになる(そもそもユズ肌でムラができていますが)ため、サンディングは有効ではありません。
またソリッドカラーやクリア塗装でも、塗膜の厚さによっては下地が露出することがあるので注意が必要です。さらに、作業途中で仕上がりがユズ肌になりそうだと分かった時に、「塗膜を厚くして後から削って帳尻を合わせよう」と考えるのも、必ずしも正解とはいえません。
ユズ肌の上に塗装を重ねても、デコボコが多少なだらかになることはあっても埋まって平滑になることはありません。またサンドペーパーやコンパウンドで研磨できるのは凸部分だけなので、凸と凹の標高差が大きいほど凸部の下地が出やすくなるのです。
ユズ肌を削る際に使用するのはサンドペーパーで、なるべく細かい番手を使用します。
具体的には最初に凸部を削る際の番手は#800~#1000程度とし、平面部分は手や指ではなくサンディングブロックに巻き付けて研磨します。
もっと粗い番手のペーパーでザックリ削りたいと思うかもしれませんが、デコボコなユズ肌の上に目の粗いペーパーを掛けると、深く削れた溝を均していくのは大変です。#800では研削量が少なくてじれったく感じるかもしれませんが、くれぐれも深く削りすぎないように留意することとが重要です。
またガソリンタンクやサイドカバーなど、大きな面を研磨する時はサンディングブロックが必須アイテムです。手や指で研磨すると、ペーパーを押しつける力にどうしても強弱が生まれ、凸の削れ具合にもムラができてしまうからです。

研磨の効果が明確になるよう、マスキングテープで区切った部分で作業を行う。研磨した塗膜がサンドペーパーに絡みつかないよう、研磨面に水を吹きかける。

研磨面がカラー塗装なのかクリア塗装なのかは、サンドペーパーで軽くこすれば一目瞭然。画像のように削れた塗料が白く濁ればクリア塗装である。もしグリーンの上塗りを研磨すれば、とぎ汁がグリーンになるはずだ。だたしクリアの凸を削りきってしまえば、その下のグリーン部分が露出する。

マスキングテープを境に研磨前の手間と研磨後の奥で質感がまったく異なることが分かるだろう。#800の次に#1500で研磨したことでユズ肌が消えると同時にツヤ消しの擦りガラス状になったが、一方でグリーンの下に塗ってあるホワイトが斑点状に露出し始めている。グリーンの塗料はホワイトと弾きあって塗膜がカサブタ状になり、その上部をサンドペーパーで削ったため剥がれてしまったようだ。

サンドペーパーの目を細かくした後はコンパウンドで磨いてみる

サンドペーパーの目を細かくしてもそれだけでツヤが出るわけではない。ペーパーの研磨傷を潰して光沢を出すのはポリッシャーの役割だ。ここでコンパウンド代わりとしても使える花咲かGワックスで研磨する。

花咲かGワックスで磨いてもマイクロファイバークロスにグリーンのペイントが付着しないので、クリア層の間だけで研磨できていることが分かる。グリーンの塗膜が削れるとすぐに下地が出てしまうため、均一に仕上げることが難しくなってしまう。

#800~#1000程度のペーパーで凸の頂上が平らになったら、#2000程度のペーパーでさらに研磨します。#2000程度で研磨面がツヤ消し状態にならず、まだペーパーのひっかき傷が残っているようなら#3000程度の番手で研磨しても良いでしょう。
実際、#2000のペーパーの後はコンパウンドで磨いても良いのですが、ペーパーの磨き傷をコンパウンドで消すのはなかなか大変です。電動やエアーで動くポリッシャーを使えば強い研磨力を得られますが、強く磨く際には熱が発生し、塗膜にダメージを与えることがあるので注意が必要です。特に凹を埋めようとクリア塗装を厚く塗った後で研削する場合は、ポリッシャーの使用は慎重にした方が良いでしょう。
グリーンに塗られた今回のサイドカバーは最初に#800、次に#1500で研削した後に、花咲かGワックスで研磨しました。このワックスにはクリーナーとポリッシャーの機能もあり、マイクロファイバークロスで力を加えて磨くことでサンドペーパーの目を消しながら表面にツヤを与えることもできるのが特徴です。
2種類のサンドペーパーと花咲かGワックスだけで、ユズ肌は見事に消えて表面は平滑になりました。#1500の次に#2000、#3000と目を細かくしていけば、磨き傷もさらに目立たなくなるはずです。
ただエッジ部分は平面に比べて塗膜が薄くなりがちで、サンドパーパーによる研削で下地が露出しやすいので、調子に乗って削りすぎないよう注意が必要です。また今回のパーツはユズ肌以外にも下地塗装の弾きがあり、凸を削ることで上塗りのグリーンが欠けて下地が露出してしまう部分もあったので、ユズ消しだけでなく下地からやり直した方が塗装のクオリティが良くなるのは確かです。
それでもデコボコのユズ肌をなんとかしたい!! という場合には、ここで紹介したような手順で改善できる場合もあるので、チャレンジしてみてはいかがでしょうか。

ワックス研磨用に貼ったマスキングテープを剥がすと、研磨後の右半分はユズ肌の左半分より一段低くなったかのように見える。サンドペーパーの研削も軽く行った程度なので蛍光灯の映り込みも鮮明ではないが、ユズ肌部分との違いは歴然としている。サフェーサーからクリア塗装に至るまで、どの段階でも平滑にペイントできれば、最初から右半分のような平滑でツルッとした塗装面になるはずだ。

POINT

  • ポイント1・缶スプレーによる自家塗装のユズ肌、作業環境や作業手順によりシンナーの乾燥が早すぎる場合が多い
  • ポイント2・ソリッドカラーやクリア塗装のユズ肌はサンドペーパーとコンパウンドで磨いて状況が改善する可能性がある
  • ポイント3・サンドペーパーを使用する際が#800以上の細目で平面を研削する際は必ずサンディングブロックを併用する
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