スポーツバイクと違って、ハンドリングの良し悪しが評価を左右することは少ないのがスクーターです。しかしステアリングステムベアリングのコンディションによっては、コーナリング時に違和感を覚えることもあります。ステアリング周りを取り囲む大きなカウルが難関となることもありますが「何か変だな?」と感じたら思い切って確認してみましょう。

外装パーツをどこまで外すかの見極めが重要

ビッグスクーターが流行した2004年に登場してベストセラーとなったホンダフォルツァ。現在軽二輪クラスで主流の150~160ccスクーターと比較すると車体サイズがかなり大きく感じられる。

原付スクーターでもビッグスクーターでも、ステアリングの回転部分にはスポーツバイクと同様にステムベアリングが組み込まれています。
交差点やコーナーを曲がる際に車体を傾けるとステアリングが切れたり、曲がり終わって車体が立つとステアリングがまっすぐになるのは、ライダーがハンドルを切る動作に応じてスムーズにステアリングが作動するためです。
転倒や過大な衝撃が加わりステムベアリングにダメージがおよび滑らかな動きが妨げられると、平らな道路で車線変更でする際に轍に引っ掛かったかのような挙動を示したり、コーナリングの途中でハンドルが引っ掛かったりと、ライダーの意に反した動きをすることがあります。
そんな時はフレームからステアリングステムを取り外して、ベアリングの状態確認を行いますが、スクーターの場合はハンドル周りのカウル類が邪魔になることも少なくありません。なかでも中型クラス以上のスクーターは、高級感の演出のためハンドル周りを覆うカバー類が多くなるため、どの程度の部品を外せば目的のステアリングステムにたどり着けるのかをよく考え、隠れたビスを外したりカウルの爪を折らないような配慮も欠かせません。
サービスマニュアルを読めば、最短でステムベアリングにたどり着く手順が書いてあります。ここで取り上げるホンダフォルツァ(MF08)であれば、フロントホイールとサスペンション、ハンドルとハンドルカバーを外せばステムを取り外してベアリングに到達できることになっています。
しかし実際には、カウル類に張り巡らされているケーブルや配線を避けつつ工具を扱うのは容易ではなく、結局はかなり多くの外装パーツを外すことになります。今回の作業ではガソリンタンクの着脱など他の作業と並行して進めるため、フロント周りをごっそり取り外しました。本来の目的からすればこれほど広範囲のパーツを外す必要はありませんが、逆にここまで外せばステムベアリングの確認やグリスアップは楽勝です。

フロア前方にある燃料タンクの着脱を伴う作業と並行して行ったため、フロント周りだけでなく外装パーツの多くを取り外した状態。ステアリングステムベアリングだけのメンテナンスであれば、ステップ周りやフロントカウルは装着したままでも作業可能。フレーム下部にジャッキを掛けて、フロントタイヤを浮かせた状態でホイールとフロントフォークを取り外す。

インナーチューブがステアリングステムだけで締め付けられる構造は原付スクーターと同じで、ハンドルは自転車のようにステムパイプをクランプして固定している。クランプボルトを緩めてハンドル一式をステムパイプから取り外す。

トップスレッドを締め付けているロックナットを緩める際、専用工具の超ディープソケットがあればメーターパネル(ダッシュボード)との干渉を避けられるが、画像のようにメガネレンチを使用する場合はメーターパネルまで取り外す。

ロックナットとトップスレッドを取り外すと、フレーム下側にステアリングステムを引き抜くことができる。

ベアリングの割れやメッキ剥離、レースの打痕の有無がカギを握る

ステアリングステムを取り外して確認する項目はベアリングとレースの損傷の有無で、これはスクーターもスポーツバイクも同じです。
フレームのヘッドパイプ上下に取り付けられたステムベアリングは、インナーレースとアウターレースでベアリングを挟んだような構造となっていてスムーズに回転します。ヘッドパイプに取り付けられたアウターレースと、ステアリングステムに取り付けられたインナーレースが平行であれば、間に挟まれたベアリングも正常に作動します。
しかしステアリングステムにこじったり捻るような力が加わりレースの一方が傾き平行が崩れると、間に挟まれたベアリングがレース面に押しつけられて打痕が付き、ベアリングが打痕を通過する際に引っかかりを生じる原因となります。
転倒などでステアリングステムにさらに大きな力が加わると、ベアリング表面のメッキが剥離することもあります。また転倒などによる衝撃ではなくても、レースとベアリングの潤滑不足状態で荷重を受け続けると、これもベアリングのメッキ剥離の原因となります。
事故による衝撃とは別に、日常的なクセがステムベアリングにダメージを与えることもあります。ウイリーやストッピーなどのエクストリームライディングや林道ツーリングで岩場に当たったり、さらにコンビニの駐輪場の車止めにフロントタイヤを勢いよく当てて止めるような動作でも、タイヤとフロントフォークで吸収しきれなかった衝撃がステアリングステムに伝わって、レースをこじる力となる可能性があります。
ダメージを気にしすぎて恐る恐るバイクに乗るのは楽しくありませんし過剰に気を遣う必要もありませんが、常に大きな荷重を支えながら作動しているステムベアリングは想像以上に繊細な部品であることを理解しておくことは重要です。

ステアリングステムを取り外した後、ベアリングがアッパーアウターレースに残る。リテーナーがないとボールがポロポロと落下してしまうが、アッセンブリー状態で着脱できるので紛失の心配は不要。

アウターレースとインナーレースに付着したグリスを拭き取り、ボールとの接触部分のコンディションを確認する。傷や打痕がある場合はレース交換が必要で、さらに大掛かりな作業となる。

ベアリングはアッパー(左)とロア(右)でサイズも使用個数もまったく異なる。これだけ違いが明確であれば、誤組みすることはない。

レースとベアリングに異常がなければ高荷重対応グリスを塗布する

ステアリングステムを取り外したらレースに付着したグリスを拭き取り、ベアリングとの接触面に傷や打痕がないことを確認します。このフォルツァのステムベアリングはボールタイプでアッパー、ロアとも樹脂製リテーナーでボールが保持されたアッセンブリー状態であるため、ステム着脱時にレースからバラバラと脱落することなく、洗浄やグリスアップも容易です。
レースにダメージがなければ新たにグリスを塗布して復元しますが、高荷重で押しつけられるステムベアリングに使用するグリスには耐荷重性が高く金属表面への付着力が高い性質が求められます。
その点で推奨されるのがリチウム系やウレア系のグリスです。ここではワイズギアが販売しているリチウム系のヤマハグリースBを使用したが、フォルツァのサービスマニュアルにはウレア系耐水グリスの使用が指定されています。
ステアリングステム復元時の要となるのがトップスレッドの締め付けです。
ホンダ車でトップスレッドと呼ばれるパーツには、ヘッドパイプ上下のベアリングに加える圧力(与圧)を決める重要な役割があります。トップスレッドの締め付けトルクが過小だとハンドルは軽いがレースとベアリングにガタが生じ、過大だとハンドルが重くなりレースがダメージを受けやすくなります。

このフォルツァ(MF08)の場合、
1.フックレンチとトルクレンチを使用して25Nmのトルクで締める
2.ハンドルストッパーに当たるまでステアリングステムを左右に5回切ってベアリングをなじませる
3.ステアリングステムの動きが滑らかでガタがなければトップスレッドを一旦緩める
4.ステアリングステムにフロントフォークとフロントホイールを取り付けてタイヤを接地させて、トップスレッドをもう一度25Nmで締め付ける

という手順がサービスマニュアルに記載されています。
さらにトップスレッドを指定トルクで締め付けた後に、ロックナットを74Nmのトルクで締めるよう指示されています。
メーカー直系のディーラーであれば専用工具もあってトルク管理が可能かもしれませんが、DIYでメンテナンスを行う場合、締め付けトルクで作業するのは容易ではありません。メーカーが定める方法で作業するのが正しいのはもちろんですが、一般のユーザーでもできる方法としては、
1.ステアリングステムだけで左右に作動させたときには重く感じ
2.フロントフォークとフロントタイヤを取り付けて、タイヤを浮かせた状態でハンドルを切った時にフォークとタイヤの重量でハンドルストッパーまでスムーズに切れる、という締め付け加減にする

というやり方もあります。
この方法でメーカーが定める締め付け具合と同一の仕上がりになるとは限りませんが、何度か締め付けトルクを変更してハンドルを切ることで、甘すぎずキツすぎないトルクの勘所が掴めるようになってきます。
ハンドルを切る際に違和感があれば、バイクショップのプロメカニックに任せるのも良いですが、自分の経験値を上げるためにチャレンジしがいのある作業になるはずです。

古いグリスを洗浄して新しいグリスを塗布する。

アウターレースとインナーレースにも充分にグリスを塗布する。

ヘッドパイプにステアリングステムを挿入する。

ステムパイプにトップスレッドを取り付ける。

トップスレッドの切り欠き部分にフックレンチを掛けて、本文で説明した手順で締めつけた後にロックナットで締めつける。

フロントホイールとフロントフォーク、ハンドルを装着した状態でタイヤを浮かせて、中立状態からハンドルを切り、途中からホイールとフォークの自重でフルロック状態までスムーズに切れる程度のトルクでトップスレッドを締める。これは1990年代のハーレーダビッドソンのサービスマニュアルに示されていた締め付け方法である。

POINT

  • ポイント1・スポーツバイクにもスクーターにもステムベアリングはあるが、外装パーツの多いスクーターはステアリングステムに到達するまでの手間が多い
  • ポイント2・転倒などのアクシデント以外にも、ベアリングレースがダメージを受ける場合がある
  • ポイント3・ステアリングステムを復元する際はトップスレッド締め付けのトルク管理を慎重に行う
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