街乗りやツーリングで走行距離が増えてくると、必然的にブレーキパッドも摩耗します。減ったら交換するのは当然ですが、キャリパーピストンを押し戻して新品パッドを取り付けるだけでは、ブレーキ性能を100%引き出せないかもしれません。ある程度年式が経過したバイクなら、ピストンはスムーズに動くか? ピストンシールやダストシールに異常は無いか? といったキャリパーのコンディションを確認しておくことも重要です。

摩耗したブレーキパッドだけでなく周辺パーツの汚れや異常の有無も観察する

1995年式ホンダCB1000スーパーフォアのリヤブレーキ。シンプルなピンスライドタイプの1ポットキャリパーが装着されている。

ディスクブレーキはドラムブレーキと異なり、ブレーキパッドが摩耗してもブレーキレバーやブレーキペダルのストロークが変化しないため、気がついたら実はライニングが摩滅寸前だった!! ということも少なくありません。
毎日のように摩耗具合を確認するのは大げさですが、日常点検はバイクユーザーの責任でもあるので、他人任せにすることなく常に意識しておくことが必要です。
パッド(ラインニング)の厚みが充分あるうちは、ピストンの大半はキャリパー内に収まっています、そしてブレーキパッドが摩耗してもレバーやペダルの遊びが増えないのは、パッドが薄くなるのに合わせてキャリパーピストンがせり出してブレーキローターとのクリアランスを一定に保っているためです。
パッドが減ってピストンがせり出せば、粉状に削れたライニングや走行中に跳ね上げた雨水やホコリなどでピストンの露出部分が汚れます。新品パッドを装着する際はピストンをキャリパー内部に押し戻しますが、この時に汚れが付着したままだとダストシールやピストンシールに汚れが付着してダメージを与えるリスクがあります。
シールが汚れたり傷つくとピストンのスムーズな動きの妨げになったり、シール性の低下によるブレーキフルードの滲みや漏れを引き起こす原因になり、さらにピストン表面の硬質クロームメッキを損傷する恐れもあります。

ブレーキパッドハンガーピンとキャリパー後部のマウントボルトを取り外して、キャリパー前部のスライドピンを軸にキャリパー本体が持ち上げるとパッドを取り外すことができる。

キャリパーからピストンを取り外してオーバーホールしてみよう

摩耗したブレーキパッドを取り外したら、キャリパーからピストンが外れない範囲で押し出し、中性洗剤と歯ブラシなどで外周を清掃するのが定番コースです。
確かにこの作業でピストンのスムーズな作動とキャリパー内部のシールへのダメージも抑制できますが、さらに踏み込んでピストンを取り外すことでもう一歩深いメンテナンスが可能となります。
キャリパーピストンを取り外せば不織布やスチールウール、コンパウンドなどで汚れを落としてポリッシュできます。また単品にすることで表面のメッキの傷やサビも発見しやすくなります。ピストンに汚れが付着したまま長期間清掃しない状態が続くと、汚れに湿気が加わりサビの原因になります。
キャリパー内部からせり出してくるピストンの外周にはブレーキフルードが付着しています。ブレーキフルードには元来吸湿性があるので、そこにパッド粉などの汚れが付着して湿気が定着することでサビの温床になるのです。
ブレーキフルードの吸湿性がキャリパーシールやダストシールに影響を与えることもあります。
ピストンシールにはキャリパーとピストンの隙間を埋めてフルード漏れを防ぎながら、シール自体の弾性変形(ロールバック)によってせり出したピストンを引き戻す役割があり、ダストシールには外部の汚れをキャリパー内に入れないという役割があります。
しかしブレーキ操作時のフルードの液圧は高く、さらにキャリパーシールよりキャリパー内側は常にブレーキフルードで満たされているので、ピストン外周に付着したフルードの一部はピストンシールやダストシールで掻き落とされずにせり出すこともあります。
すると、主にダストシールとダストシール溝に溜まったブレーキフルードが空気中の水分を吸収して氷砂糖のような結晶状態になり、ダストシールを変形させることがあるのです。
顕著な例では、シール溝の奥で結晶化したフルードによりダストシールが押し出されてキャリパー外にはみ出してしまうこともあります。
このような場合、ピストン外周の汚れを中性洗剤と歯ブラシで落としたところで、充分な清掃効果は得られないため、ピストンとシールを取り外して入念な清掃を行うことが必要です。

だがここではキャリパーピストンを外して清掃するため、キャリパー本体を取り外す。ピストンが外れた際にフルードを受け止める容器を用意して、ブレーキペダルを繰り返し踏み続ける。

ブレーキフルードの液圧で押し出されてキャリパーからピストンが外れると同時に、キャリパー内部のフルードも流出する。ピストンを取り出すことで、ブラシが届かない部分も清掃できる。

マスターシリンダーのリザーバータンクの液量が減ることでキャップ内側のダイヤフラムが伸びきっている。ここで重要なのはタンク内のフルードを空にしないこと。ブレーキキャリパーからピストンを外せばエアー抜きが必須だが、リザーバータンクからマスターシリンダーの間にエアーが混入していなければ、作業の手間が軽減されるのだ。

硬質クロームメッキは文字通り硬いので、こびりついたしつこい汚れは防錆潤滑油+スチールウールで擦って落とすと良い。ただし力任せにゴシゴシ擦ると小傷がつくので、軽く撫でるように擦る。

汚れが落ちたら金属磨きやコンパウンドで磨き上げる。フリクションロスの低減や作動性向上につながるかどうかは別として、作業の満足度アップにつながるのは確かだ。

ピックツールなどを利用してピストンシールとダストシールをキャリパーから取り外す。1995年以来30年近く交換したことのないパーツだが、状態は悪くなさそうだ。

新品シールに交換した後はピストンが滑らかに作動することを確認する

キャリパーピストンを外した際は、ピストンシールとダストシールは必ず新品に交換します。使用年数が長いシールはゴムが硬化し、変形癖がつくことでシール性が低下している可能性があるからです。
また、結晶化したブレーキフルードがシール溝に堆積している可能性があるので、シール溝の清掃も必須です。溝の角に溜まった汚れをしっかし掻き出せる専用工具も発売されているので、用意しておくと重宝します。
堆積した汚れが落ちづらい場合、キャリパーごとお湯に浸すのも良策です。ブレーキフルードに吸湿性があることは先の通りで、その特性を利用することで融解しやすくなるためです。
キャリパーに新品シールをセットする際にも注意が必要です。バイクメーカーが発行している車種ごとのサービスマニュアルには、ピストンシールとダストシールを組み付ける際に両方にブレーキフルードを塗布するものや、ピストンシールはブレーキフルードでダストシールはシリコングリス塗布が指示されているものがあります。そしてどちらの場合もキャリパーピストンにはブレーキフルードの塗布が指示されています。
ドライ状態のゴムシールに脱脂状態のキャリパーピストンを挿入すれば、ゴムの抵抗でシールが捻れてしまうため、組み立て時に何らかの潤滑剤を併用しなくてはなりません。ただしダストシール組み付け時にブレーキフルードを塗布すると、キャリパーピストンのサビやシール溝内の汚れの原因になり得るので、少なくともダストシールに関してはシリコングリスやラバーシール組み付け剤など、ブレーキフルード以外を使用するのが無難です。
またピストンをキャリパー内に押し込む時にどこかに引っ掛かることなくスムーズに収まることを確認することも重要です。何らかの理由でできたキャリパー内面の傷にピストンが引きずっていると、ブレーキレバーやペダルを離した後もピストンが戻らず、パッドがローターに接触したままの引きずり状態につながる可能性があるからです。

工具ショップのストレートのブレーキ専用工具「キャリパーホジ郎」でシール溝を清掃する。キャリパーホジ郎はエッジがシャープで、シール溝の角部に溜まった汚れもしっかし掻き出せるのが特徴。

キャリパーにシールを組み付ける前に、キャリパーピストンを挿入する。シールの抵抗がないのでスムーズに出し入れできて当然だが、キャリパー内壁にフルードが変質した汚れが張り付いていたり、腐食で荒れている場合は金属磨きなどで均しておく。

キャリパーシールはブレーキフルード、ダストシールはシリコングリスを塗布するパターンもあるが、ここではどちらもラバーグリスを塗布した。ラバーグリスは金属とゴムのどちらに対しても悪影響なく使用できる。

キャリパーシールとダストシールの組み付け順序を間違えないようにセットする。

外周にラバーグリスを塗布したキャリパーピストンをキャリパーにセットする。シールとピストンの両方にグリスを塗布しているので、指で押さえるだけで軽く作動する。

ブレーキパッド裏面のシムやキャリパーのスライドピンも重要

アフターマーケット製のブレーキパッドには、純正パッドで使用するシム類は付属していないので、パッド交換時はそれらを移植します。ここで気をつけなくてはならいのは、交換前のパッド裏側の状態が果たして正常か否かという点です。
新車で購入以来初めてのパッド交換であれば、パッド裏のシムはメーカー出荷時状態でしょうから心配はありません。しかし社外品のパッドが装着された中古車を購入した場合、以前のユーザーがシムを外したまま装着していたり、シムが入っていても誤組みしているかもしれません。
何となく「これはおかしいのでは!?」と感じたら、サービスマニュアルなどで正しい部品構成を確認してから組み付けましょう。
また順序が前後しますが、ピンスライドタイプのブレーキキャリパーの場合はキャリパーピンとブラケットピンが錆びていないか、潤滑状態が良くスムーズにスライドすることも確認しておきましょう。
さらにもう一点、ここでの解説では割愛しますが、キャリパーピストンを外した場合はブレーキフルードの充塡とエアー抜きが必須作業となります。せっかくキャリパーオーバーホールを行っても、エアーが噛んだままではブレーキは利きません。
DIYでバイクメンテナンスを行うライダーにとって、ブレーキパッド交換作業自体はそれほど難しい作業ではないかもしれませんが、パッドだけに注目するのではなく、周辺パーツの状態も忘れず確認することも重要です。

ライニングの残量だけを見ればもう少し使えそうだが、周辺部分がかなり崩れ始めているので交換時期と判断した。

パーツリストで確認して、パッド裏に2枚のシムをセットする。鳴き止めや断熱など、メーカー純正のシムには様々な役割があるので、特別な目的がなければパッド交換時も再使用する。

キャリパーサポートにブレーキパッドをセットして、スライドピンを差し込んでキャリパーを取り付ける。

キャリパーピンとブラケットピンを清掃して、スライド部分にグリスを塗布する。キャリパー本体に固定するブラケットピン(上)は外す必要はないが、ピン単体で清掃するため取り外した。

マスターシリンダーのリザーバータンクにフルードを充塡してキャリパー内部のエアーを抜く。ブリーダープラグに取り付けたホースをシリンジで引くことで、エアー抜きの効率がアップする。

POINT

  • ポイント1・ブレーキパッドが摩耗したらパッドだけでなく周辺パーツのコンディションも合わせてチェックすることが重要
  • ポイント2・キャリパーからピストンやシールを取り外すことでメンテナンス効果がアップ
  • ポイント3・新品ブレーキパッドを組み付ける前にパーツリストなどでパッド裏面のシム構成を確認しておく
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