バイクの日常点検はいくつかあるが、大切なチェック項目のひとつとして「チェーンの張り」がある。たとえば1000ccクラスのスーパースポーツなら200馬力ものパワーを後輪に伝えているし、アクセルを戻せばエンジンブレーキで逆方向の力が加わるなど、常にチェーンには強い負荷がかかっている。その結果、ほんの少しずつではあるがチェーンは徐々に伸びていくのだが、そもそもチェーンはどこが伸びるのだろうか? そんな疑問をサンスターのバイク用品を展開している国美コマースの菊地純さんに聞いてみた!

 

国美コマース株式会社 二輪AM事業部 業務推進課次長 菊地純
スプロケットやチェーン、ブレーキディクス&パッドに精通。自身もイベントレースや地方選手権(ST600/ST1000)に参戦し、実際の使用感や性能を身をもってテストするスポーツライダーとしても活躍。2024年は念願の鈴鹿8時間耐久ロードレースにもライダーとして初参戦を果たし、今夏も熱い夏への挑戦に向けて準備中。

チェーンのパーツそのものは伸びない!では、どこが伸びる?

近年のチェーンはとても頑丈だから、張りのチェックなどメンテナンスを怠っても切れてしまうようなことはなかなかない。とはいえ大きなパワーによる負荷がかかることも事実。だから「チェーンが伸びる」と聞くと、強烈な負荷や走行距離(時間)による劣化(金属疲労など)で、チェーンのプレートが少しずつ伸びているイメージをもつ人もいるだろう。

「これは間違いなんですよ!大パワーが加わっても金属の外プレートや内プレートなど、パーツ自体はどこも伸びたりはしていないんです」と、菊地さんは語る。では、どこが伸びているのだろうか?

「一見するとチェーンは金属性の1本の紐(ヒモ)のように思う方が多いかもしれないですが、実際はかなりの数量のパーツで組み上げられ、ブッシュとピンによってリンク(チェーンのコマ)が繋がっているんです。このブッシュとピンが少しずつ摩耗していくことで隙間が大きくなり、その隙間によってチェーン全体が長くなる……。これが『チェーンが伸びる』の正体です」

金属製のチェーンは、一つひとつのパーツ自体は伸びない!まずはチェーンの構造を見てみよう。

中~大型バイクが多く採用するシールチェーンの構造をイラストにしたもの。

中~大型バイクは、100を超えるリンクがブッシュとピンで繋がっている。

ブッシュとピンの拡大図。図の上が新品状態で下はブッシュやピンが摩耗した状態。摩耗した分だけピンとブッシュの隙間の広がりが、チェーン全体の伸びになる。

チェーンが伸びるとスプロケットの減りも早くなる⁉︎

多くの中~大型バイクのチェーンは、100リンク以上ある。だからブッシュやピンが摩耗して仮に1リンクで隙間が0.1mm広がっただけでも、チェーン全体では1cmほど長くなるのだ。

新品と寿命を迎えたチェーンの比較を見ると一目瞭然!写真は同リンク数のチェーンの左端を揃えた状態での長さの比較(上が寿命を迎えたチェーンで、下が新品チェーン)。距離を走って寿命が近づくころには2リンク弱(約3cm弱)ほども伸びていることも。

 

そしてチェーンが伸びるとチェーンのピッチ(コマのローラーとローラーの間隔)と、スプロケットのピッチ(歯と歯の間隔)が合わなくなる「ピッチずれ」を起こす。この状態で走ると振動や騒音が大きくなって乗り心地が悪化するのはもちろん、厳密に言えば駆動ロスが大きくなるため燃費も悪化する。

さらにピッチずれを起こした状態で走ると、チェーンのローラーをスプロケットの歯底で受け止められない嵌合が緩い状態になるため、スプロケットの摩耗が加速度的に進んでしまい、さらにピッチずれが大きくなる悪循環に陥る。

【新品スプロケット&伸びたチェーン】スプロケットにかけたチェーンを矢印の方向に引っ張ると、スプロケットとチェーンの間に隙間ができる。

【新品スプロケット&新品のチェーン】スプロケットにかけたチェーンを矢印の方向に引っ張っても、チェーンがスプロケットにしっかり噛み合って隙間ができない。

ドライブスプロケット(フロントスプロケット)の摩耗。新品(左)は歯先から歯底に向かって対称的な弧を描いているが、右は摩耗して歯先が斜めに削れている。

ドリブンスプロケット(リヤスプロケット)の摩耗。長期使用した右側は、歯先がノコギリの歯ように摩耗し、新品と比べると歯先の間隔がかなり広くなっている。

こまめなチェックとメンテナンスで寿命は変わる!

「距離を走ることでチェーンのピンとブッシュが摩耗するのは避けられないですが、メンテナンスで寿命を延ばすことはできます。まずは500~1000km走行ごと、もしくは雨天走行後には清掃と潤滑でシールリングを保護して、チェーンの動きを良くすること。この清掃と潤滑を行うことは、サビを防ぐことにもつながります。

そして、チェーンの張りを適正に保つこともポイント!でもチェーンの張り調整は近年のバイク(とくに大型車)や外国車は、大型サイズの工具や特殊工具が必要な場合も多く、ユーザー自身が調整するにはハードルが高いのも事実。そこでユーザーは定期的にチェーンの張り具合をチェックして、調整作業はバイクショップに依頼するのがおすすめですね」と、菊地さん。

チェーンの張り具合を確認する方法は、ギヤをニュートラルに入れた状態で、スイングアームの真ん中あたりのチェーンを指で押し上げて行う。

バイクメーカーが指定する張り(チェーンのたるみ)の量は、スイングアームやチェーンケースなどに張ったステッカーに記載されている。取扱説明書やハンドブックにも記載があるので確認してみよう。

丁寧なメンテナンスを重ねても、チェーンにも寿命がある

こまめなメンテナンスを行なっているとはいえ、チェーンには寿命があるのも事実。よく「チェーンは何キロ使えるのか?」という声に対して、シールチェーンで1万5000~2万km、ノンシールチェーンで5000km前後という説もあるが、これはあくまで目安だ。実際はバイクの種類や装着しているチェーンの種類や走り方、メンテナンスの状況で変化するため、実際の寿命走行距離には幅があると考えた方が良い。

「だからこそ、走行距離ではなくピッチずれを考慮して『どれだけ伸びたら交換か?』と考えていただきたいですね。下記の写真の場合は、スイングアームのチェーン引きで新品チェーンから8~10mm引いたら使用限度ですね。これはチェーン全体の長さとしては16~20mmぐらい伸びた状態。チェーンアジャスターにまだ引き代の余裕があっても、これぐらい伸びたら迷わず交換していただきたいです。

サンスターではチェーン&前後スプロケットの3点セットも販売していますし、サンスターWEBの適合表ですぐに愛車のチェーンやスプロケットが適合するか分かるので、ぜひ活用いただけると嬉しいです」

適正な張り調整を行い、スイングアームのチェーンアジャスターをチェーンの新品の時から8~10mmほど引いた状態になったら、使用限度と考えよう。写真のように、アジャスター部に使用限度のステッカーを貼った車両もある(写真はホンダCB250R。緑が適正で、赤が使用限度)。

バイクのチェーンってこんなに伸びるの?【プロに聞く!正しいチェーン&スプロケットメンテ方法】ギャラリーへ (13枚)

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