
走行中にスロットルを戻したときに、マフラーから「パンパンッ」とアフターファイヤーが発生したことはありませんか? これはキャブセッティングが合っていない時の症状です。エアカットバルブ、コースティングエンリッチャーと呼ばれる部品が付いた負圧式キャブレターでアフターファイヤーが発生する場合は、これらの状態を確認してみましょう。
高回転でスロットルを閉じると混合比は薄くなる
ヤマハトリッカーのコースティングエンリッチャー。ベンチュリー内の負圧が小さい時はエア通路を閉じないよう、ゴム製のダイヤフラムはスプリングで押しつけられている。本来ダイヤフラム上面はガソリンが触れる環境ではないが、吹き返した混合気が逆流してこのようになる場合もある。なお、コースティングエンリッチャーとエアカットバルブはキャブレター製造メーカーやバイクメーカーによって呼称が異なるが、狙いはどちらも同じ。
スロットル開度に応じてスロー(パイロット)、ジェットニードル、メインジェットからガソリンが吸い出されて吸入空気と混ぜて、混合気を作るのがキャブレターの役割です。キャブセッティングを行う際はスロットルを開けながら混合気が良く燃えるようにジェットの穴径やニードルの太さを決めていきます。
スロットルを開ける際と閉じる際は同じプロセスを辿ると思いきや、そうとは限りません。スロットル操作と連動するバタフライバルブと、吸入負圧によって作動するバキュームピストンが独立している負圧式キャブの場合、まったく異なる動作となることがあります。
負圧キャブはスロットルをガバ開けしても、吸入負圧が高まらないとバキュームピストンが上昇しないので、スロットル操作でスロットルバルブを直接開閉するピストンバルブ式よりフィーリングがマイルドで扱いやすいのが特長です。
次にスロットルを閉じた時の動きを考えてみると、負圧式キャブは円盤状のバタフライバルブで空気の通路を遮断することになります。エンジンブレーキを使う際、スロットルを閉じてもエンジンはタイヤによって回されるため何とか空気を吸おうとします。
もちろん、スロットルを全閉にしても千数百回転でアイドリングできるだけの空気が通る通路は確保してありますが、3000~4000回転でスロットル全閉にしたら燃焼室内は急激に混合気が薄い状態になってしまいます。その結果、マフラーで「パンパンッ」と鳴るアフターファイヤーが発生します。
- ポイント1・負圧式キャブはピストンバルブ式よりフィーリングがマイルド
- ポイント2・アフターファイヤーは混合気が薄くなって発生する
空気の通路を絞って濃くするのが役目
ダイヤフラムの下面にはエアの通路を開閉するバルブがある。通常は通路は開いたままで、エアクリーナー側から二手に流れる空気でパイロットジェットからガソリンを吸い上げる。通路が閉じると空気が減るため、ベンチュリー内の負圧がパイロットジェットからガソリンを吸い上げて濃い混合気となって燃焼室に吸い込まれることで、アフターファイヤーを軽減する。
経年劣化でダイヤフラムが破れたり穴が空くと、ベンチュリー内の負圧が大きくなってもバルブが閉じず、混合気が薄い時特有のアフターファイヤーが発生する。エンジンブレーキのように、ある程度エンジンが回っている状態でスロットルを閉じた時にアフターファイヤーが起きるようなら、エアカットバルブを確認してみよう。
この症状を改善するために装備されているのが「エアカットバルブ」「コースティングエンリッチャー」と呼ばれる部品です。これらはいずれも、スロットル急閉時の混合気の薄さを解消する役割があります。
作動原理を簡単に説明すると、スロットル開度が小さいパイロット領域の空気の通り道が二手に分かれており、スロットルを開く際には両側からパイロットジェットに空気が流れます。そしてエンジン回転がある程度上がっている状態でスロットルバルブを閉じてメイン系の空気を遮断すると、エアカットバルブによってパイロット系の空気の通り道の一方も閉じるのです。
混合気の出口であるパイロットアウトレットには負圧が掛かり続けている中で、通常は2つの通り道から空気が吸っていたところ一方を閉じると、パイロットジェットからより多くのガソリンが吸い出されることになり、結果として混合気は濃くなりアフターファイヤーの発生が抑制されるという理屈です。
スロットルを閉じた時に専用のジェットからガソリンを送り出して混合気を濃くするという考え方もありますが、エアの通路を絞って相対的にガソリンを多くするのがエアカットバルブのミソです。FIはガソリンを噴射しますが、キャブレターはエンジンが発生する負圧を巧みに利用して混合気の濃さを調整しています。
そしてエアカットバルブの作動にも、キャブのベンチュリー(空気と混合気の通路)に発生する圧力を利用しています。走行中にスロットルバルブを閉じると、バルブよりエンジン側のベンチュリー内の圧力は大きく低下します。エアカットバルブはこの負圧によって作動して、パイロット系のエア通路を閉じているのです。
このためベンチュリー内の負圧が大きい時に閉じた通路は、スロットルを開けて負圧が小さくなった瞬間に開いて、パイロット系の空気の通り道が二手に戻るためいつまでも濃い状態が続くことはありません。
ベンチュリー内の圧力で作動するエアカットバルブやコースティングエンリッチャーは、ゴム製のダイヤフラムとエア通路を開閉するバルブでできています。通常走行でのスロットルオフで簡単に作動しないよう、ベンチュリー側にはスプリングがセットされています。基本的にメンテナンスフリーですが、ダイヤフラムの素材はゴムなので経年劣化することは考えられます。製造から年月の経過した絶版車であればなおさらです。
- ポイント1・パイロット系通路の一部を閉じるエアカットバルブ
- ポイント2・エア通路閉鎖でガソリンが増えてアフターファイヤーを解消する
エアカットバルブが単品で購入できる場合もある
ジェットやニードル、フロートチャンバーガスケットなど、キャブレターオーバーホールやセッティングに重宝するパーツをまとめた燃調キットを販売する岸田精密工業(ブランド名はキースター)が製造するエアカットバルブ。同社のホームページには国産4メーカーに対応した製品が紹介されている。
エアカットバルブ、コースティングエンリッチャーが作動不良を起こすとどうなるか。スプリングが組み込まれているのでエア通路が閉じることはありませんが、必要な時にも閉じないのでアフターファイヤーが発生するようになります。
すべての負圧式キャブにエアカットバルブが付いているわけではありませんが、少なくともエアカットバルブ付きのキャブで以前はなかったアフターファイヤーが発生するようになったら、原因はエアカットバルブである可能性があります。
エアカットバルブ不良の場合、対処方法は部品交換しかありません。単気筒エンジン用のキャブであれば取り外すのは簡単ですが、4連キャブとなると4つのキャブの連結を分解してキャブ単品にしないとエアカットバルブは外せません。また機種によってはエアカットバルブの販売が終了していることもあります。
ただし機種によってはメーカー純正部品以外の専門メーカー製のエアカットバルブが入手できる場合があります。
ジェット類やニードルの存在が大きいため、エアカットバルブの重要性について意外と見落としがちですが、スロットルを閉じた時に不快な症状が発生する場合にはチェックしてみるとよいでしょう。
- ポイント1・エアカットバルブが破損したら交換する
- ポイント2・機種によって社外品を購入できる場合がある
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