キャブレター時代のバイクの場合、ガソリンタンクとキャブの間には必ず燃料コックが設置されていて、ガソリンの断続を行っています。1970年代中盤頃まで一般的だった重力式に代わって普及したのが、エンジンが始動するとガソリンが流れる負圧式コックです。燃料コックがらみのトラブルといえば切り替えレバーのパッキン不良によるガソリン漏れが多いですが、長期不動車では負圧部分のダイヤフラムやシールに不具合が発生することもあるので注意しましょう。

燃料コックの役割と種類を知ろう

エディ・ローソンレプリカとして知られるZ1000Rや、そのベースモデルとなったZ1000Jなどに装着された負圧式コック。レバーがON、RES位置でもコック出口から僅かにガソリンが流れ続けるので、ダイヤフラムのOリングのコンディションを確認する。

ガソリンタンクとキャブレターの間にある燃料コックは、エンジンが止まっている時には不要なガソリンがキャブに流れないよう、手動または自動で断続するパーツです。

キャブレターにはフロートチャンバー内のガソリンを一定量に保っておくフロートとフロートバルブがあるので、ガソリンタンクと直接つながっていても問題無はないように思えます。

しかし経年劣化や何らかのトラブルでフロートバルブがうまく閉じなくなると、タンク内のガソリンはすべてキャブに流れ込んでしまいます。するとオーバーフローチューブ付きのキャブであればキャブの外にあふれだしてしまい、オーバーフローチューブのないキャブの場合はエアクリーナーケースやエンジンの燃焼室に流れ込んでしまいます。

車体の外にあふれれば異臭や車両火災の危険があり、エンジン内に流れ込めば始動時にエンジンに重大なダメージを及ぼすリスクがあるため、フロートバルブとは別に物理的に断続するための燃料コックが設置されているのです。

燃料コックにはガソリンの切り替え方法によって「重力式」と「負圧式」の2種類があります。重力式は走行時にガソリンを流す「ON」と停止時にガソリンを流さない「OFF」、ガソリンタンク内の残量が減った時に使用する「RES(リザーブ)」の3ポジションを単純な切り替え弁によって使い分けます。ONとOFFの2ポジションだけだと、ONでガソリンを使い切るとその時点でエンストしてしまうので、予備のRESがあるわけです。

そして1970年代後半から普及し始めたのが負圧式です。重力式コックにはOFFの位置がありますが、これはライダー自身が走行後に自分の手で操作しなくてはなりません。うっかり忘れてONのままバイクから離れると、気づかぬうちにオーバフローしている場合もあります。

負圧式コックは、エンジン始動と同時にインテークマニホールドに発生する負圧によってコック内の負圧弁を開いてガソリンを流します。流れたガソリンはその先で通常走行時のONと予備のRESに分岐しますが、エンジンを止めると負圧弁が閉じて自動的にOFFになるのが最大の特長です。

 

POINT

  • ポイント1・燃料コックはガソリンタンクとキャブの間にある
  • ポイント2・作動原理の違いで重力式と負圧式が存在する

不具合の原因はダイヤフラムとOリングにあり

負圧の変化に敏感に反応するよう、ダイヤフラムのゴムシートはとても薄い。メーカーではさまざまなテストを行い開発しているが、40年近く経過した後まで見越しているかどうかは分からないし、その期間の扱われ方も千差万別だ。このコックのダイヤフラムは幸い柔軟性があり、再使用が可能だった。

負圧コックの登場によって、エンジン停止時のオーバーフローの心配は大幅に減少しました。とはいえ、完全にトラブルフリーになったわけではありません。現在は絶版車の人気が高く、製造から30年以上を経過したバイクを好んで乗るライダーも少なくありません。

バイクが古くなれば経年変化によって各部が傷みます。ゴム部品も例に漏れず、柔軟性が低下して気密性が悪くなり、使用環境によって膨潤や収縮などの寸法変化が起こる場合があります。

インマニの負圧を利用する負圧式コックには、ダイヤフラムと呼ばれる圧力の変化で作動するゴム製の薄い膜が組み込まれています。その片面は空気室でインマニにつながり、もう一方はガソリンタンクからコックの切り替えレバーの間でガソリンに接しています。

ダイヤフラムは耐ガソリン性に優れた素材で作られていますが、製造から何十年も経過すれば話は別です。ガソリンタンク内にガソリンが残ったままなのか空なのか、そのガソリンが経年劣化でワニス化しているのか否かなど、保管状況によっても劣化具合は異なります。

劣化に関してさまざまな可能性がある中で、ダイヤフラムが硬化したり亀裂が入って負圧が発生しても負圧弁が開かなくなると、ガソリンがキャブに流れずエンジンは始動しなくなります。

ダイヤフラムと連動してガソリン通路を開閉するOリングのコンディションも重要です。ガソリンが劣化して通路に張りついたままになると、ダイヤフラムが動こうとしても通路が開かずエンジンが始動せず、収縮して外径が小さくなってしまうと通路を閉じきれずエンジン停止時であってもガソリンがレバー側に流れてしまうことがあります。

長期不動車のメンテで、ガソリンタンクを洗浄してフレッシュなガソリンを入れて、キャブレターをオーバーホールしたのにエンジンが始動しない、あるいはガソリンが流れ続けてオーバーフロー気味になる時は、負圧コック自体の状態を確認してみましょう。

 

POINT

  • ポイント1・エンジン始動で自動的にガソリンを流す負圧式コック
  • ポイント2・ダイヤフラムやOリングの劣化がトラブルの原因になる

ダイヤフラムは部品設定されていない場合も

ダイヤフラムと共に燃料コックからのガソリン漏れの原因となるのがレバーパッキンのコンディション。ガソリンタンク内のONとRESのパイプからコックに流れるガソリンは、レバー裏側の溝で通路ができてキャブに流れていく。円盤にいくつかの穴が空いた形状が一般的だ。

レバーの裏側の円弧状の溝が、パッキンの穴の2カ所を繋ぐことでONとRESのガソリン通路が選択される。ONとRESに加えて、負圧が発生していなくてもガソリンが流れるPRI(プライマリー)ポジションがある燃料コックも存在する。PRIポジションで放置すると、タンク内のガソリンはキャブに流れ続け、フロートバルブの状態次第で停車中のオーバーフローが発生する場合があるので、通常の停車時はレバーをONかRESにしておく。

カワサキZ1000J用燃料コックのインナーパーツはダイヤフラム、Oリング、コックレバー用ガスケットすべてが部品として供給されていた。現在でもOリングを除く2品が新品で購入できる。

負圧コックの機能を確認するには、ダイヤフラム室からインマニにつながる負圧ホースとキャブレターにつながる燃料ホースを外して、負圧ホースを吸った時に燃料ホースからガソリンが流れ出れば正常です(ガソリンタンクにガソリンが入っているのが前提)。

負圧を掛けてもガソリンが流れない場合、ダイヤフラムとOリングの状態を確認するため、燃料コックのダイヤフラムカバーを取り外します。このカバーはビスで固定されている機種が多いものの、中にはリベットで固定されている例もあり、その場合は分解はできません。

ダイヤフラムカバーを外したら、ダイヤフラムとOリングを慎重に取り外して柔軟性や亀裂の有無を確認します。機種によってダイヤフラムとOリングが揃って交換できるもの、Oリングの供給はあってもダイヤフラムの部品設定がないものなどいろいろなパターンがありますが、購入できる部品だけでも交換しておけばこれから先も安心できます。

また負圧室側ではなく、コックの通路と溝の位置の組み合わせでガソリンの流路を選択するレバーのパッキンの摩耗や硬化によって、ONやRESの位置でガソリンが流れてしまう場合もあります。

このような場合、レバーとパッキンの密着度を改善するためにレバーの裏側をオイルストンでならしたり、パッキン自体を交換すると改善する場合があります。ただ、レバー部からのガソリン漏れを解消する目的で、レバーを固定するプレートのビスを力任せに増し締めすると、特に年式古い絶版車の場合はコック自体が歪んでガソリン漏れが止まらなくなる場合があるので注意しましょう。

 

POINT

  • ポイント1・ダイヤフラムカバーが分解できるか否かが修理に分かれ目
  • ポイント2・レバー裏側のパッキンも要チェック

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