
そんなの長距離に決まってるやんけ!
まぁ基本的にはそのとおり。
メーカーで〇〇kmごとのオイル交換が推奨されているのは、つまり「そのくらい長距離を走行したら負担の掛かったオイルが劣化してるはずだから交換してね」という事。
しかーし!
『短距離の方がエンジン(オイルに)に悪い』って話を聞いた事がありませんか?
これはホントで、短距離の方がオイルに負担が掛かり劣化が進む場合もあるのです。
皆様にささやかな幸せとバイクの知識をお送りするWebiQ(ウェビキュー)。
今回は走行距離とオイル劣化の関係性についてです。
チョロっと乗る機会が多い方は必見ですぞ。
走行距離とオイル劣化は比例しない
今回の話の大前提として、走行距離とオイル劣化は一致しないという事をまずは知っておいてください。
「長距離の方がオイルの負担が高い」という前提を覆すくらい、短距離で劇的にオイル負担を掛けてしまう場合があるのです。
〇〇kmには程遠いからまだオイル交換不要、とは一概に言えないのです。
長距離を走行すればオイルに負担が掛かり劣化する……
これは当たり前なので想像がつきますよね?
気になるのは走行距離が短くても負担が掛かり劣化するという方です。
もしかして自分の乗り方だとオイルに負担が掛かっているのでは?
もしかして交換サイクルを早めた方が良いのかも?
いやしかし自分はそんなに負担を掛けるような乗り方はしていないはず……
そんな疑問をこれから解説していきます。
そもそもエンジンオイルの役割とは?
まずはココを知っておきましょう。
パッと思い描く「潤滑」以外にも実はいろんな事をやっています。
エンジンオイルの役割を理解していれば、走行距離に惑わされずに済みます。
■エンジンオイルの役割は大きく分けて5つ!
- 潤滑
- 密封
- 冷却
- 洗浄分散
- 防錆
最もイメージしやすい役割です。
同時に最も重要な役割であり、高性能オイル=高性能潤滑性能と思っていただければ大丈夫。
また、一口に潤滑と言っても2種類あり、『金属どうしの接触を防ぐ』と『金属どうしが接触した際に滑らせる』があります。
接触を防ぐというのは油膜を作って部品が直接触れ合うのを防止する事ですが、実は潤滑の大部分はコレです。
金属どうしが擦れているのをオイルで滑らせているように見える場所も、超拡大してみると直接接触しておらず、金属どうしが浮いたようになっています。
ピストン側面とシリンダー壁、カムシャフトとロッカーアームの接触面、ギヤとギヤの噛み合っている面……
どれも金属と金属が擦れたり接触しているように見えますが、実は全部接触してません。
それでも何かの拍子に油膜が途切れて金属どうしが接触してしまう事があり、ここではじめて『滑らせる』が出てきますが、エンジン内部は高速回転、高荷重に晒されているのでちょっとぐらい滑らしたところで間に合いません。
あくまでも最後の砦であり、基本的には金属どうしが接触した時には手遅れです。(接触し続けると摩擦熱により金属が溶解してエンジンブロー)
薄い油膜をいかに途切れさせず維持して金属どうしの接触を防止するか、つまり油膜保持性能が高ければ高性能です。
密封で最もイメージしやすいのはピストン側面とシリンダー壁の関係でしょう。
ピストンより上は燃焼によりガスが発生する場所ですが、その高温高圧の燃焼ガスがピストンより下側に抜けてしまうと様々な問題が発生します。
そこで、それぞれの空間を隔てるべく、エンジン内部と燃焼室を密封する性能が求められます。
水あめのようなドロドロのオイルにすれば密封性能は最高ですが、物凄い抵抗になるのでエンジンが回りにくくなり、パワーも燃費も最低な事になります。
回転の抵抗にならないようにシャバシャバなのにしっかり密封できていれば高性能です。
油冷エンジン……に限らず、エンジンオイルはエンジン本体の冷却に重要な役割を果たしています。
高温の場所で奪った熱をそこまで高温でない場所へ拡散させつつ、全体を冷却しているイメージです。
具体的には高温の燃焼室があるシリンダーヘッドを通過して高温になったオイルがオイルパンに戻り、熱を拡散してエンジン全体を冷却しています。
強制的に冷却を促進するためにオイルクーラーが装備されている車両もあるくらい大事な役割です。
局所的に熱が溜まりやすい空冷エンジンだと更に重要です。
密封の項目で出た、高温高圧の燃焼ガスがピストン側面とシリンダー壁の隙間から抜けてしまう話ですが、密封性能が最高でもガスの抜けはどうしても発生してしまいます。
エンジンとは「そういうもの」なのです。
エンジン内部に抜けた燃焼ガス(ブローバイガスと言います)には不完全燃焼時に発生したススなども含まれており、そのままではピストン下側の周辺に堆積してしまいます。
ブルーバイガス以外にも、僅かに起こる金属どうしの接触によって金属の粉がエンジン内部で発生します。
これらの汚れを堆積させないで取り込み、オイル内に分散させる性能が求められます。
これもイメージしやすいですね。
油で膜を作ってエンジン内部の金属が直接空気に触れるのを防ぎ、エンジン内部のサビを防止する性能です。
どんな物であれオイルが塗ってあれば錆びないんじゃないの?と思わせておいて、短期間で交換される事が前提のオイル(レース専用品など)では防錆剤が入っていない場合があり、錆びるオイルも存在します。
高価なレース用なら全て最高性能というワケではないのです。
以上がエンジンオイルの役割です。
意外といろんな事をしてますよね。
エンジンオイル、エラい。
ではエンジンオイルの劣化とは?
5つの役割がある事がわかったエンジンオイルですが、オイルに負担が掛かると劣化して性能を維持できなくなっていきます。
基本的にエンジンオイルの劣化はエンジンの稼働時間、つまり走行距離に比例します。
長距離の方が負担が増すのは、100km走行後のオイルと10,000km走行後のオイルを比較すれば明らか。
様々な汚れを取り込み真っ黒になっているはずです。
ただし……走行距離とは無関係に、短距離で劣化する要因があるのです。
代表的な劣化原因を確認しつつ、走行距離とは無関係な劣化原因を解説していきます。
■エンジンオイルの劣化原因
- 高温
- 酸化
- 水分混入
- せん断
- 汚れ
エンジンの発生する熱に晒されると、その時間に応じて劣化します。
一般的には熱に晒された累積時間と走行距離は比例します。
つまり、走行距離に応じて劣化します。
それとは別に、想定外の高温になると一気に劣化が進行します。
「〇〇℃を超えたらアウト」という明確な温度はありませんが、個人的には130℃を超えると一気に劣化が進んで再起不能になるように感じます。
※人によって感じ方や基準が違います。
高温になるのが劣化の条件なので、走行距離とは無関係に異常高温になると急速に劣化します。
空冷のオフロードバイクで泥の中をもがいてエンジンがチンチンに熱くなったりすると、僅かな走行距離なのにオイルは急速劣化する……などがソレに当たります。
新品のオイル容器が必ず密封されているのは酸化を防止するためです。
確認したわけではありませんが、紙パックのオイル容器が普及しないのは酸化が原因なのではないかと個人的に疑っています。
ところで、エンジン内部はオイルでビッチリ満たされているわけではなく、空気が入っています。
その状態でエンジン各部が高速回転しながらオイルを攪拌しているワケですから、空気と激しく混ざり合って酸化します。
ですので、酸化が進むのはエンジン稼働中です。
つまりおおむね走行距離に比例します。
ゆっくり丁寧に乗ればエンジン回転数が低いから攪拌度合いが少なくなって酸化が抑制され、高回転を維持した激しい乗り方だと攪拌も激しくなるのでより劣化が進む……
かもしれませんが、酸化以外の劣化要素が大きすぎて私には正直よくわかりません。
走行距離に比例しない酸化の例としては、長期不動車で走行距離ゼロという場合があります。
しかし、そんな状態からいきなりエンジンを始動する事は無いので、我々一般ユーザーは無視してOK。
えぇっ?エンジン内部に水が入っちゃうのかい?(マスオさん風)
入っちゃうんだなコレが!
水没などの理由が無くともエンジン内部には水分が入ります。
雨の中を走ったら?
いいえ、雨の中を走ったくらいでエンジン内に水は入りません。
でも、それこそ雨の中を一度も走った事の無い車両でも、エンジン内には水分が入ります。
ホントです、ココ超重要。
それは何故かというと、エンジン内部は外部の空気と繋がっているから。
燃焼ガスがエンジン内部に抜けてくる話を上で書きましたが、そのガスはエンジン内部を通ってエアクリーナーボックス内に戻されます。
そのエアクリーナーボックス内は外気と繋がっています。
つまり、ガスが抜ける通路でエンジン内部は外気と繋がっているということです。
さらに、この流れは一方通行ではありません。
エンジン内部の空気は熱くなると膨張し、エンジンが冷えると収縮します。
エンジンが冷えたり熱くなったりする度にエンジン内の空気が出たり入ったりしているという事です。
そして、外気には必ず湿度があるのです。(=水分を含んでいる)
このような理由でエンジン内部にはイヤでも水分が入ります。
さて、このエンジン内にある空気の膨張と収縮(=水分が入る原因)ですが、これはエンジンが熱くなったり冷えたりする回数に比例します。
大多数のオイルには「■W-〇〇」といった粘度表示があります。
先頭にある「■W」が低温時の粘度、後半にある「〇〇」が高温時の粘度を表していますが、この粘度の差を生み出しているのが「ポリマー」と呼ばれる増粘添加剤です。
この添加剤ですが、極端に言えば繊維状の樹脂です。
※ものすごく極端に言っています。
この添加剤がエンジン内部の動きによってせん断され、本来の機能を失っていきます。
最も影響が大きいのはミッションギヤなどによるせん断ですが、悪い事にバイクのエンジンはミッションと一体型なので宿命的にせん断の影響を受けやすいのですね。
せん断されて劣化が進むとオイル粘度が低下して高温時にシャバシャバになっていきます。
暖気後のオイル交換で水みたいなオイルが出てくるのはこれが原因です。
バイクの場合はエンジン稼働時間に応じて劣化する項目であり、概ね走行距離と比例します。
燃焼室からピストン横を吹き抜けてきたブローバイガスに含まれるスス、エンジン内部パーツが削れた粉、これらの汚れがオイル内に取り込まれる事でオイルは汚れて劣化します。
使っていくと真っ黒になるから見たまんまですね。
さらに、上の「せん断」で出てきたポリマーが問題で、せん断されて小さくなったポリマーが高温に晒されると真っ黒に焦げちゃうのです。
ススや削れた粉はある程度オイルフィルターでろ過できますが、ポリマーはもともの大きさが小さすぎてフィルターを通過してしまうので、汚れが一向に減らないのですね。
エンジン始動した瞬間からオイル交換までひたすら汚れていきます。
上で書いたように、汚れを取り込み洗浄分散するのはオイルの役割なので、汚れるのは正常で仕方ありません。
エンジンオイルとは「そういうもの」です。
短距離走行がマズい理由
さて、上の項目で書いたように、エンジン可動時間 = 走行距離と比例しないエンジンオイル劣化原因がいくつかあります。
中でも注目すべきは3番の水分混入です。
熱いエンジンが冷える時に湿度を含んだ空気をエンジン内部に取り込むわけですが、この空気が冷えるとエンジン内部で結露するのです。
エンジンはかなり熱いので結露は夏でも起こりますが、最低なのは冬!
冬の方が熱い時と冷えた時の温度差が大きくなり、結露確率が跳ね上がるからです。
※このあたりの詳細は「飽和水蒸気量」で検索してみてください。
この結露ですが、エンジン内部が大気と繋がっている以上、どれだけ丁寧に扱っても100%発生します。
ただし、エンジンは始動すると熱くなり、油温は100℃を超えるのが普通です。
ですので、エンジン内で結露してオイルに水分混入したとしても、普通はエンジン稼働していると蒸発してしまいエンジン内部に溜まる事はありません。
オイル交換時にドレーンボルトから水が出てこないのは、結露した水分が全部蒸発しているからです。
ところが、これが蒸発できない場面があるのです。
それは短距離で始動と停止を行った場合。
短距離では油温が十分に上がる事が出来ず、水分蒸発に至りません。
また、油温が100℃を超えたとしても、短距離では混入した水分を蒸発させるのに必要な時間が足りません。
つまり、冷えたエンジン(水分混入中)を始動 → 短距離移動(水分蒸発しきれず) → エンジン停止して冷える(水分補給)を繰り返すと、混入した水分でオイル劣化が加速していきます。
これはオイルにとってもエンジンにとっても最悪な状況と言えます。
初期段階ではオイルの濁り、もう少し進むと白濁化、激しくなるとマヨネーズ状になり、オイルとしての機能を完全に失います。
走行距離はあくまでも目安
このように、走行距離の伸びない短距離であってもオイルに大ダメージを与える場合があります。
オイルに大ダメージがあるという事は、エンジンにも大ダメージを与えている事になります。
ひえーー!!
防止策は、極端な短距離移動を避けること。
ようするにエンジン内部に混入した水分が再び外部に抜ければ良いので、ある程度の温度まで湯温が上がり、水分が蒸発出来る時間があれば良いのです。
逆に長距離でダメージを受けるのは単純に走行時間が長い事による通常の劣化だけなので、いきなりエンジンに大ダメージを与えてしまう事はありません。
ただし走行距離は伸びますので、その分だけオイルへのダメージが蓄積されいきます。
オイルを交換せずに長距離を走り続ければ、オイルの機能はどんどん失われて行き、ゆっくりエンジンにダメージを与えていきます。
極端な長距離ではその分だけオイルの負担は増しますし、極端な短距離では水分混入によって致命的な負担が掛かってしまいます。
どっちの方がオイルに負担があるか?ではなく、どっちもアカン。
長くても短くても、極端なのはダメなのです。
因みにこれは4輪車でも全く同じです。
冬、ちょっとコンビニまで買い物に行ってくるなんて使い方が最悪です。
まとめ
長距離走行でオイル負担が蓄積していくのは仕方ありません。
でもでも、オイル無交換で何万kmも走ろうなんて人は居ませんよね?
長距離走行した際はその距離に応じてオイル交換すれば良いのです。
短距離走行ではエンジンオイルに大きな負担が掛かる場合があります。
近場に用事があるときは、ちょっと遠回りしてエンジン内の水分を飛ばすまで走ってから帰宅するようにしましょう。
そうすればエンジン内にマヨネーズを召喚しないで済みます。
そして最も大切な事。
それは今回書いてあるようなエンジンオイルの役目を知り、エンジンオイルの気持ちになって乗ってあげる事。
そうすれば走行距離に惑わされず、感覚でオイルの劣化を判断できるようになります。
高負荷を掛けたはず、高温になったはず、汚れているはず、水分入っているはず……、そういう事を気にしてあげれる事が大事だと思いますね!
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