
新車で販売されている現行車の吸気系は電子制御燃料噴射装置=FI(フューエルインジェクション)ですが、2000年以前のモデルはキャブレターが主役でした。ジェットやニードルの組み合わせで空気と燃料を混合してくれる頭の良い部品ですが、経年変化で性能が低下する場合もあります。アイドリングや街乗りで重要なパイロットスクリューが汚れると不具合やトラブルの原因となるので、適切な対処が必要です。
低開度を受け持つパイロットスクリュー
パイロットスクリューが混合気の量を調整するのに対して、同じアイドリング領域を調整するエアスクリューはガソリンと混ざる前の空気の量を調整する。混合気を濃くしたい時、パイロットスクリューは開くことで混合気の絶対量を増やすのに対して、エアスクリューは閉じることで空気を減らしてガソリンの量を増やす。
スロットル操作によって開閉するスロットルバルブによってエンジンが吸い込む空気量をコントロールし、その空気量に応じたガソリンを供給するのがキャブレターの役割です。「供給する」といってもFI=フューエルインジェクションのように燃料ポンプで噴射するわけではなく、キャブレターのボディ=ベンチュリーを通過する空気の量と圧力差、つまり自然の力をを巧みに利用しているのがキャブの特長です。
アイドリング時から全開に至る過程で、スロットル開度に応じてベンチュリーの通路面積は拡大し、吸い込まれる空気量に応じてガソリンが供給される部分やパーツは変化します。スロットル開度が小さい領域ではパイロットジェット(スロージェット)、中間領域ではジェットニードル(ストレート径とテーパー、切り上がりの3要素があります)、開度3/4以上ではメインジェット、と言われるアレです。
キャブセッティングやチューニングというと、多くのユーザーがメイン系に注目すると思います。確かに最高出力やサーキットでレースを行う際にはメイン系のセッティングは重要です。
しかし街中やツーリング、制限速度でワインディングを走行する際にスロットルを全開まで開ける機会がどれほどあるでしょうか。エンジンパワーがそれほどない原付バイクで、周囲のクルマの流れに乗るために全力で加速するような場面では、一時的に全開ストッパーが当たるまで開けることがあるかもしれません。しかし一定速度に達したらスロットル開度はグッと絞られるはずです。400ccや1000ccクラスになれば、加速時でも全開にできるのは秒単位しかありません。
つまり、バイクを開発する時点では全開時のセッティングも行っていますが、実際に公道走行を行う場合に全開領域を使うことは稀というわけです。逆に、街中で普通に走行する分にはスロー系やパイロット系の領域を使うことの方が圧倒的に多いのです。
スロットルグリップから手を離しているアイドリング時には、キャブレター内のスロットルバルブはほぼ閉じています。「ほぼ」というのは空気の流れを完全を遮断してしまうとエンジンがストップしてしまうためで、アイドリングが可能な程度の空気を流しています。
このわずかな空気とガソリンが混ざった混合気の出口が、パイロットアウトレットと呼ばれる通路です。そしてパイロットアウトレットから出る混合気の量を調整するのがパイロットスクリューです。
先端が細い針状のパイロットスクリューは、締め込んだ状態から戻す(開く)回転数によって通過する混合気量を調整し、戻し回転数は機種によって多少の違いはあるものの、だいたい1-1/2回転から2-1/2回転の間でセッティングが出るように設計されています。
スロットルバルブが閉じていてもエンストしないよう、パイロットアウトレットやバイパスポートなどベンチュリー内の小さな孔からガソリンや混合気が供給される。吹き返しが多いとベンチュリーやスロットルバルブにカーボンが付着するが、小さな孔に吹き込んだカーボンも清掃しなくてはならない。
- ポイント1・街乗りでは大半がスロットル低開度を使っている
- ポイント2・パイロットスクリューの戻し回転数にはストライクゾーンがある
パイロットスクリューは経年変化でどうなる?
パイロットスクリューの先端にカーボンが付着することで、パイロットアウトレットを通過できる混合気が少なくなり、キャブセッティングが薄くなる。スクリューの戻し回転数を増やせば一時的に症状が改善することもあるが、根本的な対策はカーボン除去しかない。
パイロットスクリューに限らず、ジェット類やジェットニードルなどキャブの内部パーツは厳密な計量を行う部分なので、擦ったりつついたりするのは厳禁。泡タイプのキャブクリーナーで溶解させる時は、ジッパー付きのビニール袋を使うと無駄がない。
カーボン汚れに強いキャブクリーナや燃焼室クリーナーを使えば、相当頑固な汚れもきれいに落ちる。汚れ落ちが悪いと感じたら、クリーナーをスプレーしたビニール袋を温めるとケミカルが活性化して汚れ落ちが良くなる。
混合気の量を調整するパイロットスクリューは、スロットルバルブよりもシリンダー側に装着されていて、長年使用して走行距離が増えるとカーボンが付着することがあります。ガソリンで濡れた状態になっているスクリューの先端に、エンジン側から吹き返したカーボンが付着することで鉛筆の先端のように黒くなるのですが、これによってエンジンや排気ガスのCO濃度に不具合が生じることがあります。
パイロットスクリューの先端はテーパー形状になっており、パイロットアウトレットの孔に挿入される量で混合気の流量が変化する重要な計量装置となっています。そのためテーパー部分やパイロットアウトレット周辺にカーボンが付着すると通路が狭まり、アイドリング領域の混合気量が減少して、アイドリングが不安定になったり発進時のパワー間の無さにつながる場合があります。
スロットルが開き、スロージェットで計量された混合気が供給される領域になれば、パイロットアウトレットの影響度は低下しますが、ゴー&ストップの多い街中でキャブセッティングが薄くなる瞬間があるのは気持ちの良いものではありません。
カーボンが付着するのは混合気が濃いことが原因ですが、バイスターター(チョーク)を使用しないと始動しづらいエンジンでも発生しやすい症状とも言われています。冷間時だけでなく温間時の再始動でもバイスターターを使うことが多いと、混合気が濃すぎて不完全燃焼が起こり、カーボン付着の一因になることもあるのでパイロットスクリューのコンディションに注意しましょう。
- ポイント1・吹き返しによるカーボンがスクリュー先端に付着する
- ポイント2・スロー系の混合気が薄くなり乗りづらくなる
カーボンはエンジンコンディショナーで除去
パイロットスクリューが汚れているということは、パイロットアウトレットにもカーボンが付着していると考えるのが妥当。キャブレターを着脱する手間はかかるが、ベンチュリー内にキャブクリーナーをスプレーすれば大きな洗浄効果を期待できる。
パイロットスクリューの先端が汚れは、キャブレターからスクリューを抜き取れば簡単に確認できます。ここでは分かりやすくキャブレター本体を取り外していますが、エンジンに装着した状態でスクリューが外れる位置にあるなら、キャブはエンジンに付いたままでもかまいません。ただし抜く前にスクリューが止まるまで締めて、現状の戻し回転数を把握することが重要です。
取り外したスクリューの先端にカーボンが付着していたら、カーボン除去に効果のあるキャブレタークリーナーやパーツクリーナーで洗浄します。細い針先は混合気を計量する部分なので、不織布やスチールウールでゴシゴシ擦ることは避けましょう。
スクリューのカーボン付着が顕著だった場合、キャブ本体のパイロットアウトレット側も洗浄した方が良いでしょう。
この場合、パイロットスクリューを外したネジ穴にキャブクリーナーをスプレーしても一定の効果はありますが、エンジンからキャブレターを取り外してベンチュリー内側からもクリーナーを浸透させることでより効果的に清掃ができます。
しかしこの場合もスクリュー本体の清掃と同様に、パイロットアウトレットに針金などを差し込んでグリグリいじってはいけません。スクリューを1/2回転回すだけでエンジンの力強さがまるっきり変わるほど繊細な部品に傷を付ければ、正しいセッティングなどできなくなってしまいます。
スクリューとパイロットアウトレットの洗浄が終わって復元する際は、スクリュー根元にスプリングとワッシャー、Oリングをセットします。このうちOリングは二次空気の吸い込みを防止するためにとても重要なので、変形や硬化している時はもちろん、異状がないように見えても新品に交換するぐらいの慎重さがあっても良いでしょう。
そしてスクリューが止まるまでねじ込み、指定の標準戻し回転数まで戻します。この際、分解前の戻し回転数と明らかに異なっても、まずはサービスマニュアル通りの回転数にしてエンジンを始動し、エンジン回転数がもっとも高くなるところを探します。標準戻し回転数の範囲で調整できない場合は、エアクリーナーやキャブレター本体のオーバーホールなど、さらに作業を進めなくてはなりません。
しかし、パイロットスクリューのカーボン付着による低開度領域の不調は、多くの場合入念な洗浄によってコンディションが良くなるので、キャブレター車に乗り続けているライダーは一度確認してみるとよいでしょう。
- ポイント1・カーボン汚れはキャブクリーナーで除去
- ポイント2・パイロットアウトレットの汚れにも要注意
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