
高出力なエンジンも強力な制動力を発生するブレーキも、地面と接するタイヤがあるからその能力を存分に発揮できます。裏を返せばタイヤがダメなら電子制御満載の最新モデルも怖くて乗っていられません。タイヤに注目する時、グリップ力や太さ、バイアスかラジアルかといったポイントに気を取られがちですが、もっと基本的かつ重要な空気圧を気にするだけで、バイクがもっと楽しくなります。
パンクしていなくてもタイヤの空気は抜ける
タイヤの空気圧測定はタイヤが冷えている(周囲と同じ温度)時に測定する。厳密に考えれば気温0℃の冬と40℃の盛夏の炎天下に置いてあるタイヤの温度には差があるはずだが、走行前であれば良い。
自動車でもバイクでも、タイヤには駆動力や制動力を路面に伝え、ハンドル操作やバンクによって方向を変え、車重とライダーの体重を支えながら路面からの衝撃を吸収する働きがあります。木製のホイールにソリッドゴムを貼り付けていた時代からチューブに空気を入れるようになって性能が大幅に向上した歴史を振り返るまでもなく、タイヤの性能を発揮させるために重要な働きをしているのが空気圧です。
路面と接するトレッド面の断面が丸く、コーナリングで車体が傾くと接地面がセンターからサイドまでトレッド面を移動していくのがバイク用と自動車用タイヤとの大きな違いとなります。
バンク角の変化によって接地面が増減するとグリップ力も変化して安定性が低下するため、タイヤメーカーではトレッド面のどの部分で接地しても接地面積が大きく変化しないようタイヤを設計しています。
トレッド形状やタイヤ自体の剛性が重要なのはもちろんですが、空気圧もタイヤ形状を決める重要な要素となります。指定の空気圧より圧力が低ければ、転がり抵抗が増えてハンドリングは重くなり、タイヤ自体のたわみが大きくなるためグニャグニャとした乗り心地となる安定感が低下します。逆に高ければ路面からの衝撃吸収性が低下して乗り心地が悪化し、バンク角がついても内圧の高さによって適正に変形しづらいのでコーナリング性能が悪化します。
つまり、空気圧は常に適正であることが求められるわけですが、やっかいなことにタイヤ内部の空気は時間をかけて徐々に低下していきます。パンクのように短時間で一気に低下すれば誰でも気がつきますが、一般的に1ヶ月で5~10%程度(タイヤメーカーのホームページなどで記載されています)といわれる減少量では、中には気づかないまま乗っているライダーもいるかもしれません。
チューブタイヤでもチューブレスタイヤでも、ゴムは空気を通さないはずで、エアバルブもムシが健全なら空気は漏れないと思いがちです。しかし現実にはゴムの分子にはごくごく小さな隙間があり、空気の分子はここを通り抜けることができます。またエアバルブとムシのネジ部分や、チューブレスタイヤならリムとビードの接触部分からも、ごく微量の空気漏れが発生します。その自然減を発見して補充するためにも、定期的な空気圧チェックが必要なのです。
- ポイント1・タイヤの空気圧は1ヶ月で10%程度抜けていく
- ポイント2・自然減は気がつきづらいので定期的な測定が重要
適正空気圧情報は車体ステッカーにあり
ヤマハYZF-R25のチェーンケースにはタイヤサイズと空気圧が併記したラベルが貼ってある。タンデム走行時も1名乗車と同じ空気圧で良い。長年の習慣や好みで自分流の空気圧を守っているベテランもいるが、まずは純正タイヤサイズと指定空気圧で基準となる乗り味を知っておきたい。
バイクにとってタイヤの空気圧が重要である理由は先の通りですが、どれぐらいの空気を入れるのが良いかと言えば、原付かミドルクラスかビッグバイクかで異なり、オンロードモデルとオフロードでも異なり、タイヤの構造がバイアスかラジアルかでも異なるため、「タイヤサイズが●●なら空気圧は■■kPa」と一概にはいえません。
あるメーカーの機種別のタイヤ空気圧を列記してみましょう。
フロント/リア(単位kPa)
50ccスクーター 125/200
150ccスクーター 200/225
250ccトレール 125/150(1名乗車)
900ccスポーツ 225/250(1名乗車)
ざっとこのような感じです。このうち900ccスポーツはラジアルタイヤで残りはバイアス、250ccトレールはチューブタイヤであとはチューブレスタイヤです。但し書きで1名乗車とした機種は、2名乗車時には指定空気圧が異なります。
さらにいえば、指定空気圧は新車時に装着されている純正タイヤでベストな空気圧であり、タイヤの銘柄を変更すれば、細かいことを言えばマッチングの良い空気圧は変わってくるかもしれません。もちろん40kgのライダーと80kgのライダーでは、それこそ1名乗車と2名乗車ほどの差になるので、調整が必要になるかもしれません。
いずれにしても、絶対的な目安となるのはメーカーが指定する空気圧です。これを知るにはスイングアームやチェーンガード、スクーターならトランクボックス内に貼り付けられていることが多い空気圧ラベルです。
ラベルが剥がされている中古車を購入した場合、取扱説明書やサービスマニュアルを参考にします。機種や年式によっては、ホームページ上に取扱説明書や基本的なサービスデータを掲載しているメーカーもあります。
また、空気圧を測定するためにはエアーゲージが必要です。これはアナログ式やデジタル式など価格や機能によってさまざまな種類がありますが、バイクや普通乗用車で使用するなら400~600kPaぐらいまで測定できるゲージが良いでしょう。トラックやバスなどの大型車向けに1200kPaぐらいまで測定できるゲージもありますが、200kPa前後の低い値は目盛りが細かくて読み取りづらい場合があります。
10インチのスクータータイヤは空気圧を下げることで、サスペンションとともに路面からの衝撃を受け止める役割がある。中型スポーツバイク並の200kPa近くまで上げると、フロントからの突き上げが顕著になる。
タイヤを交換でビードを上げようというのではなく、不足したエアの補充を行うのなら自転車の空気入れでもフットポンプでも充分。ポンプに付いているエアゲージも重宝するが、精度が不安ならメーカー製のゲージを入手しよう。
一方、主にオフロード向けのゲージの中には最大200kPaという製品もあり、これではオンロードタイヤの測定に使えない場合もあるので、これからエアーゲージを購入しようという時には注意が必要です。
愛車の空気圧が分かったら、現状の圧力を測定して不足していれば空気を補充します。定期的にチェックしていなければ、いくらかは低下しているはずです。空気を入れるポンプは手動式でも足踏み式でもエアーコンプレッサーでもかまいません。
エアーゲージにリリースボタン(減圧ボタン)が付いていれば、指定値より多めに補充して、ボタンを押してタイヤ内のエアを抜きながら指定値に合わせてやると効率的に作業できます。
もう一点重要なのは、空気圧チェックと補充はタイヤが冷えている時に行うことです。走行後はタイヤ温度が上昇しており、タイヤ内の空気圧も温度上昇によって上昇します。走行後の熱々状態のタイヤで測定して合わせてしまうと、常温時にはいくらか低い圧力になってしまいます。メーカーの指定空気圧は常温時の数値となっているので、普段のチェックも走行前に行います。
- ポイント1・指定空気圧は車両ラベルや取扱説明書で確認
- ポイント2・空気圧測定はタイヤが常温時に行う
ゴムの鮮度低下にもご注意を
サイドウォールには様々な情報が記載されてるが、凸文字でなく焼き印のような凹の4桁が製造年と月を示す。このタイヤは3116なので、2016年31週目の製造となる。前後タイヤの製造年がまったくズレていたら、摩耗による交換だけでなく、修理できないパンク(縁石でサイドウォールを傷つけるなど)が原因の場合もある。
タイヤの空気圧から話はちょっと逸れますが、タイヤの性能にとって時間の経過は問題となります。製造から年月を経ることでゴムの性質が変化し、簡単に言えば硬くグリップしないタイヤになります。
使用環境や保管条件によってゴムの劣化スピードはまちまちですが、あるタイヤメーカーではトレッド面の溝の残り量にかかわらず使用開始後5年以上経過したタイヤは販売店でチェックしてもらい、10年経過したタイヤは交換することを推奨しています。
現在装着しているタイヤがいつ製造されたかを知るには、サイドウォールの刻印で確認できます。サイドウォールにはタイヤメーカーや銘柄、サイズなどの情報が記載されていますが、その中に4桁の数字の刻印があります。
この数字は、前の2桁がタイヤが製造された週、後の2桁が西暦表示での製造年の下2桁となります。この数字が「3116」であれば、2016年の31週目(7月上旬)製造であることが分かります。
中古車で購入したバイクのタイヤが、溝はあるのにゴムの弾力性が乏しいような時は製造年を確認して、「●●15」以前、つまり2015年以前に製造されたタイヤだと分かったら、安全の意味も含めて新品に交換した方が無難でしょう。
- ポイント1・溝が減っていなくても経年劣化で性能低下する場合がある
- ポイント2・サイドウォールの刻印で製造年と製造週が分かる
この記事にいいねする