
ドライブチェーンの定期的な洗浄と注油は、チェーンの寿命を延ばすために有効なメンテナンス項目です。タイヤやブレーキに油分が付着しないよう養生するのは当然ですが、せっかくならスプロケットやハブダンパーもチェックしておきましょう。1速に入れた時にチェーン周りから「ガシャン」という音とショックを感じる時は、特に入念な確認が必要です。
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クラッチを切っていてもギアを入れればチェーンは回り始める
ニュートラルからギアを1速に入れても、クラッチを切っていればバイクは進まないのは当然です。しかしクランクシャフトの回転はクラッチアウター→クラッチディスク→クラッチプレート→クラッチセンター→メインシャフト→ミッション→カウンターシャフトと伝達される過程で、クラッチディスクとクラッチプレート間のフリクションによってドライブチェーンに伝わります。
その際に発生するのが「ガシャン」というショックです。クラッチディスクとクラッチプレートに隙間があるのにエンジンの回転が伝わろうとするのは、エンジンオイルの粘度が高い、油温が低い、物理的にディスクとプレートの切れが悪い(クラッチレバーを握っても半クラッチ状態で駆動力が完全に切れていない)等の原因が考えられます。
そうした原因がなくても、クランクシャフトとともにクラッチアウターが回転すれば慣性力は各部に伝達され、チェーンが回転しようよするのは致し方ありません。
その「ガシャン」を吸収してくれるのが、リアホイールのハブに組み込まれたハブダンパー、あるいはクッシュドライブと呼ばれるゴムや樹脂の部品です。
ハブダンパーはクラッチをつなぐ際にもシフトチェンジする際にも仕事をしています。1速でスタートする際、丁寧に半クラッチ動作を行っても完全につながる際には衝撃が発生し、加速や減速時のシフトチェンジでもトルクの変動によって駆動力が増減します。ハブダンパーはその際の衝撃を吸収しているのです。
ハブダンパーが摩耗すると「ガシャン」のショックが大きくなる
スプロケットとホイールハブの間に組み込まれたハブダンパーのゴムや樹脂は、繰り返し衝撃を受け止めることで疲労します。具体的にはゴムが痩せてスプロケットキャリア(ドリブンフランジ)とホイールハブの間に隙間が生じて、隙間分だけスプロケットが空転してからホイールに駆動力を伝えるようになります。
加減速時にもチェーンからタイヤに伝わる駆動力や、減速時のバックトルクにタイムラグが生じてギクシャク感の原因となります。
ガタが大きくなるといっても、ドリブンスプロケットの外周で30mmも50mmも動くわけではなく、よほど大きく見積もっても10mm未満です。しかし健全なハブダンパーを知った上でクラッチ断続時のガタを体感すると、どうにも不快で気になります。
ハブダンパーの消耗はエンジン馬力が大きいほど、車重が重いほど、ギアチェンジが荒いほど進行が早まる傾向にあります。それは同時にドライブチェーンの摩耗や劣化の早さとも共通します。
つまり急発進や急加速、急ブレーキなど急の付く動作を日常的に行うと大きなトルク変動が生じるためチェーンに加わる引き戻しの力が大きくなり、ドリブンスプロケットとリアタイヤの回転差を吸収するためにハブダンパーにも大きな力が加わり、その結果ゴムが早くに潰れてしまうというわけです。
潰れたハブダンパーは復元しないので新品に交換しなくてはなりません。純正部品が販売終了となった旧車や絶版車ではハウジングとハブダンパーの隙間をアルミ板などで埋めて使うこともありますが、これは窮余の策であり決してベストな対策方法ではありません。
スプロケットキャリアを外したらスプロケット表裏の摩耗を確認しよう

アルミスプロケットの場合、アルマイトカラーの変化で摩耗具合を判断できる。チェーンのローラーと接する山と谷が摩耗するのは当然だが、走行中に回転するチェーンは横方向にも動くので、プレートと接する部分が摩耗する。

側面の摩耗自体はともかく、スプロケットの表裏で摩耗の差が著しい場合は何か異常が無いか?を疑ってみると良いだろう。このスプロケットの場合、裏側(ホイールハブ側)の削れ具合が表側より明らかに多い。この場合、チェーンラインに対してスプロケット(あるいはホイール)が車体中心寄りにオフセットしていることが考えられる。原因はスプロケット表裏の誤組みやホイールカラーの誤組み、スイングアーム自体が車体中心からずれているなど、複数の要因が考えられる。
ハブダンパーの摩耗はバイクのセンタースタンドやメンテナンス用スタンドでリアタイヤを浮かせて、エンジンを掛けないでギアを1速に入れてタイヤを前後に回転させることである程度わかります。
どうやらガタが大きそうだと分かったら、リアタイヤを取り外してスプロケットキャリアを外してハブダンパー自体を確認しますが、同時にこの時スプロケットの山と谷、表裏の摩耗具合もチェックします。
山と谷については、走行距離が多くなるほど谷の底の部分が平らになり山が尖ってきます。その摩耗についても、ハブダンパーが健全なうちはチェーンからスプロケットに伝わるトルク変動が緩和されるため、ダンパーが潰れることで摩耗が多くなります。
また山と谷部分の摩耗具合が表裏で異なる場合、ホイールアライメントが原因かもしれません。特に本記事で紹介しているアルマイト仕上げのアルミ製スプロケットは、鉄製スプロケットよりも摩耗による変化が顕著に分かるため、表裏が同じように摩耗しているか否かの判断が容易です。
表裏の一面だけが摩耗している場合、チェーンラインに対するドリブンスプロケットのズレ、ひいてはホイールセンターがずれている可能性があります。足周りがノーマルだとすれば、原因のひとつとして左右ホイールカラーの誤組みが考えられます。
一方、表面でも裏面でもアルマイトの摩耗が均一でない場合、チェーンラインに対してドリブンスプロケットが斜めになっている可能性があります。
原因としては、第一にチェーンのたわみを調整するスイングアームのチェーンプラーの引き具合が左右で異なることが考えられます。左右のチェーンプラーの目盛りが揃っているのに摩耗が不均一な場合、何らかの原因でスイングアームピボットとリアアクスルシャフトが平行でないことも考えられます。
これはフレームやスイングアーム自体に起因する問題である可能性もあるので、バイクショップなどに相談することをおすすめします。
普段走行している時には気づかないような不具合が見つかることもあるので、ハブダンパーのチェックでホイールからスプロケットキャリアを取り外した際には、スプロケットの表裏の摩耗を確認しておきましょう。
ドライブチェーンの清掃と注油前はリアタイヤを養生しよう

チェーンがよく見えるようサイレンサーを外したが、重要なのはスイングアームに貼り付けた新聞紙。チェーンクリーナーもチェーンルブもたっぷり行き渡らせるにあたって、ホイールやタイヤ側に飛散するのは避けられない。先にエプロンを装着しておけば、余計な気遣いなくスプレーできる。
ハブダンパーやスプロケットと同様に、ドライブチェーンも定期的な確認とメンテナンスが必要です。最も簡単で重要なのは定期的な洗浄と注油です。
チェーンメーカーの見解としては500km走行ごと、あるいは雨天走行後に洗浄と注油を行うよう推奨されているようです。
シールチェーンはピンとブッシュの間にグリスが封入されているから注油は不要という意見もあるようですが、ブッシュとローラー、ローラーとスプロケットの接触部分はチェーンルブを注油しなければ潤滑成分がないので、やはりメンテナンスは必要です。
注油もさることながら、公道走行においては洗浄の方が重要かもしれません。街乗りでもツーリングでも、ある程度の距離を走行したチェーンは砂や汚れでザラザラしているはずです。
したがって、チェーンのメンテナンスでは注油の前の洗浄が不可欠です。シールチェーンはOリングを傷めないよう、シールチェーン対応のクリーナーをスプレーして汚れを洗い流します。必要であればブラシを併用するのも効果的です。
この時、クリーナーがホイールやタイヤに付着しないよう躊躇しながら作業するのは効率が悪く、さりとてクリーナーやチェーンルブを周囲に飛び散らせるのも精神衛生上良い物ではありません。
ではどうするか。
最も簡単で効果的なのは、飛び散ったスプレーがホイールやタイヤに付着しないようカバーをすることです。スイングアームにエプロンのように段ボールや古新聞を貼るだけで、必要十分なプロテクターになります。あらかじめ流れたクリーナーやオイルを受けるバットを用意しておけば、床も汚れず後片付けも簡単です。
汚れを洗い流してチェーンルブを塗布したら、プレートの外側に付着したオイルはウエスで拭き取っておきましょう。
普段のメンテナンス頻度にもよりますが、洗浄と注油後のリアタイヤを手で回すとビックリするほど軽く回るはずです。実際の走行時は手とは比較にならないほど強力なエンジンで回すため多少軽く空転しても何の意味もないと考えるかもしれませんが、フリクションロスが僅かでも減少すればすべての面で好影響をもたらすことを知っておいて損はありません。

メンテナンス前後でリヤタイヤ空転時の軽さが明らかに変わることもあり、洗浄と注油の効果を実感できる。500kmごとに洗浄と注油を行うのは面倒な面もあるが、雨天走行後は路面から跳ね上げた水に砂が混ざっていることが多いので、メンテナンスを励行したい。
- ポイント1・発進時や加減速時などすべての動きでハブダンパーの機能が重要
- ポイント2・ハブダンパーのヘタリを確認する際はドリブンスプロケットの摩耗状態もチェックする
- ポイント3・チェーンの洗浄と給油時には周囲に飛び散っても良いようにあらかじめホイールやタイヤをガードしておく
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チェーンの清掃と注油と、ホイール脱着を伴う整備を同時に推奨しても実践出来る人の方が少ないのでは。
せっかく下に養生とか注油のこと書いてても、どうやらガタが大きそうだと分かったら、リアタイヤを取り外して。たぶんこの辺でページ閉じられて読まれないんじゃ