
樹脂と硬化剤を混ぜてガラス繊維とともにペタペタやることで、比較的簡単にモノ作りを楽しめてしまうのがFRP工作の特徴である。ここでは「はじめの一歩」と題して、知っていて絶対に損しない、プロにしてみれば当たり前の「掟=おきて」、基本中の基本を、その道のプロに解説して頂こう。
目次
FRPの要、ポリエステル繊維にも種類がある


ポリエステル樹脂には大きく2タイプあり「パラフィン」と呼ばれる添加物が入った樹脂と、パラフィンが入っていない「ノンパラ」と呼ばれる樹脂がある。初心者が使うには、乾燥後の張り込み面に若干のベタつきがあるものの「ノンパラ」がオススメらしい。また、ハンドメイド向けの手で張り込む「手積層」タイプをチョイスするのが良い。


成分が過酸化メチルエチルケトン(MEKPO)から、メックと呼ばれることが多い硬化剤。無色透明だが刺激臭、脱色作用があるので取り扱いは主剤であるポリ樹脂以上に慎重に行わなくてはいけない。爆発性もあるため、他の薬品などと混入は厳禁だ。作業時の取り扱いには、特に注意して保護具や手袋などは必ず使用しなくてはいけない。


FRP製のレーシングパーツやカスタムパーツの広告に「ゲルコート仕上げ」と表記されているのを見かけたことがあるDIYバイクいじりファンは数多いと思うが、そのゲルコートというのがまさにこれ。製品表面の化粧材として使用することが多く、未塗装時の美観を良くするのが狙いで利用されることが多い。
張り込みを助けてくれる様々な材料


タルク(滑石の微粉末、含水珪酸マグネシュウム)は、樹脂の充填材や増量剤として使用することが多い。ポリ樹脂と重量比1:1で添加することで、ポリエステルパテとして利用することもできる。この際には、タルク量をやや増すことで、切削性=削りやすい物性へと調整できる。

樹脂に添加することで増粘材として使用できるのがアエロジル(シリカ、二酸化ケイ素)と呼ばれる商品。樹脂に粘り気が出るので、垂れ易い(流れやすい)部分や、積層密着が悪い場所などの利用に適している。添加量は説明書を遵守しよう。

樹脂&繊維を張り込む前の型には、離型を促進するために、あらかじめ離型ワックスを塗り、しっかり磨き込み仕上げを行なう必要がある。塗るだけではなく、乾燥後にしっかりウエスで拭き磨きを行い、その作業を繰り返し実践することで離型しやすくなる。離型剤として水溶性フィルムも販売されているが、このフィルム利用時にも、離型ワックスにて磨き込み工程を行なってから液状フィルム利用することで、作業性が高まる。

張り込むガラス繊維にも様々な種類があり、薄く追従性が良いティッシュのようなサフェーシングマットと呼ばれるガラス繊維もある。細かな部分や形状が複雑なエッジなどは、厚さが違うマット=極薄のサフェーシングマットを使い分けるのが成功への道だ。

強制乾燥によって強靭かつしなやかな強度を持つことで知られるのがカーボン繊維。こちらはカーボン製のクロス繊維になる。ドライカーボンとは、負圧(バキューム)で不要な樹脂を引っ張り排出しながら乾燥窯の中で強制的に乾燥させた商品のことを言い、すべてのカーボン商品がドライカーボンではない。

バラバラ繊維が組み合わされたマットに対して、規則正しくネット状に繊維が並べられている商品をクロス繊維と呼ぶ。この画像のクロスは、テープ状の商品で、棒状のパーツに巻き付けながら張り込むような作業にも適している。
樹脂の主剤/硬化剤は重量比率で管理



ポリ樹脂と硬化剤を混ぜるときには、まずはポリ樹脂の容量(重さ)をしっかり管理することから始めなくてはいけない。夏場、冬場、湿気の違いによって、樹脂と硬化剤を混ぜる比率を微妙に調整しているのが、FRP職人なのだ。
しっかり混ぜ合わせて硬化不良を無くす

ポリ樹脂と硬化剤の基本配合比率は、メーカーを問わずおおむね100対1となっている。この比率から大きく外さなければ、硬化不良などのトラブルを招くことは無いが、いい加減な作業でも、混合比率は簡単に変わってしまうので注意が必要だ。混合時には主剤も硬化剤も、それぞれをハカリで計測しよう。
「使用後の材料管理も大切です」

FRP工作は「基本から始めるのが大切です」とは、解説して頂いたモデルクリエイトマキシの板橋儀典さん。「FRPは、使う材料によって仕上がりが大きく変わりますので、材料購入時には注意が必要なのと、使用後の樹脂や硬化剤のフタ部分は、ウエスやティッシュでしっかり拭き取りましょう。」と板橋さん。
取材協力/モデルクリエイトマキシ
- ポイント1・作業実践に取り掛かる前に様々な材料を知ると応用を楽しめる
- ポイント2・材料を使い分けることで製品の仕上がりや作業性が良くなる
- ポイント3・上記のポイントを踏まえて、積極的に作業を楽しもう!
FRP工作に興味があるバイクファンは数多いと思うが、作業実践の前に、まずは必ず知っておきたい「決まり事」や「予備知識」を、FRP造形のプロフェッショナルであるモデルクリエイトマキシ主宰、板橋儀典さんに解説していただいた。ここで使用するポリエステル樹脂は「手積み用」と呼ばれるもので、我々サンデーメカニックが作業実践するには、最適な材料のようだ。ノンパラ(パラフィンレス)で、ロウ成分が添加されていないのが大きな特徴である。「完全硬化後でも最終積層面に若干のベタツキ感が残ってしまいますが、実は、このベタツキが次積層に対する密着性の向上を果たしています。硬化後の再積層や補修に対しても追従性が良く、それでいて塗装の食い付きを阻害しないのも特徴になります」。通常作業であれば、ノンパラ樹脂がベストだと板橋さん。
一方、パラフィンが添加されているインパラと呼ばれる材料には、どんな特徴があるのだろうか?「インパラは、硬化後の樹脂表面にパラフィンが浮き出るため、表面がサラッと仕上がるのが大きな特徴になります。最終積層時やコーティング用として使用されることが多いですが、塗装の際には密着性が悪いので、サンディングが必須になります。手積み張りで利用するとパラフィンの影響で樹脂層ごとに剥離しやすい特徴もあります。だからサンメカ作業にはお勧めできない樹脂と言えます」。
その他、FRPに使う樹脂にはポリエステル系でカーボン繊維などに使う高透明度樹脂やサーフボード用、柔軟性を追求した樹脂などがあるそうだ。ビニルエステル系樹脂と呼ばれるものもあるが、これは大量生産の「型用樹脂」として利用されている。また、エポキシレジンは、ポリエステル樹脂に対して高強度かつ高透明度なのが特徴で、低収縮、低臭気などなど、様々な場面で優れている。しかし、一般樹脂と比べて高価である。
ポリエステル樹脂は、使用前に樹脂液をしっかり撹拌することが極めて重要で、成分が分離したままだとバランスが崩れて物性が低下するばかりではなく、缶の中で硬化してしまうケースもあるそうだ。また、吸湿性が高く長期保存には向かないので、個人使用レベルならば、必要量だけ都度購入するのが理想的らしい。このあたりは接着剤などと同様である。保管時は、硬化剤と同様に冷暗所に仕舞っておくがベストだそう。
その硬化剤に関しては、反応が良いので手早くムラ無く撹拌するのがコツである。「混合する量にもよりますが、紙コップ程度なら30秒も撹拌すれば十分です。反応が始まると樹脂の色が変化しますので、樹脂色を見ながら攪拌すると気が付きます。しっかり撹拌できていれば、色の変化を待つ必要はありません」。メーカーによって、樹脂主剤と硬化剤の混合比率が変わらないものか? 未経験者にとっては気になるところである。そんな疑問に対して板橋さんは「ポリエステル樹脂なら、ポリ樹脂100に対して硬化剤1で使用します。どこのメーカー製品でもポリエステル樹脂なら同一比率です。ただし、エポキシ樹脂の場合は添加比率が異なりますので、使用前に説明書をしっかり確認して作業するのが鉄則です」だと板橋さん。
プロユーザーは、気温や湿度、作業スピードによって、混合比率を微調整する硬化剤。「ポリエステル樹脂100に対して硬化剤は0・5~3%の範囲内で混合するのが決まり事です。夏場ならやや少なめ、冬場や湿度の高いときはやや多目という感じにすれば、慌てて作業することもありません。硬化剤が少ない分には、時間が掛かったとしても最終的には硬化しますが、逆に硬化剤が多過ぎると、硬化しなかったり急速硬化で樹脂にクラックが入ってしまったり、時には極端に強度が落ちてしまうこともあります」とも。一般的には、数時間で硬化するように思われているFRPだが、樹脂全体が完全に硬化して、本来の物性強度を発揮するまでには、1週間程度の時間必要らしい。このような特徴や状況を踏まえ、FRP部品作りに積極チャレンジしてみよう。
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