露天保管だろうと室内保管だろうと、保管環境の良し悪しと車両コンディションによって「賞味期限」を大きく左右されてしまうのがガソリンである。古くなったガソリンは揮発性が低下し、混合気になっても爆発力が著しく低下してしまうものなのだ。不動車メンテナンスの実践時には、ガソリン交換およびガソリンタンク内部や通路の点検とクリーン維持も極めて重要であることを、忘れてはいけません!

ガソリンタンクのようでただのカバーなのがV-MAX

車体左右に張り出したエアーダクトに、挟まれるかのようなレイアウトの部品は、小さなガソリンタンクに見えてしまうが、実は、デザイン的なカバーとなっているヤマハV-MAX。ガソリンタンクは、エンジン後方のシート下にレイアウトされている。

ライディングシートとピリオンシートの間にあるカバー型のシートをズラすことで燃料タンクキャップにアクセスできるV-MAX。フロントシートを外してキャップを開けて、タンク内を懐中電灯で照らしてみたが、タンク内部に汚れやサビは無くひと安心。

5リッターほど残っていた残留ガソリンを、醤油チュルチュル(登録商標)でオイルジョッキへ移動した。その後、抜き取れない残留ガソリンは、シリンジに長いシリコンチューブを接続して吸い出すことにした。これでほぼすべてのガス抜きに成功した。

ガソリンの臭いも、手で触れた時の揮発性も、ほぼ正常に感じられたので、抜き取ったガソリンはオイルジョッキからトランポの給油口へ注ぎ入れた。ガソリンにサビやゴミが混ざっている時には、ガソリンタンクを外して中性洗剤と水道水で洗浄して、完全乾燥後させよう。

このヤマハV-MAXは、不動期間が短かったことが幸いし、ガソリンが著しく劣化していることは無かった。過去の事例で申せば、屋外の露天に車体カバーを掛けた状態で放置して、数年(3年近く)経過していても、何事も無くエンジン始動できた例もあれば、屋内のガレージ保管で1年も満たないのに、ガソリンの劣化によって始動性が著しく低下している例もあった。一概に放置期間だけでは、劣化の進行状況を判断できないのがガソリンのようだ。しばらく乗らない時には、ガソリンタンク内部を空っぽにし、燃料通路にはエアーブローを施す。フロートチャンバー内部のガソリンも排出しておこう。FIモデルの場合は、タンク内のガソリンを抜き取り、エンストするまでアイドリング放置し、最後にスロットル全開でセルボタンを数秒、回しておくのが良いようだ。昔の定説では、乗らない時には「ガソリン満タンで」というのがあったが、現代のガソリンは環境問題で様々な添加剤を含有していて、その添加剤の中に吸湿作用があり、逆にガソリンを腐らせてしまうことが多いようだ。当然ながら昔と今では、ガソリンの賞味期限に大きな違いがある。

燃料通路内にあるガソリンフィルターは定期交換部品

1980年代以降に登場したモデルには、燃料フィルター(ガソリンフィルター)が装備されている例が多い。V-MAXのようにタンクレイアウトが特異で、燃料ポンプが無いとガソリンを送給できないモデルの場合は、確実に燃料フィルターを装備している。

フューエル通路の途中に組み込まれている燃料フィルターを取り外して、PETボトルをカットして作った容器に残留ガソリンを注ぎ出してから、燃料通路からフィルターを取り外した。ガソリンホースが硬化している時には、迷わず新品ホースに交換しよう。

◆画像7◆

新車当時から使われ続けてきた燃料フィルター(上)と、今回、交換した新品フィルター(下)。その違いは一目瞭然で、ガソリンタンク内に入ってしまった汚れやサビを、ろ過除去する役割を持つのが、この燃料フィルターになる。大きな汚れ片が無く良かった!

燃料フィルターホルダーもゴム製部品なので、硬化していたり、ヒビ割れ劣化を確認できる時には、迷わず新品部品に交換することをお勧めしたい。V-MAXは最終モデルだとしても、もはや旧車の部類に属するので、販売中止になる前にスペア部品を購入しておこう。

タンクキャップキーの渋い動きに気が付いたなら

燃料キャップを取り外したときに、キャップを施錠しているキーの動きが渋いことに気が付いた。以前、動きが渋くキーが曲がってしまう実例を見たことがある。そこで………

ノズルチューブ付のオイルスプレーを吹き付け、施錠用キーシリンダーの動きを良くしておこう。ガソリンスタンドで給油する際に、困ってしまっては良くない。

オイルスプレーを吹き付けたらキーを差し込み、左右に動作させて動きを確認してみよう。渋い感じが改善されない時には、パーツクリーナー+エアーブローも併用してみよう。

燃料ポンプのコンディションにも要注意

タンクカバー後方の下に燃料ポンプが取り付けられているので、燃料ポンプを取り外して残留ガソリンの除去と同時に作動確認してみることにした。燃料ホースクリップは、プライヤーでつまんでズラして、それからホースを抜き取ろう。

ポンプ本体をマウントするブラケット固定ナットを取り外してから、IN/OUTの燃料ホースを抜き取り、配線カプラを外してポンプ本体を車体から取り外した。非分解部品なので、まずは電磁ポンプの作動確認から開始した。

現代のモデルの多くは防水カプラになっていて、分解するにも部品点数が多くややこしいが、この当時のV-MAX用燃料ポンプカプラは極めて単純構造だった。配線側から端子を押したら、接続側へと抜け出てきた。

12Vバッテリーのマイナス端子と1本のカプラ端子をワニグチクリップで結線。バッテリー側のプラス端子と赤線クリップを結線した状態で、カプラ端子にワニグチクリップを瞬間的に「パチッ」と接触させてみた。

ポンプの点検と交換時には事前に作動確認もできる

ウィーンと電磁ポンプのモーターが回り始めたので、ポンプのIN/OUT配管に透明チューブを差し込み、自己責任に於いてオイルジョッキ内のガソリンを吸い上げて循環させてみた。ガソリンはスムーズに回り続けたのでポンプ機能は大丈夫そうだ。配線の接続や端子の接触時には要注意。

POINT

  • ポイント1・タンクキャップを開けたら内部の覗き込みと臭いをクンクンッと嗅いでみよう
  • ポイント2・放置期間が1年以上なら迷うことなくフレッシュなガソリンと入れ換えよう
  • ポイント3・モデル固有のメカニズムを理解して、燃料系は積極的にリフレッシュしよう

長期放置していなかったつもりでも、タンク内に残っていたガソリンが劣化していて、フレッシュ度に欠けてしまっているケースは意外と多い。ガソリンの臭いを嗅いだ時に、フレッシュなガソリンとは違った「臭さ」を感じる時には要注意!ガソリンが「腐り始めている予兆」と言うこともできる。また、ガソリンで手の甲を浸したときに、スーッと涼しくなる、あの揮発感があれば良いが、時には、揮発感などまったく無く、ヌルッとした印象を受けることもある。それほどまでに劣化したガソリンを、日頃よく使う自家用車やトランポへ移すことはできないので、そうなったら油汚れ部品(エンジンカバーやスプロケットなどの)洗浄用のガソリンとして利用するのが良いだろう。今回は、劣化している様子は無かったが、タンク内部のガソリンを入れ換え、燃料フィルターを交換し、燃料ポンプの作動状況を単品確認する段取りを行ったので、タンク内部のガソリンはすべて抜き取ることにした。

仮に、タンク内部が汚れていた時には、中性洗剤+水道水で完全洗浄し、汚れを洗い流してから完全乾燥させれば良い。サビの発生に気が付いた時には、サビ取りケミカルをぬるま湯で割ってから、タンクへ口切り満タンまで注ぎ入れ、時間の経過でサビ取り実践すれば良いだろう。いずれにしても、タンク洗浄後の水分除去が気になる時には、いわゆる「ガソリン用の水抜きケミカル」を併用するのが良い。

仮に、2~3年乗らないケースで、しかもタンク内のガソリンを抜き取れない状況のときには、ガソリン劣化防止剤や「フューエルスタビライザー」と呼ばれる商品を注入しておくことで、一定期間は、ガソリンの劣化を防止することができる。そんなケミカルを注入したその後も、同ガソリンでエンジン始動は可能で、走ることもできた。過去にはレース用バイクからガソリンを抜き忘れ、シーズンオフに入ってしまったときに、後日、フューエルスタビライザーを入れたことがあったが、数年後でもガソリンは腐っていなかった。保管環境も含めて良かったのかも知れないが、このケミカルは間違いなく高性能かつ効果的だと言えそうだ。

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