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スターターワンウェイローラーの異常作動でハウジングへ亀裂発生?


スターターワンウェイクラッチユニットを分解したところ、ローラーハウジングに亀裂が入っていた(タイトル画像)。ローラーの不規則作動によって、ハウジング内で衝突が繰り返されたことで、発生した亀裂だと思われる。この亀裂を目撃したことで、スターターワンウェイ周りのオーバーホールは決定的。他の部品にもダメージが及んでいると思われるが、果たして……。部品点数が少なく、シンプルな構造を採用したスターターワンウェイクラッチユニット。その起源は、1960年代に登場したホンダCB72にあるようで、詳細は異なれど、構造的にはほぼ同様と言えるメカニズムを採用しているようだ。ヤマハV-MAXは1985年に輸出仕様として初代モデルが発売され、後に国内でも発売されたが、「Vブースト」と呼ばれるフルパワー仕様の特徴でもある装備は採用されなかった。
分解しないと目視確認できなかった真の原因と部品ダメージ

クランクケースカバーを取り外し、フライホイールを脱着しただけでは、スターターワンウェイクラッチユニットに異常は見られなかった。フライホイールを伏せるように置くことで、アイドルギヤ(ギアアイドラ2)はスーッと引き抜くことができる。

クラッチハウジングを締め付ける3本のキャップボルトを緩めて分解を進めていくと、ローラー側面が繰り返し擦れ当たった摺動摩耗を発見。フライホイールの裏側面には、ローラー端面が異常摺動したことによる摩耗痕が残っていた。再利用できないレベルではないと判断し、フライホイールは再利用することにした。摩耗痕が進み、明らかな段差になっていたら、フライホイールも要交換だろう。

ローラーの外周表面と同様に、ギアアイドラ2のローラー摺動面も摩耗していた。こうして見ると完全にただれた状況であることがわかる。こうなってしまうと、このギアアイドラ2も要交換部品として考えないといけない。新品部品との比較で、その違いは一目瞭然だろう。

ハウジングに収まるローラーは、回転摺動による摩耗で外周がガタガタにただれていた。エッジにはバリが発生するほど金属摩耗が著しかった。その摩耗の様子は、新品ローラー外周と比較することで明確になる。このダメージでは、摺動面に食い付かずスムーズなエンジン始動は不可能だろう。
セルボタンを押したときに、クランキングではなく異音や振動が伝わる時には、無理にセルボタンを押し続けてはいけない。まずはバッテリーにブースターケーブルを接続して、バッテリーコンディションを確実に高めてから、再度、始動を試みよう。それでも始動が困難な時には、迷わずスターターワンウェイクラッチ系の分解メンテナンスが必要だと考えた方が良い。無理してしまうことで、交換しなくても良い部品を破損させてしまう可能性があるからだ。
不具合箇所を目視確認してから補修部品を調達
フライホイールの摩耗痕はオイルストーンで慣らし研磨
フライホイールの取り外しから作業手順を再確認
ボルトの固定は、ネジロック剤+叩きカシメの合わせ技で

一体構造のフライホイール部分を万力で固定し、スタータークラッチアッセンブリを固定する3本のボルトを緩める。このボルトはネジロック剤で締め付け固定されているので、緩まない時には無理せずハンディヒーターでボルトの頭を温めてからレンチで緩めよう。無理に緩めようとするとソケット穴を舐めてしまうので要注意だ。

右側が抜き取ったボルトで、左側が新規購入した新品ボルトだ。ネジロック剤が利用されていた様子と、締め付け固定後の緩み防止でボルト先端をカシメられていた(部分的に潰されていた)様子を確認できる。ネジ穴となるフライホイール側のタップ穴も汚れているので、当然ながら同じサイズのタップでネジ穴をさらってクリーニングしよう。

ローラーハウジングに亀裂が入っていた旧部品はすべて除去し、新品部品で購入したスタータークラッチアッセンブリを新品ボルトで締め付ける。ボルトはパーツクリーナーで脱脂してからネジ山へ適量のネジロック剤を塗布する。締め付けボルトを脱脂洗浄することで、ネジロック剤の固定効果が確実に高まる。

ボルトを緩めるときと同様に、ネジ穴を洗浄したフライホイールを万力へ固定し、スタータークラッチアッセンブリを締め付ける。同部品の中には青色の樹脂短冊をリング状に丸めてセットされているので、ギアアイドラ2をセットするときまでこの短冊は取り外さない。この部品は3個のローラーやスプリングなどの飛び出しを防止する仮固定部品だ。
組み立て前にはオイルをしっかり塗布しよう

3本のボルトをしっかり締め付け、頭のカシメを終えたら、作業台の上にフライホイールを伏せるように置き、仮固定短冊を抜き取る。3か所のローラーとワンウェイクラッチハウジング内にスプレーオイルをしっかり吹き付けよう。

文字通りワンウェイクラッチなので、ギアアイドラ2を回しながらスターターワンウェイへセットする。片側へはスムーズに回転するが、反対側へは回らない。この際のローラーの食い込みでクランクシャフトを回転させてエンジン始動する仕組みとなっているのだ。
- ポイント1・スムーズなエンジン始動ができない時には無理せずブースターケーブルを接続してバッテリー強化後に始動してみよう
- ポイント2・ブースターケーブルの接続でスムーズにエンジン始動できる際には、バッテリーを補充電してみよう。もしくは新品バッテリーへ交換だ
- ポイント3・ブースターケーブルを接続してもエンジン始動できない、クランクが回転しない=スターター機能が空回りしている時には、ワンウェイクラッチユニットを分解点検を決意しよう
セルモーターが発生する駆動力を、クランクシャフトの回転力へと置き換えているのがスターターワンウェイクラッチの役割である。このワンウェイクラッチは、読んで字の如く「ワンウェイ方向のみ駆動力を伝え」、反対側へはフリー回転する仕組みとなっている。セルモータースピンドルがリダクションギヤ(減速ギヤ)を回転させ、そのリダクションギヤがスタータークラッチに組み込まれる大型ギヤ(ヤマハV-MAXでは、ギアアイドラ2と呼ばれる)を回転させる順序だ。その際に、ワンウェイ機能を持つスタータークラッチ内に組み込まれる3個のローラーが、ギアアイドラ2へ食い込むように押し付けられ、クランクシャフトを回転させる=クランキングさせる仕組みとなっている。
エンジン始動と同時にセルモーターは停止。クランクシャフトが回転し始める。クランク回転のスピード上昇によって始動時に食い込んでいたローラーが切り離され、それと同時に、遠心力によってローラーがスタータークラッチアウター内へ収まり、クランクシャフトはフリー回転を続ける構造となっている。V-MAXに限らず、バイクのセル始動メカニズムには、このタイプが数多い。
セル始動不良の多くは、スターターギヤ(ギアアイドラ2)とワンウェイローラーが直接摺動する部分の摩耗が多い。もちろん、セルモーター本体の作動不良(例えば、セルモーターブラシが摩耗し残量不足による通電不良)も考えられるが、セル始動の不良原因は、この「ワンウェイ摺動部の摩耗」によるものが圧倒的に多い。
では、何故ワンウェイ摺動部分に摩耗が発生するのか?それにも様々な理由があるが、最たる原因のひとつが「バッテリーコンディションの低下=バッテリー電圧の低下」である。走ることなく放置した期間が長くなることで、バッテリーはコンディション低下し、いわゆる「上がり症状」になってしまう。そんなコンディション時にセル始動すると、ワンウェイローラーがギヤ摺動部へ食い込もうとした瞬間に、セルモーターの回転力が低下し、それが原因で「滑りが発生」してエンジン始動できないケースが多い。そんな状況の繰り返しによって、ローラーの押し付けが弱まり、セルモーターの駆動力がクランクシャフトへ伝わらず、ワンウェイクラッチ部分で空回り現象が発生してしまうのだ。ここで作業しているヤマハV-MAXは、そんな状況下でエンジン始動を繰り返したため、ワンウェイローラーがローラーホルダーハウジング内に衝突し、結果的には、大きなダメージ(衝突による亀裂発生)を与えてしまっていた。単純なバッテリーコンディションの低下=バッテリー上がりから、このようなトラブルに波及してしまうケースは決して少なくない。また、発電系が問題で、バッテリーの充電機能が低下すると、いくらバッテリーを新しいものへと交換しても、良いのはその場限りで、充電系が改善されなくてはコンディション維持できなくなってしまう。スターターワンウェイクラッチの不良に気が付いた時には、セルモーター本体のコンディション確認と同時に「充電コンディション」にも気を配り、メンテナンス進行するように心掛けよう。
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