ディスクブレーキ車はパッド残量のチェックとキャリパーピストンの揉み出しと並行して、定期的なブレーキフルード交換も必要です。その際に必要な「エアー抜き」はコツが必要で時間が掛かり面倒ですが、手を抜けない重要な作業です。そんな時に重宝するのがワンマンブリーダーです。プロユースに応える製品からDIYユーザー向けまで、さまざまなバリエーションが揃っています。

ブレーキレバータッチがスポンジー?! そんな時はエアー噛み込みが怪しい

油圧ディスクブレーキの作動油であるブレーキフルードは、ブレーキ全体の性能を左右する重要な要素です。
どれだけ高性能なキャリパーやブレーキパッドを装着しても、ブレーキフルードに空気が混入していたらその性能は発揮できません。
ブレーキレバーを握るとマスターシリンダーからブレーキフルードが流れ出し、パスカルの定理に基づいてキャリパーピストンを押し出します。もしフルード内に空気=気泡があると、フルードに掛かる圧力はキャリパーピストンより先に気泡を潰すために使われるため、ブレーキレバーのストロークが大きくなり、レバータッチもダイレクト感が低下します。
ブレーキフルードにエアーが混入する原因としてはベーパーロックとフルード交換時のエアー抜き不良が考えられます。
前者のベーパーロックは、ハードなブレーキングを行うサーキット走行などで、ブレーキローターとパッドに生じる摩擦熱がキャリパーに伝わってブレーキフルードが過熱して沸騰、気泡が生じることで発生します。
DOT4規格のブレーキフルードはドライ沸点230℃以上、ウェット沸点155℃以上と水の沸点である100℃よりは相当高温になっています。しかしドライ沸点が230℃以上なのに対して、わずか3.5%の水分が混入しただけで70℃以上も沸点が下がってしまうほどデリケートです。
「自分はサーキットを走ることはないから関係ない」というライダーもいるでしょうが、混入した水分はサビの原因にもなるため、2年に一度程度の定期交換が必要です。
そしてフルード交換時のエアー抜き不良もまたエアー混入の原因となります。
ブレーキメンテナンスをしたのにレバータッチにカッチリ感がなく、深く握り込めてしまうような時は、ブレーキフルードのどこかにエアーが残っていると考えて間違いありません。

ハンドポンプの負圧でフルードとエアーを吸い出すバキュームテスター

工具ショップのストレートから発売されているバキュームテスター&ブレーキブリーディングキット。ハンドルを握ると負圧を発生するハンドポンプには負圧計が装備されており、負圧で作動する機器の状態をチェックできる。同時に付属のホースとカップを組み合わせればバイクのブレーキのエアー抜きもできる。

ブレーキレバーやブレーキペダルを何度か作動させて、ブリードプラグに向かってエアーを押し流すのが一般的なエアー抜き方法ですが、それとは逆の発想で作業するのがバキュームテスターを用いる方法です。
工具の名称としてはバキュームテスターですが、これはハンドポンプによって発生する負圧によって主に自動車で使用されている補機類の作動状態の検査を行うために名付けられたもので、付属部品のブリーディングキットを使用することでブレーキのエアー抜きが可能となります。
ハンドポンプ自体でブレーキフルードを吸い上げると内部パーツのトラブルの原因となるため、ブリーディングキットのタンクを使用して、タンクに取り付けたホースをブリードプラグに接続します。
この状態でブリードプラグを僅かに緩めてポンプのハンドルを何度か握ると、タンクを含めた全体に負圧が生じてエアーが混入しているフルードが吸い出されるのです。
ブリードプラグを僅かに緩めたままハンドルを操作してもフルードとエアーを連続的に吸い出すことができますが、ブリードプラグを締めた状態でハンドルを操作すると負圧が大きくなり、プラグを緩めるとブレーキホース内のフルードとエアーが一瞬で吸い出されるため作業効率アップが期待できます。
ただし調子に乗ってハンドポンプを操作し続けると、気づかぬうちにマスターシリンダーのリザーブタンクの液量が低下して空っぽになってしまうこともあるので注意が必要です。
ここで紹介している工具ショップストレートのバキュームテスター&ブレーキブリーディングキットには数多くのアクセサリーが付属していますが、ハンドポンプを使用する同様の製品は他にも数多く販売されているので、用途に応じた製品をチョイスすると良いでしょう。

2本のホースがつながるキャップとカップはシール性が確保されており、ハンドポンプで発生する負圧はカップを通して反対側のホース先端に掛かる。カップを中継させることで、フルードがハンドポンプに流れ込まずトラブルを予防できる。

ブレーキレバーやペダルでフルードを送り出すのではなく、ブリードプラグから吸い出すことでホースやキャリパー内部の抜けづらい位置に溜まったエアーも効率的に排出できる。ハンドポンプの能力に限度があるので、自動車用ブレーキのエアー抜きには使えない。

ボトル一体式でフルードをまき散らす心配のないワンマンブリーダー

工具ショップストレートで販売しているブレーキブリーダーボトル。車体各部に掛けられるフック付きの回収タンクは肉厚が厚く重量があるので、ペットボトル流用タイプに比べて転倒しづらく、万が一転倒しても蓋が密閉式なので外部にこぼれない。

次に紹介するのは、ブレーキレバーやペダル操作でフルードを送出する必要はあるものの、ブリードプラグの開閉が不要なエアー抜き製品です。
通常のホースでエアー抜きする場合、ブレーキレバーを握った状態でプラグを緩めたら、レバーから手を離す前にプラグを締めないとホースからエアーが逆流してしまいます。そのためレバー操作を行う役とプラグを開閉する役の2名で作業するのが一般的で、どうしても一人で行うとなればかなりアクロバティックな体勢で行わなくてはなりません。
これに対してワンマンブリーダーは、ホースの途中のワンウェイバルブによってフルードが排出方向のみに流れて逆流しないのが特徴です。
この製品はワンウェイバルブの先に排出したフルードを樹脂製の容器があり、確実にフルードが回収できるのが最大の魅力です。
ワンウェイバルブ付きワンマンブリーダーを使用する際は、ホースを接続したブリードプラグを緩める量は最小限にしておきます。レバーを握る際に、フルードが排出される抵抗感がありながら抜けていく程度の緩め量が良いでしょう。ワンフェイバルブがあるならプラグはユルユルでも構わないのですが、あまり緩めるとプラグのネジ部分からフルードがにじみ出るリスクがあります。逆に、ワンウェイバルブの効果でブリードプラグの先端からエアーが逆流しない代わりに、ブリードプラグのネジ山から外部の空気を吸い込もうとする可能性もあります。
エアー抜きしたつもりなのにエアーが残ってしまう場合、「こんなものだろう」という妥協が原因になる場合が多く、ひとり作業でレバーとブリードプラグのシンクロ動作が面倒になってくると「まあいいか」となりがちです。
その点で、ブリードプラグを緩めたままレバーやペダルをポンピングすればエアーとフルードが逆流せず流れるワンマンブリーダーを使えば、フロントダブルディスクの左側キャリパーなど、ブリードプラグがブレーキレバーから遠い位置にある場合でも納得できるまでエアー抜きができます。

シリコンホースの中間にワンウェイバルブが組み込まれ、先端にはニップルアダプターが付く。このアダプターの内部は簡単にブリードプラグから抜けない形状となっている。

ニップルアダプターをブリードプラグに挿入してプラグを僅かに緩めて、ブレーキレバーを繰り返し握ると、エアー混じりのフルードが徐々に流れ出してくる。フルードがワンウェイバルブを通過すると逆止弁効果が高くなり、プラグが緩んだ状態でブレーキレバーから手を離しても逆流しづらくなる。

ワンウェイバルブといえども使い勝手の良し悪しがあるので要注意

工具ショップアストロプロダクツで販売しているワンウェイバルブ。この製品はスプリングとボールを内蔵しており、本体の向きにかかわらず矢印の向きにブレーキフルードが流れる。差し込んだホースが抜けないようクリップも付属する。

ワンウェイバルブにつなぐホースの素材は、しなやかでブリードプラグの先端に密着するシリコン製が断然おすすめ。ゴムホースは素材によってブレーキフルードが触れると硬化したり、そもそも硬くてブリードプラグから簡単外れるなど使い勝手が悪いことが多い。

最後に紹介するのは、ワンマンブリーダーで使用されているワンウェイバルブだけを取り出した製品です。
汎用のホースとペットボトルでエアー抜き道具を自作しているのなら、ホースの途中にこのバルブを組み込むだけでブリードプラグの開閉が不要なワンマンブリーダーが完成します。バルブ単品なので前出の2製品に比べて価格も安価なのも魅力です。
ただ、市販のワンウェイバルブにはスプリングが入っているタイプ入っていないタイプがあるので注意が必要です。
スプリング入りワンウェイバルブは逆流防止のチェックボールにスプリングの与圧が掛かっているため、本体の角度にかかわらず逆流防止機能が作用します。しかしスプリングなしバルブは、本体の向きによってチェックボールが開いたまま閉じないため、エアーが逆流してしまいます。
流れる液体や空気の圧力変動が、スプリングを押し縮めることができないほど少ない場合はスプリングなしのワンウェイバルブが適していますが、ブレーキフルードのエアー抜き用として使用する場合は使用時の本体方向の自由度が高いスプリング入りを選ぶ方が良いでしょう。
また、ワンマンブリーダーを自作する時は使用するホース選びも重要です。ブレーキフルードへの耐性やブリードプラグに差し込んだ際の気密性の高さなどを考慮すれば、シリコンホースが最適です。
柔軟性が低いホースはブリードプラグから外れやすかったり、フルードを溜める容器が軽いと転倒しやすいなど、使い勝手が悪い面も多いのでおすすめできません。

定期交換が必要なブレーキフルードだから作業効率を高める道具を用意しておきたい

エンジンオイルほど高頻度ではないとはいえ、ブレーキフルードも2年に一度の交換が必要です。
キャリパーピストンの洗浄やもみ出しを小まめに行うライダーなら、それより短期間でフルード交換を行うかもしれません。
もちろん、ブレーキキャリパー交換やブレーキホース交換などのカスタムを行う際にもブレーキフルードの入れ替えにともなうエアー抜きが不可欠です。
毎回、ブリードプラグを開閉しながら行う作業に不便さを感じながらエアー抜きを行っているなら、工具のグレードアップを図ってみてはいかがでしょうか。

POINT

  • ポイント1・ブレーキフルードのエアー抜きはフルード交換時の必須作業
  • ポイント2・フルード交換をひとりで行う際は逆流防止のワンウェイバルブを使用することでブリードプラグの開閉が不要となり作業がはかどる
  • ポイント3・さまざまな便利な工具が販売されているので特徴を把握して予算に応じて選択する
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