
私たち人間が年齢を重ねることでシワが増えたり髪が白くなるのと同様に、機械であるバイクにも経年劣化があります。その典型的な事例が樹脂パーツの劣化です。塗装されたパーツはさることながら、未塗装の樹脂パーツは数年で確実にツヤが消えて白くカサカサになってしまいます。洗車してもワックス掛けしても改善しない劣化は、光沢復活ケミカルを的確に使用することでくたびれた見た目を大幅に改善できます。
「白化」は使い勝手の良いポリプロピレン素材唯一の弱点
スポーツモデルでもスクーターでも、バイクには様々な樹脂が使われています。スクーターの外装パネルやステップボードが樹脂製なのは誰もが知っていると思いますが、昨今のスポーツバイクはガソリンタンク「部分」まで樹脂製という例もあります。
「部分」というのにはワケがあり、スチール製のタンクの外側に樹脂製のカバーをかぶせた車種が増えているのです。
従来型のガソリンタンクは金属素材をプレス成型して製造するという工程上、極端にエッジが立った形状はできないといったようにデザイン的な制約が生じます。しかしプラスチック素材なら、金型次第でどんな形状にも成型できます。
金属製タンク+プラスチックカバーの組み合わせであれば、実際のタンク部分はヤカンのような形状でもカバーによってデザインを成立させることができます。すると金属製タンクをデザインして製造する手間が少なく技術的なハードルも下がるため、コストも低減できます。
その一方で、プラスチック製のカバーであれば金属素材では成型できないような形状も可能になるため、デザインの自由度が大幅にアップします。
タンクカバーやサイドカバーに使用される樹脂素材はABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)が多く、塗装して使用するのが一般的です。このため美観が求められる外装パーツにも使用できます。
バイクや自動車用パーツとして使用される樹脂素材としてABSと並んで多用されるのがPP(ポリプロピレン)です。樹脂ならではの軽量さに加えて耐熱性や耐薬品性が高く、複雑な形状に成型でき安価で大量生産に適しているのがPPの特長です。
またPPは加熱成型時にトナー(着色剤)を加えることで未塗装状態で一定レベル以上の均質な光沢が出て、さらにその状態で機械的強度や耐摩耗性も良好なので、リヤフェンダーやスクーターのステップボードなど、足周りや下周りのパーツにも多用されています。
このような利点がある一方で、PPには紫外線や熱や水分の影響によって白く変色する「白化」が発生しやすい弱点もあります。黒色仕上げでも着色仕上げでも同様で、素材表面にマイクロレベルの隙間が生じて表面密度が低下することでツヤがなくなり、機能的には問題なくても見栄えが悪くなってしまいます。そしてこの「白化」は、素材や添加剤の性能が進化しても、PP素材にとって避けられない根源的な弱点となっています。
柔軟性のあるPPは塗装が難しく表面のシボの風合いを損なう恐れもある
経年劣化はPPだけに発生するわけではなく、塗装仕上げの金属製パーツやABS製パーツでも起こります。紫外線などで塗装の風合いが変化してしまった場合、再塗装によって劣化を補うことも可能です。
しかしPPは塗装や接着が難しいという特性があります。柔軟性の高い未塗装PPの上に塗装をすると、PPの柔軟性に硬化した塗膜が追求できずに剥離したり割れてしまうことも少なくありません。
また表面がツルツルではなくザラザラの模様(シボ)付きのパーツをペイントした場合、塗膜の厚みによってパーツ自体の質感が変わってしまうのも泣き所です。
PPパーツの白化を改善するため、一昔前に多用されたのがホームセンターなどで販売されているシリコンスプレーです。ひと言でシリコンスプレーといってもメーカーが製品によって内容成分はまちまちで、どれを使っても満足のいく仕上がりになるとは限らず、ツヤや耐久性にはけっこうな違いがあります。ツヤ出しや離型作業に特化したシリコンだと、不自然にテカテカしたり、屋外での耐候性が良くない製品もあります。これは性能の善し悪しと言うより仕様によるものなので致し方ありません。
またヒートガンやカセットガスボンベを使用したトーチによる加熱も、PPの白化改善に有効な場合があります。しかしこの方法もまた、素材自体を変形させてしまったりツヤの有無がムラになってしまうこともあるため、必ずしも成功するとは限りません。
それらに代わって様々なメーカーから発売されているのがPP補修に特化した光沢復活剤です。スプレータイプや溶剤タイプなど製品によって仕様はまちまちですが、汎用のシリコンスプレーとは違ってPPの白化改善に的を絞っていて、特別なコツやテクニック不要でツヤが回復するのが特長です。
スポンジで塗布するタイプなら細かい塗り分けも簡単
この製品はコーティング液を塗布したらすぐに付属のクロスで拭き伸ばすのがポイント。クロスは水で濡らしてから固く絞って準備しておく。
クルマであれば未塗装のサイドモールやバックミラーもコーティングの対象となる。スポーツバイクのチェーンカバーやインナーフェンダーをコーティングすることで、洗車時の汚れ落としが楽になる効果もある。
防錆潤滑剤の5-56でお馴染みの呉工業が販売しているLOOXブラック&ブライトは、溶液タイプの未塗装樹脂ツヤ復元コート剤です。成分のケイ素系化合物はシリコーンとほぼ同義で、無機物と有機物の性質を兼ね備えており、PPのツヤ出しの適しています。
余談ですがシリコンとシリコーンは混同されることが多く、同じ物だと認識している人も少なくないでしょう。しかし前者はケイ素という元素単体の名前であり、後者は構成元素のひとつにケイ素を使用した化合物の名称となるため、実態はまったく異なります。
呉工業の製品を筆頭に、PP素材の光沢復活用ケミカルに使用されているケイ素系化合物はシリコーンなので覚えておくと良いでしょう。
製品ごとに独自性をアピールするツヤ復元ケミカルの中で、LOOXブラック&ブライトは紫外線や熱による白化を防止する紫外線吸収剤を潤沢に配合している点が特長です。
PPの白化の原因が紫外線や熱であることは先に説明した通りで、その影響を軽減するUV吸収剤を含有することで劣化保護効果を長期間持続させる狙いがあるようです。
とはいえ、一度塗布したら効果が未来永劫持続すると謳っているわけではありません。この製品の場合ツヤが持続する期間は最長で1年間で、定期的なメンテナンスが必要です。スクーターのステップボードなど広い面積に施工する際はスプレータイプの方が効率的に作業できる場合もありますが、逆に細かい部分に塗布する際はこの製品のようにスポンジに取り分けて塗り広げる方が余計な部分に付着せず重宝することもあるので、使い勝手が良い製品を選択すれば良いでしょう。
LOOXブラック&ブライトの場合、広い面積に塗布する場合は一度に塗りきろうとせず、部分ごとに区切って施工することが推奨されています。付属の専用スポンジに瓶入りの溶液を滴下して塗布すると、白くカサカサになったPP(ここでは自動車用のバンパーを使用)がしっとり黒く見違えるようになりました。
またこの製品ならではの特徴として、塗布後すぐに水で濡らしたクロスでなでるように拭く工程があり、それによってムラのない仕上がりになるのだと思われます。
この種のツヤ復元剤や光沢復活剤は塗装ではないため、、しっとりしたツヤや潤いは時間の経過と共に徐々に低下し、見栄えの良さを維持するには定期的に塗布する必要があります。しかしケイ素系化合物を継続的に塗布することで紫外線のダメージを軽減でき、単に経年劣化に任せるよりはPP素材自体が保護されるメリットがあります。
旧車や絶版車はともかく、新車であっても何年か後にはPPパーツが白化するのは納得いかないのは無理もありませんが、塗装されたパーツであっても定期的なワックス掛けやコーティングを行わなければクリア層のツヤがなくなり劣化が進行することを思えば、PPパーツの復元コート剤塗布についても洗車後のメンテナンスの一環として定期的に行うのが良いでしょう。
- ポイント1・未塗装状態で使用されるPPパーツは紫外線や熱によって表面が白くカサカサに劣化する「白化」が避けられない
- ポイント2・PPパーツの塗装は難しいがケイ素系化合物(シリコーン)を塗布することでツヤを回復できる
- ポイント3・光沢復活剤の効果は永続しないので定期的な塗布が必要
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