
マフラーから白煙を吹くようになってしまった!?もしかしたらコンプレッション低下!?オイル上がりトラブル……!?。ピストンやピストンリングにまつわるトラブルは、想像した以上に数多く存在する。不調エンジンの原因を突き止める作業は、サンデーメカニックのスキルを高める、大切な作業かつ欠かすことができない作業でもある。
目次
分解したピストンからピストンリングを取り外す
ピストンリングを取り外すときには、プライヤーなどの工具は一切使わず、素手と指先でリングの合口を広げ、リング溝からリングを慎重に取り出そう。抜き取る際にも、リングの拡張は最小限にとどめ、無理に広げてはいけない。広げ過ぎると簡単に折れてしまう。特に、鋳造製ピストンリングを採用した旧車では、尚更である。4ストエンジンの場合は、トップリング、セカンドリング、オイルリングの3リングで構成されるが、70年代後半以降のオイルリングは3ピース構造となっていて、組み付け時には、エキスパンダーを先に組み込み、その後、上下のレールリングを片側ずつ正確に組み込もう。
リング単品で「合口隙間」を測定してみよう
分解したピストンリングの向きには要注意。合口付近のリング面にはマークがあるので、マーク側を上向にして組み立てるのが鉄則だ。しかし、仕様頻度が高く走り込んだエンジンの場合は、マークが擦れて消えてしまっていることも多い。4ストエンジンは、稼働中のピストンリングが溝の中で回っている。そんな状況からマークが消えて見えなくなってしまうのだ。オイル上がりが発生していたり、パワー感が無いエンジンを分解したときには、ピストンリングのコンディショを確認点検しよう。シリンダー内にに単品挿入したピストンリングの合口隙間を測定してみる。2スト、4スト、排気量を問わず、おおよそ0.3ミリ前後が合口隙間が標準値で、0.7ミリ以上は、ほぼ使用限度に達していると覚えておくのが良い。
ピストンクリアランスを簡易計測
まずはピストンに付着したカーボンを落とそう。このとき、カーボン除去ケミカルを使うのが基本で、耐水ペーパーなどで磨くのは間違い。磨くことでピストン本体寸法が削れてしまう可能性が大きいからだ。クリーニング後にピストン単品でシリンダー内へ収めてみよう。この際は、シリンダーの向きとピストンの向きを間違わないように合わせる。さらにシックネスゲージを利用して、スカート前後方向とピン側サイド方向のピストンクリアランスを簡易的に測定しよう。標準のピストンクリアランスに対して、明らかに厚いシックネスゲージが入る時には、ピストン摩耗もしくはシリンダー摩耗が考えられる。また、シリンダー内径のピストンリング摺動部と、リングが摺動しない下側に明らかな段差が無いか、目視と指先で確認してみよう。
3ピースオイルリングはエキスパンダーの向きに注意
オイルリングのエキスパンダーリングは、合口部分が曲がっていたり、バリが出ていないかルーペを使って確認しよう。この合口のコンディションがオイル上がりに大きな影響を及ぼすこが多い。組み付けの際には、カット側リング端部が上向き(画像参考)になるようピストンへセットしよう。
新品ピストン時こそ、特に注意深く確認
分解したピストンピンはメタルポリッシュで磨き、ピストンに差し込み不自然無くスムーズに作動するか必ず確認してから組み込もう。クリップを取り外したときにできる、リング溝のバリが作動不良の原因になることが多い。また、ピストン各部の点検を終えたら、スカート外周部のエッジをオイルストン(オイルを塗布して利用)や細かな耐水ペーパー(800番程度)で軽くさらって僅かに面取りを行なおう。特に、新品ピストンを組み込む際には、この面取り作業を実施しよう。作業完了後はパーツクリーナーで確実に洗浄し、組み付けの段取りに入ろう。
ピストン上面には様々な情報がある
カーボンが積もりに積もっていると何も見えないが、ピストントップのカーボンを落とすと、そこには刻印や浮き文字や矢印などがあり「矢印の方向」や「INマーク」「EXマーク」で、組み付け方向を確認することができる。一般的に4ストロークエンジン用ピストンで、吸排気バルブの逃げ=リセスが彫ってある場合は「バルブ傘径が大きな方をインテイク側」に組み立て復元しよう。
位置決めダゥエルピンを抜き取る際には
↑↑↑工具で直接つまむとピンが変形する↑↑↑
シリンダーに差し込まれているダウェルピン(ノックピン)を抜き取る際には、新品に交換するしないに関わり無く、プライヤーで直接つまんで引き抜こうとしてはいけない。本来なら指先でつまめばピンは抜けるが、抜けないときにはピン内径に合致したドリルの柄を差し込み、その状態でピンをプライヤーでつまむことで、ピンが潰れて変形しなくて済む。
- ポイント1・分解したピストンからピストンリングを取り外す時には折らないように作業進行
- ポイント2・分解したピストンリングは摩耗状況を数値と目視で確認しよう
- ポイント3・新品ピストンを組み込む際には、あらかじめ馴染み促進しよう
分解したピストンやピストンリングには少なからずガーボンが付着しているが、このカーボン除去の際に要注意なのが「専用ケミカル」を利用し“カーボンを溶かして除去”することだ。耐水サンドペーパーを利用して「カーボンを磨き落としてしまえば手っ取り早い!?」などと考えがちだが、磨く場所を間違えると、ピストンの寸法精度が著しく狂ってしまい、最悪で、メカノイズが発生したり、エンジン不調に陥ってしまうことがある。特に、ピストンリング溝内に溜まったカーボンを除去しようとして、リング溝内を磨き過ぎ=溝幅が広くなってしまうと、結果的にはスラップ音と呼ばれるピストンリング音が発生する原因となってしまう。2ストエンジンの場合は尚更だ。
カーボン除去の際には、専用クリーナーケミカルが各社から販売されているので、それらを利用するのがベストである。しかし、長時間浸し過ぎてしまったり、洗浄していることを忘れてしまうと、ピストン表面まで溶かしてしまうトラブルもあるので、作業時には十分注意しなくてはいけない。
メーカー発行のサービスマニュアルなどを参考にすると、ピストン&シリンダー間のピストンクリアランス限界値が15/100ミリ=0・15mmと驚くほど広い例もある。本来、ピストンクリアランスの測定には、ダイヤルゲージでピストンサイズを測定し、シリンダーボアゲージでスリーブ内径を厳密に測定して「その差をクリアランス数値」とするのが正しい測定方法だが、分解洗浄したパーツのピストンクリアランスをざっくりと知りたい際には、画像解説にもあるようなシックネスゲージを利用し、ピストン(前後スカート部の中心付近)とシリンダーの隙間に差し込むことで、大まかではあるが現状データを知ることができる。新車時のピストンクリアランスが20/1000ミリ=0・02mmだったと仮定すると、使用限度の15/100ミリ=0・15mmという数値が如何に大きいかは、シックネスゲージを反らせて、厚さ比較することでも体感的に理解できる。その違いには誰もが驚くはずだ。
限界値に達していないパーツを使っているからといって、まったく問題無いとは言えないことも知っておこう。限界値ギリギリのパーツでは、エンジンパワーおよびトルク感が極めて希薄な印象を受けることが多い。ちなみに2ストエンジンの場合は、ピストンクリアランスが限界値に近いと、驚くほどよく回るエンジンになる一方で、バイブレーションが大きく、パワフル感を得られなくなる傾向にあるようだ。
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