バイクの各部品が動く時には必ず摩擦が発生します。その性能を発揮する上で必須なブレーキやタイヤはさておき、摩擦は負の存在であり動きを悪化させ、部品を劣化させる原因となります。その摩擦を減らすのに使われるのが潤滑用のケミカルです。潤滑は部位によって求められるものが違い、沢山の種類があり初心者はどれを使っていいか分からないのも当たり前です。ここではそれらの種類と何に使うべきか、そして使い方を解説するのでメンテの前に手元に揃え、適切に使っていきましょう。

浸透潤滑剤

Raspene

浸透潤滑剤の代表選手とも言えるワコーズのラスペネ。プロの信頼も厚い製品です。

部品の動きが渋い場合の改善に使うケミカルとして多くの人が思い浮かべるのが、スプレー式の浸透潤滑剤で呉工業の55-6、ワコーズのラスペネが代表的な製品です。浸透潤滑剤はその名の通り高い浸透力を持ち、狭い隙間に入り込んで部品の動きを滑らかにしてくれます。防錆効果や洗浄効果も謳われている製品も多いです。入手が容易で身近な浸透潤滑剤ですが、風雨に晒されるバイクにおいて長期間の潤滑や防錆効果は望めません。また一部を除き金属用で、ゴムや樹脂への使用には適さない点も覚えておきたいところです。バイクにおける主要な使い方は、ボルトやナットが固くて緩まない時、ネジ山に浸透させるというもの。浸透力に優れた浸透潤滑剤を使えば狭い隙間からネジ山に入り込んで潤滑し、緩む可能性が高まります。その用途で使う時は、吹いてすぐ回そうとするのではなく、浸透するまで時間を置いてから回すようにしましょう。潤滑ばかりに目が行きますが、グリスと言ったしつこい油汚れの洗浄に高い効果を発揮するので、必携のケミカルであるのは間違いありません。

Raspene Use

高い浸透力を持つ浸透潤滑剤とはいえ、その効果をより高めるため、浸透させる時間を置くのが大切です。

 

鍵穴の動きが渋い場合にも使いたくなりますが、潤滑剤を使うことで内部に汚れを呼び、それにより不具合が起こる可能性があるので使用してはいけません。

ワイヤーオイル

スロットルケーブルやクラッチケーブルの潤滑に使うのがワイヤーオイルです。これらのケーブルは力を伝えるインナーケーブルとそれを覆うアウターケーブルで構成され、スムーズな動きを得るために潤滑が必要であり、動きがスムーズであることは寿命を伸ばすことにもつながります。ケーブルを長期間潤滑する上ではある程度の粘度が求められますが、かといって粘度が高すぎると長いケーブル全体に行き渡らせるのが難しくなります。専用設計されたワイヤーオイルは、浸透性と潤滑の耐久性のバランスに優れているのが特徴です。使用時はインナーとアウターの隙間に効率的に入れてるために、ワイヤーインジェクターを使います。

 

 

グリス

ベアリングや各種の軸やシャフトといった比較的大きな負荷がかかる可動部を長期間潤滑し、部品にかかる負荷を受け止める、また表面を覆いサビを防ぐために使われるのがグリスです。

 

使用には部品の分解が必須となりますが、その手間を掛けるだけの効果が得られます。グリスは浸透潤滑剤に比べ耐水性がありますが、それでも雨や路面からの水分により流れたり(このため水分が掛かる可能性が高い箇所はオイルシールやブーツで覆われる構造になっている車種が大半です)、時間の経過や汚れの吸着等による劣化が避けられず、適宜塗布のし直しが必要です。その際は汚れや古いグリスを落としてから、穴に刺すシャフト類や触れ合う平面同士に使う際は薄めに塗ります。グリスが留まるスペースがなく、多く塗っても無駄になるからです。かといって極端に少ないと効果も薄くなってしまうので、あまり神経質にならず、はみ出たら拭き取るスタンスで臨みましょう。

 

 

グリスのためのスペースが確保されているベアリングは、回転するボールやローラー全体に行き渡るようたっぷり塗るが基本の使い方になります。そもそもベアリングは大きな力がかかりつつ早く動く箇所に使われており、グリスまたはオイルで常時しっかり潤滑されている必要があるので、自分でできないにしても適期的なグリスアップは欠かしたくありません。

 

グリスを塗り、部品を取り付た後にグリスが外にはみ出してしまったら、汚れを呼ぶので拭き取っておきましょう。

 

グリスには使用部位や素材に応じて様々な種類があり、必要に応じて使い分ける必要があります。基本的には耐熱性がどの程度必要か、強い力が掛かるのか、塗布対象の素材は何かで選びます。グリスはオイルシールといったゴム部品や樹脂部品との相性が悪いものもあるため、これらに使うグリスは対応品と明記されたものを使いましょう。

グリスは主成分で潤滑性能を決定する基油と、基油をグリスらしい半固体状態にするために使われる増ちょう剤、特別な機能を持たせるための添加剤により構成され、よく見る製品は増ちょう剤により分類されていることが一般的です。以下は増ちょう剤で分類した主要なグリスとその特徴になります。グリスは異なるものと混ぜると性能が大きく低下するので、使用するグリスを変える場合、古いグリスは完全に取り除くようにします。

カルシウム石けんグリス

シャーシグリスとも呼ばれ、安価で耐水性に優れますが耐熱性に乏しく、低速・低荷重の場所(車の足回り等)に使われます。

リチウム石けんグリス

リチウムグリースやマルチパーパスグリスとも言われ、耐水性・耐熱性、機械安定性に優れ、幅広い部分に使えます。迷ったらこれです。

 

リチウムグリスに添加剤であるモリブテンを加えたのがいわゆるモリブデングリスで(一部リチウムグリス以外がベースになったものもあります)、耐荷重性能に優れリアサスペンションのリンクやスイングアームのピボット部などに使われます。

 

ウレアグリス

Urea grease

高温、高荷重部に使えるリチウム系グリス、ワコーズのBLG-U ブルーグリースです。

有機化合物であるウレア基を2個以上もつ様々な用途に使えるグリスで、同じ多用途のリチウム系グリスより耐水性、耐熱性に優れており、高温下の軸受・摺動部にも使えます。入手性ではリチウムグリスに劣り価格も高い傾向です。

 

ここまでは増ちょう剤による分類でしたが、グリスの性質は基油でも異なります。基油には鉱油系と合成油系、植物油系があり、鉱油系潤滑油を基油としたものが一般的です。合成油は鉱物油より高性能で、特定の性質を持たせるために様々な種類がありますがその分高価になります。合成油を用いたグリスでバイクで広く使われるのはブレーキやオイルシールの潤滑に使われるシリコーングリス(シリコングリスとも)やラバーグリスになります。

シリコーングリス

シリコーン系基油を使ったシリコーングリスは、金属対金属の潤滑性では劣りますが耐熱性・低温性に優れ、ゴムや樹脂への攻撃性が極めて低くいため多様な素材に使えるのが特徴です。ブレーキ関係のグリスの代表例といえます。ブレーキ関係に使う際は、安全のためブレーキパッドやブレーキシューの摩擦材、ブレーキディスク、ブレーキドラムに付着させないこと、使用中飛び散ってそれらに付着することにないよう、余分はしっかり取り除くことを徹底します。

ラバーグリス

ラバーグリスはその名の通りゴムへの使用を想定したグリスでブレーキ関係の循環を中心に使われています。ラバーグリスはこれまでのグリスとは異なり用途による分類であるため使われる基油などは製品で異なり(シリコーン以外の合成油を使った製品のほか、植物油を使った製品もあります)特性も変わってくるので購入時は特性をよく確認するようにしましょう。様々な製品がありますが一般的にシリコーングリスより安価と言えます。

 

ながながと説明してきましたが、メインはリチウムもしくはウレアグリス、スイングアームピボットやリアサスペンションのリンクと言った強い力が掛かる部分はモリブデングリス、ゴムや樹脂にはシリコーングリスと覚えておけば問題ありません。

スプレーグリス

スプレーグリスは、手軽に使え、手での塗布が難しいところの潤滑にも使えるスプレー式のグリスです。浸透潤滑剤と似ていますが、浸透力は劣る一方で潤滑に特化しており、粘度が高く、より長期の潤滑が得られ、高い圧力に耐えられます。スプレーで噴射できるようグリスに溶剤が混ぜられていて、噴射後空気に触れると溶剤が揮発し潤滑に適した粘度になるので、塗布してから少し時間を置くようにしましょう。

 

部品を分解せずグリスアップできる便利なアイテムですが、狭く奥まったところの潤滑は不得手で、手で塗るグリスより意図しない部分に付着する可能性が高くなります。使用時はグリス同様、余分の拭き取りをセットでしましょう。

 

スプレーグリスも一般的なグリス同様さまざまな種類があり、使い分けが必要です。上で紹介したのは金属部に使うことを想定した一般的なものですが、ブレーキを始めとしたゴム部用のスプレーグリスも、ブレーキキャリパーやフロントフォークのオイルシールに代表される分解が大変で狭いところにあるゴム部品の潤滑用として代替の効かないアイテムとして活躍してくれます。

 

 

ゴム対応スプレーグリスといえばシリコーングリススプレーが代表的。しかしホームセンターに行くと名前が似たシリコンスプレーをよく目にします。シリコンスプレーは金属だけでなく樹脂やゴムに対しベタつきを生むことなく保護艶出し、潤滑、滑りを良くすることができ、離型用にも使われる、浸透潤滑剤の立ち位置に近いケミカルです。シリコーングリススプレーとは用途が大きく異なるので、購入時には間違えないようにしましょう。バイクより内装用や窓周りのゴム部品用など自動車での活用例が多いアイテムと言えます。

 

各部の潤滑はなかなか面倒ですが、こまめに、かつ適切にすることで気持ちよく走ることができるだけでなく、愛車の寿命を伸ばすことができます。足回りのグリスアップは手間、技術、スペースの面でハードルが高いので、レバーやワイヤーといった作業しやすいところからチャレンジしていきましょう。

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