チョークやバイスターターは、フューエルインジェクション採用モデルには完全に無縁な存在です。それらは冷間時に混合気を濃くするため、レバーやケーブルで作動させることが多く、キャブ車にとっては必要不可欠。他車用のキャブレターを流用した際に純正チョークケーブルが使えないととても不便ですが、そんな時には汎用のケーブルを装着できることもあります。ハンダと真鍮棒さえあればできるケーブル長調整について紹介します。

カワサキZ1系のカスタムに使われることが多いCVKキャブレター

製造から半世紀を数えるような絶版車の中でも、カワサキZ1やZ2系統は今も人気の高いモデルです。吸気系は当然ながらキャブレターで、純正品のミクニ製VMキャブの中には経年劣化や破損によって機能が損なわれているものも少なくないようです。

そのため、ケーヒン製CRやFCR、またミクニ製TMRといった現代のスペシャルキャブレターに換装されるのも珍しくはありません。これらのキャブの成り立ちはレース用ではあるものの、あちこちにガタがきてオーバーホールを繰り返しても本調子にならない年季の入った純正キャブよりずっと扱いやすいという面もあります。

一方でレーシングキャブほどのパフォーマンスは求めないながら、扱いやすさで人気があるのがケーヒンCVKキャブレターの流用です。純正VMキャブの構造はスロットル操作によってスロットルバルブを直接開閉するピストンバルブ式で、エンジンの吸入負圧によってピストンが閉じなくなるトラブルを防止するためリターンスプリングの張力が強く、スロットル開度を一定に保つ際の保持力が重いのが特徴です。

一方CVKはスロットル操作によって開閉するのはバタフライバルブで、実際にベンチュリー口径を増減させるのは負圧ピストンと役目が分かれています。このため吸入負圧によってバタフライバルブが開きっぱなしになるリスクが低く、ピストンバルブ式に対してリターンスプリングが弱く、軽い力でスロットル操作できるのが利点です。

またゼファー400や750で使用されていたCVKキャブは、CVK流用カスタムが流行した時代は安価で流通していたので、FCRやTMRよりリーズナブルに選択できるのも魅力でした。
現在では中古CVKキャブの流通量が減少して価格も上昇しているため必ずしも安価なモディファイ手法とは言えない面もありますが、ラフなスロットル操作にも柔軟に対応する負圧キャブには今も一定の魅力と需要があるのは事実です。

冷間始動時に有効なバイスターターはやっぱり使いたい

ピストンバルブ式でも負圧式でも、キャブレターにはレバーやノブで作動する冷間始動時用の始動系が組み込まれています。それらは始動性が低下するエンジン冷間時の混合気を濃くする目的があります。
カワサキZ系の純正VMキャブは4連キャブの左端にあるレバーで操作するのに対して、ゼファー系のCVKキャブはバイスタータープランジャーをケーブルで作動させ、左ハンドルスイッチ部にあるチョークノブで操作します。

CVKキャブをカワサキZ系に流用する場合、Zの純正ハンドルスイッチにチョークノブはないので別途設置しなくてはなりません。キャブ本体のレバーで直接操作することもできますが、押している手を離すとリターンスプリングによって閉じてしまうためその場を離れることができずエンジン暖機が面倒です。

とはいえチョークノブを機能させるため左ハンドルスイッチをゼファー用に変更するのも絶版車のイメージには合いません。そこでチョークが機能するよう、汎用部品のチョークケーブルを流用して取り付けることにしました。

チョークノブをキャブレター横で操作できるようアウターとインナーを切断して調整する

調達したチョークノブは丸いノブが懐かしさを感じさせるNTB製のホンダシャリィ用で、いわゆるセンターチョーク仕様向けに製造されたもの。ケーブル長はシャリィにピッタリだが、カワサキZ系の車体にCVKキャブを取り付けた場合、ハンドル周辺にノブを設置できるほどケーブルは長くない。

すでに完成しているケーブルの全長を延ばすのは容易ではありませんが、短縮するのは比較的簡単です。チョークが機能する位置にノブを設置した上で、余分を切断すれば良いのです。CVKキャブのバイスターターは4連キャブの左側に向かってレバーをスライドさせて作動するため、チョークノブをキャブレターの左側に設置しました。

ケーブルを切断する際、アウターケーブルはキャブレターのレバーホルダーに収まる長さに調整し、インナーケーブルはチョークレバーのストロークに応じた長さに設定することが重要です。
その際はアウターケーブル端部に対するインナーケーブルの露出量が足りないことによるストローク不足に注意が必要です。インナーケーブルが短すぎてチョークノブを引っ張りきってもバイスターターが全開にならないと、チョークが充分に機能しないからです。

そうしたトラブルを防ぐには、アウターケーブルの長さを調整する際にインナーケーブルに充分な余裕を持たせておきます。具体的にはインナーケーブルのタイコを先に切り落としてアウターケーブル内に引き込み、アウターケーブルの長さを適切に調整してからインナーケーブルを戻します。

こうすることでインナーケーブルは切断されたアウターケーブルから充分長く露出するので、キャブレターのチョークレバーホルダーにアウターケーブルを仮固定してレバーのストロークを確認し、その上で開閉に支障の無い長さにインナーケーブルを切断すれば失敗のリスクが軽減されます。

真鍮棒から製作したタイコをハンダで固定する際はハンダポットがあればベスト

インナーケーブル長が調整できたら、キャブレターのチョークレバーのタイコ穴に適合するサイズの真鍮棒でタイコを製作します。イモネジでケーブルを固定するタイコが汎用品として販売されているので、それらを利用しても良いでしょう。

真鍮棒でタイコを製作する際はインナーケーブルをハンダで固定します。インナーケーブルを通した穴にハンダごてでハンダを流し込んでも良いのですが、その際は真鍮棒もケーブルも充分に余熱を加えてからハンダを流すことが重要です。ハンダ自体は200℃前後で溶けますが、タイコやケーブルが常温のままでは細部に流れ込む前に温度が低下して充分な強度を得られず、見かけ上は着いているようでも力を加えると簡単に抜けてしまいます。

ケーブルとタイコを加熱するにはハンダごてを密着させるのも有効ですが、ハンダポットという道具があれば効率アップを時短を両立できます。
ハンダポットは電気ヒーターで溶解したハンダを溜める壺のような道具で、タイコ部分の温度をムラなく上げながら液状化したハンダがケーブルの細部まで浸透してしっかり固定できます。

汎用チョークケーブルに合わせてステーを製作することで、ノブを引けばチョークが効いた状態をキープできるようになり暖機時の効率がグッと向上します。長いケーブルを短縮する加工は比較的簡単ですが、タイコの固定は確実に行うことが重要です。

今回の例のようなチョークケーブルであれば、万が一タイコが抜けても冷間時の始動に手間取るようになる程度で済みますが、ドラムブレーキのブレーキケーブルやクラッチケーブルでタイコが抜けると重大な事故やトラブルに直結します。そのためたとえハンダポットなどの道具や環境が整っていても、ブレーキケーブルのタイコ部分の加工は控えた方が良いでしょう。

そうした注意すべき事柄はあるにせよ、ケーブル長の調整テクニックを覚えておくことでいざというときには役立つことを知っておくと良いでしょう。

POINT

  • ポイント1・既存のケーブルを元にワンオフケーブルを製作する場合、延長するのは難しいが短縮は比較的容易にできる
  • ポイント2・ケーブル長を短縮する際は、作動時にインナーのストロークが不足しないよう充分に検討する
  • ポイント3・ケーブル端部に新設するタイコは簡単に抜けないよう固定する。ハンダを使用する際はタイコとインナーケーブルに浸透するようハンダポットを使用すると良い
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