ボルトやナットを回したり曲がったステーを修正したり、ホースクリップを着脱するなど、メンテナンスにまつわるさまざまな場面で活躍する「プライヤーレンチ」は、掴み工具の老舗ブランドであるクニペックスの人気アイテムです。一度手に取れば利便性の高さに納得するものの、DIYでバイクいじりを楽しむサンデーメカニックにとっては価格がネックでしたが、全国各地で店舗を展開するアストロプロダクツがデザインも機能もそのものズバリ! な工具を発売。その経緯と実際の使い勝手を紹介します。

クニペックスに酷似したジェネリックスタイルで発売できた理由

1800年代のドイツで創業したクニペックスは、ニッパーやペンチ、ウォーターポンププライヤーといった掴み工具に特化して製品開発と製造を行う工具メーカーです。
ドライバーからレンチ類、プライヤーも製造する総合工具メーカーと異なり、アイテムを限定したスペシャリストに徹することで機能を追求すると共に高品質化を図り、プライヤーだけで1000以上の製品をラインアップしています。
クニペックスを代表するプライヤーとして有名なのが、ウォーターポンプの「コブラ」と「プライヤーレンチ」です。特にプライヤーレンチは何かを掴むプライヤーとボルトやナットを回すレンチの機能が合体したユーティリティ工具としての画期的な機能が工具好きに知れ渡っています。

そんな人気工具を自社オリジナル工具としてリリースしたのがアストロプロダクツです。同社は全国200店にもなる大規模工具ショップで、独自に開発した自社製品や国内外の工具メーカーの製品を販売しています。
今回発売されたアストロブランドの「プライヤーレンチ」は、機能も見た目もクニペックス製「プライヤーレンチ」と瓜二つです。
スパナやドライバーやソケットレンチのソケットは、メーカーが異なってもおよそ似たような形状をしていますが、そうした汎用工具と比べるとプライヤーレンチは構造が独特であるため、アストロプロダクツの寄せ具合は半端ではありません。

場合によっては訴訟問題に発展しかねないところですが、最近になってクニペックスの特許期間が失効したことからいくつもの工具メーカーがプライヤーレンチの特徴と構造に倣った工具を製品化しており、アストロプロダクツもそのひとつとしてプライヤーレンチを発売しました。ちなみにプライヤーレンチという名称も一般名詞化したため、アストロプロダクツも製品名をプライヤーレンチとしています。

特徴その1・溝のないフラットなジョーが平行に開閉する

通常のプライヤーのジョー(あご)はジョイント部分が支点となってハサミのように開閉し、グリップを開くとジョイント部分近くよりジョーの先端の方が大きく開きます。そのためボルトやナットを掴む際は角部が点当たりになるのが一般的です。

これに対してプライヤーレンチのジョーは平行に開閉するため、ボルトやナットの二面を平行に掴むことができます。またジョーの接触面は溝(刻み)のないフラットタイプなので、掴んだ相手を傷つけづらいのも特徴です。

特徴その2・独自のジョイント構造でグリップを握る力が増力される

グリップにひねりの力を加えるとジョーもねじれるのがプライヤーの弱点のひとつです。これは通常のプライヤーに見られるような、二つの部品をジョイント部分で単純に重ね合わせた二枚合わせ構造の宿命です。
一方クニペックスは1970年代に誕生したアリゲーターや1980年代に登場したコブラといったウォーターポンププライヤーのジョイント部を三枚合わせ構造とすることで剛性を向上、ひねりに強いプライヤーを開発。その構造は1990年代にデビューしたプライヤーレンチにも踏襲されています。

またプライヤーレンチのジョイント部分には、グリップを握った力が増力されてジョーに伝わるようにテコの原理が採用されています。ボルトやナットをスパナで回す場合、六角頭とスパナには必ずクリアランスが必要で、それがガタとなります。モンキーレンチでも同様で、サイズを調整する際はボルトやナットの二面にピッタリ合わせても、グリップに力を加えるとジョーがスライドする方向に力が加わるためガタが生じます。

プライヤーレンチはグリップを握るほどジョーが閉じようとするためガタが生じず、結果的にボルトやナットの角部をなめるリスクが低くなります。また六角部のサイズがメトリックでもインチでも関係なく、クリアランスゼロで掴むことができます。

特徴その3・全長に対して開口幅が広い

一般的なプライヤーはジョーを大きく開くためにはグリップも大きく開かなくてはなりません。また支点の位置を2カ所選択できるとはいえ、支点からジョーの先端までの距離によって最大開口幅にはおのずと制約があります。
アストロプロダクツのプライヤーレンチは、全長180mmタイプの開口調節段数が15段で最大開口幅40mm、全長250mmタイプは19段調整で最大50mmまで開口幅が広がります。モンキーレンチはさておき、プライヤーでここまで大きくジョーが開くことはまずありません。モンキーレンチはボルトやナットを回すための工具ですが、プライヤーレンチはグリップの開閉によってジョーも開閉するため、掴み工具としてモンキーより汎用性が高いのが特徴です。

特徴その4・ラチェットレンチのように早回しができる

スパナやモンキーレンチでボルトやナットを連続的に回す場合、必ず工具を掛け替えなくてはなりません。
プライヤーレンチはグリップを握った分だけジョーが閉まろうとする一方で握る力を緩めればジョー簡単に開くため、ボルトやナットから完全にレンチを取り外すことなく連続的に回すことができます。その感覚はラチェットハンドルに近いもので、使い慣れるとスピーディな作業が可能になります。

特徴その5・信じられないほどリーズナブル

クニペックス製プライヤーレンチはプロメカニックにも愛用者が多い信頼の置ける工具ですが、DIYでバイクいじりを行うサンデーメカニックにとっては価格がハードルとなります。
新薬に対するジェネリック医薬品と同様に、アストロプロダクツのプライヤーレンチはクニペックス製と機能は同等ながら圧倒的にリーズナブルなのが最大の魅力です。

クニペックスでは全長違いやグリップの形状違いなど様々な製品をラインナップしていますが、アストロプロダクツが製品化した全長180mmと250mmの同仕様で比較するとどちらも60%以上も安い価格で販売しています。
先に述べた通り、プライヤーレンチの画期的な構造を実用化したのはクニペックスであることに間違いはありません。しかしその特許が切れたことで他メーカーが同じ構造を採用できるようになったのも事実です。

もちろんブランド工具に対するリスペクトは重要でオリジナリティは尊重されるべきですが、時代を遡ればT型ハンドルとソケットを分離できるようにしたり、ソケットを連続的に回せるラチェットハンドルが誕生したり、ボルトやナットの角部を傷めないための面接触が実用化された際も、最初は1メーカーのアイデアや特許だったものが後に一般化して普及するという道筋を辿っています。

これまでクニペックスに手を出しそびれていた人はもちろん、プライヤーレンチの存在を知らなかった人にとっても、アストロプロダクツのプライヤーレンチは注目に値するハンドツールであることは間違いありません。

POINT

  • ポイント1・掴み工具のトップブランドであるクニペックスのプライヤーレンチにまつわる特許期間は最近になって終了した
  • ポイント2・いくつもの工具メーカーがプライヤーレンチの構造を用いた製品を開発しており、アストロプロダクツのプライヤーレンチもそうした中のひとつとして登場した
  • ポイント3・アストロプロダクツ製プライヤーレンチはオリジナルの利便性を踏襲しながらリーズナブルな価格を実現
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