経年劣化によってガソリンが漏れ出した燃料コックが「非分解」で「廃盤」という状況下で、自己責任で修理してみようというのが前回に続く当記事の趣旨です。汎用品のゴム丸ヒモで純正部品に近い形状が再現できそうだと分かり、フッ素ゴム素材を入手して製作した自作パッキンは果たして使えるのでしょうか?
目次
DIYの燃料コック修理を行う是非とリスクをもう一度考えてみる
ゴムの劣化には膨潤と硬化の2パターンがあります。どちらも好ましくはありませんが、硬化や収縮、亀裂が入るタイプの劣化はガソリン漏れに直結するため厄介です。
前回の投稿で紹介したホンダCB1000スーパーフォアの燃料コックは、ガソリンを抜いて長期間保管したことでゴムパッキンが硬化して無数の亀裂が入り、数年後に給油した際にガソリン漏れが始まりました。
ゴムの劣化によるガソリン漏れは絶版車の燃料コックやキャブレターにとって珍しいことではなく、部品が入手できれば修理可能です。ところが1995年式のCBの純正部品はすでに販売終了となっており、さらにコック自体が非分解のアッセンブリー販売だったため、内部パーツの単品供給もありません。
オークションには中古パーツの出品もありましたが、同様の不具合の可能性が潜んでいることを考えると安直に落札するのも得策とは言えません。
改めて言うまでもなく、ガソリン漏れは車両火災に直結する重大トラブルです。自己責任とはいえ非分解の燃料コックを分解して汎用品のゴム丸ヒモで代用することの是非はあるでしょう。
しかし、実際にガソリン漏れしている燃料コックをそのまま使用することはできず、代替部品の有無とは別に廃棄しなくてはなりません。それなら「直ればラッキー」でトライしてみることは無駄ではありません。もちろん、やってみて漏れたら処分して代替案を考えます。
ゴム丸ヒモで自作できるか否かは元のパッキンの形状次第
カシメを削り落として大量のヒビ割れが入ったパッキンを確認したのは前記事の通りです。このパッキンを汎用のフッ素ゴム製丸ヒモで補修できるか否かは、パッキン形状にかかっています。
CBのパッキン形状は円形でも矩形でもありません。しかしコック本体のパッキン溝にφ2.0mmのゴム丸ヒモを沿わせると、カーブが急だったり折れ曲がることはなく、比較的素直に溝に収まりそうです。このような場合は修理できる可能性があります。
逆に、汎用の材料では再現できないような複雑な形状の場合は修理が難しくなります。このコックの場合、本体内部の2個のOリングはパチンコ玉のような球体を受けるため線径、直径とも専用サイズです。幸い破損していなかったため再使用できましたが、汎用のOリングではうまくフィットしないかもしれません。またよく見ると、経年劣化の影響かもしれませんがOリングの断面は丸ではないようなので、その点でも再現は難しいかもしれません。それに比べれば、コック本体と正面プレートの間に挟まるパッキンは形状も機能もシンプルです。
瞬間接着剤で端部を貼り合わせたら硬化促進剤をスプレーする
ゴムひもをパッキンとして使用するには、端部を接着して円環状にすることが必要ですが、その前にパッキン溝に収めて適切な長さにカットします。ゴムひもの長さを決める際はマスキングテープなどで要所を仮留めしながら、引っ張りすぎず弛ませすぎないように溝にセットしていきます。
そして長さが決まって切断した端部は、瞬間接着剤で張り付けます。ゴム丸ヒモにも複数の素材があるのと同様に、瞬間接着剤にも接着する素材に応じていくつかの種類があります。ここでは合成ゴムやエチレンプロピレンゴム、NBRなどの難接着物に対応する製品を選択しました。
また、直径φ2.0mmという小さな面積を接着する場合、瞬間接着剤であっても数秒から数十秒間張り合わせている間に接合部分がずれたり剥がれてしまうこともあります。そんな場面で重宝するのがスプレータイプの硬化促進剤です。硬化促進剤はその名の通り、瞬間接着剤を塗布した部分にシュッとひと吹きするだけで瞬時に接着剤が硬化します。
この性能により、パッキン溝に収めた状態で瞬間接着剤を塗布した部分がズレることなく一体化できます。
リング状になったゴム丸ひもを耐油型接着剤で溝に貼り付ける
瞬間接着剤で端部を貼り合わせたゴム丸ヒモは、仮留めしていたマスキングテープを剥がすと円形のOリングになります。リング溝の形状に沿ってくれれば最高ですが、そううまくはいきません。
リング溝の形状に合わせて押しつけながら、浮き上がる前にプレートで押しつけても良いのですが、接着剤を使用することで形状を安定させることができます。
ここで使用したのは合成ゴムや軟質塩化ビニールや金属板の接着に適したニトリルゴム系の溶剤形接着剤です。耐ガソリン性の液体ガスケットを使用しても良いのですが、このタイプの接着剤はメーカー純正の燃料コックやキャブレターにも使用されていることもあるので、パッキン溝の小さな曲線部分に点々と塗布してOリングを貼り付けました。一方で、正面プレートに接する部分はゴム自体のシール性を優先するため接着剤は塗布せず組み立てました。
削り落としたカシメ部分は新たにタップで雌ネジを切り、M3サイズのビスでプレートを固定しました。このM3サイズのビスは燃料コックが分解できるヤマハの旧車で使用されているもので、同様に純正燃料コックが分解できるカワサキGPZ900RもM3サイズのビスでプレートを固定しています。
こうして修理した燃料コックをタンクに装着してガソリンを給油、24時間観察してみましたが、コック本体とプレートの合わせ面からガソリンが漏れることはありませんでした。分解時の純正パッキンのヒビ割れ具合と比べれば、新品のフッ素ゴム丸ヒモのシール性が確かなのは言うまでもありません。
ただしこの状態を長期間に渡って持続できるかどうかは、さらに時間を掛けてみないと判断できません。半年、一年後にゴム素材が冒されて漏れ始めるかもしれません。しかしながら、コックのポジションにかかわらず燃料タンクが空になるまで滴り続けた、修理前の悲惨な状態から劇的に改善したのは事実です。
しつこいほどの繰り返しになりますが、ガソリンが関わる部品、それも非分解の部分を修理するのはリスクが伴います。今回のように首尾良く修理できる場合もありますが、部品の自作や代替ができず諦めざるを得ない場合や、直ったように見えても再び漏れ始めることもあるかもしれません。
ユーザーの気持ちとしては、そういう部品こそバイクメーカーが責任を持って供給して欲しいというのが本音ですが、そうはいかないのが現実です。
そうであるなら、失敗のリスクを念頭に置いて修理にチャレンジすることも意義あることだと言えるでしょう。
- ポイント1・非分解の燃料コックから生じたガソリン漏れをDIYで修理する際は再使用ではなく廃棄を前提に作業を行う
- ポイント2・汎用のゴム丸ヒモは瞬間接着剤で接着し、同時に硬化促進剤を使用すると接合面がずれずキレイに仕上がる
- ポイント3・DIYで修理した燃料コックは短期的に漏れなかったとしても、時間が経ってから滲みや漏れが生じることもあるので継続的なチェックが不可欠
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