
電熱ウェアやグリップヒーターを使用するライダーにとって、冬場のバッテリーコンディションの維持は重要です。バイク置き場の近くにコンセントがあれば、乗らない間はバッテリー充電器をつないでおけますが、電源がなければバッテリーを取り外して自宅内に持ち込まなくてはなりませんが、車種によってはバッテリーが簡単に取り出せないことも……。そんな時に役立つかもしれないのが梱包用の粘着テープです。
メンテナンスフリー化がメンテナンス性悪化の一因に!?
シート下トランクの大容量化はスクーターのアピールポイントのひとつで、メンテナンスフリーのバッテリーはどんどの隅に追いやられていくこととなる。
MF08型フォルツァの場合、カーペットをめくると前端の底部分にバッテリーカバーがある。
バッテリーカバーを外すとバッテリーとヒューズBOXがあり、ここで電気系のメンテナンスやチェックを行える。バッテリー上部を押さえるホルダーには切り欠きがあり、充電器のクランプを接続できる。
バッテリーはガソリンと並びバイクや自動車に欠かせない重要な要素です。燃料ポンプやインジェクションが必須となった昨今のバイクでは、ECUへの電力供給がなければ押し掛けも難しいこともあり、スクーターではそもそも押し掛けができません。
今となっては旧車や絶版車となった、1980年代以前のバイクに搭載されていたバッテリーは開放型と呼ばれるタイプが主流で、これは充放電を繰り返すことで電解液中の水分が蒸発し減少するため、定期的な蒸留水の補充が必要でした。ちなみに電解液とは硫酸を水で希釈した希硫酸で、このうち充放電で減少するのは水分なので取り扱いに注意を要する希硫酸を補充することはありません。
定期的なメンテナンスが欠かせない開放型バッテリーにとって電解液の量の確認や補水のしやすさは重要で、また液漏れを防ぐために垂直設置が絶対条件だったため、バイクメーカーが車体を設計する際にもバッテリーの着脱のしやすさを考慮していました。
しかし時代と共にメンテナンスフリーの密封式に進化し、傾けても液漏れしない搭載性の自由度が向上したことで、バッテリーの搭載位置も変化しました。
かつてはシートを取り外せばすぐ目に付く場所にあったバッテリーは、エアークリーナーボックスの下や燃料タンクの下に移動してしまい、車種によっては「しばらく乗れないからちょっと充電を……」といっても充電器を繋ぐのに苦労することも少なくありません。
そんな時に便利なのが、バッテリーターミナルに付けっぱなしにできる車両接続コードです。これがあれば、充電のたびにバッテリーターミナルを露出させて充電器のワニ口クリップでクランプしなくても、カプラーオンで充電が可能です。
最近の充電器はワニ口クリップと車両接続コード仕様の2WAYタイプが当たり前になってきており、ここで使用しているデイトナ製のディスプレイバッテリーチャージャーにも車両接続コードが付属しています。またデイトナでは、補修部品として車両接続コードを単品で販売しており、バイクを複数台所有しているオーナーはあらかじめバッテリーに取り付けておくことで、充電準備の手間を大幅に削減できます。
電解液の定期補充は不要になったものの、一方でバッテリーに簡単に手が届きづらくなったのは痛し痒しではありますが、メンテナンスフリーバッテリーのメリットを生かすための対応としては致し方ないのかもしれません。
バイク置き場に電源がなければバッテリーを取り出さなくてはならないが……
バッテリーターミナルに充電器付属の車両接続コードを取り付けておけば、補充電の際にいちいちバッテリーカバーを着脱する手間を省略できる。デイトナのコードはカプラー部分に防塵キャップが付くので安心。
スクーターの場合、クランプを使うより車両接続コードを使用した方が圧倒的にスマートに充電できる。バイクを複数台所有しているなら、すべてのバッテリーに車両接続コードを取り付けておきたい。
車両接続コードをバッテリーに常時繋いでおけば、充電器のコネクターを差し込むだけで充電開始できるのは間違いなく便利です。ガレージや自宅敷地内でバイクを保管しているライダーなら、これでバッテリーメンテナンスも安心です。
しかし共同住宅の駐輪場や、自宅でもバイク置き場にコンセントがない場合はそもそもAC100V仕様の充電器が使えません。
そうしたユーザー向けには、モバイルバッテリーに代表されるポータブル電源で作動する充電器もあります。デイトナの」ディスプレイ付バッテリー充電器ポータブル」はAC100Vと出力60W以上のPD(パワーデリバリー)対応のモバイルバッテリーで作動するため、電源コードなしでも使用できるのが大きな特徴です。
モバイルバッテリーはスマートフォンユーザーに普及しており、中には2個も3個も持っているという人もいます。12Vバッテリーを充電するため、電圧は一般的な5Vだけではなく最大20Vまで出力できるPD対応のものが必要ですが、これなら共同駐輪場でも充電が可能です。
それも難しい場合、車体からバッテリーを取り外して自宅の玄関などで充電器に繋ぐことになるでしょう。近年のバイクは物理的にバッテリーが取り外しづらいことは先に述べた通りですが、バッテリーを外すことで時計やトリップメーターなどのメモリーが消えてしまう可能性がある点にも注意が必要です。
ツイントリップメーターの一方をオイル交換時期の管理に利用している場合、バッテリーターミナルを外す前に記録しておくといった準備をしておくことも肝心です。
そうした準備の上でバッテリーを取り出す際にも、車種によっては難関が待っていることがあります。
スクーターのバッテリーはシート下のトランクルーム内にあることが多く、トランク容量を少しでも稼ぐために邪魔にならない場所に設置してある車種もあります。これも先に述べたように、メンテナンスフリーバッテリーは電解液の確認や補充が不要なため、日常的に触れる必要がないからです。
また限られたスペースを有効に活用するため車体を設計する際には無駄が極限まで排除され、その結果「取り出したい時に取り出せない」といった問題が生じる場合もあります。ここで紹介するホンダフォルツァ(MF08)の場合、バッテリーはトランク最下部のケース内に完全に収まっており、手で掴んで引き出そうとすれば相当の握力(指力)が必要です。このため純正バッテリーには、梱包用のPPバンドのような「バッテリーリフトテープ」という専用部品が巻いてあり、これを掴んで持ち上げるようになっています。
しかし以前のバッテリー交換時にこのテープが処分されて、バッテリーだけがケース内に落とし込まれてしまっていると厄介です。
上面にガムテープを貼るだけで重いバッテリーが簡単に取り出せる
T字型に折り曲げたテープを上面に貼り付ける。砂やホコリで汚れていると粘着力が落ちるので、ウエスで脱脂清掃してから貼るのが良い。
メンテナンスフリーバッテリーは開放式バッテリーのように電解液の補充が不要で、家の中で充電する際も安心。デイトナ製のディスプレイバッテリーチャージャーは充電終了までの所要時間が表示されるのが便利。
バッテリーケース内にはまり込んだバッテリーは、プラスとマイナスのケーブルを外すのは簡単ですが、四方の隙間が少なすぎて指で掴むための余地がありません。だから純正部品としてバッテリー本体に巻くヒモが設定されているのです。
そのヒモがない状態でバッテリーを取り出すには梱包用の粘着テープ、いわゆるガムテープが有効です。
使い方は簡単で、15~20cm程度に切ったテープを途中で折り曲げてT字型にして、Tの横棒部分をバッテリーの上面に貼るだけです。貼り付け面に砂やホコリがある時はパーツクリーナーをスプレーしたウエスでサッとひと吹きしておけばなお良いでしょう。
たったそれだけで? と思うかもしれませんが、たったこれだけのことで指で掴もうとしてもツルツル滑って持ち上がらないバッテリーを簡単に取り出すことができます。
フォルツァの場合は吊り上げて取り出しますが、バッテリーケースから横向きにスライドさせて引き出す車種であっても、ガムテープを貼るだけで楽に取り外すことができます。
単体で充電したバッテリーを戻す、ガムテープのつまみがあれば落下のリスクなく収納できます。
もちろんバッテリーリフトテープを巻くのが最善ですが、純正部品でなくてもPPバンドを一巻きしておくだけで次にバッテリーを取り出す際の手間が大幅に軽減できます。その場合、巻くテープやヒモの種類によってはバッテリーとバッテリーケースが強く干渉することもあるので、両者のクリアランスを確認してなるべく薄い素材を用いるのが無難です。
昔に比べて各部のメンテナンスフリー化が進んだ分、以前であれば簡単にアクセスできた部品にも触りづらくなっているという面もあるのが近年のバイクです。
補充電によってより良い状態がキープできるバッテリーでも充電器が繋ぎづらいという難点があるのも事実です。「メンテナンスが必要なのは分かるけど面倒だし……」と先送りする間にバッテリーが上がって動けなくなる前に、バッテリーの搭載位置やバイク置き場に応じた充電準備の方法を考えておくことが大切です。
- ポイント1・メンテナンスフリーバッテリーの普及によって車両搭載位置の自由度が増した代わりにバッテリー充電などのメンテナンス性が悪化した車種もある
- ポイント2・車載状態でバッテリーを充電する際に、バイクの近くに電源がない状況でも使えるモバイルバッテリー使用可能の充電器もある
- ポイント3・バッテリーケースとバッテリーの隙間が少なく簡単に取り出せない場合、ガムテープなどでによるきっかけが有効に作用することもある
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