
スイッチ操作でウインカーやヘッドライトのハイ/ロー切り替えができるのは当たり前。しかし年式の古いバイクではスイッチの動きが渋かったり、時折ライト類の反応が鈍かったりすることも。そんな時はスイッチボックス内の接点を確認してみましょう。潤滑不良で接点が摩耗したり、水分の浸入による接点の腐食を発見したら、適切な対処が必要です。
スイッチボックス内は摩擦や摩耗の巣窟!?
画像はカワサキKZ1000Jの左ハンドルスイッチ。現代のバイクにくらべて各部の作りがゴツく、操作時の滑らかさも少ない。その上に40年の時間経過が加わり、動きはかなり渋くなっている。無理に使い続ければ樹脂製ノブにダメージが加わる可能性があるので、メンテナンスが必要。
ウインカーやホーン、ヘッドライトのハイビーム/ロービームを切り替えるディマースイッチなど、電気系の中の灯火類コントロールの中枢であるハンドルスイッチ。それぞれのスイッチを左右にスライドさせたり押し込むことで、内部の接点が切り替わったり接触して電装部品が作動しています。
電気回路にとって接点はとても重要で、潤滑不良で滑りが悪ければ摩耗の原因となり、症状が進めば接触不良の原因となります。またスイッチボックスに雨水などが浸入した状態が続けば接点が腐食する要因となり、スライド部分や軸部のグリスが失われれば接点以外の可動部の摩耗につながります。
製造から日が浅い、年式の新しいバイクではこれらの不具合が現れることはそれほどありませんが、10年を超える頃になるとメンテナンスや手入れの有無が部品の状態に影響することもあります。
スイッチボックスを部品として入手する場合、アッセンブリー状態で購入するしかありません。しかし年式が古い機種の純正部品は販売終了になっていることも多く、さらに想像以上に高価です。
だからこそ、スイッチボックスを丸ごと交換となる前に、接点や可動部分のメンテナンスやグリスアップが重要となるのです。
- ポイント1・経年劣化による接点や可動部の劣化に要注意
- ポイント2・スイッチ内部の個別部品は入手困難
構造は単純でも組み立て方が複雑な場合もある
スイッチボックス自体を着脱したことのあるライダーはいるだろうが、ボックス自体を分解清掃するには慎重さが必要。仕組みは簡単だが、組み立て方が複雑なのだ。サービスマニュアルにもスイッチボックスの分解手順は示されていないので、愛車のスイッチをしっかり確認してから作業を行う。
多くの機種のスイッチボックスは、構造自体はそれほど複雑ではありません。サンプルとして取り上げている、1980年頃のカワサキKZ1000J用左スイッチボックスにはウインカーとハザード、ディマースイッチとホーンボタンがあります。ウインカースイッチは現在のようなプッシュキャンセルタイプではなく、単純に左右にスライドさせるタイプです。
電気接点としてのスイッチを仕組みで分類すると、ライダーの指で触れるノブ、ノブと連動して動く可動片、可動片に組み込まれる接点となります。可動接点の相手はスイッチボックス内に固定された基板に固定された固定接点です(それぞれの部品には異なる呼び方もあります)。
接点にはホーンボタンのように一系統の電気の流れを断続するような単純なタイプと、ディマースイッチのようにハイビームとロービームの動作を切り替えるものがあり、それぞれで構造が異なります。また接点が取り付けられている可動片は、操作感に節度を持たせるための仕掛けが組み込まれている場合が多いです。
そのため、可動片と固定接点は「接点」と「スプリング」と「鋼球」が組み合わされた複雑な構造を採用している例が少なくありません。スイッチボックスは分解を前提としておらず、前述の通りアッセンブリー状態で販売されているため(スイッチボックス外側から交換できるノブのみ単品販売されている機種もあります)、分解時に小さなスプリングや鋼球を紛失したら復元は不可能です。
またそれぞれの部品の組み付け順序を誤れば、スイッチが正常に作動しないのは当然のこと、電装品も正しく点灯しなくなるので、分解時には各部品がどのように組み付けられているかを充分に観察して、必要であればスマホなどで画像を残しながら細心の注意を払いつつ分解することが必要です。
このスイッチは樹脂の可動片に樹脂のノブが挿入されて、爪で引っ掛けてある。爪が折れればノブが取れてしまうので、分解時に無理な力は禁物。
取り外した内部パーツはパーツクリーナーで洗浄して、接点の荒れや腐食、酸化皮膜で覆われていたら不織布やスチールウールで磨いておく。
- ポイント1・スイッチボックス内は細かい部品がいっぱい
- ポイント2・分解前の状態を画像で残しておくのは有効
洗浄とグリスアップで驚くほどスムーズに動く
接点自体は収まる場所にしか収まらないが、鋼球にテンションを加えるスプリングに長さ違いがある場合は、セットする場所を間違えないように注意する。所定より短いバネを組むとクリック感が小さくなり、長いバネを組むとノブの動きが悪くなる。
接点の裏側に入る小さなベークライト片は重要な絶縁体となる。これを入れ忘れるとスプリング、鋼球が導体となって短絡(ショート)の原因となる。純正部品として組み込まれている場合は絶縁が必要な場所なので、復元時には忘れないように。
製造から40年も経過したスイッチボックスの分解では、さまざまな注意が必要です。もっとも気をつけるべきなのは、経年劣化で硬化した樹脂部品の破損です。このカワサキのスイッチノブはディマーもウインカーも樹脂製で、樹脂の可動片と組み合わされています。
接点部分の分解清掃ではノブを取り外しますが、この時に絶版車用の樹脂部品を破損すると面倒なことになるので、構造を入念に観察して無理な力を加えないように作業します。またスイッチボックスから可動片と固定接点を取り外す際も、スプリングや鋼球の飛び出しと紛失に充分に注意します。大きめのビニール袋の中で作業するのも、部品の紛失防止に有効なアイデアです。
慎重に取り外した部品は、接点なら接触部分の摩耗や腐食、可動片ならグリスや鋼球の固着を確認しながらそれぞれを洗浄します。長い年月を経たグリスは、もう単なる泥のようになっているかもしれないので、パーツクリーナーと綿棒、ブラシを活用して丁寧に取り除きます。また接点が酸化皮膜で汚れている時は、スチールウールや不織布で磨いておけば、今後の接触不良を予防できます。
洗浄が終わった部品は、潤滑と防錆を兼ねてシリコングリスを塗布します。シリコングリスは樹脂素材に悪影響を与えないので安心して使えますが、塗りすぎは作動抵抗増加の原因になるのでほどほどにしておきます。各部品をスイッチボックスに復元する際は、接点端子や絶縁用のベークライト小片が組み付け場所からずれていないか、鋼球とスプリングが正しい順番になっているかなど、分解時よりも慎重な確認が必要です。
ウインカースイッチのグリスが劣化すると、まるで粘度をこねているかのような抵抗を感じることがありますが、洗浄と適度なグリス塗布によって操作にカチッとした節度が出て、ノブの動きが圧倒的に滑らかになります。すべてがスイッチボックス内部のことなので、作業後も見た目は何も変化がありませんが、ライディング中に常に操作する部分なのでとても満足度の高い作業となるはずです。
スイッチ操作が渋いと感じるなら、一度チャレンジしてみると良いでしょう。ただし内部パーツを破損、紛失すればアッセンブリー交換となる可能性が高いことは充分理解した上で作業することが重要です。
可動片に組み付ける鋼球にはシリコングリスを塗布する。薄すぎると樹脂部品を摩耗させ、塗りすぎると抵抗になって重くなるので、ほどほどの量にしておく。
表面を磨いた接点はスライドさせても滑らかで、グリスを塗布することでスムーズさがアップする。こうした手間を掛けることで、スイッチの操作性は大いに向上する。
- ポイント1・樹脂部品の潤滑にはシリコングリスが最適
- ポイント2・洗浄とグリスアップによる操作性向上は明確
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