普段その働きに気が付かないけれど大事な働きをしているのが電気。バイクはガス欠したら止まってしまうのは当然ですが、電気が切れても止まっていまいます。バイクは常に発電しながら走りますが、エンジンを掛ける前に発電はできず、また信号待ち等、アイドリング時は十分な量発電できていないので、そういったときに使う電気はバッテリーから供給されます。そのバッテリーは扱い方によっては状態が悪くなり、また寿命もあります。状態をチェックし早めに対処すれば寿命を伸ばしたりトラブルを避けられるので、ぜひメンテの方法を身に付けよう。

必要な道具

マルチテスター(サーキットテスター)

電気部品を扱うときの必須品で、目に見えない電気を数字として見えるものにしてくれます。バッテリーのメンテでは電圧を測るのに使います。計測するのは直流電圧で、まずどんなテスターにも付いているので間違えてしまうことはないでしょう。

 

充電器

放電したバッテリーを充電するためのものです。対応する電圧、バッテリー形式があるので、愛車に付いているバッテリーに合ったものを用意しましょう。

 

バッテリーの種類

バイクに使われているバッテリーは大きく分けて鉛バッテリーとリチウムイオンバッテリーがあります。主流なのは鉛バッテリーで、鉛製の電極板と電解液(希硫酸)で構成される歴史が長い形式で、現在も多く使われます。鉛バッテリーには種類があり、旧車でよく見られる開放式および現在主流のメンテナンスフリー(MF)バッテリーとも呼ばれるVRLA(充電弁)式でメンテの方法が異なります。

MFバッテリー

デイトナ製のメンテナンスフリー鉛バッテリー

MFバッテリーはより繊細な充電電圧制御が必要です。開放型バッテリー世代のバイクはその制御性能が低く(古い機種だと電圧制御そのものをバッテリーに丸投げしているものもあります)、MFバッテリーを取り付けると爆発の危険性があるので、絶対使ってはいけません。

リチウムイオンバッテリーは電極にリン酸鉄リチウム正極活物質を使ったもので、鉛バッテリーよりエネルギー密度は3倍で重量も軽く自己放電が低いバッテリーです。歴史は浅くアフターマーケットでの展開が主ですが一部車種では純正で使われています。これも充電には繊細な制御が必要で古い設計の車種には使えません。また充電する際は、専用の充電器が必要になります。

バッテリーには定格電圧があり、近年の車両は12Vで古い車両だと6Vもありますが、バイク用としては開放型鉛バッテリーしかありません。バッテリーには他にも形状やサイズといった様々な規格があるので、交換時はそれをしっかり確認し新車搭載時と同じ規格のものを選びましょう。

普段のメンテナンス

バッテリーのことを考えるなら、普段から負担をかけないことが第一です。エンジンを掛けないままライトが点いた状態にする、多くの電気を消費するアクセサリーを使わないことがそれに当てはまります。大量の電気を放電、そこからの充電を繰り返すとバッテリーの寿命を短くしてしまうからです。
適切な使い方をしていても開放式鉛バッテリーはメンテが必要です。開放式は充電の過程でバッテリー液中の水の蒸発と電気分解によりガスが放出されバッテリー液が減るので(特に気温が高い時)、定期的に点検し液面がバッテリー側面にある下限の線より下にあった場合、上限線まで補充します。

 

バッテリー液補充

液口から液面がUPPER(上限)に達するまで補充します。

バッテリー液が少ない状態で乗り続けると寿命を縮めるだけでなく、爆発の可能性もあります!通常であれば頻繁な補充は不要ですが、バッテリー液が短期間で減る場合、充電電圧を制御するレギュレーターの故障が疑われます。

MFバッテリーは特殊構造によりガスを吸収するためバッテリー液が減ることがなく補充は不要です。

ただ開放式を含め、長期間乗らないとバッテリーは自然放電してしまうので、冬の期間数カ月は乗らないといった場合、それを避けるためバッテリーのマイナス端子から配線を外しておきましょう。

バッテリーの点検

セルモーターの回りが遅い、アイドリング状態でライトが暗い、ウインカーが光るけれど点滅しないといったことがある場合や長期間乗らなかった時はバッテリーが放電してしまっている可能性があるので、バッテリーの電圧を測って必要に応じて充電します。バッテリーの充電状態は電圧で判断できるためです。点検の手順は以下の通りとなります。

1 シートを外すなどしてバッテリー端子が見える状態にする

車種により手順が異なるので取扱説明書を確認します。

2 プラス端子のカバーを外す

バッテリーのプラス端子にはショートを避けるため通常赤いカバーが付いているので、それを外して端子を露出させます。

3 メインスイッチをOFFにした状態でマルチテスターを使ってバッテリー電圧を測る

マルチテスターを扱ったことがない人はピンとこないかもしれません。マルチテスターは電圧、電流、抵抗等が測れるので、直流電圧(DCV)モードにします。そのモードもテスターによっては測定レンジの設定があります。バッテリーの電圧は0.1V単位で判断する必要があり、何百Vといった高い電圧が測れるレンジだとそれが分かりにくいので、12V以上を測れるもので一番小さなレンジにします(今回使ったテスターでは最大20Vのレンジを使っています)。レンジを設定したら、赤いテストペンをバッテリーのプラス端子に、黒いテストペンをマイナス端子に当てると、バッテリー電圧を測ることができます。

バイクや乗用車のバッテリーは12Vと言われますが(旧車では6Vもあります)、実際バッテリー電圧が12Vだと低すぎで、一般的に12.8Vが正常とされます。12V台前半なら充電器を使って補充電しましょう。

この時、同時に充電電圧の測定をしておくことをおすすめします。やり方としてはバッテリー電圧測定と同じですが、メインスイッチOFF=エンジン停止状態ではなくエンジンをかけて行います。正常であればテスターは13.5~15V程度を示すはずです(車種により適正値は異なります)。これが低いとバッテリーへの適正な充電ができず、すぐバッテリーが上がる症状が出ます。高すぎるとバッテリー破損の原因になるので、まずバイクの充電装置の修理を検討しましょう。

点検時、バッテリー端子に白い粉が付いていたらお湯で洗い流します。この粉は寿命のサインであることもあるので、使用期間が長いなら交換を考えるのも手です。また腐食が見られたら真鍮ブラシで取り除いておきましょう。

 

バッテリーの充電

電源が用意できるなら車載でも充電はできますが、そうでない場合が多いのでバッテリーを外す手順で説明します。
バッテリーを外すためには、端子から配線を外す必要があります。この時、絶対にマイナス端子から外すことを徹底します。

バッテリーの電気は、プラス端子から専用の配線を通って各電気部品に送られます。送られた電気はバッテリーのマイナス端子に戻るのですが、その通り道にはアース=車体が使われることが多いのです。つまり、電気が通る車体の金属部分はすべてマイナス端子であるといえ、プラス端子と車体が接触すると回路が成立、想定外の電気が流れて(これを短絡またはショートと言います)、電装部品が壊れたり火災の原因になります。物理的にプラス端子が直接車体に触れる可能性は高くありませんが、端子から配線を外す過程および取り外した後に思いがけず他の部品や工具などが橋渡ししてショートしてしまうことがあります。車体とマイナス端子が接触しても問題は起きないので、安全に外せるマイナス端子を最初に外して電気の通り道を遮断し、ショートを防ぐのです。これは電装部品を取り付ける時、マイナス端子を外す理由でもあります。外した配線はバッテリー取り外し時に端子に触れないよう、大きく避けておきましょう。

これでバッテリーを取り出せますが、開放型の場合、側面にあるガス排気口にホースが接続されているので、これを外してから取り外します。

バッテリーのホース

開放型バッテリーの側面には、ガスやバッテリー液が通るホースを取り付けます。

取付時に車体に通すのが面倒でなければ丸ごと抜いても構いません。このホースは充電時に発生する有害なガスをライダーから遠ざけ、こぼれたバッテリー液が直接車体に当たって傷めないためのものなので、充電完了後は必ずバッテリーに接続し、車体の指定された位置に通されているかチェックします。

バッテリーホースの通し位置

バッテリーのホースは車体へダメージを与えないよう通すところが指定されています。車種によってはバッテリーケースに指示があります。

 

バッテリーの端子と配線はネジで留められていますが、端子にはそのネジと噛み合うナットがあります。小さくてなくしやすいので、落とさないよう外したネジを取り付けておきます。

 

バッテリーを外したら充電します。開放型バッテリーの場合、充電時に引火性のある水素ガスが発生するので、火気のない風通しの良い場所で作業することが重要です。

充電器側に形式や電圧の設定がある場合、使用バッテリーに合わせて設定します。MFバッテリーを開放式のみに対応した充電器を使うと爆発の危険性があるので絶対に使ってはいけません。次に充電器をつなげていきますが、充電器の電源が入っていると接続時火花が散るので電源をOFFにした状態で、プラスマイナスを合わせてプラス、マイナスの順で接続しましょう。

 

開放型バッテリーの場合、前述した通りガスが発生するので液口栓を外しておきます。

MFバッテリーにもよく見ると栓がありますが、いかなる場合でも外してはいけません。

 

準備が整ったら充電器の電源を入れ充電します。放電具合にもよりますが充電には数時間掛かります。充電器は充電具合が分かるようになっているので、様子を見て充電を終えます。製品によっては満充電になれば自動的に充電が終わるものもありますが、いずれにしろ、特にMFバッテリーの場合は時折バッテリーが異常発熱していないか確認し、もしそうだったらすぐ充電を止めます。

充電開始後すぐ満充電になる場合、逆に24時間以上経っても完了しない場合はバッテリー不良(寿命)の可能性が高いです。前者は、マルチテスターで計測してみても正常と言える電圧(13Vほど)が出るのですが、短時間で電圧が大きく降下します(正常な場合でも充電直後はそれ以降より少し電圧が高くなります)。怪しい場合、充電後30分程度経ってから再度電圧をチェックしてみましょう。

 

補充電作業に問題がないのにいざ使ってみると短期間でまた補充電が必要になる場合、上記した車載時の充電電圧に問題なければメインスイッチがOFFでも電気が流れる暗電流が発生している可能性があります。その点検と対処は初心者レベルを超えるのでここでは割愛します。疑われたらショップに相談しましょう。

充電が無事終わったら、開放型であれば液口栓をつばがバッテリー本体に密着するまでしっかり差し込みます(車体取付時、ガス用ホースの接続も忘れずに)。それから車体に正しい向きセット。端子に配線を接続しますが、外す時とは逆にプラス、マイナスの順に取り付けます。これはもちろんショートを避けるためです。このとき、ネジの締付け具合が弱いと接触不良を起こすのできちんと締めておくこと。配線接続後はプラス端子を覆うカバーも忘れず取り付けましょう。


改めて接続状態を確認し、問題がなければメインスイッチをONにしてエンジンが始動するか、ライト類が正常に動作するかをチェックします。以上で補充電は完了です。

パルス充電

鉛バッテリーは放電時、電極に電気を通さない硫酸鉛が生成されます。これをサルフューションといい、できたばかりのサルフューションは柔らかく、充電するとバッテリー液に溶け込みます。しかし長期間放置したり、充電と放電を長期間繰り返しているとサルフューションが硬くなってバッテリー液に戻らなくなり、劣化の大きな原因となります。このサルフューションを電気的に解消させるのがパルス充電です。この機能を備えた充電器を使えばバッテリーの寿命を伸ばしたり、弱ったバッテリーを復活させる効果が期待できますが、あまりに劣化がひどいものを復活させるのは難しいのが実情です。その手順は充電器側の設定を除き、補充電と同じです。

まとめ

電気は目に見えないからと敬遠する人は多いですが、マルチテスターさえあれば点検は難しくありません(メーターに電圧表示機能がある車両ならそれすら不要です)。ショートは危険ですが、それを避ける手段もまた難しいものではありません。どんなメンテでも同じですが、こまめに面倒を見ていれば問題にあう可能性を減らせ、寿命を伸ばすことができます。ただバッテリーは気を配っていても予兆なく寿命を迎え突然バイクが止まってしまうことがあるので、ある程度使ったら定期的にバッテリーを交換するのが有効であることを、最後に付け加えておきます。
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