
電気の通り道である配線ケーブル。その配線ケーブル同士の接続には樹脂でできたカプラーや金属製の端子(正式には圧着端子)が使われています。新車をノーマルで乗る場合、意識することはまず無いと言えますが、カスタムでウインカーに代表される灯火系パーツを取り付ける場合、自分で端子を付けなければいけないことがあります。また前オーナーが取り付けたそれらのパーツが点灯せず、確認してみたら端子が正しく取り付けられていなかったのが原因だった、というのはよくあることです。そんなときに役立つ端子の取り付け方を、代表選手であるギボシ端子を例に解説していきます。正しい道具を揃えた上で作業すれば難しくないので、チャレンジしてみよう。
端子の種類
配線接続に使う端子には多くの種類があります。闇雲に端子やその加工をする道具を買ってしまうと使えないことになるので予習が必要です。端子には大きく分けてクローズドバレル端子とオープンバレル端子があります。クローズドバレル端子とは、配線ケーブルの芯線を通して固定(“圧着”や“かしめる”と言います)する部分が閉じた筒になっているもののことです。裸圧着端子と絶縁被覆付圧着端子に分けられ使う道具も違います。
対するオープンバレル端子は配線固定部が開いた2つの爪(芯線を固定するワイヤーバレルと被覆部を固定するインシュレーションバレル)になっていて、芯線と被覆の2箇所を圧着します。バイクや車で用いられているのはこちらです。
オープンバレル端子にはギボシ端子、平型端子(ファストン端子)、丸端子、クワ型端子、端子同士をつなげる部分が配線固定部に対し90度曲がった旗型端子等の種類がありますが、取り付け工具は基本的に同じです。カプラーも、配線ケーブル1本1本にカプラー用のオープンバレル端子を取り付け、その端子を樹脂製のハウジングに差し込む構造となっているのでオープンバレル端子の仲間と言えます。
使う道具
端子に種類があるように取り付け工具にも違いがあります。裸圧着端子用、絶縁被覆付圧着端子用、オープンバレル端子用(形状が特殊な旗型端子は別になります)があり、共用はできないので必ず専用品を使います。ただ専用品と言ってもDIYなら端子の圧着だけでなく配線のカット等もできる電工ペンチで十分です。
電気工事士といったプロは作業性と精度の面から特定の種類の端子の圧着しかできない圧着工具を使うので、こだわり派は圧着工具を買いたくなるかもしれませんが注意が必要です。 エーモン製電工ペンチ。先端部は裸圧着端子とオープンバレル端子を、中央部は絶縁被覆付圧着端子を圧着できます。
電気工事で多用されるクローズドバレル端子は構造がシンプルでサイズも種類が少ないため、1つの圧着工具でほとんどの場面に対応できます。一方オープンバレル端子は大量生産の工場で使われることが多く、その多様なニーズに合わせるためサイズが非常に多彩です。一般的に出回っているオープンバレル端子用圧着工具は、電気工作における細い配線用であることが多く、バイクや車に使われている比較的太いサイズには対応していないものは少ないのです。あったとしてもかなり高価なことがほとんどなので、DIY程度なら電工ペンチが安価かつ安心なのです。ただ一口に電工ペンチといっても裸圧着端子用、絶縁被覆付圧着端子用があるので、必ずオープンバレル端子に対応したものであることを確認しましょう。各端子を含む自動車向けの補修用電装系部品を販売しているエーモンの製品なら、相性を含め問題なく使えることでしょう。
端子を圧着するためには、配線ケーブルにあるゴム製の被覆を剥く必要があります。この作業は電工ペンチでもできますが、専用のワイヤーストリッパーがあるとより作業性が上がるのでおすすめです。 電工ペンチのこの部分で配線ワイヤーの被覆を剥くことができます。
こちらはベッセルのワイヤーストリッパー。値段も手頃なので配線加工をよくするなら持っておくと便利。
配線ケーブル
端子とセットとなる配線ケーブルには太さがあります。これは流す電気の量によって決められ、太いほど多くの電気を流すことができます。
圧着工具で圧着する場合、端子のサイズで工具における圧着する位置を変えますが、電工ペンチでオープンバレル端子を圧着する場合、配線ケーブルの芯線の太さで使う場所を変えます。また被覆を剥く時も配線ケーブルの太さに合わせて使用場所を変えないと、うまく被覆が剥けなかったり、電気が通る芯線を切ってしまうので気をつけましょう。
配線ケーブルの太さは芯線の太さが基準となって分類されます。分類に使われる規格はいくつかあり、UL規格のAWGとJIS規格のSQがあります。AWGはアメリカで一般的に使われた規格でゲージとも言われ、AWG+数字で表記されます。この数字が大きくなるほど細くなり、例えばAWG17だと直径は1.15mmに相当します。SQはスクエアの略で芯線の断面積(mm2)を意味していて、数字+スケと呼ばれることが多いです。電工ペンチやワイヤーストリッパーに対応するサイズが書かれているので、そこを使って被覆を剥きましょう。
オープンバレル端子の圧着の手順
工具によりサイズ表記が異なる場合があるので、ここではエーモンの電工ペンチを例に解説します。ゼロから配線を作る場合、必要な長さに配線ケーブルをカットします。
これからは既存の線に加工する場合と同じで、まず使う端子に合ったスリーブを配線ケーブルに通します。 端子を圧着した後だと入れられないので最初にスリーブを入れます。後入れできるものもありますが一般的ではありません。
スリーブには向きがあり、多くは見て分かりますが、ギボシ端子のオスは分かりにくい形になっています。スリーブを見て、厚みがある方が配線ケーブル側、薄い方が端子側になるので間違わないようにします。 オスギボシ端子用のスリーブ。薄い右側を端子側に向けます。
次に配線ケーブル端の被覆を工具を使って剥きます。配線ケーブルの太さにあった被覆剥き部で挟み(圧着時もそうですが、文字が書いてある面を自分に向けて作業します)、被覆ごと工具を引き抜いて剥きます。芯線に対し細い部分で剥くと芯線まで切ってしまうので注意。芯線の太さが分からない場合、芯線を切らないよう太めから試しましょう。
電工ペンチごと被覆を引き抜きます。抜きにくい場合、少しだけペンチを開くと良いでしょう。
被覆を剥く長さは細かく言えば芯線を圧着するワイヤーバレルの長さ+1mm程度とされますが、5mmでまず問題ありません。被覆を剥いて出てきた芯線は、腐食や圧着時に切れる原因となるので、ねじらずそのままにしておきます。
そこに端子をセットするのですが、
1)芯線がワイヤーバレルの先から1mmほど出ている
2)被覆の先端がワイヤーバレルに掛かっていない
3)被覆がインシュレーションバレルの先から1mmほど出た状態
以上3つを実現した位置関係にすることが大切です。電気の導通を確保し、端子をきっちり圧着する上でとても重要なので入念にチェックします。
間違った端子のセット例。左は芯線がインシュレーションバレルに来てしまっている、右は被覆がワイヤーバレルに来てしまっていて、正しく圧着できません。
いよいよ圧着していきますが最初はワイヤーバレルから。電工ペンチの圧着部(ダイス)はサイズ別にいくつかありますが、使用する配線ケーブルの太さに合わせて使用部を決めます。オープンバレル端子用ダイスは一方がハートマークの上半分のような形になっているので、そちらに爪を向けて電工ペンチで挟んで端子を固定します。 爪を正しいサイズのダイスの中心部が飛び出た方にセットします。
端子と配線ケーブルの位置を整えたら電工ペンチを力強く握って圧着します。 配線ケーブルを正しい位置にセットし圧着していきます。配線ケーブルが動かないよう、支える指を電工ペンチに添えて作業します。
太い配線ケーブルならこれでいいのですが、配線が細い場合、一度できれいに圧着するのは難しいので2段階で圧着します。まず適正サイズより1サイズ大きなダイスで作業し、爪が中心に向かってある程度カールしたら、配線の太さにあったダイスで挟み直して本圧着します。 今回、0.75sqの配線ケーブルを使ったので2段階で圧着します。これは1.75-2.0用ダイスで第一段階の圧着後の状態です。
第2段階として適正サイズである0.5-0.75sq用ダイスで圧着します。
圧着が終わった状態です。第一段階状態とのワイヤーバレルの潰れ具合の違いに注目。
このように作業することでワイヤーバレルをきれいに曲げしっかり芯線を押さえることができます。ワイヤーバレルの圧着は電気をちゃんと通す、端子を線に固定するという2つの目的があるので、電工ペンチを強く握ってワイヤーバレルの2つの爪がカールしながら芯線をしっかり挟み込み、引っ張っても端子が動かなくなるまで圧着しましょう。抜けてしまう場合、圧着(握る力)が足りない、使うダイスが合っていないのいずれかが原因です。
導通をさらに良くするため圧着したところにハンダを流し込むという手法も聞きますが、正しく圧着できていればハンダによる導通向上効果は無いうえ、配線ケーブルの柔軟性が失われ断線のリスクが高まるデメリットがあるので不要と言えます。
続いて被覆部を圧着していきます。電工ペンチにINSとあるダイスがあるならそれを使いますが、無い場合はワイヤーバレルを圧着したダイスより1~2サイズ大きなダイス(エーモンのギボシ端子&ペンチなら3.0用)を使い圧着しましょう。ここも配線ケーブルが細い場合、2段階で作業するのをおすすめします。 インシュレーションバレルの圧着は、ワイヤーバレルより大きなダイスを使います。
被覆部の圧着で重要なのが爪を食い込ませないこと。爪が密着し被覆が変形する程度に押さえ込んでいる、またはわずかに食い込んで、端子が配線ケーブルに対しぐらつかなければいいので電工ペンチは軽くクっと挟むだけでOKです。
強く挟みすぎて爪が被覆を貫通すると芯線を切ってしまうので、様子を見ながら圧着しましょう。
こちらはNG例。インシュレーションバレルが深く食い込ませると、芯線を傷めてしまいます。
力いっぱいカシメれば良いワイヤーバレルとは違い、慣れが必要なのがインシュレーションバレルの圧着なので、全く経験がないならいきなり本番に挑むのではなく練習しておくのをおすすめします。
圧着が終わったらスリーブを端子に被せます。スリーブには膨らんだ部分があるので、そこにインシュレーションバレルがはまるようにします。スリーブは大きな故障や火災の原因になるショートを避けるために重要なので必ず、そして正しく装着します。
同じようにして逆側を取り付けます。
取り付けられたら実際に両端子を組み合わせ、正常に差し込めて固定できるか、外そうとした時に端子が抜けないかを確認します。これで取り付け終了です。 オスメスとも端子が取り付けられたら接続、取り外しのテストをします。
まとめ
ギボシ端子を含めたオープンバレル端子の取り付けは、道具さえ揃っていればそう難しくありません(極めようとすると奥がとんでもなく深い上に高価な工具が必須になりますが)。ただ作業不良によるショートは危険で重大な故障につながるので、端子を取り付け配線ケーブル同士をつなげた時、端子がスリーブに覆われ露出していなことを確認し、もし露出部があった絶縁テープで覆って確実に絶縁しておきましょう。
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