
水冷エンジンの冷却系統といえばラジエター本体とウォーターポンプ、サーモスタットやラジエターキャップに注目するものの、それらの部品から離れた場所にあることも多く意外に忘れがちなのがリザーブタンクです。水温上昇と降下と連動して冷却液を出し入れし、冷却系統の状態を知らせてくれる重要部品の役割を理解して適切なメンテナンスを行いましょう。
目立たないけど重要なリザーブタンク
ラジエターキャップを開けて冷却経路を大気圧にしても、リザーブタンク内の冷却水がすべて排出されるとは限らない。ラジエターにつながるホースニップルはタンク下部にある場合が多いが、ポンプで吸い出しても溜まった汚れが残ることもある。
水冷エンジンの冷却に欠かせない冷却水は、2年ごとの定期交換が推奨されています。交換による変化はエンジンオイルほど劇的ではありませんが、交換時にラジエターコアやホース、エンジン内部の冷却経路を洗浄して汚れを取り除くことで、冷却効率がアップして水温が安定する効果は期待できます。
暖機を促進して適温に保つサーモスタットや循環に欠かせないウォーターポンプ、冷却水の沸点を上昇させるラジエターキャップや放熱の主役であるラジエターコアなど、冷却経路のメンテナンスでは作業すべきパーツは多く、それらを繋ぐラジエターホースやクランプの状態も重要です。
そんなメインキャストの影に隠れるように、ひっそりと仕事をしているのがリザーブタンクです。エンジン周辺にレイアウトされているラジエターやウォーターポンプに対して、エンジン後方やサイドカバー裏側など目立たない場所に配置されていることも多く、存在に気づいていないオーナーも少なくないかもしれません。
しかしリザーブタンクには、冷却系統内の冷却水の量が適正か否かを知らせる重要な役割があります。もし、どこかのホースの接続部から少しずつ冷却水が漏れていて、それに気づかず走り続けて最少限度を下回ればオーバーヒートの原因になります。リザーブタンクには下限のLOWと上限のFULLの表示があるので、冷却水がこの間にあれば液量に問題はないと分かります。
さらにタンク内の液の色や状態によって、冷却系統の健康診断もできるのです。単なる予備ではないリザーブタンクの重要な役目を解説しましょう。
- ポイント1・リザーブタンクはラジエターから離れて設置してあることも
- ポイント2・タンクの液量はFULLとLOWの間にあること
リザーブタンクの冷却水量は増減しつつ一定値を保つ
内部を洗浄するには車体からタンクを外して柄の長いブラシで擦ったり、棒の先にウエスを巻き付けて汚れを擦り落とす。水あかが張りついているようなら、水を半分ぐらい入れてエアブローガンでうがいをさせるように攪拌するとよく落ちる。
リザーブタンクの取り付け位置は機種によってまちまちですが、ラジエターより高い位置にあるからといってタンクから冷却経路に流れ込んでいつもLOWレベルということはありませんし、ステップ近くの低い場所に装着されているからといっていつもFULLレベルで満タンということもありません。
ラジエターをはじめとする冷却系統要素との高低差にかかわらず、リザーブタンクの液量がLOWとFULLの間に収まっているのは、リザーブタンクが密閉系に接続されていることが理由となっています。そもそも冷却系統は、ラジエターキャップで密封することで冷却水の沸点を上昇させています。これは気圧によって液体の沸点が変化する法則を利用したものです。そしてリザーブタンクも密閉系、具体的にはラジエターキャップの口金付近に接続されています。
走行中に冷却水の温度が上昇すると、温度センサによって冷却ファンがラジエターコアを冷やします。さらに温度が上昇してもラジエターキャップの加圧作用によって沸点は100℃以上になるため、冷却水の沸騰には至りません。
ちなみに冷却系統で沸騰すると、ヤカンで水を沸かしているのと同様に気泡が発生して冷却水が循環しづらくなって冷却効率が低下してオーバーヒートのリスクが高まります。そのため液体の状態で循環させるためにも加圧が必要なのです。
とはいえ冷却経路には多くのホースが使われているので、加圧による沸点上昇にも限度があります。そこで冷却水温が一定圧以上に上昇すると、ラジエターキャップ内のバルブが開いて冷却水を逃がす仕組みになっています。その逃げ先がリザーブタンクなのです。
高温時には冷却水はラジエターからリザーブタンクに向けて流れますが、水温が低下すると高温時に上昇した圧力が低下して、今度はラジエター内の圧力が負圧になります。すると再びラジエターキャップ内のバルブが開き、負圧分を補うだけの冷却水がリザーブタンクから冷却経路内に戻るのです。
ディスクブレーキのリザーブタンク内の液量は、パッドの摩耗に連動して減る一方ですが、冷却経路のリザーブタンクは冷却水温度の変化に伴って出たり入ったりしているのが特徴です。これでリザーブタンク取り付け位置の高さに関わらず、タンクの液量がLOWとFULLの間に収まっている理由が理解できると思います。
- ポイント1・リザーブタンクが冷却水の温度と圧力変化を吸収
- ポイント2・ラジエターキャップの開閉と冷却水が連動
タンク内部の汚れ方で冷却経路の腐食が分かる
タンクの外側も汚かったので内部の汚れに気づかなかったが、大量の水あかが付着していた。アルミの腐食を示す白っぽい浮遊物や鉄部品の腐食を示す赤さびが無かったのは幸いだった。中古車であれば一度徹底洗浄しておけば、冷却水の汚れや変化で冷却経路の状況変化が掴めるようになる。
冷却経路内から減少した分を補うのではなく、温度上昇に比例する圧力上昇を回避するために冷却水を逃がすためにも機能しているリザーブタンクには、エンジンやラジエター内の状況を知るためのサインが現れます。
冷却水自体の経年劣化による汚れが付着するのはもちろんですが、白っぽい浮遊物が混在している時はクランクケースやラジエターコアなどアルミ部品の腐食による固形物が循環している可能性があります。また茶色がかった汚れは鉄部品の赤さびが循環して付着した可能性があります。
緑色のロングライフクーラントには防錆剤成分が含まれていますが、交換期間を超えて長く使い続ければ防錆能力が低下しますし、クーラントを入れず水道水だけで冷却すれば、腐食はさらに進行します。
リザーブタンクがラジエターより高ければ、ラジエターキャップとリザーブタンクのキャップを開けた時にリザーブタンクの残量がラジエターに流れますが、車体の低い位置にリザーブタンクがある機種は大気圧で抜けないので、ラジエターキャップとタンクをつなぐホースを抜いて、タンクの残量を排出する作業が必要です。また、常に冷却水で満たされているラジエターとタンクをつなぐホース内部の洗浄も同時に行いましょう。
冷却水温度と圧力の変化に伴って冷却水が往復して、冷却経路の状態まで把握できるリザーブタンクは、単なる予備タンクではありません。水冷エンジンのオーナーは、あらためてリザーブタンクの取り付け位置と汚れ具合を確認してみましょう。
冷却水を交換する際は、ラジエターキャップ部分で口切りいっぱいまで注入してエンジンを始動し、ホース内のエアをできるだけ追い出したらキャップを取り付ける。リザーブタンクはFULLまで注入して、テスト走行で冷却水温の上昇と降下を1サイクルさせた後に再度冷却液量を確認する。
- ポイント1・リザーブタンクの汚れで冷却経路の劣化が分かる
- ポイント2・冷却水量と汚れを同時にチェック
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