
しばらく乗らずに放置されていた車両の中には、ブレーキキャリパーが固着気味で、ブレーキレバーを握ったとたんに前輪がロックしたまま動かなくなってしまった……そんな経験をしたことがあるライダーは、意外と数多いのではないかと思う。そんなブレーキピストンが固着したキャリパーを、壊さないように分解するには、どのように作業したら良いのか? その一例をリポートしよう。
目次
メンテナンスでも意外と便利に使える「やかん」や「鍋」
ブレーキキャリパーの洗浄や維持メンテナンスしていなかったことで、ダストシールやピストンシールが噛み込み、キャリパーシリンダーからシールがハミ出してしまうことも決して珍しいことではない。ノーメンテナンスで走らせ続けてしまうと、このようなケースに陥ってしまうことがあるので、日頃から点検し、クリーンナップと必要に応じたメンテナンスを実践するように心掛けよう。「キャリパーピストンのもみ出しクリーニング」といったメンテナンスを定期的に実践していれば、このような仕打ちにあわなくて済むようになるはず。仕方ないので、キャリパーを分解して、まずは「やかん+お湯」でキャリパーボディを温めてみた。軽度な症状なら、ボディを温めてからエアーガンでフルードポートを吹き付けることで、ピストンが抜けることもあるが、今回の固着には太刀打ちできなかった。
エアーガン+圧縮空気があってもダメなときはダメ
仮に、少しでもピストンが動いていたら、ブレーキピストンツールをセットして、2個のピストンが常に同期するように心掛けよう。片側だけが抜けてしまうと、もう片側を抜き取るのに苦労してしまうからだ。また、エアーを吹き付けたことでいきなりピストンが飛び出すと危険なので、エアーガンを吹き付ける際には、ピストンが飛び出さないようにウエスを巻いて縛るのが良い。
エアー密度を高めるため、ブリーダーへ栓をしてみたが
エアーブリーダーが機能していれば、ブリーダーを締め付けることで気密を保つことができるが、ここでは、同じネジサイズかつ同じネジピッチのボルトを準備して、ボルトにシールテープを巻き付けてからボディへ締め付けて、気密を保ってみた。そして、ゴム製ノズルを付けたエアーガンを押し付けてフルード通路内に吹き付けてみた。しかし、ピストンが出てくる雰囲気は、まったく無かった。酷い固着だ……
ブレーキホースをつないでシステムレイアウト。そして……!?
エアー圧ではどうにもならないことがわかったので、ブレーキホースを接続して、仮となるシステムレイアウトを構築。そして、ブレーキマスターのリザーブタンクに水道水を注ぎ、ブリーダーを外した状況で水道水をキャリパー本体へ送り込み、エアー抜き作業を行った。不要なバーハンドルを万力にクランプして、そのハンドルにブレーキマスターシリンダーを固定することで、作業安定性が向上する。
ピストンツールを併用して片側ピストンだけを抜かない
ブレーキピストンツールをキャリパーにセットして、水道水ながらエアー抜きしてみた。さらにブレーキレバーを握って、水道水をキャリパーへ送り込んでいくと、ピストンが動き始めた!!やはりエアー圧よりも水圧(油圧)の方が、効率良く圧力を伝えられるようだ。2個あるキャリパーピストンの片側だけが動き出したので、抜け落ちないようにピストンツールで保持し、反対側のピストンに圧力が集中させるようにブレーキレバーを握ってみた。すると、2個のピストンが同じように出てきたので、ピストンツールよりも薄いスパナをセットして、さらにピストンを露出させてみた。
分解ギリギリまで2個1セットで引き抜く理由とは!?
ギリギリまでピストンを露出させたら、キャリパーピストン脱着ツールでピストン内側をクランプして2個のピストンを引き抜いた。ピストンを引き抜く際には、バケツやトレイや洗面器を用意して、キャリパーボディ内から流れ出る水道水を受け止めよう。定期的なブレーキクリーニングやメンテナンスを実践していれば、単純な分解にこれほど苦労することも無いのだ。ここまでの作業ができて、ようやくキャリパーボディやピストンのクリーニングと部品の点検に進むことができる。ボロいバイク部品のメンテナンスは、とにかく大変!!ようやく「ふりだし」に戻れた。
- ポイント1・水道水で茹でることで部品が温まり分解しやすくなる
- ポイント2・ブレーキピストンツールやキャリパーピストン脱着ツールを併用することで効果的な作業進行が可能になる
- ポイント3・マルチピストンキャリパーは、常にすべてのピストンを同期させ、肝心の圧力を維持するように心掛けよう
久しぶりにバイクを移動させようとして、ブレーキレバーを握った瞬間に「あれ!?」とか「やっちまった……」となった経験があるライダーやサンデーメカニックは数多いと思う。仮に、症状が軽症なら、キャリパーボディのピストンが収まるシリンダー背面をゴムハンマーでコツコツっと叩くことで、ピストンが僅かに戻り、バイクは押し歩きできるレベルになる。しかし、固着が酷い対向ピストンキャリパーの場合は、左右キャリパーボディの締め付けを緩めて、車体からキャリパーボディを取り外さなくては、バイクを押し歩きすらできなくなってしまう。そんな経験、ありませんか? そのような劣悪コンディションのバイクをメンテナンスしたり、レストアした経験がある方なら、バイクを押し歩きできないその辛さは、ご理解いただけると思う。
キャリパーボディを取り外してみたら、ピストンシールやダストシールが、通称「ネッシー」のようにハミ出していたのがこのキャリパーだった。こうなってしまうと、キャリパーピストン脱着ツールでつまんで、ピストンを引き抜きことはまずできない。過去に何度か同じようなコンディションのブレーキキャリパーを分解メンテナンスした経験があるが、このようなキャリパーを分解する際に効果的なのが「熱利用」による分解作業だ。なかでも一番手っ取り早いのが、やかんや鍋にお湯を沸かし、その中に固着したブレーキキャリパーを沈めてしっかり温めてから作業に取り掛かると良いようだ。固着ピストンでも軽症なものであれば、ボディを温めた後にフルード通路へ圧縮エアーを吹き込むことで、ピストンを押し出すことができる。圧縮エアーをいきなり吹き込んでしまうと、ピストンが吹っ飛ばされて怪我を負ってしまう可能性もあるので、エアーを吹き込む際には、キャリパーボディにウエスを巻いたり、ウエスで覆ってから作業進行するのが良い。
エアーの力ではどうにもならないこともある。そんなときにはブレーキホースを使ってシステム構築し、ブレーキフルードの代わりに「水道水」を使ってエアー抜き実践しよう。そして、固着したピストンを水圧で押し出してみよう。無駄にブレーキフルードを使うことなく、その後のパーツクリーニングも、お気楽かつ容易に行うことができる。作業進行時の注意点は、シングルピストンキャリパーの場合は、一気に作業しても問題ないが、マルチピストンキャリパーの場合は、すべてのピストンが同期=同じだけ出るように調整しながら作業進行しなくてはいけない。ひとつだけ優先して抜き取ってしまうと、すべてのピストンに水圧を掛けられなくなってしまうからだ。ピストンが抜けるギリギリまでは、すべてのピストンの同期を保ちながら作業進行しよう。
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