金属部品の修理再生以上に、実は、簡単なようで難しいのが、プラスチック樹脂部品の修理である。欠落部分の再生や機能部品の修復はもちろん、いずれのケースでも「強度」が確保されなければ、再びまた同じ状況=壊れてしまうのが関の山だろう。ここでは、代表的プラスチック部品の修理再生にチャレンジしてみよう。この手法を知れば、樹脂部品の修理再生が楽しくなるかも……!?
目次
分解したらこの状況……メンテ「あるある」ですね
エアエレメントカバーの締め付けボルトを緩めたら、締め付け部分が分割されて外れてきた……、などと言った経験、ありませんか?割れてしまった部分が欠損紛失しているのなら、複製修理しなくてはいけないが、破壊部品が残っていたのなら、接着修理できないこともない。
電線修理用「はんだごて」と「専用リペア機器」の使い分け
割れた部分の破片が残っているのなら、接着や溶着で修復は可能だろう。ただし、締め付け部などでは強度が必要になる。そんな箇所の修理は接着剤を頼らず、ハンダごてで溶着修理するのが良いこともある。工具ショップのストレートから発売されているプラスチックリペアキットは、バイク部品に使われている樹脂マテリアルなら、概ね使えるオールマイティなところが魅力の商品。付属のホチキス状の芯(SUS製溶着ピン)を熱して割れた患部をブリッジ接着することで強度も高まる。
ここでは、プラスチックリペアキットを利用するが、その前に、割れてしまった部分を仮接着のためにハンダごてを利用した。破片を保持しながら破断部を溶かして溶着すれば良い。作業前の部品は、必ず脱脂洗浄しよう。ハンダごてを利用するときには、熱し過ぎて樹脂部品を炭化させないのがコツになる。リペアキットの芯はそのまま利用するのではなく、患部形状に合わせて「曲げ」てみよう。応用修理が良い結果へとつながるのだ。
補強の芯=骨を埋め込むことで再発を防止
溶着ピンの両端をラジオペンチでつまむことで、芯の形状を簡単に曲げることができる。リペアキット本体先端の熱源ピッチに合わせて、ピンアーム側も曲げよう。反対側の破断部は、通常のストレート形状でいけることがわかった。幅広部分を修理する際には、このホチキス芯を複数並べるように修理することで、強度はさらにアップする。患部は幅が狭く薄い部品なので、一番細い芯を2個使って修理してみた。1個はラジオペンチで曲げて接合部分をカーブ形状に合わせた。
溶着作業そのものは、僅か数秒だった。リペアキット本体先端は電極になっていて、溶着ピンに電気を流すことで加熱し、その熱を利用して樹脂部品を溶かしながら、芯を内部にめり込ませていく。コントローラーのボリュームで加熱状況を調整しながら、本体レバーのスイッチを押し続けること、僅か数秒で樹脂が溶け始める。そのタイミングで芯を押し付けてめり込ませて補修するのだ。
芯線骨の不要な部分はカット除去しよう
芯をめり込ませて樹脂が溶けているときに、スパチュラや細い鉄ベラを患部へ押し付けることで、芯の収まりがさらに良くなる。患部が冷えたら溶着ピンの不要な脚部分をニッパでカットしよう。片刃ニッパがあれば、飛び出した脚芯を根元からカットできて仕上がりが美しくなる。接合箇所にできた不要なバリは、ベルトサンダーで削り除去しよう。
ガッチリ締め付けても再発再破壊しない安心感
締め付け部分が割れていることに気が付いた直後から、修理を始めた今回。全工程の修理時間は概ね15分程度だった。作業自体は、とにかく簡単で、納得の強度を得られるのが嬉しい!! もちろん一般的なトルクで締め付けても、補強修理後の部品はビクともしなかった。このプラスチックリペアキットは、サンデーメカニックにとって実にありがたい修理機器と言えるだろう。
撮影協力/ストレートwww.straight.co.jp
- ポイント1・樹脂部品は経年変化劣化するものだが締め付けトルク順守は基本中の基本!!
- ポイント2・樹脂溶着する際には、慌てず焦らずに患部同士を脱脂洗浄しよう
- ポイント3・芯線骨を押し込んだら、その上から患部をはんだごてで押して、樹脂密度を高めて強度アップ!!
1960年代以前に生産されたバイクの多くは、金属製部品を多用していた。そんな当時から樹脂部品を積極的に使ってきたのが実用カテゴリーのモデルである。スーパーカブに代表される実用モデルには、樹脂製部品が数多く使われ、1969年にホンダがCB750を発売した頃からは、大型モデルでも樹脂部品の採用例が増えている。1970年代中頃には、ガソリンタンクを除く外装部品の多くに樹脂部品が採用されている(モトクロッサーはガソリンタンクもポリ製に変更されていった)。
樹脂部品の歴史を振り返ると1958年に三井化学が開発&商標登録した「ハイゼックス」(HDPE/高密度ポリエチレン)の登場以降、バイク用外装部品には金属よりも軽量で水にも強い樹脂部品が使われるようになった。その後、ABS樹脂の高性能化やPE/ポリエチレン樹脂やPP/ポリプロピレン樹脂の進化&コストダウンによって、1980年代以降はすべてのバイクに、大量の樹脂素材が使われるようになっている。
金属部品の修理以上に難しいのが樹脂部品の修理だろう。しかし、コツをつかみ高性能な修理機器を利用すれば、悩みを克服することもできる。ここで利用したプラスチックリペアキットも、代表的な修理機器のひとつである。樹脂部品は、経年劣化や紫外線によるオゾンクラックの影響で、極端に強度が低下してしまうもの。そうなると完璧な修理は難しい。しかし、せめて破断部分の形状を再生したいと考えた時にも、このリペアキットなら高品質な再生修理が可能になるはずだ。
一般修理なら僅か数分の作業時間で、高強度な修理が可能になる。走行振動などによる割れや樹脂部品の欠落、転倒に起因した樹脂部品の亀裂などなど、この機器を使うことで、高い強度を確保できる。また、壊れてしまう前に、樹脂部品の締め付け部などは、あらかじめ強度アップすることもできる。
溶着ピンに電気を流して温度を高め、樹脂を溶かしながらピンを内部に埋め込むのがこのリペアキット。補修部分の形状を考慮して溶着ピンのカタチをカスタマイズすることでも、より確実な修理が可能になるようだ。また、一般の電気ハンダごての場合は、実用温度に達するまでには数分間要するが、温度をコントロールできるボリューム調整によって、スイッチを押せば瞬時に溶着ピンを高温になる点もありがたい。AC100Vの家庭用電源さえあれば、現場での応急作業も容易にこなしてくれる機器なのだ。
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