長年乗り続けてきたエンジンの修理で、クランクンケースカバーを開け、滑り始めたクラッチ板を交換しておこう、といった作業はよくあることだが、そんな際に、クラッチカバーの裏側やエンジンの中身が「真っ黒け~!!」だったことに、気付かされることがある。長く乗り続ければ、当然にエンジン内部の汚れは進むものだが、真っ黒になる理由には、走行距離だけではなく様々な理由も考えられる。ここでは、エンジンの分解ついでに「クランクケースの汚れ落とし」を実践した様子をリポートしよう。
降ろしたエンジンの分解作業は手際良く進めよう
ホンダ横型エンジン搭載モデルのメンテナンスやチューニングは楽しい。いじった分の違いを、明確に体感できるエンジンだからだ。スーパーカブにダックス、シャリィなどなど、モデルは違っても、エンジンマウント位置が同じなので、降ろしたエンジンを安定させるエンジンメンテナンス台も、それぞれのモデルで転用可能なのが嬉しい。
エンジン内部が真っ黒な時には、原因を探求しよう
クランクケースカバーを開けた段階で、イャな臭いがプ~ンとしてきた。この段階ですでに、エンジンは全バラにした後に「クランクケースの完全洗浄」を決意した。エンジ内部からは、腐ったガソリン臭がしたのだ。「エンジンオイルを抜いて保管していた」と、前オーナーさんか伺ってはいたが、エンジン内部はオイルではなく、オーバーフローで流れ込んでしまったガソリンで汚れていた。しかもオイルポンプシャフトを固定するブッシュが折れていた。寸胴鍋に水を張って花さかGマルチクリーナーを混ぜ、ガスコンロで温めながらクランクケースを煮込み洗浄することにした。かなり強烈な汚れでも、このクリーニング作戦なら、数時間の洗浄で決着がつくはず。クランクケースは真っ白に蘇った。
サンドブラストと事後の徹底洗浄は表裏一体
クランクケースは洗浄後に完全脱脂を施し、さらに今回は、アルミナ100番のメディアで下処理後にガラスビーズ120番で仕上げのショット処理を行うことにした。ガラスビーズショットによって、アルミ鋳物のクランクケースはピカピカに輝いた。処理後にはCVジュニア乾燥器を使って、120度まで温度を高めて30分ほど連続乾燥させ、熱いうちにエアーブローを行った。加熱によってブラストメディアは乾燥してサラサラになり、エアーブローすることで吹き飛ばし除去することができる。超音波洗浄機を使って仕上げ処理を行えば完璧だが、ケースを完全乾燥させた後のエアーブローでも効果を得られる。このエンジンには、パーツビルダー製のストリートクロス4速を組み込むことにした。ギヤを組み換えれば、レース用のクロス仕様にも変更できる。このミッションを組み込んだことで、後々二次クラッチ化も可能になった。
気分爽快で組み立てられるシアワセ!!
ダックス&モンキー系や6ボルト時代のスーパーカブと同じく、ミッションシャフトの片側は砲金ブッシュ支持となっているクランクケース。その点、12Vモンキーや6V時代ならシャリィ用クランクケースの方が、ニードルローラーベアリング入りで、よりしっかり作られている印象だ。クランクケースが美しくなったことで、組み立て作業を気持ち良く進行することができる。プライマリーギヤなどのパーツも真っ黒に汚れていたので、マルチクリーナーに漬して洗浄した。
- ポイント1・エンジン内部が「汚れているな~」には、必ず原因があるので、その原因をいしかしながら作業進行しよう
- ポイント2・水溶性洗浄液は温めることで洗浄能力が一気に高まる!
- ポイント3・サンドブラスト処理後はメディアの徹底除去に努めよう!!超音波洗浄機が無い場合は、部品をヒーターで温めた後にエアーブローしよう
通常レベルのエンジン内汚れなら、分解前のフラッシング処理で、ある程度の汚れはクリーンナップすることができる。しかし、汚れレベル(汚れ度合い)によっては、完全分解しないと、どうにもキレイにならないこともある。ここでは、後々のエンジンチューニングを見据え、クランクケースの汚れ落としを実践した。「エンジンオイルは抜いて保管していた」と前オーナーさんから伺っていたのがこのバイクだった。エンジンオイルを抜き取ってから20年以上経過していたので、果たして、クランクケース内部がどのようになっているのか?興味津々でもあった。
ところが、ビックリ仰天のコンディションだった……。過去に経験したことが無いほど、エンジン内部は真っ黒で、しかも、腐ったガソリン特有のイヤ~な臭いが漂ってくる……。エンジンオイルは抜いてあったものの、キャブレターからオーバーフローしたガソリンがエンジン内部へ流れ落ち、それが腐って、あのイヤな臭いを漂わせていたのだ。インナーパーツはすべて腐れガソリンが影響して、半固着のネトネト状態である。仕方ないので内部パーツをすべて取り出し、カセットコンロを利用してお湯を沸かし、花さかGマルチクリーナーを投入。さらに洗浄液を温めて、沸騰してから火を消した。その状態で、分解済みのクランクケースを洗浄液へ浸すことにした。
作業開始後、30分ほど経過したところでクランクケースを引き上げてみると、腐ったガソリンスラッジによって、ヌトヌトになっていたミッションベアリングは機能回復。スムーズかつガタも無くに回ることを確認できた。30分程度の洗浄では、クランクケースにこびりついた黒い油アカは落ちないので、そのまましばらく(半日以上は)浸したままで、放置することにした。
同時に、インナーパーツもクリーナー液に浸すことにした。クランクシャフトは、内部のオイル通路が開通しているか否か!?確認してみた。外観の汚れはまだ完全に落ち切れていなかったので、さらに洗浄液に漬して毛足の硬いブラシでゴシゴシ洗いがら汚れを落とした。クランクシャフトエンドのオイル通路へ圧縮エアーを吹き込むと、コンロッドのビッグエンド両サイドから、ブクブクと空気が噴き出していることが確認できた。さらにパーツクリーナーをオイル通路へ吹き付け、その後にエアーを吹き込むと、真っ黒に汚れたパーツクリーナーがビッグエンドの両サイドから吹き出す様子も確認できた。この作業によって、クランクシャフトのオイル通路通気は、確認できたことになる。
お湯+水溶性クリーナーでエンジンパーツを洗浄しても、エアーブローと乾燥後の注油によって、現状性能以上にコンディションが悪くなることはない。パーツの汚れが気になるときには、高性能ケミカルを利用して、積極的な部品洗浄とエアーブロー(乾燥機で温め後なら尚よし)を行い、フレッシュな気分でエンジンパーツを組み立てたい。
さて、エンジン内部が真っ黒に汚れてしまう最大の原因は何なのか……?それは、エンジン稼働中のクランクケース内入り込むブローバイガスが最大の要因だと考えられる。具体的には、ピストンリングの摩耗や張力不足によって、爆発燃焼ガスがピストンリングの隙間をかいくぐり、クランクケース内へ侵入してしまうことで汚れが発生する。言い換えれば、エンジン腰上を分解し、ピストンスカート部分やピストンピンボス部分が真っ黒くなっているときには、クランクケース内は相当に汚れていると考えられる。そんな状況に遭遇したら、エンジン腰下の分解メンテナンスを視野に入れよう。
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