
サスペンションの良し悪しがバイクの乗り心地を左右し、アフターマーケットの高性能サスペンションを装着するだけで印象が大きく変わるというのもよく聞く話です。しかし、その前にできることもあります。その代表例がリヤサスペンションリンクのメンテナンスです。動きが渋くて「これだから純正は……」と言う前に、分解清掃とグリスアップを実践すれば、驚くほどの変化を実感できるかもしれません。
荷重が加われば無理にでも動くリヤサスペンション
スイングアーム自体に問題はなかったのでリンクを取り外す。カワサキバリオスの場合、フレームとショックアブソーバー下部、スイングアームに接続するタイロッドの3点がリンクのピボットとなる。
タイヤの空気圧低下やドライブチェーンのオイル切れなど、普段は気づいていないだけでいつの間にか性能が低下していた、というのはよくあることです。サスペンションもその一例と言って良いでしょう。
スプリングが吸収した衝撃を緩和させるダンパーオイルは、ストロークの繰り返しで粘度が下がり減衰力低下の原因になります。するとブレーキング時やコーナリング時の車体の挙動が不安定になり、ライディングの楽しさが半減してしまいます。
スイングアームピボットも同様で、サスペンション作動時の荷重や走行中の飛散する雨水や汚れでグリスが劣化すると動きが悪化したり、ピボットにガタが生じる原因になります。
ショックアブソーバーのオイルやガスが抜けて減衰が効かなくなったサスペンションは、スプリングの伸縮を抑える能力がなくなり、路面からの衝撃を受けるといつまでもボヨンボヨンと跳ね続けてしまいます。そうなると相当鈍感なライダーでも「最近、跳ねが収まらないな……」と気づくはずです。
しかしメンテナンス不足による不具合は、減衰不足による「動きすぎ」だけに現れるとは限りません。場合によっては「動かない」不具合もあるのです。サスペンションの例で言えば、潤滑不足によるフリクションロス増大がそれに該当します。深いな跳ねや揺れが止まらないのと違って、サスペンションが動かない症状は時に足周りに締まりがあると誤解されることもあります。
ですがサスペンションのないリジッド状態と、減衰力が正しく発揮されているサスペンションには根本的な違いがあり、適正なストロークと減衰力のないサスペンションではスポーティな走行はできません。
軽量な車体と小柄なライダーの組み合わせでも200kg近い重量になれば、動きが渋いサスペンションでも大きな力が加われば無理矢理伸縮させられてしまいます。しかし走行中に荷重の変化が少ない状態では作動性の悪さが露呈して、たとえば路面の継ぎ目でドタバタしたり、車線内のわだちを斜めに横切ろうとした時に車体が大きくフラつくな動きを見せることもあります。
これを「硬い乗り心地でスポーティ」だと判断するのは大間違いです。本当にスポーティで高性能なサスペンションは、路面からの入力の大小にかかわらず、ショックをスムーズに逃がして吸収してくれるからです。
1本サスのリンクはフリクションロスの塊!?
エンジン下部にあるのが2連タイプのパンタグラフジャッキ。リンクを外した状態で再度スイングアームを上下にストロークさせながら左右に揺すって、引っかかりやガタがないことを確認しておく。
リンクの左が車体前方で、フレームに取り付けられる前側のブッシュの劣化が最も進行していた。表面に油分がないのは3個とも同様だが、前側ブッシュだけはサビも発生していたのだ。
ショックアブソーバーの性能は、調整機能の少ない純正品よりアフターマーケットの高性能品の方が優秀なのは確かですが、動きの悪さ=フリクションロスは純正サスペンションでも改善可能です。むしろ、ショックアブソーバー交換よりフリクションロス軽減のためのメンテンナンスを行うのが先決といっても良いでしょう。
中でも注意すべきはリンク付きモノショック仕様のリヤサスペンションです。オーソドックスな2本ショックに比べて、ストロークの初期では乗り心地がソフトで、深くストロークした状態ではスプリングの反力がしっかり発揮できるプログレッシブ特性を作りやすいのがリンクサスの特長です。
それゆえオンロード、オフロードモデルを問わずこの形式のリヤサスペンションを採用している機種は多いのですが、理想的な性能を発揮させるには定期的なメンテナンスが不可欠です。オーソドックスなボトムリンクには3カ所のピボットがあり、それぞれにブッシュ(カラー)とベアリング(ニードルベアアリング)が組み込まれています。廉価モデルではベアリングの代わりに樹脂製ブッシュが使用されている場合もあります。
ブッシュとベアリングの組み合わせの場合、両者の接触部分にはグリスが塗布され、摺動部分にゴミや水分が入らないようオイルシールが装着されています。
それらは新車当時にはサスペンションの滑らかな動きのために機能しますが、走行距離が増すごとに機能低下を起こします。最も顕著なのはグリスの性能低下です。
エンジンオイルやチェーンオイルと同様に、リヤサスペンションリンクのグリスも性能が低下するためメンテナンスが不可欠です。先にも触れましたが、車重とライダーの体重を合わせて200kg以上の荷重をリンクも受け続けています。ホイールベアリングのように高速で回転する力を受けるわけではありませんが、ゴリゴリと擦れ合う力が加わる、いわゆる極圧が高い状態にさらされています。
そのため、グリスによる潤滑がなくなった途端にフリクションロスが台頭してきます。そのうちにリンク自体の動きが悪化してサスペンションが硬くなったと感じるようになりますが、それは大きな誤解です。
この点では、リンクのない2本ショックの方が経年劣化が少ないとも言えますが、サスペンション設計の自由度や性能を追求する上ではリンクを使用したモノショックの方が有利なため、スポーツモデルでは主流派となっているのが実情です。
清掃とグリスアップだけで作動性は大幅に回復する
充分に洗浄した後に、ベアリングとブッシュの両方にグリスを塗布する。ベアリングはローラー表面だけでなく、ベアリングケース内にもしっかり詰め込んでおく。
ブッシュを挿入してベアリングと馴染ませる。リンクから抜く時はグリスが枯れて固い印象だったが、洗浄とグリスアップ後は滑らかに回転する。この滑らかさがリヤサスペンションのスムーズな動きにつながっている。
性能が良くても定期的なメンテナンスが必要というのは、裏を返すとメンテナンスを行えば性能が維持できるということになります。これはリヤサスペンションリンクだけでなく、エンジンオイルやスパークプラグやブレーキパッドなどすべてに当てはまることです。
洗浄とグリスアップのためにリヤサスペンションのリンクを着脱するのは簡単ではありません。作業自体は単純ですが、リヤタイヤを取り外した車体を倒れないよう保持しておくのが難しいのです。
ここでは、フレーム下部を2連タイプのパンタグラフジャッキで持ち上げ支えていますが、転倒防止のために細心の注意を払わなくてはなりません。またサスペンションに関わるボルトやナットは強いトルクで締められているので、着脱する際の工具もスパナやモンキーレンチではなく、メガネレンチやソケットレンチをを使用することが重要です。
作業に登場するバイク(カワサキバリオス)は何年にも渡りサスペンションのメンテナンスを行った形跡がなく、シートに体重を掛けてリヤサスペンションを縮めても戻りが悪いような状態でした。
そんな症状どおり、取り外したリンクのブッシュのグリスは皆無で、強い荷重を受けるブッシュは硬度が高くサビにも強い硬質クロームメッキ仕上げですが、一部は表面のメッキが錆びた状態でした。ブッシュと接するニードルローラーベアリングもグリスによる潤滑は皆無でしたが、サビが発生していないのは幸いでした。
ブッシュとベアリングの双方をパーツクリーナーで入念に洗浄し、グリスを塗布して復元しただけで、ブッシュの動きは信じられないほどスムーズになりました。オイルシールのリップと接触するメッキが若干錆びていても。グリスアップの効果は明確です。
リンク単体でも実感できるほどなので、車体に復元した際の変化も顕著でした。リヤサスペンションの動きが滑らかでレスポンスが良くなったことで、ショックアブソーバーの減衰力低下が露呈する結果になりましたが、これは大きくマイナスに偏っていたリンク性能がゼロに戻ったことで発覚しただけのことで、ショックアブソーバーはショックアブソーバーでメンテナンスが必要というだけのことです。
サスペンションリンクのメンテナンスは地味な上に、車体の固定方法など慎重な計画や準備が必要です。そのため安易に手を出しづらい作業ですが、手入れをさぼってきたバイクほど前後の変化が大きく、やり甲斐のある内容です。
走りが重い、乗り心地が良くないといった自覚症状があるなら、是非とも実践してみることをおすすめします。
- ポイント1・サスペンションの潤滑不足によって、路面からの衝撃吸収性が悪く、足周りがドタバタするように感じることがある
- ポイント2・高荷重で作動するモノショックのリンクは、潤滑不足によって作動性が著しく悪化する
- ポイント3・洗浄とグリスアップだけでサスペンションの動きが元に戻り、乗り心地も改善する
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