
2気筒や4気筒エンジンに装着された2連、4連キャブレターのスロットルバルブが、スロットル操作によって同じ量だけ開閉するように動きをシンクロさせる作業が「同調調整」です。市販車に多い負圧キャブレターの場合、バタフライバルブを連携させるリンクのアジャストスクリューで調整するのが一般的ですが、ピストンバルブキャブの場合はどのように調整すれば良いでしょうか。ここではケーヒンFCRキャブレターを例に、同調調整の手順を解説します。
スロットルバルブを取り外した後は必ず同調調整が必要
2気筒や4気筒エンジンのキャブレターのスロットルバルブの開度がバラバラだと、それぞれのシリンダーに届く混合気の量が揃わず、エンジンはパフォーマンスを発揮できません。そのため、マルチキャブレターにとってスロットルバルブの同調調整は重要です。
新車で販売されるバイクは、製造時に同調調整を行っています。しかしつながったキャブレターボディを分割した場合は同調がずれてしまうので、再調整が必要です。
CVキャブレターの場合、スロットル操作によってバタフライバルブが開閉しますが、バルブの作動軸となるスロットルシャフトは各キャブレターボディごとに分割されて付いています。そして各スロットルシャフトはリンクを介して隣のボディと連結されていて、ひとつのボディに取り付けられたスロットルケーブルを操作することで、4つのバタフライバルブが連動して開閉します。
こうして作動するCVキャブレターの同調調整は、リンク部分のアジャスターによって隣り合うバタフライの開閉具合を相対的に合わせて行います。その際にキャブレター本体またはインテークマニホールド、またはシリンダーヘッドに負圧取り出し用のニップルがあれば、バキュームゲージを取り付けて吸入負圧を測定し、アイドリング時の負圧を合わせて調整を行います。
一方、スロットル操作によってスロットルバルブをダイレクトに開閉するピストンバルブ式キャブレターの同調調整は、隣同士のバルブ開度を揃えるのではなく、各ボディごとに行います。2ストローク多気筒で、スロットルケーブルが各キャブレターに直接つながっているタイプは、それぞれのスロットルバルブ開度を合わせて同調調整を行います。
4連タイプのFCRキャブレターも同様です。4連(または2連)タイプのFCR(CRやTMRも同様です)は1本のスロットルシャフトが4つのボディを貫通しており、スロットルバルブを開閉するリンクアームは、スロットルシャフトに直接取り付けられています。この点で、アジャスター付きリンクでつながっているCVキャブレターとは異なります。
こうした構造で同調調整をどのように行うのかというと、リンクアーム上部の同調スクリューと同調ナットによって、スロットルバルブの位置を上下に変えることで行います。
4連FCRキャブは基準キャブレターを決めてから調整を行う
真円のスロットルシャフトが貫通するリンクアームは長円で、アジャストスクリューによってリンクアーム、ひいてはスロットルバルブの位置を上下に調整できます。スロットル全閉時のバルブ開度を合わせるのが同調調整なので、FCRキャブはこれによって4つのスロットルバルブの動きをシンクロさせることができます。
この調整を行う際に重要なのが、最初に調整の基準となるキャブレターを決めることです。FCRキャブの場合、スロットルケーブルがつながるスロットルレバーとスロットルストップスクリューが装着されているボディが基準となります。
そして同調スクリューによって、スロットルシャフトとリンクアームの長円の間に0.6mmの隙間ができるように調整し、これを基準とします。
アイドリング時にエンジンが止まらないのは、スロットルグリップから手を離していても実際にはスロットルバルブは僅かに開いていて、キャブレターの中を空気が通過して混合気が作られているからです。
最初に基準キャブレターを設定するのは、このキャブレターの開度に他のボディのスロットルバルブ開度を合わせるためです。
FCRキャブレターは高性能キャブですが工業製品であり、スロットルバルブやリンクアームにはそれぞれわずかな個体差があります。そのため、浮動バルブシールやローラー交換などスロットルバルブ自体を取り外す際に、同調スクリューを緩めてリンクアームを動かしたら、組み立て後には同調調整を行わなければなりません。
同調調整には二種類のやり方があります。
一つ目はキャブ単体でスロットルバルブの開度を合わせる方法です。
これは基準キャブレターのスロットルボア底部とスロットルバルブ下部の隙間に対して、他のボディのスロットルバルブの隙間を同調スクリューによって合わせていく方法です。ボア底部からの隙間が大きいとスロットル開度の差を判別しづらいので、スロットルストップスクリューによって基準キャブレターの開度を調整します。キャブレターを光にかざし、ボアを通過してくる光の量や明るさを利用すると、開度を合わせる際の助けになります。
もう一つは、キャブレターを車体に装着してエンジンを始動し、アイドリング時の吸入負圧を均一に合わせる方法です。先に紹介したキャブ単体での同調調整も有効ですが、エンジンのコンディションや走行距離によってはシリンダーごとの吸入量や吸入負圧にバラつきがあることもあり、その場合はキャブ基準で合わせた同調が必ずしも正しい結果になるとは限りません。
それに対してエンジンに装着して吸入負圧を合わせれば、現状のエンジンの吸気能力に応じた同調を合わせることができます。ただし、吸入負圧に頼って調整を行う結果、各スロットルバルブの開度が著しく異なるような場合は、エンジン本体のチェックや整備が先決かもしれません。吸排気バルブやピストンリングの気密性の差異が吸入負圧のバラつきの原因となっている場合、キャブレターの同調調整を行ってもエンジンコンディションが回復するわけではないからです。
負圧取り出しニップルがなければ、エアーフローメーターで調整する
測定は一定のエンジン回転数で行う。この場合、基準キャブレターの吸入空気量は2.75kg/hぐらいだった。
吸入負圧を基準に同調調整を行う際、インテークマニホールドやシリンダーヘッドに負圧取り出しニップルがあれば、4連バキュームゲージを利用した調整が可能です。ちなみにFCRキャブレター自体にはニップルはありません。
負圧ニップルがなくても、負圧ではなく吸入空気量を元に同調を調整できます。その際に使用するのはエアーフローメーター、シンクロテスターと呼ばれる計器です。これは多数のスリットが設けられた太鼓状の本体内にフラップが組み込まれており、メーター内を通過する空気量を数値として表示し、原理も構造もきわめてアナログながら、何十年にも渡ってキャブセッティング時の必需品として君臨しています。
同調調整に使用する際は基準キャブレターの吸入量を測定し、他のキャブの同調スクリューを調整してその数値に合わせます。FCRキャブレターの場合、同調スクリューを調整するにはトップカバーを外さなくてはならないので、作業は煩雑になります。また、同調スクリューで調整した後で同調ナットを締め込む際にリンクアームが僅かに動いて吸入空気量が変化することもあるので、慎重さと粘り強さも必要です。
吸入負圧はスロットルが閉じているアイドリング時が最も強く、スロットルバルブが僅かに開いただけでシリンダーに大量の空気が流れ込みます。そのため、4連キャブレターの同調が合った時の吹け上がりのスムーズさは格別です。
スペシャルキャブレターで好調さを得るには、ジェットやニードル変更によるセッティングがカギを握ります。しかし多気筒車の場合は、セッティングの前提としてスロットルバルブの動きが同調していることが重要です。スロットルバルブやリンクアームの摩耗や消耗でリンクアームを取り外すことがあれば、組み立て後は必ず同調調整を行いましょう。
- ポイント1・多気筒用キャブレターを分解、オーバーホールした後は、スロットルバルブの動きを合わせる同調調整が必須
- ポイント2・CVキャブレターとピストンバルブキャブレターはスロットルバルブの作動メカニズムが異なるため、調整方法も異なる。
- ポイント3・バキュームゲージを使用する際に必要な負圧ニップルがない場合は、エアーフローメーターで測定する吸入空気量を元に同調を調整できる
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