「ネジ」と総称される締結部品には、プラスビスなどのナベ小ネジ、六角頭のボルト、六角穴のキャップボルトなどさまざまな種類があります。それに加えて、六角の星形穴を持つトルクスネジもあります。一般的に「トルクス」と呼ばれるこのタイプのネジはバイクや自動車で使用例が多く、これを回すには専用の工具が不可欠。ここではトルクスネジの特徴と工具について説明します。
締め付けトルクの向上を目的としたネジの進化とは?
バイクの整備やカスタムを行う際に、当たり前のように行っているのがネジやボルトを回す作業です。ねじの頭がマイナス溝や十字穴ならマイナスドライバーやプラスドライバーを、六角頭ならスパナやメガネレンチを、六角穴のキャップボルトならヘキサゴンレンチを手に取るのは、多くの人が何も考えることなく自然にできるはず。
それらに対して、ずいぶん普及したもののまだ一瞬身構え、たじろいでしまうのがトルクスネジではないでしょうか?
ぱっと見はキャップボルトの六角穴のようで、よく見ると六角の星形穴でヘキサゴンレンチは使えないのがトルクスの特徴です。この頭部形状は他の規格より新しく、既存のネジの弱点や欠点を克服するため、1960年代にアメリカのメーカーによって開発されました。
ネジの中で最も一般的な、十字穴を持つプラスビスには「カムアウト」と呼ばれる弱点があることを知る人は多いはず。ドライバーとビスが容易に噛み合うよう、両者がテーパー形状を採用しているため、回転時にドライバーが浮き上がりネジから外れたり、十字穴を崩してしまうのがカムアウトで、これを防ぐにはドライバーをビスに押しつけながら回す動作が不可欠です。
十字穴を六角穴にしたキャップボルトは、ヘキサゴンレンチと六角穴の接触部分が直線状となることで、工具を回す際に浮き上がったり逃げたりする力は生じません。六角頭のボルトとソケットが真逆になったと考えれば分かりやすいでしょう。
工具が逃げない(浮き上がらない)分、キャップボルトはナベ小ねじよりも強いトルクを加えることができます。しかし六角穴とレンチの接触部分に注目すると直線状の線接触となるため、力が接触部分に集中してボルトを傷める原因になります。
既存のネジの弱点を克服するために開発されたトルクスネジ
ナベ小ねじやキャップボルトなどの弱点を解消するために開発されたのがトルクスネジです。
六角の星形穴は直線ではなく、曲線で構成されています。この「曲線形状」が重要で、ネジと工具が「線」ではなく「面」で接触することでネジを傷めにくく、キャップボルトより強いトルクを伝達できる利点があるのです。
六角頭のボルトとメガネレンチやソケットレンチの接触部分も、線接触か面接触かによって締め付けトルクに違いがあります。六角頭のボルトの角部とソケットが点で当たる(点が連続すると線になる)と角部がナメやすいため、二つの角の中間部分の面で接触するようなソケット形状を採用したのが、有名工具メーカーのスナップオンが開発した面接触ソケットの特長です。
締め付けトルクが同じであれば、面接触はボルトやナットの角部に集中していた力を分散させることができ、さらにそれによって線接触よりも高いトルクで締め付けることが可能になります。
六角穴のキャップボルトと六角星形のトルクスボルトの間にも、この関係性が成り立ちます。キャップボルトとヘキサゴンレンチの接触部分は、基本的には線接触となります(一部面接触を採用したヘキサゴンレンチもあります)。
この場合、締め付けトルクを高くしていくとレンチの角部が六角穴に食い込み、最終的には穴をなめてしまいます。六角穴とレンチのクリアランスを小さくしていけばガタは減少しますが、両者の接触部分が線接触である点は変わりません。これに対してトルクスは星形形状の曲面部分同士が接触する面接触となるため、トルクが分散されるのです。
バイクでも自動車でも、最新モデルにおいて車体の軽量化は必須条件となっています。同じネジ径であれば、ボルトよりキャップボルトの方が頭部を小さくでき、締め付けトルクを大きくしたいのであればキャップボルトよりトルクスボルトの方が適しています。
さらにネジ径を細くしながら=ボルトの頭部が小さくなる中で強いトルクが必要であれば、キャップボルトよりトルクスボルトがさらに有利になってきます。このような変遷を経て、バイク界ではまずはヨーロッパ系メーカーから普及し、国産車でも徐々に採用例が増えています。
ちなみにトルクスという名称は、先述のアメリカのメーカーの商標登録であり、一般名称としてはヘクサロビュラ、ヘックスローブ、ヘクスローブなどと呼ばれています。しかしながら、絆創膏や食品保存用ラップフィルムといえば特定の製品名が思い浮かぶように、六角星形といえばトルクスというイメージが広く知られているのが実態です。
いざという時に慌てないようトルクス専用工具も用意しておこう
六角星形のトルクスボルトを回すには、トルクス用の工具が必要です。プラスの十字穴や六角頭、キャップボルトの六角穴に対応するドライバーやソケットレンチやヘキサゴンレンチほどは一般的でなく、工具セットにもまず含まれていないため、つい専用工具と表現してしまいがちですが、ドライバーやソケットと同様の汎用工具の一種です。
そして同じネジ径で六角頭のボルトと六角穴のキャップボルトがあるように、トルクスに六角星形が内側にあるか外側にあるかで二種類に分かれています。
より一般的なのは、キャップボルトのように星形が頭部の内側にある「T型トルクス」と呼ばれるタイプです。これに対して星形が外側にあるものを「E型トルクス」と呼びます。
T型とE型は明確に形状が異なるため、ソケットレンチとヘキサゴンレンチと同様に使用する工具を取り違えることはないはずです。しかしサイズ表記は独特です。
T型トルクスの場合、サイズはT8、T9、T10、T15、T27、T30……となり、E型トルクスはE4、E5、E6、E7、E8、E10……と続きます。六角ソケットやヘキサゴンレンチは、8mmや10mmというサイズは対辺の距離で共通ですが、トルクスのサイズ表記は直接的にどこかの寸法を数値化したものではありません。強いて言うならE型トルクスの数字は六角星形の向かい合った頂点の距離の近似値ではありますが、T型の数字部分は記号でしかありません。
そのため、バイクいじりに慣れた人でもボルトの見た目で工具のサイズを当てるのは難しく。近しいと思われる工具を試しに当ててみてサイズを合わせるのが一般的なようです。
トルクスボルトは先に述べた通り、六角ボルトやキャップボルト同様に締結部品の一種であり、これを回すためのトルクスビットやソケットも特殊工具ではありません。
旧車や絶版車しか扱わないのであれば別ですが、新旧問わずさまざまなバイクに触れる可能性があるなら、工具箱の中にトルクスビットやソケットも用意しておきたいものです。
- ポイント1・六角星形のトルクスはボルトと工具が面接触になるため、線接触のキャップボルトより締め付けトルクの伝達効率が良い
- ポイント2・トルクスは開発メーカーの登録商標で、一般的にはヘクサロビュラ、ヘックスローブといった名称で呼ばれる
- ポイント3・トルクスにはT型とE型の二種類があり、星形が頭部の内側にあるものをT型、外側にあるものをE型と呼ぶ
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