素材の進化や加工精度の向上、さらにエンジンオイルの品質アップによって、最新モデルのエンジンでは摩擦による金属粉の発生は大幅に減少しています。とはいえ、エンジンオイルの劣化により発生する汚れ=スラッジを除去するオイルフィルターはやはり不可欠。カップタイプのフィルターレンチを用意すれば、交換作業は簡単です。
エンジンオイルの汚れを除去するオイルフィルター
YZF-R25のカートリッジオイルフィルターはクランクケース前方にあり、マフラーのエキゾーストパイプが車体右側に配置されるので、着脱するには左サイドカウル(青いカウルの後方、シルバーの部分)を外すと作業しやすい。
エンジン内部を循環するエンジンオイルは、エンジン各部でさまざまな仕事をしています。ピストンとシリンダーの隙間では両者を潤滑しつつ燃焼時の圧力が逃げないよう密封し、シリンダーヘッドではカムシャフトやバルブステムを潤滑しながら燃焼時に発生する高熱を吸収して冷却。クランクシャフトやミッションでも強い力でかみ合うギヤの潤滑を行っています。
走行距離や使用期間によるエンジンオイルの劣化には、粘度低下と異物生成の2パターンがあります。粘度低下はギヤや回転部分など、オイルに強い力が加わる部分でオイルに含まれる添加剤成分の組成が壊れることで発生します。添加剤の一種である粘度指数向上剤の性能が低下した場合、主として高温時の粘度が低下します。粘度低下はオイル性能の低下につながるため、交換が必要になるわけです。
もうひとつの異物生成とは、ガソリンが燃焼する際に発生する汚れです。簡単にいえばガソリンに含まれる炭素の燃えカスや、高温で炭化したオイルのカスです。エンジンを分解した際に、ピストンや燃焼室に付着したカーボンを見たことがある人もいるかもしれませんが、それがカーボンスラッジと呼ばれる汚れの固まりです。
エンジン内を循環するオイル中にスラッジが混ざると、潤滑部分に直接的なダメージを与えるだけでなく、オリフィスと呼ばれる潤滑経路の狭い通路に詰まるとそこから先が潤滑が滞って大きなトラブルにつながりかねません。
そんな厄介者のカーボンスラッジを取り除いてくれるのが、オイルフィルターです。フィルターの目はとても細かく、スラッジはもちろん小さなゴミもキャッチしますが、除去した汚れが増えれば目が詰まって濾過性能が低下するため、定期的な交換が必要です。
- ポイント1・エンジンオイルの劣化で発生するカーボンスラッジ
- ポイント2・オイル中のゴミを取り除くオイルフィルター
交換頻度はオイル交換3回に一度(R25の場合)
カップタイプのフィルターレンチは、フィルターサイズに応じた専用品を用意する。フィルターの取り付け位置によっては、様々なフィルター径に対応するバンドタイプのレンチもあるが、愛車に長く乗り続けるつもりならピッタリフィットするレンチを入手したい。
フィルターの目が詰まったオイルフィルターを使い続けるとどうなるのでしょうか?
目詰まりが最大限に進行してフィルター部の流量がゼロになっても、安全弁であるリリーフバルブが開くため、エンジン内のオイル循環がただちに遮断されることはありません。しかし、汚れたオイルがフィルターを通過せず循環することで、エンジン内部の摩耗やダメージの進行スピードは早まるため、良いことはひとつもありません。
オイルフィルターの汚れ具合はフィルターを見ても分かりませんから、エンジンオイル交換とタイミングを合わせて交換します。交換頻度はさまざまな見解がありますが、ヤマハYZF-R25の取扱説明書によれば1万5000kmごととなっています。オイル交換が5000kmまたは1年に一度となっているので、オイル交換3回に一度交換すれば良いことになります。愛車を大切に思うなら、もちろん毎回のエンジンオイル交換時に同時交換しても問題はありません。
交換するオイルフィルターは、メーカー純正部品であれば安全かつ安心です。バイク用品メーカーの製品も、愛車に適合するものがあれば手に取りやすいです。ただ、どこで製造されているか分からないノーブランド品には注意した方が良いかもしれません。
有名ブランド向けに製品を製造する供給メーカーが、自社ブランドを明かさず製品化しているのであればまだしも、外観はそれなりに見えても誰が作っているかまったく分からない製品は、敬遠した方が無難です。
先に説明した通り、カーボンスラッジを取り除くオイルフィルターは、エンジン部品の中でも重要度が高い部品です。カートリッジタイプのオイルフィルターはケース内のフィルターエレメントを見ることができないため、外観から性能を推測することができません。もし、激安の代わりにケースの中身がスカスカで濾過性能も悪ければ、結果的にエンジンの寿命を縮めるリスクがあるのです。
そう考えると、多少の価格差があってもメーカー純正マーク入りの安心感は絶大です。
- ポイント1・オイルとフィルターは同時交換
- ポイント2・メーカー純正部品を使えば品質は安心
カートリッジフィルター交換には専用レンチが必要
- レンチの種類によって、メガネレンチを掛けられる六角部があるタイプと、ラチェットハンドルがセットできる四角凹部があるタイプがある。このレンチはラチェットハンドルで回すタイプで、4気筒エンジンでエキパイが邪魔な時は、エクステンションバーを使ってフィルターとハンドルの距離を離すことができる。
- フィルターが緩むとエンジンとの合わせ面からオイルが滴り落ちるので、あらかじめエンジン下にオイル受けを置いておく。またフィルター本体を下向き(雌ネジ部分を下に向ける)にすると、本体内部に残ったオイルが出るのでオイル受けに流す。
エンジン外部に取り付けられたカートリッジフィルターの先端部分には面取りがあり、着脱するにはこのサイズに適合した専用のフィルターレンチが必要です。ボルトやナットと同様にフィルターレンチにもさまざまなサイズがあり、どれでも使えるわけではありません。バイク用品メーカーからも発売されているので、自分の愛車に適合するサイズを購入しましょう。
レンチさえあれば、フィルター交換は簡単です。
ドレンボルトからエンジンオイルを抜いたら、オイルフィルターにお椀のようなフィルターレンチをかぶせて工具で回します。レンチによって、メガネレンチで回せるタイプとソケットレンチで回すタイプがあります。
レンチを緩める前に、あらかじめフィルターとエンジンの合わせ面の下に廃油受けを置いておけば、流れ出るオイルで床を汚さずに済みます。外したオイルフィルターはネジ部分を下向きにすると、ケース内に残ったオイルが出てくるので、向きを変える時は廃油受けの上で行います。
装着時のオイル漏れを防ぐため、クランクケースとの合わせ面のフィルター側には大きなOリングがセットされているので、エンジンオイルかマルチパーパスグリスを薄く塗っておきます。これはエンジンにセットした際のリングのよじれ防止用なので、こってりと塗る必要はありません。
エンジンに付着したオイルを拭き取り、Oリングも脱脂状態だと、座面に接した時にねじれて密着不良となってオイル漏れの原因となる。そこでOリングにはエンジンオイルかマルチパーパスグリスを薄く塗布すると良い。あらかじめ油分が塗布してあるフィルターもある。
また、フィルターを外す時はレンチを使いますが、取り付ける際は必ずしも工具を使う必要はありません。通常のボルトナットの締め付けと異なり、素手で締めてフィルターのOリングが潰れる感覚が伝われば、それ以上のトルクは不要です。逆に、工具を使ってOリングが完全に潰れるほどの力を加えると、次に取り外す時に苦労することになりかねません。
オイル交換をDIYで行うユーザーなら、オイルフィルター交換は「もうひと手間」でできる作業です。愛車のエンジンを守るため、フィルターレンチ片手に実践してみてはいかがでしょうか。
フィルターカートリッジやエンジンに付着したオイルは汚れの原因になるので、パーツクリーナーで洗浄しておく。一度洗浄しておけば、その後のオイルにじみが発見しやすくなる。
エンジンオイルだけ交換する場合のオイル所要量は1.8リットルで、オイルフィルター同時交換時は2.1リットル必要。1リットル缶のオイルを使用する場合、2リットル入れたらアイドリングでしばらく待ち、エンジンを止めて油量を確認して、油面が上限と下限の間にくるよう調整する。
- ポイント1・オイルフィルターを外すにはレンチが必要
- ポイント2・Oリングにグリスかオイルを薄く塗布
- ポイント3・フィルター締め付けは手でOK
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