
最後に乗ってから何年も間が空いている、あるいはずっと置きっぱなしだったバイクを知人が譲ってくれたと言う時は、キャブレターに残ったガソリンの手入れが必要です。
キャブ内部の通路はどれも細かく、どこか1カ所でも詰まれば調子が悪くなります。汚れや詰まりを見つけたら、強力で信頼性の高いケミカルで洗浄すれば安心です。
高温多湿下での放置でガソリンが変質する
ガソリンタンクのキャップを開けて、鼻を突く異臭がしたらガソリンは変質している。キャブレターのフロートチャンバーにドレンボルトがあるタイプなら、エンジンに付いた状態でチャンバー内のガソリンを抜いてみても良いだろう。ただ、ガソリンタンクが腐っていればキャブ内部のガソリンも変質している可能性が高いので、はじめからキャブを外す方が賢明だ。
ガソリンはいつでも燃えるもの。そう認識している人が大半だと思いますが、意外にガソリンは“生もの”です。あるいは週末ごとにツーリングに出掛けるような使い方をしている分には気づくことはありませんが、数ヶ月単位で乗らない期間があると始動性の悪化やパワー感の低下など、燃えの悪さを実感することがあります。
そんな時はフレッシュなガソリンに入れ替えれば不調も解消するでしょう。入れ替えると言っても古いガソリンを身の回りに捨てれば危険きわまりないので、新しいガソリンで希釈しながら徐々に入れ替えていくのが現実的かもしれません。
一方、不動期間が年単位になるとガソリンの劣化がさらに進行して、粘度が上昇したり固形物が発生することもあります。どんな状態になるかは温度や湿度の状況など、保管状況に左右されるので断定できませんが、ガソリンタンクから異臭が立ち上りキャブレター内に煮こごりのような沈殿物があれば、新品ガソリンを入れても役に立たないので分解洗浄が必要です。
- ポイント1・ガソリンは時間とともに劣化する
- ポイント2・キャブ内でガソリンが劣化したら分解洗浄が必要
空気の通路、ガソリンの通路は拡大厳禁
フロートチャンバーにもフロート室の天井にも汚れが付着して、メインジェットも詰まっている。この状態で新鮮なガソリンを入れても、とても本調子にはならない。腐敗したガソリンが湿っていれば、パーツクリーナーで落とせる可能性もあるが、劣化したガソリンが乾いていたら、キャブクリーナーで溶解させて除去する必要がある。
エンジンからキャブレターを取り外し、取り外したチャンバーに溜まった変質ガソリンの異臭は独特なので、早々に洗浄して復元したくなるでしょう。しかし焦りは禁物です。どちらかといえば、腰を据えた作業が肝要となります。
キャブ内部の汚れ方=腐り方は、乾燥した汚れとネットリと湿り気のある汚れに大別できます。前者の方が放置期間が長く、フロートチャンバー内の揮発成分が完全に無くなった状態です。対して後者は、液体成分の一部が残留した状態です。
いずれの場合も、ガソリン通路に詰まった汚れはドリルの刃や針金など硬い素材で突いたり削ってはいけません。エアの通路であろうがガソリンの通路であろうが、キャブ内部の通路はすべて計量のため厳密に寸法が管理されています。
ガソリンが通るスロージェットやメインジェットを塞いでいる汚れを、硬いからと言って細いピンバイスでゴリゴリやれば、ジェットの内径を拡大してしまうかもしれません。すると拡大されたジェットを通過するガソリンの量が増えるのでキャブセッティングが濃くなる可能性があります。
逆に、空気の通り道であるスローエアジェット、メインエアジェットを拡大すれば、空気の量が増えるのでキャブセッティングが薄くなる可能性があります。
ひどく汚れたフロートバルブは、後々を考えたらこれを機に新品に交換した方が無難だ。先端に傷が入っていたらオーバーフローの原因になるので確実に交換しよう。フロートバルブが入るバルブシートの状態も重要で、シート部分を傷つけるとフロートバルブが閉じてもガソリンが流れてしまうことがあるので、汚れは綿棒で拭いて取り除く。
クリーナーだけではどうしても取り除けない汚れは、キャブレター洗浄専用の極細の針で優しく取り除く。決して穴を拡大するよう、ガリガリ削らないこと。
- ポイント1・キャブレター内部を不用意に突かない
- ポイント2・どうしても工具を使用する際は専用品を使う
通路全体に行き渡るケミカルを使って汚れを落とす
走行中にスロットルを急に閉じた際に“パンパン”という音が出ないようにするエアカットバルブ。キャブクリーナーによってゴム製のダイヤフラムが変質するリスクがあるので、あらかじめ外しておく。
スロットル開度が小さい領域の混合気の供給量を調整するのがパイロットスクリュー。スプリングとワッシャー、Oリングが組み込まれているので、スクリューを外した際にワッシャーとOリングがキャブ側に残ったら、残さず拾い上げておく。
パイロットスクリューにスプリングとワッシャー、Oリングをセットするとこのようになる。キャブレターの種類によっては、パイロットスクリューではなくエアスクリューが付くタイプもあって、その場合はOリングは組み込まれない。
キャブの汚れは突っついたり削ったり、物理的に落とすのではなく、変質したガソリンだけに反応するケミカルを使って取り除くのが安全で確実です。この場合、エアスクリューやパイロットスクリュー、スロージェットやメインジェット、フロートやフロートバルブなど、各部の部品をあらかじめ取り外します。
クリーナーケミカルの種類によってはゴム素材に影響を与える場合もあるので、始動時に用いるスタータープランジャーやエアカットバルブ、負圧キャブのバルブピストンなど、ゴム素材が併用されている部品も忘れずに取り外します。
キャブレタークリーナーと呼ばれるケミカルには、エアゾールタイプと浸漬タイプがありますが、ここではガソリンで希釈するヤマルーブのスーパーキャブクリーナーを使います。この製品はガソリン7:クリーナー3の割合で混ぜて使用することで、頑固にこびりついた汚れにも浸透し、針金やブラシが届かない細かな通路の隅々にまで行き渡るのが特徴です。
ガソリンで希釈した液体タイプのキャブクリーナーに汚れたキャブを漬け込んで1時間程度待つと、相当しつこい汚れもきれいに落ちる。細くて狭い穴を突くことなく通せるのでお勧め。洗浄後はクリーナーが通路内に残らないよう、パーツクリーナーをスプレーしてエアーを通しておこう。
一方、画像はありませんがジェットやジェットニードルなどの部品は、チャック付きのビニール袋にまとめて入れて、その中にエアゾールタイプのキャブクリーナーをスプレーすれば、汚れが溶解してピカピカの金属光沢がよみがえります。
ただし、クリーナー成分が中途半端に残っていると、それが原因で再びキャブ内部が汚れる場合もあるので、汚れが落ちたらパーツクリーナーで洗浄成分を洗い流しておくことが重要です。あまり間を置かずキャブを復元してエンジンにセットして、走行することでフレッシュなガソリンを通してやれば、洗浄後のすすぎとしてはベストです。また洗浄後にしばらく乗るつもりがなければ、フロートチャンバー内にガソリンを残さないようにしておきましょう。
- ポイント1・漬け込みタイプのキャブクリーナーは隅々まで洗浄できる
- ポイント2・ゴム部品への影響に注意
- ポイント3・洗浄後はクリーナー成分の除去が重要
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