正立型フロントフォークの分解組み立ては、過去に何度も、様々なモデルで経験したことがあるサンデーメカニックは数多いはず。ぼく自身も、様々なモデルで経験してきましたが、旧車メンテナンスを楽しんでいるので、倒立型フロントフォークの分解メンテナンス経験は数えるほどしかありません。また、リヤのダンパーユニットが分解可能なモデルとの出逢いも数えるほどしかありません。このヤマハ250DT1の初期シリーズも、実は、分解可能なダンパーユニットを採用していました。ここでは、前後サスペンションの「オイル交換」にチャレンジしてみよう。


特殊工具の流用でオイルシールホルダーを脱着


1960年代に設計されたモデルのフロントフォークは、オンロードモデル、オフロードモデルを問わず鉄製ボトムケースにオイルシールホルダーをネジ込んで組み付けるタイプが多い。このようなフロントフォークは、ダストカバーを引っ掛ける溝部分にに、サイズが合致するベアリングプーラーを軽く締め付けることで、シールホルダー分解時にチカラが加わりやすく、簡単にネジ締め付けを緩められるようになる。1969年式ヤマハDT1用フロントフォークはカヤバ(現KYB)製で、実にこだわった素晴らしい内部構造を採用。他メーカーモデルと比較すると、レーシングキットパーツ並みの内部構造を街乗り車用に採用していた。


インナーチューブ表面のサビは再生可能  

前オーナーさんから受け取った新品インナーチューブは、同じΦ径で同じ長さだったが、微妙に細部寸法が異なり、結果的には機種適合しない=アンマッチなことが判明。仕方ないので、サビだらけの純正インナーチューブをベースに、再生ハードクロームメッキを依頼した。インナーチューブ再生と言えば福岡県の東洋硬化さん。おおよそ3週間で仕上がり納品された。初代ヤマハDT1の純正インナーチューブは段付き構造で、オイルシールが摺動する下側部分だけがハードクロームメッキ処理。その他はユニクロメッキ仕上げだった。今回は、段付き部分も含めてすべてハードクロームメッキ仕上げでオーダーした。その分、コスト高にはなるが、サビにくく美しさが長続きすると考えたので、オールハードクロームメッキ仕上げにした。


取材協力/東洋硬化 www.toyokoka.com

楽々ツインショックを分解できる市販特殊工具 


DRC(ダートフリーク)のunitブランドから発売されているリアサス分解ツールを使い、主要部品を分解したツインショック。オイル漏れが原因で汚れは目立っていたが、深く気になるサビが無かったのは逆に良かった。主要部品は磨き込みとブラスト処理を行い、組み立て前にダンパーを分解して内部状況の確認とオイル注入などなどを行い、ダンパーユニットとしての再生にチャレンジしてみようと考えたが……。


取材協力/DRCダートフリーク www.dirtfreak.co.jp

分解可能な構造だったツインショックのダンパーユニット


過去に様々なリアサス分解ツールを利用し、自身でもSSTを自作した経験があるが、unitブランドの分解ツールは素晴らしく、とにかく使いやすい。ツインショックでも、モノショックでも、旧車いじり好きなら絶対に欲しいスプリングコンプレッサーだ。ダンパーのシールヘッド兼エンドカバーがカシメ固定式ではなくネジ込みタイプだったので、普通に分解することができた。ガス封入ダンパーはカシメ式で簡単には分解できない例が多いが、ピンスパナを使うことで簡単に分解することができた。そもそもオイルダンパー感は一切無く、スコスコに作動。分解してみると内部は完全乾燥状態で、ダンパーオイルなどまったく入っていなかった。まさかこんな状況で肝心のオイルシールが生きているとは思えないが……。


オイル封入量は作動感覚で決定してみた 


ピンスパナで緩めてダンパー本体から抜き取ったパーツは、ダンパーロッドに組み込んだまま解せず、順列を保持したままで洗浄とエアーブロー。KYB製のG10ダンパーオイルを利用し、ダンパーシャフトのオイルシールはそのままで、シールヘッド兼エンドキャップへ組み込むOリングのみ同一サイズに交換。そんな状況で復元して、状況確認(様子見)してみることにした。ダンパーボディへは6~7割程度までG10オイルを入れ、ダンパーピストンを挿入し、さらにG10オイルを注入してエンドキャップを締め込んでみた。ダンパーを作動させながら程良い減衰作動力を得られるまで、オイル交換を繰り返し行ってみた。十分な減衰力を得られたところでダンパーボディをパーツクリーナーで脱脂洗浄。ロッド側を下向きに、逆さま吊りをキープして数日間、さらにダンパーロッドを作動させながら数日間、放置しながらオイル漏れを確認点検してみたが、ダンパーシャフトシールからのオイル漏れは皆無……!?磨き込みを終えたパーツを組み合わせてコンプリート状態に復元した。


実走行で「オイル漏れが無ければラッキー」と考えよう 


タイヤを組み込んだホイールがあって、前後サスが完成すれば、一気に車体は組み立て進行できる。押し歩きできる姿まで作業が進むと、そこから先は時間の問題だろう。タイヤを取り付けて転がせるようになると、時間を忘れて夜な夜な作業になってしまいます……。組み付けられる部品が手元にあれば、のんびり作業でも、丸1日あれば車体はほぼ完成域に達してしまうのがDT1だろう。構成部品点数が少ないので、まるでコンペティションモデルのようでもある。




POINT
  • ポイント1・フロントフォークの分解組み立て時には各パーツのコンディションを確認し、Oリングやオイルシールなどの消耗品は新品部品に必ず交換しよう 
  • ポイント2・分解組み立て時に特殊工具が必要な場合は、無理して分解することなく特殊工具を準備しよう

ヤマハDT1が開発されたのは1960年代の後半。その頃の前後サスペンションと言えば、一般的なオイルダンパー仕様が当たり前の時代で、窒素ガスを封入したリヤショックユニットなどは、一般市販車への採用例が無かった時代だった。そんな時代に誕生したDT1は、ダンパーロッドのアッパーエンド兼シールヘッドが、後の量産車に多いカシメタイプではなく「ネジ込みエンド」が採用されていた。この時期が、いわゆる技術的端境期となっていたのが当時のカヤバ(現KYB)らしく、同じカヤバ製リヤショックを採用していたカワサキマッハⅢの場合も1969年式はDT1と同じ分解可能な仕様で、1970年式はカシメ固定仕様へと変更されていた。

このDT1は、トレールクラブの加藤さん(パウダーコーティングカトーさん)がペイント前のフレームを見たときに「1969年の初期だね!?」とお話しして下さったが、フレーム番号からしてそれは間違いなさそう。それ故に、旧タイプの分解可能な(非分解指定部品ではありますが)、リヤショックが取り付けられていたのではないかと思う。

そんなリヤショックだが、車体に装着されていた時は、減衰力は無く、ボヨヨ~ンとハネてしまうコンディションだった。仕方ないので取り外し、unitのスプリングコンプレッサーEX(リヤサス分解特殊工具)を利用して、ダンパーボディーとスプリングをセパレートに分解した。各単品パーツを磨きながら作業していた時に、リアサスのダンパーユニットのエンドキャップ兼シールヘッドが「組み立て式=ネジ込み式」であることに気が付いた。このタイプなら分解洗浄が可能なので、新しいダンパーオイルを封入することで、減衰性能が生き返る可能性も……?

ピンスパナでエンドキャップを抜き取ると、ボディ内からダンパーユニットが出てきた。空になった鉄ボディの中を覗き込むと、シリンダーとなる筒が組み込まれた「複筒式ダンパーユニット」だった。ダメもとのつもりで、出てきたダンパーユニットをしっかり洗浄してからエアーブロー。エンドキャップ兼シールヘッド用のOリングは、ほぼ同じサイズを見つけられたので新品部品に交換。ダンパーロッド用のオイルシールは、簡単に見つかるものではないので、取り敢えずは交換せずそのまま復元してみた。ダンパーオイル量の調整とエアー抜き作業を、何度も、何度も、何度も、繰り返し行いながら、エンドキャップ兼シールヘッドを復元した。この復元作業中に、何と!?ダンパー機能が回復しつつあることに気が付いた。正直、かなりいい感じの減衰作動性なのだ。この状況を維持したままでオイル漏れが無ければラッキーだが、このあたりの善し悪しは、実走行してみないとわからないので、手放しで喜ぶことはできない。


フロントフォークに関しては、レースキットに匹敵する素晴らしい内部構造を採用しているヤマハDT1。新品インナーチューブが手元にあったが、組み込もうとすると初期型用ではないことが判明……。仕方ないので、サビサビ部品を福岡県の東洋硬化さんへ発送した。繁忙期になると納品日時は前後してしまうと思うが、ぼくがお願いしたタイミングでは、約3週間の納期だった。組み立て作業時には、再生ハードクロームメッキの素晴らしい仕上がりを凝視。メーカー純正新品部品の仕上がりよりも、クロームメッキ仕上げ膜が厚く=サビに強い特徴があるのが東洋硬化の再生ハードクロームメッキである。足周り部品が揃ったことで、組み立て作業を一気に進めることができた。そんな車体部品の組み付け時には、摺動可動部へのグリスアップをしっかり行うように心掛けよう。



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