
スポーツバイクの標準装備であるディスクブレーキは、レバーやペダルを操作すればブレーキが利き、離せば解除されるのが当たり前。しかしキャリパーのコンディション次第でパッドの動きが悪くなり、引きずり症状を起こすこともあります。いつも乗りっぱなし、逆に長期間保管していた後に乗ろうという時はキャリパーをチェックしてみましょう。
目次
ブレーキパッドの残量チェックが重要なワケ
ブレーキレバーを握るとフロントブレーキが利きっぱなしになってしまう、数年間にわたって乗ることなく保管されていたカワサキゼファー。ブレーキ張りつきの原因には、ここで挙げるキャリパーシールの問題だけでなく、キャリパーのスライドピン、マスターシリンダーのピストンカップの固着が原因の場合もある。
ドラムブレーキのブレーキライニングが摩耗すると、レバーやペダルの遊びが増えていきます。これはドラムの内部の部品であるカムとシューが、ライニングの残量に関わらず同じ位置から作動するためです。
一方ディスクブレーキは、パッドが摩耗してもレバーやペダルの遊びは変化しません。その理由は、パッドを動かしているキャリパーピストンの位置がパッドの摩耗に伴って徐々にせり出すためです。パッドが1mm摩耗すればピストンは1mmせり出した位置から作動し、5mm摩耗したら5mmせり出した位置に止まり、レバー操作によってそこからさらにせり出してパッドを押してローターを挟みつけます。
遊び調整が不要なのは手間がなくて良いのですが、パッドの摩耗具合を確認していないと、いつの間にかライニングがすべて消耗して、土台部分のベースプレートでブレーキローターを挟んでしまうことになりかねません。このベースプレートはローターより硬い鉄素材なので、ローターの表面がガリガリに削れてしまい、そうなるとローター自体の交換が必要です。
レバーの遊びが変わらなくても、パッドが摩耗してキャリパーピストンがせり出すと、ブレーキマスターシリンダーのリザーブタンク内のブレーキフルードの液面が低下します。リザーブタンクには液量が見える点検窓があるので、ここでフルードレベルの確認すると同時に、キャリパーにも注目してパッドの残量をチェックすることが重要です。
- ポイント1・ディスクブレーキはパッドが摩耗しても遊びが不変
- ポイント2・パッドの摩耗はリザーブタンク液量で分かる
- ポイント3・キャリパー部分でパッドの残量を直接確認
パッドの遊びが変わらないのはピストンシールのおかげ
キャリパーピストンが抜けづらい時は、ブレーキホースを外す前にフルードの液圧で押し出すのが最も確実。キャリパー単体にしてしまった場合は、お湯に漬けるかヒートガンで加熱する。ブレーキフルード自体はお湯によってカチカチ状態から柔らかくなる。
ブレーキパッドの摩耗に合わせてキャリパーピストンがせり出すのがディスクブレーキにおいて、重要な役割を果たしているのがピストンシールとダストシールです。これらは断面が四角いOリングで、キャリパーピストンに密着しつつキャリパー内部にセットされています。
ブレーキレバーを握るとフルードの液圧でピストンが押し出されると同時に、ピストンシールがせり出し方向に引っ張られて弾性変形します。そしてレバーを離すと、変形したシールが元に戻ろうとする力でピストンを引き戻します。これがロールバックと呼ばれる、ディスクブレーキの最も重要な動作となります。
ピストンはロールバックによって引き戻されますが、機械的に引き戻しているわけではないので、パッドが摩耗することでピストンシールの弾性変形の限界を超えるとピストンの基点、スタート位置が変わり、そこから再びせり出しと引き戻しが始まります。
人為的な調整を行わなくてもパッドとローターの隙間が変わらず、結果としてレバーやペダルの遊びが変化しないディスクブレーキは、ひとえにピストンシールの弾性変形=ロールバックによって成立してます。それは原付用の1ピストンのピンスライドキャリパーでも、メガスポーツ用の対向6ポットキャリパーでも同様です。
- ポイント1・キャリパー内部には2つのシールがある
- ポイント2・ピストンシールのロールバックが最重要
シール劣化と変質フルードがピストンの動きを妨げる
コンプレッサーがあれば高圧のエアで抜くことができるが、キャリパーにエアガンを密着させてエアを吹くとピストンが飛び出してきわめて危険。エアガンはキャリパーから離してちょっとずつエアブローして、ピストンを少しずつ押し出す。動きが悪ければ、ブレーキホースを繋いで液圧で押し出す方が安全だ。この時、マスターシリンダーに入れるのはブレーキフルードではなく水でよい。その場合、作業後にマスターシリンダーの水分は乾燥させること。
ディスクブレーキは握ったブレーキレバーを離せば、ロールバックによってキャリパーピストンが引き戻されますが、そのためにはピストンシールとダストシールのコンディションが重要です。
ディスクブレーキの作動液であるブレーキフルードには吸湿性があり、湿気や雨天走行などで徐々に劣化します。沸点の低下が劣化の代表ですが、堆積物となってシール周辺に付着することもあります。ピストンシールにとって、ロールバックとともにフルードを漏らさないことは重要な役割です。しかしパッドの摩耗に伴ってピストン自体がせり出していく構造上、ピストンの外周にフルードが付着した状態でシールの外側に露出することは充分にあり得ます。
そこでフルードが変質したときに、シール自体やキャリパーのシール溝で固形化して堆積すると、ゴムの弾性が低下したりシールとピストンの間に余計なフリクションが発生するなど厄介な症状が発生します。
ピストンシールの機能が低下するとピストンの動きが悪化します。レバーを握ればフルードの液圧によりピストンが押し出されるので、パッドがローターを挟むことができます。しかしレバーを離した時に適正なロールバックが発生しなければ、ピストンが充分に戻ることができずパッドがローターに引きずった状態になってしまいます。
またダストシール外周とキャリパー側のシール溝の隙間に堆積物が発生しても面倒で、シール溝に収まりきらなくなったダストシールが外れてしまうこともあります。ダストシールが外れても、ピストンシールはその内側にあるので即座にブレーキフルードが漏れることはありませんが、こうなるとキャリパーのオーバーホールが必要です。
- ポイント1・フルードと水分が結合して堆積物となる
- ポイント2・堆積物がシールに影響して引きずりの原因となることも
オーバーホール時はシール溝の堆積物を徹底除去
ダストシールが飛び出すほどではないが、劣化したブレーキフルードが固着したシールは弾力性が失われている。パッドが摩耗してピストンのせり出しが多い状態で放置すると、ピストン自体にサビが発生することもあるが、幸い無事だった。旧車の場合、蛇腹形状のダストシールを採用している機種もあるが、ゼファーはピストンシール、ダストシールとも角断面のOリングだ。
キャリパーピストンの先端部分にカチカチの堆積物がある場合、完全に取り除いてからピストンシールとダストシールを新品に交換します。間違ってもシール溝に汚れが残ったまま新品シールをセットしてはいけません。
キャリパー内のブレーキフルードはシールの裏側にも回り込むので、溝の汚れによってシールがキャリパーに密着しなければ、新たなフルード漏れの原因になるかもしれませんし、ピストンを締め付ける張力にもムラが発生するかもしれません。
キャリパー溝に溜まった汚れは硬く、手荒に除去しようとすればシール溝を傷つけかねません。そこで第一段階としてお湯に漬け込みましょう。ブレーキフルードには吸湿性があるので、お湯が染み込むことで落ちやすくなります。
次にクリーニングする際は、ピストンシールの弾性が正しく作用するよう、精密ドライバーやピックアップツールで見える部分だけを清掃するのではなく、溝の底だけでなく壁部分の汚れも掻き落とすことも重要です。キャリパーシール溝を清掃する専用工具を活用するのも効果的です。
堆積物で汚れたキャリパークリーニングのハイライトがここ。シール溝に溜まった汚れは専用工具で掻き落とす。ピックアップツールや精密ドライバーを使うこともあるが、シール溝の底だけなく壁面の汚れも漏れなく取り除くことが重要だ。
シール溝を清掃して新品シールを組み込む際は、金属とゴムを潤滑するラバーグリスを薄く塗布しておけば、ピストン挿入時にシールがよじれることがなくフリクションロスも低減します。また水分に対してキャリパーピストン表面を保護する役割もあるので、防錆効果も期待できます。
しかしながら、パッドが摩耗すればピストンがせり出してくるという原理は変わらないので、ブレーキフルードが付着したピストンを放置すればやがて堆積物が生じます。それを避けるには、定期的に中性洗剤でキャリパーを洗浄してラバーシール組み付けスプレーで潤滑と表面保護を行うのが効果的です。
シール溝に堆積していた汚れをすっかり取り除きリフレッシュ完了。このキャリパーは片押しタイプなので清掃しやすいが、対向ピストンだと難易度は大幅にアップする。そんな面倒を避けるためには、定期的にキャリパー洗浄して、ラバーシールスプレーを塗布してピストンの揉み出しを行うのが最も効果的。
ピストンシールとダストシールにはラバーグリスを薄く塗布する。サービスマニュアルによってはブレーキフルードの塗布を指示している例もあるが、キャリパーやピストンの露出部分に付着することを考えるとグリスの方が無難だ。
- ポイント1・シール交換時はシール溝を徹底的に清掃する
- ポイント2・汚れが堆積する前のキャリパー洗浄が有効
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